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第八章 ダンスパーティー

第127話 雪遊び

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「ふははは! 我は雪原のドラゴンロードである!」

 勢いよく雪玉を投げるルーシー。

「きゃ、つめたーい。うふふ、ルーシーちゃん、その雪原のドラゴンロードってなんなのー? お手軽ドラゴンさんだねー、春には溶けちゃうよー」

「むー、アンナちゃんよ、それを言ってはお終いだ! そらー、我が雪の力をおもいしれー、ジャン君、隙ありー」

「お! ルーシー、やるなー。だが、当たらなければどうということはない。そらお返しだ」

 服に付いた雪を払いながら、ジャンが雪玉をルーシーにぶつける。ジャンの雪玉は見事ルーシーの顔面に命中する。

「ぶはっ! おのれー、ジャン君のくせに我に雪玉をぶつけるとは命知らずよ!」

 グプタ組は早朝から皆元気だった。
 そもそも年中温暖なグプタの出身者には雪は珍しい。冬の遊びの定番は雪合戦なのだ。

 逆に地元出身の子供たちは雪合戦はとっくに卒業である。

「ソフィアさん、参加しないんですか?」
 
 セシリアの質問に、コートを着込んだソフィアは朝から元気に遊ぶルーシー達を眺めながらため息をつく。

「うーん、ルーシーさん達あんなに楽しそう。でも雪はそんなに好きじゃないし……。でもそうね。久しぶりに雪合戦もいいかもですわ」

 あまりに楽しそうなルーシー達を目の前に、ソフィアとセシリアも雪合戦に参戦する。

 セシリアはコートを脱ぐと独特のデザインの黒いノースリーブのジャケットにショートパンツの姿であった。
 曰く、モガミ流のクノイチの戦闘服であるとのこと。

 冬にそれは寒くないのかと思うルーシーだが、そんな余裕は無かった。

「ふふふ、ルーシーさんが雪原のドラゴンロードならば、私はモガミ流のニンジャー。くらえ! 忍法、雪玉の術!」

 セシリアは印を結ぶと無数の雪玉がルーシーめがけて発射される。雪玉はルーシーに命中。顔中雪まみれになる。

「ぶふぅー。冷たーい。セシリアさんなにそれ! かっこいい!」
 
「セシリアさん。学園外で魔法を使うのは校則違反ですわ!」

 オリビア学園に在学中の学生は不用意な魔法の行使は校則違反になる。
 もっとも、教師がいない場所で校則違反をしても事件にならない限り罰則にはならない。ソフィアは真面目すぎるところがある。

 そんなソフィアに対しセシリアは人差し指を左右に揺らし。 

「ちっちっち。モガミ流忍法は魔法じゃない。ちなみに雪玉の術はモガミ流にも無い、さっき考えた私のオリジナル忍法。だから問題ない」

 セシリアは天才である。潜在能力は母親以上、鍛錬を続ければ無名仙人の領域にたどり着けるやもしれない。

 だが、それは生涯を修行に費やしてこそだ、セバスティアーナも当初はそうすべきと考えていたが、今は違う。

 才能を伸ばすよりも彼女には自由に生きてほしいと思うようになった。もし、それでもセシリア本人が望むならば無名仙人に弟子入りするように話はつけてある。

 ……だが、無名仙人のセクハラを思えばそれも気が引ける。どちらにせよセシリア次第である。

「おのれ―、オリジナル魔法は校則違反じゃないだとー! ……あ! ふふふ、セシリアさんよ。オリジナル魔法は校則違反じゃない……その発言後悔するとよい。いでよ! ハインド君」

 ぼふん、黒い煙からお馴染みの黒いローブを着た骸骨の登場である。

『マスター、たしかにいつでもお呼びくださいと言いましたが、これは一体何事ですかな?』

「ふ、ハインド君よ、察しが悪いな。セシリアさんの雪玉の術に対抗するにはお前の力が必要なんだ」

『ふむ、雪合戦ですか、……残念ですが私はこのような子供の遊びは経験がありませんな』

「え? ハインド君、子供の頃なにやって遊んでたの? エフタルだって雪は降ったでしょ?」

『うーむ、ほとんど記憶はありませんが、純粋だった子供の頃の記憶は少し憶えております……。
 そう、幼いころは、家庭教師からずっと教育を受けておりました。剣の才能はありませんでしたが、魔法の才能はあったもので。
 王立魔法学院に入学する頃には将来を期待された神童と呼ばれてましたな、はっはっは』

「むー、ハインド君の癖に生意気だ。それに子供のころに遊ばないやつは碌な大人にならない。あ、そうか、闇の執行官ハインド。碌な大人にならなかったね。
 はっはっは、ならばちょうどよい、お前も遊びに付き合うのだ、そら、今の敵はセシリアさんだ、雪玉の数に惑わされるな。正確に撃てー」

「ちょっと、ルーシーさんにセシリアさん。あんまりやり過ぎると風邪をひいてしまいますわ。せっかくの冬休みが台無しになってもよろしいのですか?」

「ふふふ、ソフィアさん。私は一度も風邪をひいたことはない!」

「同じく、私も風邪をひかない体質、モガミのクノイチは風邪をひかない。良い子の証」

 セシリアとルーシーの間には無数の雪玉の応酬が繰り広げられていた。

 当然、周囲にはそのとばっちりは来る。

「うお! おいおい、俺は風邪なんてひきたくないぜ、それにアンナは去年風邪ひいたからな。俺達はここらで退散させてもらうぜ」

「そだねー、去年はジャン君に迷惑かけたし。でもジャン君に看病されるのも悪くなかったなー、でも苦しいのは嫌だし私もこの辺にするねー」

 ジャンとアンナはこの無謀な雪合戦から離脱した。

 ソフィアは困惑するばかりだ。中に入ったら確実に巻き込まれる、でも面白そう、でも恥ずかしい……。

「ええい、我は深淵を覗くもの! 聞け! 氷結の魔女とは私のこと、深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いているのだ!」

 不毛な雪合戦は三つ巴の戦いとなった。

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