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第1章 突入! エベレストダンジョン!

第44話 ユウト達以外で初めて特殊能力を自覚した男。( 2/2 )

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******ユウト達がダンジョンに入った日から11日目、アンデッドの階層に入った頃。
エベレスト頂上付近


 ドガァァーーーーーン!

 何発目かの爆発音がして、伏せた姿勢を解いて頂上に目をやると、穴の入り口から出ていた岩が無くなっている。

 強行軍で山頂まで来たはいいものの、穴から岩が出ていて入れなかったのだ。
 その解決策としての爆破、ようやく成功したようだ。
 当初、この岩を目の当たりにした皆は絶望しかけていた。

「爆破すればいいだけだろ?」

 俺がそう言ってしまったばっかりに、俺の分隊が岩の除去をする羽目になった……

 爆破したはいいが、穴に手を入れると、まだ岩がある。
 不思議なのはこの穴、手や物は通るのに、火や爆風は通らないらしい。
 境目に爆薬を仕掛け、爆破しても向こうに爆発は行かない。
 こちらに出した導火線に火をつけてもあちらまでは伝わらない。

「不思議なこともあるもんだ……。幸い亀裂は入っているから、そこをノミで広げて爆薬を埋め込もう」

 ノミは用意が無いということで、登頂に使ったアイスアックスを亀裂に刺して、こちらから石を打ちつけるというなんとも原始的な作業。
 人海戦術で、何人もの脱落者を出しながらの作業であった。

 何度も爆破を繰り返し、人が入れるようになったら、俺が入れられて導火線に手作業で火をつけてこちらに逃げる。
 紐が緩んだら、穴の向こうで爆発したことが判るように工夫して、何度も繰り返してやっと開通した。
 作業中は必死だったから気付かなかったが、穴の中は酸素マスクが要らない。寒くも無い。

「よくやった軍曹。昇進だ!」

 などということはなく、小隊長の指示で淡々と偵察部隊がバケツリレー方式で物資を搬入している。

 中に入って奥に進むと、また岩で塞がれているらしかった。
 脱落者の補充をして、改めて偵察任務の小隊が編成される。

 俺の分隊は俺のおかげで肉体労働から解放されて、穴に入ってくる者がいた場合の防衛を担当することになった。

 ネパール軍が穴の中に連絡する場合の特殊な取り決めをし、人が直接入ってきたり、こちらからいきなり出ていくこともない。
 人が入って来るなんてことはまず無い。



 なんて思っていた時期が俺にもありました。
 入ってきやがった! しかも他国の軍服!
 これは表の部隊がやられたことを示している。

 昨日は何事も起きなかった。見張りを交代して休んで、起きたらこれだ!
 エベレストの山頂で銃撃戦何てやるか? 普通。

「まあ、入れ食い状態で撃ち殺せるんだけどな」

 頭から入って来るにせよ、足から入って来るにせよ、隙だらけなのは変わりない。
 相手はこっちの状況も知らないし、こちらで銃を撃っても音は向こうに届かないんだ。
 何人撃っただろう? 撃っては部下が死体を片付け装備を剥ぐ、を繰り返している。


 30人くらい処理したあたりで、誰も入って来なくなった。

「ちょうどよかった。死体の積み上げが追いつかなくなってきたところだったからな。交代で休憩だ」
 
 射手を交代して、昂った気持ちを落ち着かせる。
 心を無にして腹式呼吸、雑念を取り払い瞑想をする。
 呼吸によって取り込まれた酸素が血流に乗って体中に行き渡る様子をイメージする。

「ん?」

 いつもと違う……
 毎朝やっていることだが、今日は何かが違う。……何かは解らないが。
 疲れが無くなった気がするし、気力も充実している。

「おい、やっぱり俺は休まなくていいから、お前も休め」

 交代したばかりの射手に休みを与えると、そいつは俺を見て、……二度見して、目を輝かせる。

「ありがとうございます! 隊長殿!」

 ――? これまでそんな態度ではなかったぞ?
 辺りを見ると、死体処理をさせてた連中まで目を輝かせている。

「よくやるぜ、隊長も。血も涙も無いな」
「殺人鬼みたいだ。人を殺せて嬉しいんだろうぜ」

 なんて、俺の事をヒソヒソ話していたのが嘘のような目の輝きだ。
 まるで尊敬する人物、あこがれの人物を見るかのような目つきだ。
 合点がいかないが、まあいい、今の俺は気分がいいのだから。

「侵入者だって? 大丈夫だったか?」

 奥の岩壁の撤去の指揮を執っていた小隊長が戻ってきた。

「サ、サビン君。良くやってくれた」

 俺を見るなり少し態度が変わり、しばらく考え込んでいる。

「サビン君。……軍には厳然たる階級制度がある。……だが、ここの指揮は君が執るにふさわしい。私は――いや、他の4分隊も君の指揮下に入ろうじゃないか」

 小隊長の少尉も、俺の部下と同じ目になっている。

 は?

「ど、どういう事でありますか?」
「どうもなにも言葉の通りであります、隊長」

 既に言葉使いまで変わってしまっている。
 ……何だ? 何が起きている? ……俺は何をした?
 敵をバンバン殺して……、瞑想した。……疲れが取れて、力が湧いて……

 ――!!
 
 何か特殊な能力が身に付いたんじゃないか? じゃないと説明がつかない。
 でも、俺だけ? ……敵を殺したからか? ……ゲームじゃあるまいし! ……でもそれしか思い当たらない。

「来るのか? 俺の時代が?」

 どんな能力か知らんが、俺を見ると皆が尊敬かなんかの眼差しで見てくる。
 利用しない手は無い!

「こんな穴倉からだが、いっちょやってみるか!」

 そうして俺は、小隊を集めて一度エベレストを下山することにした。


******

 柳田小次郎。
 幸運と偶然とが幾重にも重なり、自分に何らかの特殊能力があると自覚した男。

 名前 : コジロウ ヤナギタ
 種族 : 人族
 年齢 : 47
 レベル: 13
 称号 : 世界を渡りし者 
 系統 : 政 武〈格闘〉 魔〈闇〉
 スキル: S・カリスマ〈2〉
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