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第141話 女神=アイドルなど
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『裏切者!!』
アルに対して舞い上がっていたものほど怨嗟の声が上がる。別にどのエルフともアルは付き合ってもいないのに。
それまで好意的だった突然の若いエルフたちからの敵意の視線に、アルはすくみあがる。
争いの声を上げるエルフの一部に、アルの抱いている赤ん坊もますます泣き声をあげている。赤ん坊がいるというのに変わらず怒鳴り声をあげている。
アルは必死に赤子をあやす。
アルベルムはため息をつくと、「連れていけ」と命令する。
アルベルムはジルにも視線を向ける。
「ジル、君にも聞きたいことがある。一緒に来てもらえるかい?」
アルとジルはエルフたちに囲まれ、その場から連行されることとなった・・。
アルが連行された後、その場に残ったエルフたちは非難の声を上げていた。
「アルさまは現実の男と結婚すべきでねぇ!!」
アル親衛隊のエルフのリュートが声を上げると、ほかのエルフたちも一斉に『そぉーだ!そぉーだ!』と声を上げる。
「不細工なジルな嫁なわけねぇーべ」
「うるさいな、お前たち。外まで響いているぞ」
家テントの中にエルフの英雄であるツォレケルォが耳をほじりながら不機嫌な様子で入ってくる。
村一番の実力者エルフツォレケルォの登場に、みなは静まり返る。
「赤ん坊が泣いているだろう?静かにしないで、何を騒ぐ?」
「ツ、ツォレケルォ様・・・」
「ジルがアルとやらの嫁だというのがそんなに気になるのならば、アルをエルフ全員の嫁にすればいいだろう?」
『え!?』
「獲物が取れたら、われら全員で分け合うのが、我々のおきてだ。嫁はたくさんいればいるだけ、我々は繁栄する。一人の嫁を取り合って、争い合うなど愚の骨頂だぞ」
ふぅーっと、ツォレケルォは指に息をかける。
エルフみな顔を見合わせ、歓声の声を上げた。
エルフは特に一夫多妻・一妻多夫ではなかったが、この提案は皆の歓声を持って受け入れられた。
「け、けども、アルちゃんは今処女だんかな?ジルのやつ・・」
「しょ、処女だといいな」
ひそひそエルフたちは話し合っていた。
「・・・違う」
「おら達はアルちゃんを嫁にしたいわけでねぇ!!」
突然あるファンクラブエルフのリュートが声を上げる。それまで舞い上がっていたエルフの面々は、「はっ」と我に返る。
「おら達なんかが手を触れるなんて、おこがましい。おら達の嫁にしたいだなんて、天罰が当たる。アルちゃんは、おら達の女神なんだ!」
「そぉーだ」「そぉーだ」とアルファンクラブの面々エルフは、熱く目を輝かせてうなづく
「これだから童貞は」と女性エルフのシルムは馬鹿にした声を上げる。
そちらをリュートは睨む。
「おらはアルちゃんを応援したいだけだ!!」
言い切ったリュートに、他の面々から歓声が上がる。
「おら達がアルちゃんに手を出したら天罰が当たる!!」
リュートのこの言葉に、月の神の加護を信じているほかエルフから、ざわざわと声が上がる。
「た、確かにその通りかもしれんな」「そうだな。天罰はいけない」
ツォレケルォはため息をつく。
「ならお前たちは、アルと子供を作る行為はしたくはないのか?素直になれ。我々は長年不細工とさげすまされてきたエルフだぞ?少しぐらい綺麗な人間を抱いたところで、罰は当たらん。我々はエルフの同族だ。たかだか人間で争うな」
「お、おらたちは・・・」
アルファンクラブのエルフたちは、揺れる。
「アルに優しくしてやれ。そうしてアルの意思を問えばいいだろう?お前たち女エルフにも相手されてないだろう?お前たちの女神は受け入れてくれるだろうよ?どうする?そのまま手をこまねいているだけか?」
リュートとツォレケルォがにらみ合う。
「もうこの話はこれで終わりだ。勝手にするがいい。もうすぐ冬がやってくるぞ。今でも我らは食糧不足だ。食料を何とか確保せねば、われらは餓死だ。アルの花と母乳だけに頼っていられんだろうよ・・」
エルフの森の女王とは言えるエルフが謎の眠りについた後、ハイエルフの支配から解放されたエルフ達は喜びもつかの間、人間たちが攻めてきて大半のエルフ達は捕まって奴隷にされた。逃げたエルフ達は散り散りになり、この村にやってきたのだった。
いまだエルフたちは豊かだったエルフの森を忘れられない。治癒能力の効能がある植物もあった。
今は母乳を出す人間であるアルが、不思議な花を出していると聞くが・・。人間を憎む村長のゼノムは、人間のアルを見逃さないだろう・・。
もうエルフはあの豊かだった神代の森には戻れないだろう・・。この森で生きるしかないのだ。
だがこの森はだいぶ人に荒らされている。野生の動物は植物はほとんどなかった。ツォレケルォは、幾人かの頭に不思議な布を巻いた若いエルフの方を見る。
「畑の方はどうだ?」
畑は若いエルフの一部の人々が担当している。
「全然だめでさ。土が合わねぇんだが、いい作物とれねぇべ。おいら達、どうすりゃいいのか・・・・」
エルフの畑では、何を植えてもあまり収穫ができなかった・・。
「アルちゃんがいるべさ」
「お前たち、アルという人間一人の母乳では、我らを賄いきれないかもしれない。それにアルは人間だ。ゼノムが人間を見逃さんだろう」
「アルちゃんはもう俺らの女神だべ。俺らでアルちゃんのこと守るべさ」
『おーっ!!!』
「私からも村長にアルのことを言っておく。お前たちは畑を頼む。用が済んだら私はまた狩りにいく。神の神獣でも狩れば、我らも飢え死なないだろう」
とエルフたちの不安をぬぐうためにツォレケルォに適当なことを言って、馬に飛び乗った。
「我らが英雄よ!!」とキラキラあこがれるエルフたちの目が、ツォレケルォは内心あくびをかみ殺していた。
敵である人間を数多く殺したツォレケルォを英雄と呼んで崇め奉るエルフは多いが、ツォレケルォは適当なことを適当に大ぼらを吹く、適当男だった。
その場に居残っていたジルをいじめていたエルフのクロイツたちは、ジルが綺麗な人間を嫁にもらったことが面白くない。
「ジル・・・、あいつ・・・、調子に乗りやがって・・・」
その様子を陰から顔を隠したエルフが見ていた。
一方そのころエルフに囲まれ、アルとジルは連行されていた。
アルへの周囲のエルフたちの視線が痛い・・。エルフの皆の視線を感じる。アルと視線が合うと、皆視線をそらす。
隣を歩く宰相エルフのアルベルムの強い視線も感じる。不思議に思い、アルはアルベルムの方を見る。
「あの、なにか?」
アルは不思議に思い、アルベルムの方を見る。
「はは、あなたがお美しいから見ているんですよ。こんな小さな村では、出会いも何もありませんからな」
アルよりもずっとエルフたちの方が綺麗だと思うのに。アルは綺麗だと言われ、執着にまみれた視線で見られることに慣れてはいない。
アルベルムはアルに近づき、耳打ちする。
「・・・・しかしお気を付けてください」
「え?」
「我々はただでさえ不細工だと言われているエルフ。そのせいか、出産率もすくない。この村にいるエルフも少ない。あぶれたものが大勢います。
それに人間の里のような風俗もこの村にはないので、男も女どもも飢えていますから、夜暗いうちは一人で歩かないほうがいいですよ。この辺りを歩いていると、よく強姦をされたということを聞きますから。
まぁ、あなたには強いジル様が付いておられるだろうが・・。」
苦笑いを浮かべるエルフの宰相のアルベルムさん。
アルは何と答えていいかわからず、困った笑みを浮かべるだけである。
エルフの里って、もっとほのぼのしていると思っていたが、治安はあまりよくないらしい。
でもアルが思うことは、恋人がいないからって強姦する人間が増えるというのは、どうなのか?本当にそうなのか、疑問である。
そ、その手の本などで、とか、いろいろ発散方法はあると思うのだが。
エルフの里では、えっちな本ですらないのだろか?
しかし、この世界では美形の代名詞のエルフも、不細工になるらしい。本当に美醜逆転しているらしい。
アルにはエルフ達はきちんと美形に見えるのだが・・。
「出会いがあれば、いいのではないでしょうか?合コンとか開いてみてはどうでしょうか?」
「合コンでございますか?」
不思議そうなアルベルムに、アルは頷いて見せる。
「男女が集まるパーティーみたいな感じのものなんですが。恋人に出会うために開くというか」
「ああ。唄乞いみたいなものですかな。わが村にも男女で歌う「唄乞い」というものがあります。男女で歌い合う若者の異性の出会いの場ですね。
そういう番うために集まるものは、わが里ではもう、低俗と呼ばれておりますとも」
にこやかに笑うアルベルムが、ちらりと馬鹿にしたようにアルを見る。
アルは赤面して、俯く。
「いえいえ。人間ならば仕方がありません。我々エルフはそんな低俗なことをしません。そんなことをするのは、悪魔にとりつかれた罪人のみ」
「罪人?」
不思議そうな顔のアルを見て、アルベルムは少し慌てたように目をそらす。
「ああ、いえ、こちらの話です」
ジルといい、エルフは皆禁欲的なんだなと、アルは感心する。しかしこれとそれとは違うと思う。
「人と人とが出会って愛し合うことに、低俗はないと思います。支え合う恋人を見つけることはとても大事だと思うんです。だから、その。すみません、何が言いたいかわからなくなりました。
ただ私も一緒に生きていける人ができたら・・・いいなと思います」
そう言っていたアルの脳裏に、一瞬、誰かの顔が一瞬よぎる。大切な人の顔だったのに、もう思い出せない。
何故泣いているのかも思い出せない。早く思い出さなければと、アルは焦る。ずきりと、アルの腕はひどく傷んだ。
「う」
「どうかなされたのですか?」
「・・いえ。何でもないんです」
アルベルムの澄み切った青い瞳が、アルの目を覗く。
「あなたは吾郷の恩人です。あなたが望むなら、今度「唄乞い」をおみせしましょう。エルフの伝統ですからな」
「ぜひ、見てみたいです」
にこにこアルは微笑んでいると、アルベルムの視線がいぶかしげになる。
アルのお腹が空腹でなってしまう。先ほどの虫も食べられず、アルはとてもお腹が減っていた。
「あのすみませんが、何か食べ物をわけてくださいませんでしょうか?」
お腹が減って体に力が入ってこなくなってくる。
「申し訳ないが、うちも食料品不足でしてね。残念だけれども、先ほどの虫料理だけで精一杯でして」
「そうですか・・」
自分の母乳でも飲もうかなとアルは考えてると、アルベルムの手がアルの腰に回って、引き寄せられ、「体で払うというのはどうでしょう?」と囁かれた。
「え、あの」
戸惑うアルの臀部を、アルベルムは触れた。
「あなたの体を私と交えてくれるならば、食料を融通します。いかがいたしますかな」
体を交えるというのは、この目の前のエルフの人と、性行為をするということだろうか?応じるのにも、アルはジルという婚約者がいると聞いている。これはジルへの裏切り行為になるとうことではないだろうか?
「あの、ジルさんを裏切るわけにはいきません」
「では先ほど食べた虫料理の代金の代わりに、あなたの体を抱かせてもらいましょうか」
まったくアルベルムは、アルの話を聞いていない。強引だ。
アルはひもじいし、どうしたらよいのかわからず、頷いた。
「あの、本番以外なら・・・。ジルさんを裏切るわけにはいきません」
「いいですよ」そのまま近づいてきたアルベルムに、アルは口づけられた。尻の谷間をつかまれて、アルは驚いて息を詰める。
「お前ら何をしてる!!」
見張りについていたアルの隠れファンクラブの、エルフのエンポスが走ってやってくる。
「アルベルム様!アル様は俺らの女神だべっ、勝手な手出しはっ」
アルベルムにつかみかかる勢いの、エンポスに、アルベルムはにっこり笑って言った。
「エルフには施し飯は、のちに値段が高くなる。という格言がありましてな。対価をアル様はお持ちにならない。
代わりに、アル様、彼にもキスしてあげてください。彼もあなたのファンのようですからな」
「何を言ってる!そ、そんな、ダメだべ」
真っ赤になってたじろぐエンポスに、アルはおろおろしてどうすればいいか戸惑う。
「そ、そうだべな。おらみたいな不細工、アル様は触りたくもねぇべ」
落ち込むエンポスに、アルは決意し、えいやっと、エンポスのほほに口づけた。真っ赤になったエンポスは地面に倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですか」
慌ててアルはエンポスを助け起こそうとする。エンポスは鼻血をだらだらたらしながら、倒れたままだ。
その過剰な反応に、アルは戸惑う。
アルはどう鏡を見ても、不細工にしか自分のことをみえない。この美醜逆転の世界では、アルは美しいらしいが、いつまでたってもなれないで戸惑う。
私なんかにそんな反応をすることないと、思ってしまう。
エンポスの頭を膝にのせていると、アルの背後にアルベルムが近づいてくる。
「あの先ほどから気になっていたのですが、なぜそんなに着用している衣が濡れておられるのです?」
アルベルムの手が、アルの胸元に触れる。
人の許可を得ずに、人の身体に触れるのは嫌な気持ちになる。
「あ、あの気にしないでください」
「・・・ですが、寒そうだ」ぽつりとアルベルムは呟く。
そのつぶやきは、アルにも聞こえていた。
「い、いえ、大丈夫です」
アルの顔が赤くなり、うつむく。
なんだか恥ずかしいが、この母乳のおかげで赤ん坊を救えたし、女性の妊婦さんの気持ちを少しでも理解できたのだから、誇りに思おうと、アルは唇をかみしめる。
「この先に大衆の清めの場があります。そこでなら体を洗えますよ」
にこにこアルベルムはアルを客人をもてなすように、丁寧に言ってくれる
大衆の清めの場とは、大浴場みたいなところだろう。
アルベルムは人のよさそうな顔でほほ笑む。
エルフ独特の透き通った翡翠色の瞳に、白金色の髪に、年を得たからか、落ち着いた渋い雰囲気のアルベルムさんは、紳士的で女性にもてそうだ。だがこの世界は美醜反転している。この世界ではアルベルムは、もてない不細工に属するのだろう・・。アルを見る目が飢えている感じがして、怖い。
そんなことをアルは思いながら、「ありがとうございます。体を洗いたいのでお願いします」と、正直嫌だけどにっこり微笑んだ。
アルに対して舞い上がっていたものほど怨嗟の声が上がる。別にどのエルフともアルは付き合ってもいないのに。
それまで好意的だった突然の若いエルフたちからの敵意の視線に、アルはすくみあがる。
争いの声を上げるエルフの一部に、アルの抱いている赤ん坊もますます泣き声をあげている。赤ん坊がいるというのに変わらず怒鳴り声をあげている。
アルは必死に赤子をあやす。
アルベルムはため息をつくと、「連れていけ」と命令する。
アルベルムはジルにも視線を向ける。
「ジル、君にも聞きたいことがある。一緒に来てもらえるかい?」
アルとジルはエルフたちに囲まれ、その場から連行されることとなった・・。
アルが連行された後、その場に残ったエルフたちは非難の声を上げていた。
「アルさまは現実の男と結婚すべきでねぇ!!」
アル親衛隊のエルフのリュートが声を上げると、ほかのエルフたちも一斉に『そぉーだ!そぉーだ!』と声を上げる。
「不細工なジルな嫁なわけねぇーべ」
「うるさいな、お前たち。外まで響いているぞ」
家テントの中にエルフの英雄であるツォレケルォが耳をほじりながら不機嫌な様子で入ってくる。
村一番の実力者エルフツォレケルォの登場に、みなは静まり返る。
「赤ん坊が泣いているだろう?静かにしないで、何を騒ぐ?」
「ツ、ツォレケルォ様・・・」
「ジルがアルとやらの嫁だというのがそんなに気になるのならば、アルをエルフ全員の嫁にすればいいだろう?」
『え!?』
「獲物が取れたら、われら全員で分け合うのが、我々のおきてだ。嫁はたくさんいればいるだけ、我々は繁栄する。一人の嫁を取り合って、争い合うなど愚の骨頂だぞ」
ふぅーっと、ツォレケルォは指に息をかける。
エルフみな顔を見合わせ、歓声の声を上げた。
エルフは特に一夫多妻・一妻多夫ではなかったが、この提案は皆の歓声を持って受け入れられた。
「け、けども、アルちゃんは今処女だんかな?ジルのやつ・・」
「しょ、処女だといいな」
ひそひそエルフたちは話し合っていた。
「・・・違う」
「おら達はアルちゃんを嫁にしたいわけでねぇ!!」
突然あるファンクラブエルフのリュートが声を上げる。それまで舞い上がっていたエルフの面々は、「はっ」と我に返る。
「おら達なんかが手を触れるなんて、おこがましい。おら達の嫁にしたいだなんて、天罰が当たる。アルちゃんは、おら達の女神なんだ!」
「そぉーだ」「そぉーだ」とアルファンクラブの面々エルフは、熱く目を輝かせてうなづく
「これだから童貞は」と女性エルフのシルムは馬鹿にした声を上げる。
そちらをリュートは睨む。
「おらはアルちゃんを応援したいだけだ!!」
言い切ったリュートに、他の面々から歓声が上がる。
「おら達がアルちゃんに手を出したら天罰が当たる!!」
リュートのこの言葉に、月の神の加護を信じているほかエルフから、ざわざわと声が上がる。
「た、確かにその通りかもしれんな」「そうだな。天罰はいけない」
ツォレケルォはため息をつく。
「ならお前たちは、アルと子供を作る行為はしたくはないのか?素直になれ。我々は長年不細工とさげすまされてきたエルフだぞ?少しぐらい綺麗な人間を抱いたところで、罰は当たらん。我々はエルフの同族だ。たかだか人間で争うな」
「お、おらたちは・・・」
アルファンクラブのエルフたちは、揺れる。
「アルに優しくしてやれ。そうしてアルの意思を問えばいいだろう?お前たち女エルフにも相手されてないだろう?お前たちの女神は受け入れてくれるだろうよ?どうする?そのまま手をこまねいているだけか?」
リュートとツォレケルォがにらみ合う。
「もうこの話はこれで終わりだ。勝手にするがいい。もうすぐ冬がやってくるぞ。今でも我らは食糧不足だ。食料を何とか確保せねば、われらは餓死だ。アルの花と母乳だけに頼っていられんだろうよ・・」
エルフの森の女王とは言えるエルフが謎の眠りについた後、ハイエルフの支配から解放されたエルフ達は喜びもつかの間、人間たちが攻めてきて大半のエルフ達は捕まって奴隷にされた。逃げたエルフ達は散り散りになり、この村にやってきたのだった。
いまだエルフたちは豊かだったエルフの森を忘れられない。治癒能力の効能がある植物もあった。
今は母乳を出す人間であるアルが、不思議な花を出していると聞くが・・。人間を憎む村長のゼノムは、人間のアルを見逃さないだろう・・。
もうエルフはあの豊かだった神代の森には戻れないだろう・・。この森で生きるしかないのだ。
だがこの森はだいぶ人に荒らされている。野生の動物は植物はほとんどなかった。ツォレケルォは、幾人かの頭に不思議な布を巻いた若いエルフの方を見る。
「畑の方はどうだ?」
畑は若いエルフの一部の人々が担当している。
「全然だめでさ。土が合わねぇんだが、いい作物とれねぇべ。おいら達、どうすりゃいいのか・・・・」
エルフの畑では、何を植えてもあまり収穫ができなかった・・。
「アルちゃんがいるべさ」
「お前たち、アルという人間一人の母乳では、我らを賄いきれないかもしれない。それにアルは人間だ。ゼノムが人間を見逃さんだろう」
「アルちゃんはもう俺らの女神だべ。俺らでアルちゃんのこと守るべさ」
『おーっ!!!』
「私からも村長にアルのことを言っておく。お前たちは畑を頼む。用が済んだら私はまた狩りにいく。神の神獣でも狩れば、我らも飢え死なないだろう」
とエルフたちの不安をぬぐうためにツォレケルォに適当なことを言って、馬に飛び乗った。
「我らが英雄よ!!」とキラキラあこがれるエルフたちの目が、ツォレケルォは内心あくびをかみ殺していた。
敵である人間を数多く殺したツォレケルォを英雄と呼んで崇め奉るエルフは多いが、ツォレケルォは適当なことを適当に大ぼらを吹く、適当男だった。
その場に居残っていたジルをいじめていたエルフのクロイツたちは、ジルが綺麗な人間を嫁にもらったことが面白くない。
「ジル・・・、あいつ・・・、調子に乗りやがって・・・」
その様子を陰から顔を隠したエルフが見ていた。
一方そのころエルフに囲まれ、アルとジルは連行されていた。
アルへの周囲のエルフたちの視線が痛い・・。エルフの皆の視線を感じる。アルと視線が合うと、皆視線をそらす。
隣を歩く宰相エルフのアルベルムの強い視線も感じる。不思議に思い、アルはアルベルムの方を見る。
「あの、なにか?」
アルは不思議に思い、アルベルムの方を見る。
「はは、あなたがお美しいから見ているんですよ。こんな小さな村では、出会いも何もありませんからな」
アルよりもずっとエルフたちの方が綺麗だと思うのに。アルは綺麗だと言われ、執着にまみれた視線で見られることに慣れてはいない。
アルベルムはアルに近づき、耳打ちする。
「・・・・しかしお気を付けてください」
「え?」
「我々はただでさえ不細工だと言われているエルフ。そのせいか、出産率もすくない。この村にいるエルフも少ない。あぶれたものが大勢います。
それに人間の里のような風俗もこの村にはないので、男も女どもも飢えていますから、夜暗いうちは一人で歩かないほうがいいですよ。この辺りを歩いていると、よく強姦をされたということを聞きますから。
まぁ、あなたには強いジル様が付いておられるだろうが・・。」
苦笑いを浮かべるエルフの宰相のアルベルムさん。
アルは何と答えていいかわからず、困った笑みを浮かべるだけである。
エルフの里って、もっとほのぼのしていると思っていたが、治安はあまりよくないらしい。
でもアルが思うことは、恋人がいないからって強姦する人間が増えるというのは、どうなのか?本当にそうなのか、疑問である。
そ、その手の本などで、とか、いろいろ発散方法はあると思うのだが。
エルフの里では、えっちな本ですらないのだろか?
しかし、この世界では美形の代名詞のエルフも、不細工になるらしい。本当に美醜逆転しているらしい。
アルにはエルフ達はきちんと美形に見えるのだが・・。
「出会いがあれば、いいのではないでしょうか?合コンとか開いてみてはどうでしょうか?」
「合コンでございますか?」
不思議そうなアルベルムに、アルは頷いて見せる。
「男女が集まるパーティーみたいな感じのものなんですが。恋人に出会うために開くというか」
「ああ。唄乞いみたいなものですかな。わが村にも男女で歌う「唄乞い」というものがあります。男女で歌い合う若者の異性の出会いの場ですね。
そういう番うために集まるものは、わが里ではもう、低俗と呼ばれておりますとも」
にこやかに笑うアルベルムが、ちらりと馬鹿にしたようにアルを見る。
アルは赤面して、俯く。
「いえいえ。人間ならば仕方がありません。我々エルフはそんな低俗なことをしません。そんなことをするのは、悪魔にとりつかれた罪人のみ」
「罪人?」
不思議そうな顔のアルを見て、アルベルムは少し慌てたように目をそらす。
「ああ、いえ、こちらの話です」
ジルといい、エルフは皆禁欲的なんだなと、アルは感心する。しかしこれとそれとは違うと思う。
「人と人とが出会って愛し合うことに、低俗はないと思います。支え合う恋人を見つけることはとても大事だと思うんです。だから、その。すみません、何が言いたいかわからなくなりました。
ただ私も一緒に生きていける人ができたら・・・いいなと思います」
そう言っていたアルの脳裏に、一瞬、誰かの顔が一瞬よぎる。大切な人の顔だったのに、もう思い出せない。
何故泣いているのかも思い出せない。早く思い出さなければと、アルは焦る。ずきりと、アルの腕はひどく傷んだ。
「う」
「どうかなされたのですか?」
「・・いえ。何でもないんです」
アルベルムの澄み切った青い瞳が、アルの目を覗く。
「あなたは吾郷の恩人です。あなたが望むなら、今度「唄乞い」をおみせしましょう。エルフの伝統ですからな」
「ぜひ、見てみたいです」
にこにこアルは微笑んでいると、アルベルムの視線がいぶかしげになる。
アルのお腹が空腹でなってしまう。先ほどの虫も食べられず、アルはとてもお腹が減っていた。
「あのすみませんが、何か食べ物をわけてくださいませんでしょうか?」
お腹が減って体に力が入ってこなくなってくる。
「申し訳ないが、うちも食料品不足でしてね。残念だけれども、先ほどの虫料理だけで精一杯でして」
「そうですか・・」
自分の母乳でも飲もうかなとアルは考えてると、アルベルムの手がアルの腰に回って、引き寄せられ、「体で払うというのはどうでしょう?」と囁かれた。
「え、あの」
戸惑うアルの臀部を、アルベルムは触れた。
「あなたの体を私と交えてくれるならば、食料を融通します。いかがいたしますかな」
体を交えるというのは、この目の前のエルフの人と、性行為をするということだろうか?応じるのにも、アルはジルという婚約者がいると聞いている。これはジルへの裏切り行為になるとうことではないだろうか?
「あの、ジルさんを裏切るわけにはいきません」
「では先ほど食べた虫料理の代金の代わりに、あなたの体を抱かせてもらいましょうか」
まったくアルベルムは、アルの話を聞いていない。強引だ。
アルはひもじいし、どうしたらよいのかわからず、頷いた。
「あの、本番以外なら・・・。ジルさんを裏切るわけにはいきません」
「いいですよ」そのまま近づいてきたアルベルムに、アルは口づけられた。尻の谷間をつかまれて、アルは驚いて息を詰める。
「お前ら何をしてる!!」
見張りについていたアルの隠れファンクラブの、エルフのエンポスが走ってやってくる。
「アルベルム様!アル様は俺らの女神だべっ、勝手な手出しはっ」
アルベルムにつかみかかる勢いの、エンポスに、アルベルムはにっこり笑って言った。
「エルフには施し飯は、のちに値段が高くなる。という格言がありましてな。対価をアル様はお持ちにならない。
代わりに、アル様、彼にもキスしてあげてください。彼もあなたのファンのようですからな」
「何を言ってる!そ、そんな、ダメだべ」
真っ赤になってたじろぐエンポスに、アルはおろおろしてどうすればいいか戸惑う。
「そ、そうだべな。おらみたいな不細工、アル様は触りたくもねぇべ」
落ち込むエンポスに、アルは決意し、えいやっと、エンポスのほほに口づけた。真っ赤になったエンポスは地面に倒れてしまった。
「だ、大丈夫ですか」
慌ててアルはエンポスを助け起こそうとする。エンポスは鼻血をだらだらたらしながら、倒れたままだ。
その過剰な反応に、アルは戸惑う。
アルはどう鏡を見ても、不細工にしか自分のことをみえない。この美醜逆転の世界では、アルは美しいらしいが、いつまでたってもなれないで戸惑う。
私なんかにそんな反応をすることないと、思ってしまう。
エンポスの頭を膝にのせていると、アルの背後にアルベルムが近づいてくる。
「あの先ほどから気になっていたのですが、なぜそんなに着用している衣が濡れておられるのです?」
アルベルムの手が、アルの胸元に触れる。
人の許可を得ずに、人の身体に触れるのは嫌な気持ちになる。
「あ、あの気にしないでください」
「・・・ですが、寒そうだ」ぽつりとアルベルムは呟く。
そのつぶやきは、アルにも聞こえていた。
「い、いえ、大丈夫です」
アルの顔が赤くなり、うつむく。
なんだか恥ずかしいが、この母乳のおかげで赤ん坊を救えたし、女性の妊婦さんの気持ちを少しでも理解できたのだから、誇りに思おうと、アルは唇をかみしめる。
「この先に大衆の清めの場があります。そこでなら体を洗えますよ」
にこにこアルベルムはアルを客人をもてなすように、丁寧に言ってくれる
大衆の清めの場とは、大浴場みたいなところだろう。
アルベルムは人のよさそうな顔でほほ笑む。
エルフ独特の透き通った翡翠色の瞳に、白金色の髪に、年を得たからか、落ち着いた渋い雰囲気のアルベルムさんは、紳士的で女性にもてそうだ。だがこの世界は美醜反転している。この世界ではアルベルムは、もてない不細工に属するのだろう・・。アルを見る目が飢えている感じがして、怖い。
そんなことをアルは思いながら、「ありがとうございます。体を洗いたいのでお願いします」と、正直嫌だけどにっこり微笑んだ。
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風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
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聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
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+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
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