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幕間 狼は雪のなか ソニアの話 3
しおりを挟むまさか、アルを食らいたいと思うなんて。
ソニアの中の凶暴な衝動は、もうすぐ満月だからか。
狼の獣人は満月には逆らえない。
満月の夜にはなぜか狼獣人たちは皆凶暴になり、興奮する。
ソニアは外の風にあたりながら、ため息をつく。
遠くからメスの狼獣人の発情した匂いがする。もうすぐ満月だからか。
女を抱きに行くかと、ソニアはため息をつく。
ソニアのルックスでは、ほとんど相手にはされないが・・。
正直セックスは好きではない。
けれども、女を抱くか、魔獣を殺すかしなければ、満月の夜に正気を保てない。気が付いたら誰かを殺していたなんて、ごめんだ。
ソニアは一人、夜の街へと向かった。
いや、向かおうとしたのだが、ソニアの家を囲む複数の気配に気づく。
その複数の獣人や人たちは、ひどく興奮している。
この一帯の縄張りを張っている黒猫獣人や虎獣人は、いち早くアルの気配に気づいたのだろう。
『お前にはあの人間はもったいないんだよ。アルちゃんは俺たちのもんだ』
そんな黒猫獣人のささやきが聞こえてくる。
こいつらが、アルを狙っていることに気づく。
ソニアの瞳の色が、赤みを帯びた金色に変わっていく。
ソニアは神も死んだ人間も、すべてが見える。奴らの歪んだ精神体が、アルに伸びていくのが見える。
アルの自由を奪い、自分のものにしようとする。
「どいつもこいつも、アルは物じゃない」
ソニアの手から刃物のような鋭い爪が伸びていく。
襲い掛かってくる連中を、ソニアは迎え撃つ。
どうせ、ソニアの家の中には入れない。ジルの守りが、家の周囲に張り巡らされている。
「どうしました?ソニアさん、ご飯ですよ」
アルの声に、ソニアは目を覚ます。
昨日はひどい夜だったと、ソニアは気だるい重い体で目を覚ます。
昨日の満月の夜、ソニアは夜通し、戦い続けた。
台所からうまそうな、匂いがする。
アルと出会ってから、ソニアは自身が何か変わったような気がする。
子育てと仕事で精一杯で、アルのおかげで少し余裕ができたからなのか?
なんだか食べるものもおいしくて、なんだかぬるま湯につかって夢を見ているような気分だ。
「なんだかソニアさん、具合悪そうですね。今日は消化に良いものにしましょうか?」
アルの手が、ソニアの額に触れた。
ソニアは戸惑い、俯いた。
アルは何にも知らない。アルを狙っている者どものことも。
アルは穢れも知らないものだから。
俺が、自分こそが、アルを守るのだ。そう固く決心した。
「大丈夫だ。今日は俺が朝ご飯作るはずだったのに、すまない」
そうソニアが言うと、なぜかアルは物悲しそうな顔をする。
「無理しないでくださいね」そういうと、アルは台所へと行った。
アルから時々他の男の匂いがするのに、ソニアは気づく。
アルが色んな獣人の子供を預かっているからか?
もしも、アルに恋人ができていたら?
そう考えて、ソニアは我に返る。
そんなことはアルの自由だ。ソニアには関係ない話だ。
アルを縛り付けようとする、醜い者達の姿がソニアの脳裏に思い浮かぶ。あんなもの達と一緒になってはならないと思う。
アルはアル自身の意思で、ソニアたちと一緒にいてくれるのだから。
けれど、もしアルに恋人ができて、ソニアたちと離れようとしたら?
そうしたら、アルのことを・・・・。・・・・ジルの従属の刻印がある。
ソニアの脳裏に、恐ろしい考えが思い浮かぶ。
そんなことを考えては、だめだ。
一瞬でその考えを振り払い、ソニアは立ち上がり、アルのいる台所へと向かった。
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