英雄様の取説は御抱えモブが一番理解していない

薗 蜩

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”うわっ!”と声が出る程度にバランスを崩し後ろに体を持っていかれたと思った瞬間『テディ』の自室にいた。
それと同時に急激に気持ち悪くなって吐き気と同時に冷や汗がどっと出て眩暈が起こる。
通常の人間が"瞬間移動"に巻き込まれたりすると起こる副作用である。
「ヴォォエッ」
鳩尾の方から何とも言えない気持ち悪さが急激に上がってえずく。
吐瀉物は今の所ない。
何度もえずいては胃のなかが空っぽな事に少しだけ安心する。
この一瞬にして気持ち悪さMAXになるのが本当に嫌だった。
マジ最悪。
いつものように何も言わず近くに桶を用意してタオルを渡され口からあふれ出そうな生唾を抑え、背中を擦ってくれているテディに裏拳を食らわせようとするも軽くよけられる。
そしてこれもいつものように少しだけ落ち着いたと思ったら僕を荷物の様に軽く持ち上げてテディのベッドに運ばれて寝かされる。
ベッドサイドチェストの上には水とコップと錠剤(酔い覚まし用)のセットが有るのが気持ち悪い…。
毎度の事。
そう、毎度の事なのだ。
何度も僕を連れての瞬間移動はするなと言っても言うことを聞いてくれない。
1年以上同じことを散々言ってのコレなので今は諦めている。
不本意だが僕は折れるしかないのだ。
センチネルに勝てるわけがないのだから。
文句を言おうにも吐き気がするので喋りたくない。
だからテディが用意してくれている薬を飲んで吐き気が収まるまで横になって少し寝るのが一番精神衛生上平穏に済むのだ。

1時間位だろう目を覚ますと吐き気も無くなり、いつものミルク多めのコーヒーと僕の好きな大豆クッキーがサイドチェストに置かれている。
起き上がり周りを確認し、ほんの少しだけ空腹を感じたので遠慮なく手を伸ばす。
クッキーを食べ終わるとタイミングよくテディが部屋に入ってきた。
何も言わずに僕の横に腰かけ手を握ってきた。
早々のガイディングの依頼だろう。
「はいはい」
そう言って僕はテディの手を握り返しながらガイディングの為に意識を少しだけ集中させる。
ガイディングは僕の中にある”気”を送るような感じである。
僕のイメージは100個入りの飴玉の入った箱を傾けながらゆっくりテディの手の中に落とす感じだ。
初めてテディにガイディングした時に鼻で笑われたのを覚えている。
普通はガイディングイメージは相手に伝わることは滅多に無いのだが、テディにはイメージが伝わってしまった。
精神系の特殊能力があるとイメージで受け取りやすいとは聞いたことがあるが、タワーの人から『マッチング率が高いとイメージが相互で伝わりやすい』と聞いた。
相互…僕はテディのイメージは全く入ってこないのでよくわからないが”そう”らしい。
実際マッチングは80%を超えているのだ。
不本意ながら。
70%を超えるのは100組に1組らしく、80%を超えるのは200組に1組と激レアなんだそうだ。
そうなると上層部から性格の不一致だろうが何だろうが関係なくバディとして組まされ仕事をさせられるのだ。
マッチング率さえ低ければすぐにでもバディ解消してやるのに…。
「おい…ガイディング集中しろよ…」
「はいはい」
「まだ気持ち悪いのか?」
「…………ちょっとだけな」
「終わっても良いんだぞ」
「仕事なんで」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………もうそろそろ落ち着いたんじゃね?」
「……………あぁ…」
急にガイディングを切るとたまにビリっとくるのでゆっくりガイディング終了させた。
手を離し個人で所有させられている仕事用スマートパッドにガイディング管理表にちゃんとガイディングしたよと!仕事したぞ!と入力する。
入力が終わるとベッドから立ち上がり部屋から出るために移動する。
「じゃあ、帰るからな」
「家まで送る…」
「!!………毎回同じこと言うけど……と・な・り・だからいらない!」
それから帰り支度を整えテディの部屋の玄関を出る。
左を向いて7歩歩いたら僕の部屋の玄関だ。
網膜認証のロックを解除して、さっさと自分の部屋に入り一息つきながら倒れるようにベッドに横になった。
何が「家まで送る」だ!ガイディング足りなかったのか?
足りないなら足りないでちゃんと言えば良いのに!
無口というか必要以上に喋らないからいまだに何を考えているのかわからない!
理解できないことが多すぎる!
誰だよ!マッチング率高いと意思の疎通や相性が良いから恋仲になったりボンドしたりするのが多いって言ってたやつ!
嘘ばっかりじゃねぇか!
いまだに友達以下の関係ですけど???
もちろんバディを組んだ当初は仲良くなろうと努力したが、努力するだけ苛立ちが増え余計に意味の解らない行動をされるので半年ほどで諦めた。
僕はイライラしながらかすかに残っている気持ち悪さから逃げるように目を閉じてもう一度寝ることにした。
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