記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

お家再興編最終話 後編

ど、どうして、急に見知らぬ森へ？
呆然としているアルは、頭真っ白である。

しゅるしゅる妙な音と気配を感じて、後ろを振り向くと、そこには巨大な白い蛇がいた。
らんらんと輝く鮮烈な赤い蛇の目が、アルをとらえた。

逃げなくちゃいけないのに、アルの体は硬直して思い通りに動かない。

『人間、うまそうな、人間。われの神域に何の用だ？』
蛇が話し出した。
衝撃である。

「あ、あの、迷い込んでしまって」
なんとか必死で言葉をひねり出す。必死ですぐに逃げ出せるように、足に力を籠める。

『しかし、随分な醜女だな。交尾には使えぬ。供物にでもしてやろうか？』
不穏な蛇さんである。アルのことが不細工に見えているらしい。
「か、勘弁してください！私を食べてもおいしくないです！！」
アルはその場から全速力で逃げ出そうとするが、すぐさま蛇がアルの目の前に躍り出て、アルはその場に倒れこんだ。

巨大な蛇に巻き込まれて、苦しい。なんとか逃げ出そうとすればするほど、アルの体に蛇の体が締め上げていくような気がする。
蛇はアルの首筋に牙をたてた瞬間、アルは頭上の天空に、雄たけびを上げながら舞い降りてこようとする漆黒の龍の姿を見た。
漆黒の龍は口から電走るなにかを吐き出した。
凄まじい衝撃が走って、何もかもわからなくなる。

『返せ、その石はわしのものだ』
そんな低い声が聞こえてくる。
アルの意識は真っ白になった。

死んだのかな？と、アルはぼんやり目を覚ますと、横には美しい美女がいた。
美女はアルの手を握った。
アルはなんだかその美女のことを知っているような気がした。

『あなたにも魔法がもう使えるはず』
そう美女は言った。

　次に目を覚ました時は、家のベッドの上だった。アルの手には、あのソルが拾ったという赤い石を握っていた。
持っていると恐ろしいことが怒るような気がして、アルは慌てて赤い石を手放した。
そしてアルは自分が、少し記憶を思い出していることに気づく。
そうだ。アルは日本の辺鄙な村で生まれて、不細工だと言われて、よくいじめられていたのだった。
ずきんっと、頭が痛んだ。

「アル」
低い落ち着く声。
見ると、ソニアがそこに立っていた。
「大丈夫か？」
狼によく似ている顔と、静かなまなざし。
「大丈夫です。なんとか。ソニアさんも体調大丈夫ですか？」
「ああ」
「無理しないでくださいね。辛いならいってください」
「分かった」
「ソニアさん」
「なんだ？」
「おかえりなさい」
そうアルが言うと、ソニアは微笑む。
「ただいま」
アルはソニアに会えたことがうれしくて、微笑んだ。

アルがいなくなった後、必死でジル達が探してくれていたらしい。
それから家の前に気絶している状態で、アルは発見されたらしい。そんなアルを、ソニアが運んでくれたと聞いた。
皆心配してくれたのだが、スノーリーにいたっては、誰が赤ん坊の面倒を見るんだよ！とか悲痛な様子で叫んでいたので、アルは冷たい目で見ておいた。

ソニアに事情をすべてはなし、新しい家へと引っ越すことになった。