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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。

第67話 女神顕現と決意。

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「か、閣下! お止め下さい!」

 キースがアムートの出自を明かし、これまで隠し続けていた事に対して深く頭を下げた。
 アムートが、頭を下げるキースを慌てて制止する。

「閣下の仰られる事は、まだ現実として受け止めきれていませんが、とにかく頭をお上げ下さい」


 キースは扉を開いて指示を出すと、先程のメイドが新しい紅茶を入れてきた。
 アムートは部屋の隅に立ち、1人外を眺めながら考え込んでいた。
 俺は、やはりアムートから目が離せないでいる。まるでバハムートがアムートの姿を目に焼き付けようとしているようだ。

 再び扉が閉じられ、改めて席に着く。

「さて、これでこの場には、大公国の主である私とエンデランス王国の“正当な”王族であるアムート様がいるということだ」
「閣下、せめてその呼び方は……」
「では、アムート殿と呼ぼうか。だが、アムート殿も私を閣下などと呼ばなくてもいいのだよ?」
「……はい」
「では、ユウト殿が何故同席しているのか?」

 キースは、これもディスティリーニア様に誓ってと前置きした上で、丁寧に経緯を伝えた。
 当然、話の流れで俺のステータスも公開した。

 名前 : バカユート
 種族 : ヒト族
 年齢 : 24
 レベル: 13
 称号 : - 
 系統 : 製作 武〈長剣〉
 スキル: C・土属性魔法〈3〉

「「…………」」
「――あ、違った。ゴメン!」

 名前 : ユウト ババ
 種族 : 人族
 年齢 : 24
 レベル: 77
 称号 : 世界を渡りし者 英雄
 系統 : 武〈長剣〉 魔〈全〉 製作 商
 スキル: S・聖剣技〈10〉 SS・魔法大全〈9〉
      A・言語理解 A・魔力回復‐大‐ A・使用魔力低減‐大‐
      B・探知〈7〉

「これだった……」

 何気に探知スキルが〈7〉に上がってる!

「どうだ? アムート殿?」
「はぁ……、確かに見知らぬ称号や高ランクスキル。特に【聖剣技】はバハムート様――いや、父か? 父!?」

 アムートはまだ混乱の最中さなかのようだ。

「しかし、父が亡くなって40数年、新たな【聖剣技】保持者が誕生していてもおかしくないのでは?」
「それはそうだが、俺には記憶がある。」

 俺は、キースが敢えて話さなかったバハムートの記憶について伝える。

「あなたの実の母親、ミーナとの馴れ初めや生まれたばかりのあなたとの初対面。最期の場面まで生々しく俺の中に刻まれているんだ」
「しかし……」

 それでもアムートは、なかなか受け入れ難い様子をしている。

 ブッ! ブッ! ブッ!

 不意に、スマホのバイブ音がしたと思ったら、部屋に祀られているディスティリーニア像が輝きだした。

「なんだ?」

 俺がポケットからスマホを取り出すと、ニアが姿を現した。

「ニア?」

 ニア自身も光を纏い円卓の中央に浮いていた。

「――ディスティリーニア様!?」

 キースもアムートも敬虔な信徒らしく、すぐさま椅子から離れて、膝をつき祈りを捧げる。

「アムートさん、この場でキースさんとユウトさんのおっしゃった事は、真実です」

 いつものニアとは少し違い、威厳の様なものが感じられる。

「私は、バハムートがこの世に誕生した時に、しっかりとした意図を持って聖剣技を与えたのです。そして彼はそれを良く生かしてくれていました」

 キースとアムートは祈りの手のまま、ニアを仰ぎ見て、言葉を聞いている。

「しかし彼は、一部の人間の愚かな――本当に愚かな行いによって、命を落としてしまいました」

 そして、ニアは俺の説明を裏付けるように、バハムートの魂がカストポルクスから地球という星へ流され、俺の中に入った事。
 俺が紛れもなく、地球から転移門をくぐってやって来た事をゆっくりと丁寧に伝えた。

 “女神の間”という大公国にとって特別な部屋で、ディスティリーニアが降臨して掛けた言葉に、アムートはようやくこれが真実なのだと受け入れた。


 ニアが姿を消した後、2人はしばらく放心状態だったが、気を取り直して再び円卓に戻ると、キースが口を開いた。

「これからの話だが……、自らの出自を理解した今、アムート殿はどう考える?」
「どう考えるも何も……、私が英雄バハムートの遺児だと分っても、閣下、――キース殿の御側に仕え、クラウゼンを治めるビンス伯爵であることには変わりはないと考えております」

 アムートは伏し目がちになり、続ける。

「――それに、やはりビンス家の今は亡き“父と母”にも親愛の情があるのです……」
「それに関しては、なんら後ろめたく感じる必要はないよ」

 俺が割って入る。

「えっ?」
「バハムートは、あなたが生きていてくれただけで良いんだと思う。生みの親であれ育ての親であれ、“親”に親愛の情を持ってくれているあなたを誇りに思っているだろう」
「……そうだろうか?」
「そうさ。俺は前伯爵夫妻の事を知らないが、彼らは自分たちの子として、愛情深くあなたを育てたのだろう。彼らを忘れたり、愛情を捨てたりする必要はないさ」

 アムートの気が晴れたのを見て取ったキースが話を進める。

「その上で、エンデランス王国をどう思う?」
「エンデランスですか……」

 キースもアムートも当然知っているだろうが、俺が見てきた状況も伝える。

「俺が見てきた限りでは、あのフリスは、この40年余り国を統治出来ていない。富や民をすり潰しているだけだ。王都、王城でさえ公都とは比べるまでもなく荒んでいるのは判るだろ?」
「ユウト殿の言う通りだ。フリスは、いくら王とはいえ専横が過ぎる。これではバハムート様が命を賭けてまで守った国が、自ら滅びの道を辿ってしまう。だから――」

 キースは、アムートの目を見据えた。

「――アムート殿がその気であれば、私は貴殿の王権奪還を後押ししたいと考えている」
「し、しかし! 今キース殿の元を離れるのは……」
「今と言うが、今の王国の惨状はどうする? 苦しむエンデランスの民は? 年々悪政が進行しているのは知っているだろう?」

 キースの言葉に、アムートが考え込んだ。


「それに、私が掴んだ情報によれば、アムート殿の母親は存命で、王城の一角に囚われたままの可能性が高いとの事だ……」
「生きておられるのですか!?」

 アムートは再び考え込む。
 部屋は静寂に包まれ、俺とキースはアムートの決断を待った。



「……わかりました。エンデランスの民の為にちましょう!」
「「おお!」」
「――ただし、このままではいけません。ユロレンシア大陸の他の国々からの承認がない中で事を起こせば、私とてフリスと同じ簒奪者さんだつしゃそしりを受けかねません」
「うむ! その通りだ。だが、心配には及びませんぞアムート殿」

 キースも同様の事を考えていて、手は考えてある。俺もその解決に協力することになっている。

「アムート殿には、決起の承認と後援要請の書状をしたためてもらいたい。私も自らが後ろ盾になった事と協力要請の書状を用意する。それを届ける使者をユウト殿に務めてもらう」
「ああ! もちろんだ」

 俺は大きく頷いて見せた。
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