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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。

第65話 気もそぞろ。

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******アムートとの会談2日前


 昨日、キースからの手紙が届いて、アムートとの会談の日程が決まってからというもの、気が気ではない。
 実際、昨日の夜も今日の朝も何を食べたか、美味しかったのかどうかも全く覚えていない。
 眠れなかったことだけは確かだ。
 俺の気がそぞろというよりも、バハムートの気がそぞろなのだろう。引っ張られてしまっている。

「・・トよ、ユウトよ! 聞いておるのか?」
「ん? ミケ? どうした」
「さっきからずっと呼んでも返事をせんし……、どの依頼を受けるか決めんか! 他の奴に取られるぞ!」

 ああ、俺達は冒険者ギルドに来てたんだな。……結構混んでるな。

「依頼? どんなのがあった?」
「ハ~。さんざん言ったはずじゃがの~。アニカ、もう一度じゃ」
「はい。私達が受けられるBランクの依頼は2つです。本当は3つだけど、1つはアンデッ――」
「――それは言わんでいいのじゃ!」

 依頼の1つは、俺達が公都に来る時に寄った男爵領の町の近くに出没するジャイアントボア1体の討伐。
 もう1つは、逆方向の遠くの村付近に住みついたワイバーンの群れの討伐。

「どちらを取っても泊まりになりそうなんです」

 アニカが困ったように言う。

「二手に分かれるか?」
「いやじゃ」「いやです」「いや~」
「……そうか。じゃあ遠くの村に先に飛んで行って、転移で男爵の町に行くのは?」
「それじゃ!」「い~よ~」
「それです! では、両方受けてきますね」

 じゃあ、テーブル席で座って待ってるか。


「き、君ぃ~。ワザとかねぇ?」

 ボーっとしながら適当に座ったものだから、気付いたら顔面を包帯でグルグル巻きにしたゼンデルヴァルトの正面に座っていた。

「あ、いたんだ?」
「ほれ、我らが来たんじゃ、貴様はどけ!」
「どきなさ~い」
「は、はいぃ」



「ユウトさん! 通り過ぎましたよ!」

 ギルドを出て、みんなで村へ飛んでいたのだが、通り過ぎてしまった。
 村に到着後は、俺の様子を見かねたアニカが、村長との話をつけてくれてワイバーンの巣の位置を聞いて来てくれた。
 ギルドが無い村なので、村長からの依頼らしい。

「ユウトさん! 反対ですよ! こっちです」

 なんとか巣についたものの、俺は使い物にならない、間違って自分達が斬られるかもしれないと、俺だけ待機させらている。
 体育の授業の見学をしているみたいだ。体育座りしてるし……

 ミケ達が6体のワイバーンを討伐して巣も処理してきたので、村長の討伐確認をもらって、次への移動だ。

「じゃあ転移するぞ?」
「「「おー!」」」


 シュッ!

「ギャーー―! (ドタン!!)ま、また君たちかねぇ~」 

 ゼンデルヴァルトが驚いて椅子ごと倒れている。

「ユウトよ、ここは公都のギルドじゃぞ?」
「へっ?」

 確かに、昼前で空いているギルドの食堂テーブルだ。

「な、何とか言いたまえよぉ~」
「あ、いたんだ?」
「ほれ、我らが来たんじゃ、貴様はどけ!」
「どきなさ~い」
「は、はいぃ」

 こいつは、朝も今もなんでここにいるんだ? 邪魔な奴だ。

「間違ったけど丁度良いので、アニタと2人でワイバーンの依頼を完了報告してきます」

 受付の方から早い! という声と、解体受付からデカい! という声が聞こえてきた。
 そんなにデカいワイバーンだったのか?

「昼時じゃし、ここで食べていくか?」
「そうだな、適当に頼んでおいてくれ」

 昼食を食べたが、何を食べたかは覚えていない。不味かったのは判る。
 結局、男爵領のジャイアントボアも俺抜きで倒して、夕方前には公都のギルドに戻ってきた。
 今度は公都の外に転移してから、歩いてギルドに向かった。

「あら? アンタ達、今帰りかい?」

 Aランクパーティー“大公様大好き”のハンナ達と会った。
 獣人の男の子もいる。昨日とは違い、小綺麗な格好をして装備も整っているし、荷物持ち扱いでは無い。

「アンタら、ゼンデルヴァルトには会ったかい?」
「ん? アイツになら朝昼と2回も会ったぞ?」
「そうかい。なら、ゼンデルヴァルトのパーティーが解散したのは知ってるのかい?」
「解散? いきなり?」
「“輝けるゼンデルヴァルト”は、この子、――テテが抜けて、他の3人も抜けたのさ」
「て、テテです。昨日はありがとうございました」

 テテがてててっと駆けて来て、ペコっと頭を下げた。クリーム色の毛と垂れた耳、犬族? のようだ。
 昨日は灰色に見えたから、身体さえ拭かせてもらえてなかったんだな。

 他の3人は同郷の出で、公都に来たところをゼンデルヴァルトに誘われてパーティーに入ったが、奴の傲慢な態度とプライドの高さに辟易としていたらしい。
 大公国は差別のない国なのに、獣人のテテをまるで奴隷のようにこき使うのにも反対だったが、言い出せずにいたんだと。

 昨日、テテが俺に取られてパーティーから抜けたのをいい機会として、彼らも脱退して故郷に戻る決意をしたらしい。
 3人は昨日の内にテテに詫びを入れて、そのまま故郷に旅立ったので、ゼンデルヴァルトは1人でギルドにいたという事だ。

「自業自得だな」

 ハンナ達と別れて、ギルドで討伐報告を済ませた。
 受付の方から早い! という声と、解体受付からデカい! という声が聞こえてきた。
 ……どっかで聞いたことあったような気がするな。


******アムートとの会談当日


「よし! いよいよ今日、アムートに会うぞ! ここまできたら開き直るしかないな」

 結局、昨日も朝から気が気でない状態で、ミケ達から宿にいるように言いつけられて、丸一日宿で過ごした。
 ミケ達は3人で何かしらの依頼をこなしたようだ。おかげで俺は、睡眠不足も解消された。

「では、我らはギルドへ行くからの? ユウトもシャキっとするのだぞ?」
「ああ、ありがとうな、みんな」

 ミケ達は、宮殿へ行ってもどうせ暇になるだろうからと、依頼を受けに行くそうだ。
 宮殿のお菓子を食べられないことは非常に残念がっていて、お土産に持って帰ってこいとの厳命を受けている。



 バハムートがどうとかではなく、俺自身がドキドキ緊張してきたので、早めに宮殿に向かった。
 衛兵にキースからの手紙を見せると、丁寧に対応してくれて、キースの執務室に案内してくれた。

「やあ、早いね」
「いや~、緊張しちゃって。すみませんね執務の邪魔をする形になってしまって……」
「そんなことはないさ。私も緊張していて、仕事が手につかなかったところさ。……宿やギルドでは色々あったようだね?」

 知ってたんだ?

「ええ、日々何かしらの騒動があって、随分お騒がせしたようで……」
「ハハハ。ユウト殿のお仲間がギルドの不穏分子に制裁を加えているとか、差別意識の高い冒険者をしたとか、副ギルド長は寿命が縮まったと言っているようだよ?」

 筒抜けなのね……

 アムートとの会談場所は別室に設けられているということで、俺とキースは、時間までお茶を飲みながら過ごした。
 だいぶ緊張もほぐれてきた。

「さて、そろそろ時間だね。行こうか」
「ええ」

 ドクン!
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