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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。

第73話 教皇ローレッタはヤバい。

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 朝になって、木から落ちそうになって目を覚ました。
 昨日の酒が残っていて、胸がムカムカするのを《デトックス》で取り除く。
 4日連続ともなれば慣れたものだ。



「うぉ! ビックリしたー」

 部屋に戻ると俺の寝るはずだったベッドで、リーファが裸で寝ていたのだ。
 起きる気配は無さそうなので、しばし鑑賞してから布を掛けてやって、自分の身支度を整えて部屋を出る。
 一応リーファの側近に挨拶をしてからディステに向かって出発する。

 地図を確認して、大集落から南南西に飛び立つ。
 エルフ大森林を抜けると普通の森林地帯に入った感覚があった。国境を越え、ディステに入ったのだろうな。


 宗教国家ディステは、ヒト族を中心に信徒がいて、前教皇時代を中心に、この40年ほどで国土を西に3倍に拡げた。
 エンデランス国王フリスの悪政で、貧困や飢餓に喘いでいた民を救済するためにエンデランス領を削り取ったのだ。
 信仰心が厚く、命を惜しまない騎士団を有する強国でもある。

 今の元首は、教皇ローレッタ。
 ローレッタは、グラン・ディステ大聖堂の敷地にある、リーニ宮殿にいるという。

「ニアは、グラン・ディステ大聖堂って知ってるか?」
「はい。海沿いにあるとても綺麗な聖堂ですよ。とても大きな私の像があります」
「へぇ~、行った事はあるのか?」
「いいえ、覗いていただけです」
「他にディステについて知っている事は?」

 ディステには、田畑があれば畜産もしていて、工房もあり、商業もしている。
 他のヒト族の国とほとんど変わらないらしい。大きく違うのは、日々の営みの中心には常に教会があり、毎日朝晩の礼拝が日課なのだ。
 どんなに小さな集落や村にも、大小の差こそあれ教会があり、住民は毎日祈りを捧げているのだという。

「あと、今の教皇は私を“感じる”事が出来るようです」
「感じる?」
「はい。王城でユウトさんを見た際に驚いていらっしゃいましたよね? あれは私を感じ取ったからだと思います」
「それで……、俺に話があるって言ってきたのか」


 ニアと話していたら、あっという間に昼過ぎになった。
 すると、海が見えてきて、一緒に大きな建物も見えた。それがグラン・ディステ大聖堂だという。
 海を背にして、半円形の壁に囲まれたとても大きな都市だ。大聖堂前の広場を中心にして道も建物も大きさや高さが統一され、整然としている。

 壁の手前に降りて、簡単に昼食を食べた後に門に向かう。

「巡礼ですか?」

 門番の騎士が問いかけて来たので、キースの遣いである旨を伝えて、取り次いでもらう。
 迎えの馬車に乗って大聖堂に着くと、おじいちゃんが出迎えてくれた。
 大司教だそうだ。そのおじいちゃんの案内で中に入ると、壁画や絵画が飾られていた。
 そのどれもが女神ディスティリーニアの姿だという。

“似てるのもあれば全然似てないのもあるし、アレなんか子供の絵みたいじゃないか?”
“おそらく子供の絵ですね。ほとんどが夢の中で姿を見た人が、後に書いたものでしょう”
“ニアは、夢に出たりするのか?”
“出たくて出るものではありません。例えば、この星を見守っていて懸念事項があるとします”
“ああ”
“それを私が気にしていると、感受性の強い方が夢を見るそうなんです。多くの方は姿だけ見えて、声が聞こえないので何も伝わりませんが……”

「夢に出て来た女神の姿かぁ」
「――おお! よくご存じですな」

 やべ! 声に出てた……

 大聖堂の奥には10mはあろうかというディスティリーニアの像が祀られていた。

“これとか、女神の間の像とかはそっくりだな?”
“この像を作った本人が夢を見たのでしょうね……、気恥ずかしいです”

 そうこうしていると、ローレッタが息を切らしながら小走りでやってきた。
 やっぱり何か感じているようで、俺に近づくなり膝をつき、スマホのあるカーゴパンツのポケット辺りに祈りを捧げている。
 そして、逝っちゃってる目つきと鼻息をふーふーさせながら、俺のポケットにそっと手を伸ばして来た。

「あの~」
「――はっ! 私ったら、申し訳ありません。ユウト様」

 ローレッタが我に返り、恥ずかしそうにしている。

 応接室に案内され、早速キース達の書状を渡す。
 ローレッタは少しも考えることなく、了承の返事をくれた。

「私達はエンデランス王国が憎くて、領土を奪ったわけではありません。彼――フリス陛下が善政を敷き、民が喜んでいれば、我々が救済に動く必要などなかったのです」
「わかります」
「アムート様の思惑が成就し、民が心安らかに暮らせるように祈っております」

 おお! 思ったより早く話がまとまって良かった。
 ローレッタは、室内にいた従者にお茶の手配を指示し、部屋には2人きりになった。

「――ところで、ユウト様はディスティリーニア様とはどういうご関係で?」

 あぶねー! 動揺が態度に出るところだったー。
 ニアから“感じる”人って聞いといて良かった。心の準備ができたからな……

「関係とは?」
「ユウト様からは、ただならぬ気配を感じます。はーっ! ふー! デ、ディスティリーニア様の! ふ~!」

 ローレッタは、目が逝き始め、鼻息も荒くなってきている。
 絶対に言えない。言いたくない!
 俺のステータスを犠牲――ステータスで気を逸らす!

「まぁ! バハムート様の?」

 ちょうど良く従者がお茶を持って来てくれた。
 ローレッタが大司教を呼び、何やら確認している。

「私共の教会にバハムート様の妹君がいらっしゃいますよ? テレーゼさんですよね?」

 ドクンッ!

 テレーゼ! こんな所で手掛かりを得られるとは!

「どちらにいらっしゃるんですか?」
「そうですね……ここからほど近い町で司祭をやっております」
「ど、どういった経緯で?」

 フリスが王になってから、テレーゼは政略結婚の駒として利用価値があると判断され、半幽閉生活を余儀なくされたが、教会での礼拝だけは許されていた。
 ある時、たまたま教会騎士がエンデランス王国に立ち寄った際に、亡命というか保護を求め、着の身着のままディステに逃げ延びたということらしい。

「そして、教会に身を捧げた、と?」
「正確にはディスティリーニア様に、です。お会いになりますか?」
「そうしたいところですが、全てが片付いてから会わせて頂けませんか? もしかしたら、彼女の母親が存命かも知れませんので、救出後にでも」
「まぁ! そうでしたか。ますますアムート様の応援をしなくてはいけませんね!」

 これで、ディステでのミッション達成だな、と席を立とうとしたら、ローレッタが慌てて俺を止めようとして、テーブルに足を引っ掛けて転びそうになった。

「大丈夫ですか?」

 俺が腕を伸ばして彼女を受け止めたら、ローレッタがギュっと抱きついてきた。

「ふー! フーッ! フー! ディスティリーニア様の、ムフーッ! 気配が! ふぅー!」

 ローレッタの興奮が高まり、身の危険を感じたので逃げる!

「では、また今度!」

 シュンッ!

「あー! ディスティリーニア様~~~~」
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