記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

文字の大きさ
52 / 172

第47話 おはようの朝と、短縮再会と下ネタ。 

しおりを挟む
声がして、寝ぼけているアルが玄関先に向かう。
そこには、超絶不機嫌なジルと、眉を寄せて俯くソルと、えぐえぐ泣きないているシルカと、まっすぐアルを見つめるライの姿があった。
アルの姿を見ると、全員抱き着いてきた。
「お、お帰り、みんな」
アルは皆を抱きしめる。

「子供たちは勝手に家に帰ろうと私の家を抜け出そうとするし、噛みつくし、散々な目にあいました。食事毎日作ってもらわないと、割に合いません」
どことなくげっそりしているジルがそういった。

「す、すいません」
アルに子供たち皆爪を立ててしがみついてくるので、アルはたいそう痛くて涙ぐんだ。

「それからあなたへソニアからの伝言です。どうせアルは俺を心配させまいと一人で突っ走るだろう。無理せず、ジルか俺に相談しろ。だそうです」

ジルが真顔でそういう。
いろいろソニアにはバレているらしい。なんだか嬉しくて、アルは微笑んだ。

「分かりました。ジルさんに相談したいことが色々あります。朝ごはん食べていってください。あまり食材がないので、おいしいものは作れませんが」
「そんなことだろうと、私が食材を持ってきました。さっさとご飯をつくってもらいましょうか?」

そういったジルに、心底アルは感動したのだった。

「ありがとうジルさん」

そういうと、ジルはいつものように不機嫌そうに鼻を鳴らした。

でかい肉に、瓜のような野菜、それになんとお米をジルは手渡してきた。
嬉しくなったアルは肉を、ハーブ水と塩などで煮つけて、そのスープでご飯を炊いて、煮込んだ肉をそのお米の横に置いて、細かく香りがいい葉を刻み甘辛いたれを作り、肉の上にかけた。

瓜みたいな野菜は、肉を煮込んだスープによくわからない調味料で味付け、その中に入れてみた。

ご飯を作っている間、ずっと、ソルやシルカやライは、アルのそばを離れないのであった。それでもまだソルやシルカやライは、まだ家が落ち着かないので、ジルの家に戻ってもらうのだが、なるべく納得して戻ってもらいたい。

朝ご飯を何とか作り終え、クワイエットは何故か泣きながらそれを食べた。
「あの、まずかったですか?」
気になってアルがきくと、クワイエットは泣きながら「ううん。おいしい」と言っていた。

朝ご飯おいしく食べてもらえてよかった。

ぶつぶつ言っているルナルには、のどに詰まらせないように、お米をお粥上にして、アルはスプーンで、ルナルの口に押し込んでみた。
ぶつぶつ言うのをやめて、初めてルナルはご飯を飲み込んでくれた。あの精神を落ち着かせるお茶のおかげかもしれないと、アルは感動した。

ジルと二人きりで話すことがあると、アルはソルシルカライに、別の部屋に行くように諭したのだが、泣き叫んで噛みついてアルから離れない子供たちをなんとか、一時離れてもらおうとするが、全力で噛みつかれてアルは痛みで、涙を流す。
ジルの魔法で子供たちに眠ってもらい(ごめん)、アルは皆には別の部屋に行ってもらい、ジルと二人きりで話した。

アルはジルに、大家に追い出されそうになっているので、大家さんに話に行くということ、
クワイエットさんが月見草の中毒で困っていること、あとウノリ君が呼吸器系の病気のために綺麗な空気にする魔法がないかと、相談してみる。

「家のことは自分でどうにかしなさい。私は知りません。月見草の中毒を解毒することはできます。暗示で月見草を忘れさせて、ものすごくまずいものと認識させる方法があります。教会でやっているところがあります」
「本当ですか!?」
喜ぶアルに、心底冷たいジルの目が見つめる。
「ただし、成功確率は低いです」
「そうなんですか?」
「ええ。月見草の売人は決して顧客を逃がさないのと、人は苦い記憶を忘れると、同じことを繰り返す生き物ですからね」
「きっと大丈夫だと思います。教会でやっているということは、カタリさんの教会でもやっているんでしょうか?」
「あのへなちょこ悪魔は暗示が得意そうだから、やっているんじゃないですか?」

カタリさんが悪魔だということは、ジルさんは知っているらしい。

「そうですか。よかったぁ」
クワイエットさんは大丈夫そうだと、アルは心底ほっとした。

「とにかく厄介ごとを持ち込みすぎないようにしないと、私もソニアも迷惑です。自分で解決できないことを、むやみやたらと持ち込まないようにしなさい」
「そうですね。すみません」
「にこにこしながら言うと、まったく真剣みが伝わってきませんが」
「そうだ。火石が熱発しなくなってしまって。火石って、一度冷たくなると暖かくならないんでしょうか?」
「ああ、火石は滅多に冷たくなることはないんですがね?個体によって差があるとは言われていますが。冷たくなった火石は魔力をこめると、また暖かくなります」
「魔力をこめれば」
アルは期待を込めた目で、ジルを見る。
ジルは目をそらす。
「金貨一枚でやってやってもいいですよ」
金貨一枚は十万円ほどの価値だったはず。

た、高い。
がっくりアルは俯く。
けれどもやってもらえなければ命にかかわる。もちろん薪ストーブも考えるが。アルは勝負をした。

「もう少し安くなりませんか?分割払いでもお願いします」
アルは深くジルに頭を下げる。いや、ついでに土下座もしてみる。

「…………××をしたらいいですよ」
「へ」
「それを私にしたら、少しは安くしてやってもいいですよ」
そういってジルは意地悪く笑みを浮かべる。
「まさかの下ネタ!?」
アルは美しい清廉潔白だと思っていたジルの言葉に、ショックを受ける。下ネタとは違うような気がするが。
けれど、背に腹は代えられない。

下ネタ?とつぶやき首をかしげているジル。

えいやっと、アルはジルの襟首をつかんで、ジルの額に口づける。

「じょ、冗談に決まっているでしょ!!あなたへの嫌がらせで言ったんですよ!!」
顔を真っ赤にしたジルに、拳骨を頭におとされた。

セクハラだし、げせない気持ちでいっぱいになったアルだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...