記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第6４話 お家再興編最終話 中編その２

「また困ったことがあったら言えよ、同族だからな」
そういってレニンは、ライの頭をなでる。

その様子をアルは見て思う。
確かにライとカタルは同じ色の獣の耳をしている。
ライとレニンはきっと本当に、同族なのだろう。

頭をなでられたライは照れ臭そうにしている。

レニンのセクハラ癖がなくなればいいのに。レニンのセクハラ癖が、ライに悪影響がないようにしなければと、アルは心の中で決意する。

「アルさん、少し話があります」
背を叩かれて振り返ると、そこには深刻そうな顔のジルの姿があった。
「なんでしょうか？」
「ここではちょっと」
人に聞かれたらまずい話らしい。ジルの後をついて、皆から少し離れた場所へと向かう。

少し離れた木陰でジルは立ち止まり、アルの方を振り返ってみた。
「ソニアは退院しますが、回復したからではありません。ソニアは深刻な毒を食らっています。それを解呪するには、今現在では無理な状況です。その毒の解呪方法が発見されていないのです。毒の進行を遅らせる薬がありますが、それはとても高価なものです」
「そんな」
折角ソニアが帰ってくると、皆がうれしい気持ちなのに。目の前が真っ暗になる。

「それに獣人の取り巻く環境は厳しいです。ソニアは人一倍働いても、雇い主からは正当な賃金をもらうことも少なく、冒険者組合からも、この国の獣人特例法やらで人間よりも、平均賃金が低いんです。ソニアは割高な危険な仕事を任されることが多いんです。
毒で侵されている体では、前のような仕事は無理です」

ソニアの体は傷だらけだったことを、アルは思い出す。

「そうですか」
「あなたからもソニアが冒険の仕事をやめるように、説得してください。意地でも人の話を聞かない頑固狼ですから、ソニアは」
「わかりました」
そう答えながらも、アルは考える。
ソニアさんは、冒険の仕事を好きでやっているのだろうか？好きでやっているのならば、アルはどうしたらいいんだろうと、迷う心が生まれた。

「では」
ぼんやり去っていくジルの後ろ姿を見つめる。

お金のことはあるが子供預かりや、食事処や、ブラシ屋や、男娼の仕事をすればどうにかなるだろう？
けど、ソニアの体をむしばむ毒はどうしたらよいのだろう？そう考えると、アルは泣きそうになった。
ジュラや本を読んだり、いろんなお医者さんの話を聞こうと、アルは滲んだ涙を拭いて、子供たちの元へと歩き出す。

「アル！どこいってたんだよ！」
不機嫌な様子なソルが、アルを出迎えた。
「……ソル君」
「なんだ？なんか元気ねぇな、アル」
「そうかな？」
「まぁ、俺がいるからよ。アルを困らせる奴がいたら、どうにかしてやっから、俺から離れるなよ、アル」
格好のつけたソルの言い方に、アルは噴き出して笑った。

「なんで笑うんだよ？俺魔物をやっつけたんだぜ？俺強くなったら、アルを守ってやるからさ」
ぴくぴく狼の耳を動かすソルの頭を、アルは高速でなでた。

「子ども扱いすんなよ！そうだ！アル、これ山で拾ったんだ！綺麗だろう？」
ソルが差し出した手のひらには、一つの綺麗な赤色の石があった。
「綺麗だね？宝石？」
アルがその宝石に触れたとたん、目の前が真っ白になった。
「え？」
そして気が付くとアルは一人、見知らぬ森の中にいた。