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第二章
第67話 魔王とエルフさん
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魔王は謁見の間で、勇者とそのフィアンセが来るのを待っていた。
その間、自分が生まれてから一緒に過ごしたころのことを思い出していた。
最初は小さな洞窟であったこの場所を勇者と共に開拓したこと。
途中で勇者がメイドロボットを作りそれまでの生活が一気に賑やかになったことなど。
勇者が亡くなってからは少し寂しくなったが、ロボさんがいたため何とか生きてこれた。
それからたびたび来訪者が訪れては少し賑やかになっては、また別れがあって寂しくなった。
――そういえば1000年以上一緒に過ごしたのは、ロボさんにリッチさんワンドさん、あと今はいないエルフさんくらいだっけ。
エルフさんとは結婚をしたのを思い出した。結婚ってのがよくわからなかったけど、好きな人と絆を深める儀式だということは教えてもらった。
エルフさんはたしか母親や人間達から虐待を受けてた、そこから逃げて来てここで生活をするようになったっけ。
魔王はエルフとの思い出を振り返る。
…………。
「ねぇ、あなたってほんとに穴掘りしかできないの?」
「うーん、しかってのはちょっと言い方にとげがあるけど、そうだね僕はどうやらこれしか特技がないんだ」
幼いころの魔王はダンジョン創造スキルが未熟であるため。洞窟の拡張しかできない。つまり穴掘りである。
…………。
「ねえ、あなたって名前はないのかしら?」
「うーん、僕は自分のことが分からないんだ。でもそれをいったらエルフさんの名前も知らないし」
「私はいいのよ、お尋ね者だし、でも……そうね、いつか素敵な旦那さんと出会えたら名前を教えてあげてもいいわ」
「そっか、じゃあしばらくはお預けだね、ここには滅多に人は来ないし」
「もう! 鈍感なんだから――」
…………。
「エルフさん、凄いです、氷がこんなにたくさん、これならいろんな食料の保存ができますね」
「うふふ、実は私は氷結の魔女と呼ばれてたことがあるのよ、いろいろ悩んでたけど、もう吹っ切れたから……これからは凍らせ放題よ!」
…………。
「エルフさん、僕と結婚しましょう。その結婚ってどうしたらいいかわからないけど」
「え、それは……。私だって知らないわよ! その、でも嬉しいわ」
「ところで僕はエルフさんのことはなんて呼べばいいのかな」
「今までどおりエルフさんって呼んでよ、とても嬉しいの、血統とか関係なく私をただのエルフとして見てくれるから安心するの。
それに、フリージアって名前は好きじゃない。私じゃないみたいに思えるの、とても残酷なもう一人の私を思い出すし。
たまに鑑をみると冷たい目をしたもう一人の私が問いかけてくるようで怖いの、氷結の魔女の義務を忘れたのかって。それよりあなたのことはなんと呼べばいいかしら?」
「うーん、ねぇ、ロボさん、僕はなんて呼ばれればいいと思う?」
「ふふふ、夫の呼び方はいくつかありますが、一般的には、アナタ、でいいと思いますよ。今まで通りで、うふふ、おめでとうございます」
彼女の名前はフリージアだった。一度しか名乗らなかったけど。彼女が自分の名前を嫌ってたし、名前なんてなくても僕たちはうまくやってた。
謁見の間に勇者とフィアンセの少女がやってきた。魔王はどこか彼女にエルフさんの面影を感じていた。最も人間である彼女とは外見的な特徴で異なっていたが。
あえて言えば同じ髪色のせいだろうか。
「やあ、少年、元気にしてたかい?」
「この間あったばかりじゃないですか、ところでその方が異世界さんの素敵な方ですか?」
「一年前をこの間とは、さすがは不老不死だな。おっと、紹介するよ、シルビアさんだ、近いうちにここで一緒に暮らすことになるからよろしく」
「お初にお目にかかります、その、魔王様とお呼びすればいいのでしょうか。その、なんか複雑です」
「あ、こちらこそよろしくです。呼び方は何でもいいですよ。僕も最近になって魔王だと自覚したくらいですから」
そうだ、少年には名前がないので魔王と呼ぶのが正解だが、今さら名付けるのもあれだし、特別な存在である魔王に不用意に名前を付けるというのもなんか問題が起きそうな予感がする。
まあ俺の感だが……。
しかし、シルビアさん、いや人類にとっては魔王は天敵だったはず、偏見や誤解も多いだろうと思ったが、初対面なのに割と好印象だった。
さすがは少年だ。毒気がないというか、不思議な魅力がある。これが魔王のカリスマというものだろう。
挨拶もほどほどにして俺は荷物をおろすと。
「少年に、お土産があるんだ、これドラゴンフィギアだよ、あとドラゴンローブもある。君に似合うんじゃないかい?」
「わあ、カッコいいですね。刺繍ですか? こんなに精密なの見たことないです」
「そうかしら、私としてはちょっと微妙というか……どちらかというとダサくない?」
ワンドさんの意見に賛成だ。俺も初見でそう思ったが。周りの評価が良かったので流されてしまったが、これは暴走族の特攻服である。
悔しいが俺の美的感覚はこのゴスロリ幼女と似ているところがあるのか、……まあ俺もゴスロリは好きだからな。
「あ、でもこのフィギアは素敵ね。立体化するとドラゴンってこんな格好してるんだってわかって興味は湧くわね」
ユーギ曰く、このドラゴンフィギアは割と本物に近いそうだ。文献にでも残ってたのかそれとも化石かなんかが発掘されたのか。
その辺は興味が尽きない。ワンドさんはフィギアを手に取りいろんな角度から眺めている姿はオタクそのものだった。
「さて、ここからが本題だ、これの調査をしたいから研究室を借りたいんだがいいかい?」
「旧人類が作ったっていう魔石ですか? いいですよ、というかもともとは異世界さんの研究室じゃないですか」
「異世界さん?」
「ああ、シルビアには前に言ったような気がしたけど。そう俺は異世界から転生した勇者なんだ。だから少年は俺のことを異世界さんと呼ぶんだ」
「そういえばそんなこと聞いたような。でも未だに信じられないというか。もちろん信じてるけど、理解が追い付かないっていうか」
「まあ、まあ、お二人さん、そんなことよりも旧人類の遺産を早く研究室に運びましょう。私もう待ちきれないかしら」
その間、自分が生まれてから一緒に過ごしたころのことを思い出していた。
最初は小さな洞窟であったこの場所を勇者と共に開拓したこと。
途中で勇者がメイドロボットを作りそれまでの生活が一気に賑やかになったことなど。
勇者が亡くなってからは少し寂しくなったが、ロボさんがいたため何とか生きてこれた。
それからたびたび来訪者が訪れては少し賑やかになっては、また別れがあって寂しくなった。
――そういえば1000年以上一緒に過ごしたのは、ロボさんにリッチさんワンドさん、あと今はいないエルフさんくらいだっけ。
エルフさんとは結婚をしたのを思い出した。結婚ってのがよくわからなかったけど、好きな人と絆を深める儀式だということは教えてもらった。
エルフさんはたしか母親や人間達から虐待を受けてた、そこから逃げて来てここで生活をするようになったっけ。
魔王はエルフとの思い出を振り返る。
…………。
「ねぇ、あなたってほんとに穴掘りしかできないの?」
「うーん、しかってのはちょっと言い方にとげがあるけど、そうだね僕はどうやらこれしか特技がないんだ」
幼いころの魔王はダンジョン創造スキルが未熟であるため。洞窟の拡張しかできない。つまり穴掘りである。
…………。
「ねえ、あなたって名前はないのかしら?」
「うーん、僕は自分のことが分からないんだ。でもそれをいったらエルフさんの名前も知らないし」
「私はいいのよ、お尋ね者だし、でも……そうね、いつか素敵な旦那さんと出会えたら名前を教えてあげてもいいわ」
「そっか、じゃあしばらくはお預けだね、ここには滅多に人は来ないし」
「もう! 鈍感なんだから――」
…………。
「エルフさん、凄いです、氷がこんなにたくさん、これならいろんな食料の保存ができますね」
「うふふ、実は私は氷結の魔女と呼ばれてたことがあるのよ、いろいろ悩んでたけど、もう吹っ切れたから……これからは凍らせ放題よ!」
…………。
「エルフさん、僕と結婚しましょう。その結婚ってどうしたらいいかわからないけど」
「え、それは……。私だって知らないわよ! その、でも嬉しいわ」
「ところで僕はエルフさんのことはなんて呼べばいいのかな」
「今までどおりエルフさんって呼んでよ、とても嬉しいの、血統とか関係なく私をただのエルフとして見てくれるから安心するの。
それに、フリージアって名前は好きじゃない。私じゃないみたいに思えるの、とても残酷なもう一人の私を思い出すし。
たまに鑑をみると冷たい目をしたもう一人の私が問いかけてくるようで怖いの、氷結の魔女の義務を忘れたのかって。それよりあなたのことはなんと呼べばいいかしら?」
「うーん、ねぇ、ロボさん、僕はなんて呼ばれればいいと思う?」
「ふふふ、夫の呼び方はいくつかありますが、一般的には、アナタ、でいいと思いますよ。今まで通りで、うふふ、おめでとうございます」
彼女の名前はフリージアだった。一度しか名乗らなかったけど。彼女が自分の名前を嫌ってたし、名前なんてなくても僕たちはうまくやってた。
謁見の間に勇者とフィアンセの少女がやってきた。魔王はどこか彼女にエルフさんの面影を感じていた。最も人間である彼女とは外見的な特徴で異なっていたが。
あえて言えば同じ髪色のせいだろうか。
「やあ、少年、元気にしてたかい?」
「この間あったばかりじゃないですか、ところでその方が異世界さんの素敵な方ですか?」
「一年前をこの間とは、さすがは不老不死だな。おっと、紹介するよ、シルビアさんだ、近いうちにここで一緒に暮らすことになるからよろしく」
「お初にお目にかかります、その、魔王様とお呼びすればいいのでしょうか。その、なんか複雑です」
「あ、こちらこそよろしくです。呼び方は何でもいいですよ。僕も最近になって魔王だと自覚したくらいですから」
そうだ、少年には名前がないので魔王と呼ぶのが正解だが、今さら名付けるのもあれだし、特別な存在である魔王に不用意に名前を付けるというのもなんか問題が起きそうな予感がする。
まあ俺の感だが……。
しかし、シルビアさん、いや人類にとっては魔王は天敵だったはず、偏見や誤解も多いだろうと思ったが、初対面なのに割と好印象だった。
さすがは少年だ。毒気がないというか、不思議な魅力がある。これが魔王のカリスマというものだろう。
挨拶もほどほどにして俺は荷物をおろすと。
「少年に、お土産があるんだ、これドラゴンフィギアだよ、あとドラゴンローブもある。君に似合うんじゃないかい?」
「わあ、カッコいいですね。刺繍ですか? こんなに精密なの見たことないです」
「そうかしら、私としてはちょっと微妙というか……どちらかというとダサくない?」
ワンドさんの意見に賛成だ。俺も初見でそう思ったが。周りの評価が良かったので流されてしまったが、これは暴走族の特攻服である。
悔しいが俺の美的感覚はこのゴスロリ幼女と似ているところがあるのか、……まあ俺もゴスロリは好きだからな。
「あ、でもこのフィギアは素敵ね。立体化するとドラゴンってこんな格好してるんだってわかって興味は湧くわね」
ユーギ曰く、このドラゴンフィギアは割と本物に近いそうだ。文献にでも残ってたのかそれとも化石かなんかが発掘されたのか。
その辺は興味が尽きない。ワンドさんはフィギアを手に取りいろんな角度から眺めている姿はオタクそのものだった。
「さて、ここからが本題だ、これの調査をしたいから研究室を借りたいんだがいいかい?」
「旧人類が作ったっていう魔石ですか? いいですよ、というかもともとは異世界さんの研究室じゃないですか」
「異世界さん?」
「ああ、シルビアには前に言ったような気がしたけど。そう俺は異世界から転生した勇者なんだ。だから少年は俺のことを異世界さんと呼ぶんだ」
「そういえばそんなこと聞いたような。でも未だに信じられないというか。もちろん信じてるけど、理解が追い付かないっていうか」
「まあ、まあ、お二人さん、そんなことよりも旧人類の遺産を早く研究室に運びましょう。私もう待ちきれないかしら」
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