36 / 109
第一章
第36話 ネクロマンサー
しおりを挟むバンデル先生の屋敷は随分と山奥にあった。
近くの街まで馬車で休まず走ったとして半日はかかるだろうかという距離である。
俺たちは乗り合い馬車から降りると最短の街で情報収集をすることにした。
得られた情報によるとバンデル先生の実家は随分前に領地の統治権を譲渡しており、誰とも交流を持っていないとのことだった。
今では誰も近づかない幽霊屋敷としてうわさ話になる程らしい。
それでも数人の使用人はいたようでたまに街にやってきて買い物などをしているのは確認できたそうだ。
しかし、その使用人も最近になって暇をもらったといって次の雇用先を探すために街から出ていったそうだ。
いよいよ怪しいな。
とりあえずはこの街で一泊して翌日、早朝に出かけることにした。
「やっぱりおかしいよ。結婚したんだよね。なんで使用人をクビにしたんだろう。さすがにローゼを使用人にしようなんて思ってないだろうし」
バンデル家の敷地内に向かいながらカール氏は言った。
「さすがに二人きりになりたいからって理由でも大げさよね」
「でも僕なら少し理解できるかも。アンネとは二人きりで居たいって思うよ」
二人だけの空間で会話が盛り上がっている……少しは自重してほしいものだ。
しかし今回はカール氏に同意である。新婚で二人きりで過ごしたいという理由にしては極端すぎるだろう。
それにいくら辺境とはいえ、ここまで人を避けて暮らす必要があるだろうか。
乗り合い馬車から降りて、しばらく歩くと森の奥深くににバンデル家の邸宅が見えた。
中流貴族で辺境にあるためか敷地は結構広い。建物も最近まで使用人がいたそうなので綺麗なものである。
だが違和感がある……。
いないはずの使用人が数人いるのだ、いや、あれはアンデッド? ゾンビだ。動きに意味がなくうろうろと庭を徘徊している。
その中心にスケルトン? ローブを着ている。おそらく魔法使い系のアンデッド、スケルトンメイジというやつだろう。
そのスケルトンメイジは俺達を見つけると喋りだした。
「我が名はバンデル。エリック・バンデルである。我が屋敷に侵入する者は誰であろうと許されない」
あれはなんだ。バンデルと名乗った。
いやそれよりもマズい、言葉を話すアンデッドは高位の存在である。
それにゾンビが次々と地面から這い出てきて俺たちに向かってきたのだ。
突然の出来事に皆、硬直している。まずいな。
「止まれ!」
決して大きくはないがはっきりと響く声が邸宅の奥から聞こえてきた。
その声でアンデッドたちは動きを止め、左右に分かれるとその中心からバンデル先生が歩いてきた。
「先生! どういうことなんですか! ローゼはどこに、ローゼに合わせてください!」
「カール・グスタフソンか、君は彼女の幼馴染だったか。それに君たちとは仲が良かったな。……すまない、ローゼは死んだよ」
「うそだ! 僕たちが邪魔だからってそんなこと言わなくても、一目会いたいだけなんだ!」
カールが大声を上げている。他のみんなは彼とバンデル先生とのやり取りを黙ってみていた。
表情を見るに混乱しており何が起こっているのか理解できていない様子だ。
俺だってそうだ、事態は予想していたよりも最悪な状況だったのだ。
「嘘じゃないさ、僕は嘘が一番嫌いだ。嘘は我が一族の存在だけで充分なのだから」
たしかに先生は嘘をついたことがない。この場所だって先生本人に聞いたのだ。
「今ここを離れれば見逃してやる。それから、君たちは学院に戻らない方がいいだろう、そうだな出来ればどこか遠くの国に逃げるといい」
「ふ、ふざけるな、お前がローゼを幸せにするなら俺は大人しく身を引こうとしたんだ」
カールは我を忘れている。アンデッドの大軍がいるネクロマンサーの領域に足を踏み込むことの意味を知っているはずなのに。
「ばか、敷地内にはいるな」
バンデル先生の側にいたスケルトンメイジが再びしゃべりだす。
「我が名はバンデル。エリック・バンデルである。我が屋敷に侵入する者は誰であろうと許されない」
先ほどと同じ言葉を繰り返している、知性があるようには思えないがあれは領域に侵入すると反応するタイプのアンデッドということだろうか。
カールは怒りに任せての攻撃魔法を連続で放つ。
「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」
ファイアーボールはアンデッドに有効な魔法だ。周囲のゾンビは炎に包まれて消滅しているが、目の前のスケルトンメイジには効果がない。
カールは次の魔法の準備に入る。
「ターンアンデッド!」
驚いた。半年前には使えなかったターンアンデッドを彼は詠唱省略で使えるようになっていた。努力したのだろう。
光りがスケルトンメイジを包み込む。ターンアンデッドの光でアンデッドはそのまま消失する、はずだった。
「ボーンスピアー」
スケルトンメイジは何事もなかったかのように魔法を発動させる。肋骨のような鋭い骨が地面から飛び出しカールの胸に突き刺さった。
「ぐは! ……そんな、失敗したのか」
ドルフ君が急いでカールを救出しアンネさんは回復魔法を掛ける。
「いや、成功だ、だが格上のネクロマンサーの使役するアンデッドにその魔法は悪手だと教えたはずだぞ。我を忘れるとは魔法使いとしては失格だ。
……いや、すまない。ローゼを殺してしまったのだった、ならばお前たちにこの悲しみを味合わせるのは酷というものか。僕はまだいい人であろうなどと……
愚かだ、実に愚かだ。ふ、馬鹿馬鹿しい。愚かだな――――」
バンデル先生の様子がおかしい。何者かに話しかけるように空に向かって言葉を発している。
「いったん逃げよう、少し離れればアンデッドは追ってこないはずだ、……シルビア!」
シルビアさんは放心状態だった。俺もこの状況をある程度予想していなかったらおんなじ状態だっただろう。
彼女もバンデル先生とは一緒に図書館で何度も会話をしていたのだ。魔法についての相談なんかもしていた。
「――え? ええ、……そうね今は逃げましょう」
1
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる