記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

幕間 ソニアの憂鬱

ソニアの目の前でアルはすやすや寝ている。
アルは相変わらず神がかった美貌だし、いい匂いもする。もうすぐ満月だ。オオカミは満月になると粗ぶり高揚する。吠えにでも行くかと、ソニアは起き上がる。
何か間違いを起こしたくはない。

ソニア屋根に上がると、影からソニアの家を覗く怪しい男がいることに気づく。
ソニアはため息をつく。
相変わらずアルは妙な人間を引き寄せる。

内でやっている子供預かり所の子供の父親が、泊りの時に部屋を抜け出し、過去にアルに夜這いをかけてきたことがある。
ソニアは脅しをかけて止めたが。
アルがそんな事実を知ったら、子供ともどもアルが悲しむと思い、何も言ってはいない。
アルはどこか抜けている。いつもはきっちり仮面をしているのだが、平気でどこかに忘れたり、顔の汗をふくのにも外したりしてしまう。それを他の奴が見ていることにも気づかない。

もう一度ソニアはため息をつくと、気配を殺して男の背後に回る。
オオカミは夜目がきく。魔法がつかえない人間には負けるわけがないはずだ。

「何をしている？」
静かにソニアは、怪しい男にといかける。

「ひ！！」
男は甲高い悲鳴を上げて、ソニアの方を見る。

「何者だ？何故俺の家を見ている？」

「獣人風情が！俺は騎士だ。お、俺は必ずアル君をお前らから救い出すんだからな！！」そうわけわからないことを人間の男は叫んで、全速力で走って逃げていった。

また厄介な。
ソニアはため息をつきつつ空を見上げる。そこには血のような赤い丸い月が見える。ソニアの中に圧倒的な破壊衝動と性的な興奮が湧き上がる。
これは発散させなければやばいレベルだと判断し、山へと獲物の狩りへ向かうことにした。

獲物をさんざんかったあと、ソニアは家へと戻る。

そこにはすやすや寝ているアルの首元を噛んでいるソルとシルカの姿があった。
ソニアの兄妹たちも満月で興奮したのだろう。
「アルは獲物じゃないぞ」
そう言ってソニアは、兄妹二人をアルの首元から引き離す。
そうしながらすやすや暢気に寝ているアルに、なんだかソニアは腹が立ってきて、思い切りアルの首筋を噛んだ。

「いったぁー！！！」
アルは飛び跳ねる。
涙目のアルは綺麗に見える。罪悪感からソニアはアルから目をはなし、「おやすみ」といってさっさと布団にもぐって寝ることにする。この布団もアルが縫い合わせたものだったなとソニアは思い出す。

「ソニアさんひどくないですか！！」
そんなアルの叫び声が聞こえてきた。



ソニアは基本男と男が付き合うということが想像できていない狼であった。