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第八章 ダンスパーティー

第149話 宮中パーティー⑮

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 ヘイズはルーシーを力任せに押し倒す。

 押された先がソファであったため怪我はないが状況は良くない。

「お、おのれー。貴様! 殿下の体から出ていけ!」

 襲い掛かるヘイズに抗おうと手足をじたばたさせる。
 だが、本気の男性の腕力を前に運動が苦手なルーシーにはなすすべがない。

「ルシウス様。忘れてしまったのなら思い出させるまで。さあ、そんな小娘の体に隠れなくとも、私が開放して差し上げますとも!」

 血走った目をしながら、ヘイズはルーシーのシャツを引き裂く。

 ヘイズはルーシーの下腹部に目をやると再び絶叫する。

「無い! 眷属の紋章が! なぜだ この小娘はルシウス様の眷属ではないと! おのれ―、どういうことだ! ルシウス様の魔力を感じるのに。……そ、そうか、その体の中にいらっしゃるのですか」

 ヘイズは理性を失っているようだ。
 彼はナイフを手にするとルーシーに跨り、下腹部に向けてナイフを振り下ろそうと、いま大きく振りかぶった。

 …………。

 だが、間一髪。ルーシーは唯一の魔法で反撃する。

 振り下ろそうとしたナイフはそのまま手から離れ床に突き刺さる。

 そう、ルーシーは間一髪のところで『地獄の女監獄長』を唱えることに成功したのだった。

 意識を無くしたルーシーとニコラスの体はそのまま重なるようにソファに倒れ込む。

「ルーシーさん! 一体何が!」

「セシリアさん、大丈夫ですわ。ルーシーさんの魔法は成功しました。ニコラス殿下もきっと大丈夫……むしろ不味いのは私達ですわよ?」

 そう、セシリアとソフィアは今、二匹のブラッドラプトルと室内での戦闘の真っ最中だ。

 ブラッドラプトルの前腕から鋭い爪の一撃がセシリアを襲う。

 セシリアは軽い身のこなしで回避すると、反撃にナイフを投擲する。
 だが、ナイフの刃はブラッドラプトルの硬い鱗に弾かれる。

 ブラッドラプトルもこの密閉された狭い空間での戦闘は得意ではない。
 脚力に任せたジャンプ攻撃などの遊撃を得意とするブラッドラプトルも本領を発揮できないでいた。

 だがブラッドラプトルの知能は高い、やがて地形に適応した攻撃をしてくるに違いない。

 一方でソフィアも室内の戦闘は初めてだ、準マスター級の魔法使いであるソフィアとて使える魔法が限られるこの状況ではマジックシールドによる防御以外何もできない。
 中級魔法で最も威力のあるヘルファイアであればブラッドラプトルを葬る事はできるだろうが、その炎で自分たちも無事では済まない。

 かといって、アイスジャベリンやフォトンアローではブラッドラプトルには通用しないだろう。

 ならばと、ソフィアは決断する。

「セシリアさん御免、10秒ほど時間を頂戴」

「分かった、善処する」


 ◆◆◆


 監獄にはルーシーとハインド。
 そして鉄格子を境にニコラスの体を乗っ取ったヘイズがいた。

『ヘイズとやら、随分と悪逆非道の振る舞い。この闇の執行官ハインドが許さぬぞ!』

「闇の執行官? ……そうか、ルシウス様は既に子飼いをお持ちか……はは、それにしても。
 ここはどこだ、まあ、予想はつく……この空間は千年牢獄であろう。……さてルシウス様はどちらかな」

 パシン。

「おだまり! おのれ―。貴様、殿下の身体を乗っ取るとは、この地獄の女監獄長がお仕置きだ!」

「小娘、なんだその格好。……それにしても武器など一切持ち込むことができないこの千年牢獄の空間にその禍々しい鞭か、なかなかに面白い術を使うではないか。
 ……ふっ、降参だと言いたいがな。だがどうだろうか? 俺を殺したらこの身体の主は死ぬぞ? お前はそれでいいのか?」

「往生際の悪い奴! ハインド君、囚人をこちらに」

 鉄格子の扉が開かれると。ヘイズは抵抗することなくルーシーのもとに跪く。

「むー、殿下を叩くのは二度目。さすがに罪悪感があるけど……でも、ごめん」

 ルーシーは鞭を振り上げ思い切りニコラスを打つ。

 ヘイズは激しい痛みを覚える。そして意識が霧散していく。
「ふ、ははは。なるほどなぁ。魂への直接ダメージ、これはルシウス様の力だ。ふ、ふふふ、そうか、ハヴォックが失敗した理由が分かったわ。だが、このヘイズとてルシウス様から授かった力が――」

「うるさい! さっさと殿下から出ていけー!」

 パシン!

 ヘイズの魂はその瞬間、完全に浄化された。 

 …………。

「ああ、地獄の女監獄長。俺は、またしても貴女様に助けられるとは。俺は、うう、またこんな情けない姿を……」

 跪いていたニコラスはヘイズから解放され正気を取り戻した。
 だが、自分の情けなさに嗚咽を漏らしながら謝罪する。

 ルーシーとしてはニコラスのこんな姿は初めて見た。
 どうにか落ち着けようと、そっと頭をなでる。

 弟が泣いていた時はこうすれば落ち着いたものだと昔を思い出す。

 少し落ち着いたのかニコラスは顔を上げる。

「え? ルーシー? その格好は……」

 硬直する二人。そう、お互いに気まずい状況だった。

「ふははは、実は我が地獄の女監獄長であったのだ! ……ええっと、殿下。あの、ごめんなさい、その……」

 口をぱくぱくさせるも言葉の出ないニコラス。
 ルーシーもあまりの恥ずかしさに何を言っていいのか分からない。

 だが、次の瞬間。

『おい! ルーシー。起きろ! ヘイズとやらはまだ生きておるぞ!』
 頭に響く、聞き覚えのある謎の声にルーシーの魔法は解除された。
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