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第二章

第66話 ロリBBA

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 三学期が終わり長期休暇に入る。

 シルビアさんを連れて、俺の故郷である魔法都市・ミスリルへ帰ることにした。

 馬車を使うと長期休暇のほとんどを移動で終えてしまうため、チートを使う。

「ああー、少年よ、ゲートを頼めるかい?」

『あ、異世界さん、分かりました。場所はこの前と同じでいいですか?』

 俺を異世界さんと呼ぶのはやめろと言ったが……。まあそれはいいか。

「うむ、頼むよ、それに今回はお土産がたくさんあるから期待してくれたまえ」

 そうだ、俺は上機嫌である、お土産たくさんだ。
 ドラゴンの街タートルロックで購入したドラゴングッズに加えて、旧人類の魔石がある。

 まあ、この魔石は俺のラボに運んでから解析して魔力の回収方法を模索しないといけないが。

 それにシルビアさんも卒業後は一緒に過ごすのだ。
 少年にも紹介しないとな。新しい家族になるのだし。

 うん? そういえば少年は俺の旦那さんということになる。ややこしい関係になったものだ。まあ、彼は底抜けにいい奴だから上手くいく、心配してないさ。

「ところでシルビアさんよ、その荷物はなんだい? 着替えならこちらでも準備できるからそんなに必要ないって言わなかったっけ?」

「え? これは、お兄様から頼まれたのよ、とりあえずご挨拶にって、正式な書状と地元のワインが数本よ、手ぶらだと失礼だといってたから」

 なるほど、たしかに挨拶っていうのはそういう物か、俺も見習ってシルビアさんの実家に行くときは何か持っていった方がいいか。

 俺たちは森の奥深くにあるゲートの発生場所に近づくと、魔王である少年に連絡する。

「少年、指定場所に着いたからゲートを頼むよ」

『了解です。……では、ワンドさん、お願いします――』

 少年がそういうと、目の前にゲートを魔法が発動する。

 この魔法はかなりのチートレベルである。テレポートの魔法なら魔法学院の教授クラスなら使用できるがゲートの魔法は別格である。
 テレポートは唱えた本人か魔法を掛けた対象にしか発動しないし、長距離の移動は不可能である。

 しかし、ゲートの魔法は二つの場所が繋がり双方向に移動できるため。術者が側にいなくても場所の指定ができれば移動が可能となる。

 それにゲート自体がある程度の大きさがあるため、馬車くらいの大きさの乗り物なら転送できるのである。

「聞いてはいたけど、こんな魔法があるなんて。さすがは勇者様ね」

「ああ、シルビアさんや、これは俺の魔法じゃないんだ。勇者の魔法でもこういうのはできない。いや正確には思いつかなかったよ。勇者はずっとソロだったし……」

「え? あっ……、そうなのね、じゃあ、この魔法を開発したお方に早くお会いして、教えを請わないと」

 シルビアさんには俺の全てを話してある。隠す必要がないし。喋っておかないと嘘つてる感じがして嫌だからな。

 でも、それからだろうか。たまに可哀そうな顔をして俺を見ることがある。例えば俺がボッチだったこととか……。

 まあ、それはいいさ。むしろ俺もありのままの自分で彼女と向き合うことが出来るのだ。


 さて、俺たちは目の前のゲートに向かって歩みを進める。

 シルビアさんは初めてゲートをくぐるためか、緊張している様子だ。首をすくめながら、俺のやや後をついてくる。

 普段は自信に満ちた彼女のかわいい一面を見れて俺は少し嬉しくなる。

 一瞬で森だった景色が、ダンジョンの一室に変わった。

「お久しぶりですわね。勇者様、それにその方がフィアンセでありますわね。お見知りおきを、わたくし、このダンジョンでゲートの管理をしているワンドというものですかしら」

 おっと、いきなり目の前にド派手なゴシックロリータっぽいアレンジのメイド服を着た幼女がいた。彼女はこのゲートを監視している人間、いや人間からアンデッドになった存在である。

 年齢は4000歳くらいあるそうで、いわゆるロリババアというやつだ。

「こんな小さな女の子がこの魔法を? あ、外見で人を判断するなんて……失礼しました。私はシルビア・ベルナドットと申します、こちらこそよろしくお願いします」

「ふーん、ふむふむ、失礼しちゃうかしらって言おうと思ったんだけど。即座に訂正して謝罪するなんて、見どころがあるかしら」

 うん? 俺もよく知らないが、こいつの喋り方に違和感が……。

(それは、この小娘が普段敬語で喋ったことがないからではないでしょうか。それにずっと引きこもっていますのでキャラが安定しないのかと)

 なるほどね、確かに初対面相手だとしょうがないか、それに俺も人のことは言えない。初対面の相手に対しては色々とキャラを作っていたっけ。


「私、このゲートの魔法に感動しました。できれば詳しくお話を伺いたく思います。あ、お近づきのしるしに、地元のワインです。あの、お酒は大丈夫でしたか?」

「問題ないのだわ。ワインは好きよ。それにあなたの魔法に対する姿勢も悪くないわね。さすがは可愛い後輩といったところなのかしら」

 そういえば、彼女も魔法学院の出身だっけか。今の学院ではないがその前身である学院の卒業生だったらしい。しかも成績は3位で俺と一緒だ。卒業後は王国付きの研究室で研究員として活躍したそうだ。

 しかしそこで禁忌の魔法に手を出したらしく、なんやかんやで今に至るそうだ。

 時間がなかったのでよく知らないが、今回は時間があるし詳しく聞いてみるのも悪くない。

 それにしても、俺の通ってる学院は共和国成立前からある歴史の長い由緒正しい学院ということか。

 誰も本を読まないのに蔵書の数だけはやたら多かったのはそういうことだったのか。もったいない話だ。

「さてと、ワンドさんや、少年、いや魔王様に謁見に行こうと思うんだが君も同行してくれるかい? なんと旧人類の遺産が手に入ってね、魔法の装置らしいから調べようと思ってね」

「え? なにそれ、素敵! あ、こほん、よろしいかしら。まあ、ゲートの管理も少しの間なら問題ないでしょうし、もしものことがあったら先生にお願いすればいいかしら」

 先生というのは、このダンジョンの主であるリッチというアンデッドだ。そういえば俺は一度もあったことがないが。あれか、骸骨の見た目のやつか、怖いからできれば会いたくないな。

 スケルトンくらいなら可愛いところもあるので問題ないがリッチはあれだろ? 創作物で見ると結構なこわもてだと記憶している、小さいころにタロットカードとかの死神をみてトラウマになったものだ。

(いいえ、マスター、リッチさんは結構まぬけで可愛いところがありますよ? それにワンドさんの尻にひかれてる可哀そうな方でもあります)

 ふむ、あの痛々しい格好の幼女とセットならある意味可愛いバカップルになるのかもしれないな。まあ、それはおいおい検討しておこう。今は少年にシルビアさんを紹介するのが先だ。
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