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第一章

第5話 キャラ崩壊

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「まるで成長していない……」

 そう、文明レベルがである。

 一度目の転生は5000年前だっけ。それからまったく文明レベルが成長してないのだ。相変わらずの中世風味だったのだ。

 なんだ、あの鎧姿に槍をもった門番、関所の前で停まっている馬車に行列。俺がいたときと何一つ変わっていないじゃないか。


 いや、まてよ、たしか地球でもヨーロッパ辺りで産業革命が起こらなかったらと考えると、中世のような世界はずっと続く。

 実際、日本がいい例だ。開国シテクダサイおじさんが来なかったら日本は侍ジャパンのままだった。


 なるほど。こちらの世界は産業革命が起きていない。簡単な話だ。

 しかし、まあこの世界には魔法があるし、いちいち地球と比べるのもナンセンスだろう。

 それに、俺がうっかりここで産業革命を起こしても面白くないしお節介がすぎる。それに大規模な戦争を誘発してしまう恐れだってある。


 俺だって馬鹿じゃない。ここで機械文明なんか、それこそ機関銃とか作ったら最悪だ。やってしまいましたか? てへぺろ、を出来るほど心臓に毛は生えていない。


 それに俺の当面の目的は膨大な魔力の回収、それ以外にかまってる暇はない。この子の未来の為に俺はいる。

(マスター、そろそろ、列に並びませんと日が暮れたら関所が閉まってしまいますよ?)

 おっと、そうだった。夜間営業はないのだったな。まあ当たり前だ。照明は貴重だし夜は危ないから門は閉めるのが常識だ。


 関所の列に加わると周りは自然と距離を取ってくれた。避けられてるのかと思ったが、今の俺はとんでもない美少女だ、近寄りがたい雰囲気なのだろう。

 定番のごろつき共にナンパされるのではとひやひやしたが、流石に関所の前でそんなことする馬鹿はいないだろう。


 いや、そもそもこの国の民度が高いのかもしれない。それに普通のおっさんをごろつき扱いするのは少し自意識過剰だぞ?。

 今は美少女であるが俺もおっさんだったことがあるのだ。

 そうだった余計なことを考えるな、今は自分のキャラ設定を復習しないと。


 俺のキャラはこうだ。まず出身は、魔王城、いや対外的には【魔法都市ミスリル】だっけか。

 その名の通りミスリル鉱山があり、特産品はミスリルだ。あとは紡績も主力産業らしい。俺の着てる白いワンピ―スもここで作られた。

 すばらしいな、俺がいたころとは比べ物にならない進歩だ。


 おっといけない。ここからが重要だ。俺は魔法学院に入学するために来たのだ。

 学生という身分なら少なくとも在学期間は滞在が保証されるだろう。

 そのために試験を受けなくてはならないが俺なら問題ないだろう。

 なんせ俺は勇者だったからだ。その辺はパスできる。問題は俺が人間でないことがばれないように力をかくして潜伏すること。


 そして学生の間に魔法関係の知識、とくに自然の魔法スポットなんかの情報を得ること。さらには有力者と交友関係を持てればベストだろう。

 ……俺にできるだろうか。いや、やらなければならない。それに俺には優秀なサポートもついている。頼んだぜ、ロボさん。


 そして、列が進み。俺の番になった。

 俺は【魔法都市ミスリル】の身分証明書を門番に見せ。通行料を払おうとバッグに手を伸ばした。

 門番のおっさんは俺をなめるように見た。なるほど男の目線とはこういう物か。生まれて初めての経験だったが、おっさんよ、どこを見てるかバレバレだぞ?


「お嬢さんが一人でこんな遠くから来たのかい? どんな目的で? 親はどこにいるんだ? 家出じゃないだろうな? 親戚がここにいるのかい?」

 やはり、質問された。無言で入国は流石に無理があるか。しかし質問の数が多い。ここは打合せ通りに。


「あの……私……その……学校に入学試験で……一人です。 全寮制の魔法の学院……一人できました」

 ぶは! なんだそれは、しまった、緊張しすぎだ。不思議と手に汗がにじんでいる。


 言い訳させてくれ。俺は人生で親以外の大人と会話した経験が圧倒的にたりない。というかほとんどない。

 しかも欧米人顔のいかついおっさん相手なんて人生で初めてだ。いや勇者時代には会話したことがあったか、しかしクールキャラを気取ってたのであれは会話とは呼べなかった。

 勇者だったので勝手に忖度されて何とかなってただけだ。もちろん目上の相手とも話したことはあるが。あくまで段取りの決まった王への謁見とかそれくらいだ。

 ましてや今は男口調を封じられ。女性キャラを演じないといけない。

 つまり、頭が混乱してしまったのだ。


 門番のおっさんは身分証明書と通行料を受け取ると、まじまじと俺の顔を見ながらにこやかに。

「そうか、あたらしい魔法使いの卵か、魔法使いは国の宝だ。我が国へようこそ。だが気を付けなよ! 
 お嬢さんの国がどうかは知らないが夜に外出はしないことだ。特にお嬢さんみたいなべっぴんさんはな!」

 そうして、門番のおっさんはウインクしながら入国許可証を俺に手渡した。

 俺は一礼すると。そそくさと関所を通過して、町へ向かった。

(マスター、百点満点ですね。 心配するほどのことは無かったじゃないですか? とても可愛らしいキャラでしたよ)

「お、おう、私にまかせなさいよ」

 ち、わかって言ってるな。俺の心の動揺は彼女には分かるはずだ。同じ体なのだから。しかもちょっと笑いをこらえてる感じだったし。

 まあ、思い描いたキャラではなかったが結果往来というやつだ。薄幸のお嬢様みたいになってしまったが。

 これから学院生活で垢抜けていく感じにすれば何ら問題ない。俺っ子はもはや有り得ないが……。いや、それも今後の成長次第で有り得る。

 ギャル風の女子高生だって中学時代は普通だったはずだ。知らんけど。とにかく何事もポジティブに考えねば。
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