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第3章 カストポルクス、真の敵。
第106話 拾う。
しおりを挟むエニアのダンジョンに入って、順調に進んでいる。
モンスター自体は簡単に倒せているが、倒して魔石になる瞬間に、フッとうっすら黒いモヤが出る気がする。
埃を被ったぬいぐるみをパタパタ叩いた時のように、ふわっとうっすらモヤが見える。
ザ・洞窟といった5階層を突っ走っていると、「誰かいるんですか~?」と、呼びかける声が聞こえた。
「メルティナ、止まって! ……声が聞こえなかったか?」
「ん。聞こえた」
息を潜め、耳を澄ます。
「誰かいたら、助けて下さ~い!」
「――あっちからだな。 今行くからなー!」
ダンジョンを進むと、ダンジョン壁のくぼみに大きな荷物を盾にして隠れている獣人を見つけた。
「おい! 誰もいないって聞いてたのに、何でここにいるんだ?」
「逃げている時に置いていかれてしまって……」
オレンジの強い黄色と白と黒の毛の身体に、引っ掻き傷や噛み痕がたくさんついている。
《クリーン》と《ヒール》をかけてやり、事情を聞く。
ゼンデルヴァルトとテテのパターンだった……
冒険者登録をさせずに、パーティーの荷物持ちや雑用をさせていて、今回の氾濫が起こって逃げる際の時間稼ぎで荷物ごと捨てられたそうだ。
モンスターに喰らいつかれながらも、必死にくぼみまで逃げて、隠れていたらしい。
ゼンデルヴァルト、許さん。
「外に行かせたいけど、ロックウォール先生で塞いでるし、モンスターも皆殺ししてきた訳じゃないからなぁ……」
「……旦那様のそば、一番安全」
「ご夫婦なんですか?」
「そう」
「違う! 顔を赤くしながら嘘をつくんじゃない!」
でも、メルティナの言う通りかもな。
「よし! 俺が雇おう。名前は?」
「ユフラです。猫虎族です」
「わかった。ユフラの仕事は魔石拾いだ。俺の少し後ろを魔石を拾いながらついて来い。終わったら外に出られるぞ」
「はい! 何階層まで行くんですか?」
「最下層だ!」
「ええー!?」
ユフラが引いていたが、仕方あるまい。
ユフラの身体の3倍はあろうかという大荷物を、俺のストレージに収納して、魔石入れの巾着袋を持たせる。
「だ、旦那様……もう無理」
深夜になって40階層、湿地沼地エリアのフロアボスであるマッドクロコダイルを俺が倒したところで、メルティナがギブアップした。
魔力消費の少ない低位魔法で頑張っていたが、限界だったのだろう。
「旦那様……絶倫」
「凄いです! 旦那様!」
メルティナに釣られてユフラまで俺を旦那呼びし始めてしまった。
「俺はユウトだ。これから旦那呼びはやめてくれな?」
「はい! ユウト様!」
「様も要らないんだけどなぁ……。メルティナも次旦那呼びしたら角1本貰うぞ」
「……できるか不安」
フロア自体が湿地なので、“巣”を作って仮眠する事にした。
作り置きのスパゲッティを食べながらユフラの話を聞くと、孤児らしい。
「ここから出られたら、また新しいパーティーに雇ってもらわなくちゃですね」
ここに来るまでユフラを見て来たが、小さい魔石を見逃さずに全部拾い、そのくせ俺に遅れることなくついて来てまだ余裕がありそうだ。
許可を取って《アナライズ》させてもらう。
名前 : ユフラ
種族 : 獣人族 (猫虎族)
年齢 : 15
レベル: 18
称号 : -
系統 : 武〈斧・爪〉
スキル: C・タフネス〈8〉 C・斧技〈1〉
おお! 今は分からんが、会った時点の同じ猫虎族のティグリスよりレベル高いぞ? 若いのに。
タフネスも〈8〉ってことは、相当虐げられていたんだな。
「――そうか! 獣人族の国だ。ユフラ、獣人族の国に行く気は無いか? 両親の出身地だろ?」
「でもぉ、遠いですよね? 長旅のお金なんて……」
「行く気があるんだったら連れて行ってやる。一瞬だ一瞬」
「いいんですか?」
まだガルーダを倒した訳ではないが、さっさと片付けてユフラを獣人国へ連れて行ってやろう。
ユフラが寝るのを待って、とっくに疲れて眠りこけているメルティナも《アナライズ》しとく。
名前 : メルティナ
種族 : 魔人族
年齢 : 87
レベル: 71
称号 : 禁忌を犯した者
系統 : 魔〈闇・無〉
スキル: A・探求〈4〉 B・使用魔力低減‐中‐
C・闇属性魔法〈10〉 C・無属性魔法〈10〉 C・風属性魔法〈7〉
C・火属性魔法〈6〉 C・地属性魔法〈4〉 C・地属性魔法〈4〉
鬲泌鴨貂帛ー醍スー
お婆さん!
それに、最後の一行……。そこはハウラケアノスの時と同じように読めない。
“巣”から離れたところへ移動し、ニアに聞いてみる。
「それは『禁忌を犯した者』の罰です。以前も言いましたが、称号自体でステータスが良くも悪くもならないですが、罰は下る事があります。」
「……罰?」
「ディスティリーニア本体に確認した訳ではありませんが、魔力減少的な罰を受けたのでしょう。メルティナのスキル構成から見ても、それが最も効果的な罰になりますから」
数時間休んで、2人を起こして、ダンジョン攻略を再開する。
ガルーダも俺一人でサクッと倒し、午前中の内にダンジョンの外へ出る事ができた。もちろんメルティナは縛り直して、マントも羽織らせた。
あまりに早い帰還と1人多く出て来た事に驚いているエニアのギルマスに、ユフラの事情を説明する。
「わかった。そのパーティーはエニア冒険者ギルドの名誉をかけて、必ず処分しよう」
“必ず”と言うところを守るように伝えて、獣人族の国に行こうとして、ピルムを忘れてた事に気づいた。
[ユウト様……酷いです!]
(ギュルゴルル……ゴギャア!)
「ぎゃー! ピルム様がお怒りだ~」
「貢ぎ物を差し出すんだ!」
まだピルムに慣れてなかったのかよっ!
俺とピルムとメルティナにユフラを加えた4人で、獣人国のライゼルの屋敷上空に転移した。
ピルムは上空待機でいいと言ってきたので、ピルムを除く3人で屋敷内に転移する。
エティゴーヤの屋敷で、余程好奇の目に晒されたんだな……
シュンッ!
屋敷にはライアーンがいた。
族長ライゼルは、森で熊系モンスターが凶暴化して暴れているのを鎮圧しに行っているそうだ。
「おーい! 客人だー! 茶を持ってこーい! 3つー!」
屋敷には、凶暴化したモンスターに果敢に挑んで名誉の負傷をしたティグリスが帰還していて、ライアーンにこき使われている。
ティグリスは慣れない手つきで、お盆を持って部屋に入ってきた。
ガッシャーン!
「何やってやがる! テメェこの野郎!」
ティグリスが部屋の入口に突っ立って呆けていたと思ったら、ツカツカとユフラの前に来て、ひざまづいた。
「えっ!?」
「けけけけ! 結婚してくだ――ごぶぁ!」
俺の膝がティグリスの顔面を的確に捉えた。
特別に回復してやって、ティグリスに話を聞くと、ユフラに一目惚れしてしまったらしい。
「初対面の相手にいきなり求婚する元気があるなら、前線に戻れ!」
「ギャッハッハー! ちょうど回復してもらったし、戻れるなぁ?」
「そんなぁ~」
ライアーンにユフラの事情を説明すると、快く受け入れてくれるそうだ。
ティグリスには、こういう場合はまず友達になるところからだ、と言い聞かせておいた。
ユフラに大荷物を返し、拾ってもらった魔石を餞別でやるというと、「そんな! 頂けません!」と頑なに受け取らない。
大荷物がユフラを捨てて逃げたパーティーメンバーの物で、それを売ればいくらかお金になるので、魔石は要らないということらしい。
何か他に選別になる物、持ってたか? と、考えたら思いついた。
ユフラには、グンダリデの巨斧をやることにした。
「これで斧技を覚えて、ティグリスがまた変な事を言ってきた時は、ぶちのめしてやれ」
まぁ、まだ持つ事も出来なそうだが、せっかく斧技があるんだから、役立ててもらおう。
ライアーンに、まだ異変があるかもしれないから警戒するように伝え、ユフラを頼んで屋敷を後にした。
「待たせたな、ピルム」
[ユウト様! 大変です!]
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