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第二章

第76話 テキパキと

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 テキパキ、まさしくテキパキという言葉にふさわしい。このエルフ有能である。

 凄い量の書類にサインがされていく。少年は魔王というよりもアイドルのサイン会のように筆を動かすロボットと化している。
 有名作家さんのサイン会ではなく、あえてアイドルのといったのは、エルフさんの態度である。サインをもらうとキャッキャと嬉しそうなリアクションをするのだ。
 あれか、地球でいうところのジャニさんの風属性のグループみたいだった。知らんけど。

 お、さすがのエルフさんも疲れたかな、眉間にシワを寄せながら、大きな溜息をついていた。

「ハァ……魔王様、この会計報告ですが。おかしな点が数点見つかりました。さっそく監査委員会を招集しますので承認のサインをお願いします」

「さすがはエルフさん、それでおかしな点って何? その団体ってたしか、なんだっけ戦争や事故で未亡人になった女性を救う為の団体だっていってたけど」

「はい、我が国から支援金を出していますが、その使途がおかしいですし。この宗教団体に謝礼金として結構な額が流れています」

「あ、そういえばここ数年の間に、竜王教会っていってたっけ、そこに入信してる女性がほとんどだから謝礼金をとかって話だっけ」

「そうです、竜王教会、怪しいですね。教義も気になりますが。問題はその金額です。それに食費もおかしいですね。一人あたりに概算して見ましたが一食当たりがまるで貴族のようですね。
 それに、代表の方ですが、娼館の経営をしていた実績がありますね。今は息子に引き継いで引退しているようですが、無関係ともいえません。
 そんな人物が女性支援とか笑えますね。場合によっては私自ら調査したいと思います」

 おお、凄いな、この速度だからてっきりそこまで中身は見てないと思ってたけど……うむ、有能だ、ちょっと様子を見に来たが、安心した。

「魔王様、次はこの書類の確認をお願いします。重要な箇所は付箋をつけていますので、そこだけ読んでいただき、よろしければサインを」

 まさに有能な美人秘書とは彼女のことだ。
 後は眼鏡とスーツを着れば完璧だ。エルフの秘書か、ありそうで、あるかもだ。いいチョイスだろう。

 しかし、エルフを持ち上げたが魔王も決して無能ではない。普段はどこか抜けている感じがするが。むしろ優秀な部類である。
 少なくとも俺よりも政治にむいている。それでも一人では時間がかかってしまうし、優しい性格だから真剣に対応してしまう。余計に時間がかかるのだろう。

 それに、今まで側近を作らなかったのは寿命の差があるからだ、長く付き合えば別れが辛くなる。不老不死の存在の唯一の弱点である。ゆえに側に置くのは不老不死の存在で固まっていくのだ。
 ……ちなみに、ワンドさんとリッチさんは魔法馬鹿なので政治は全くできない。

 そういえば俺は少し前にエルフさんに、氷結の魔女といわれる魔法使いが秘書みたいな仕事でいいのか? と聞いたことがあった。お節介かもしれないけど。

 けど、逆に軽蔑の目で見られたのは意外だった。曰く、魔女が表舞台で、政治の世界で花開くのがいけないのか、能力が有ればどんな仕事でも活躍できる、魔女が引きこもり? 冗談じゃない。
 それは前時代的だ、などなど。
 これには失礼したと素直に謝った。
 確かに、不気味な鍋料理を作るのが魔女の仕事ではない。前時代なイメージを持った俺が悪い。

 でも聞きたかったのはそこではない。
 俺は結婚したからっていって旦那の、つまり魔王の部下として側近になっているのに違和感がないのか? という、好奇心というか、なんというか、効きにくい質問だったけど後学の為に聞いたのだった。

 そしたら、彼女はあっけらかんとして、というか呆れた目を向ける。
 そして、俺にいった。「ハァ? ……いや、失礼しました、勇者さまは魔王様の後見人でいらっしゃいましたね。ですが失礼な質問ですよ。だから一言だけ答えましょう。
 こほん、……夢が叶いました。幼い時の夢です。私の夢は魔王様の側近になり、あわよくばお嫁さんになりたいと、そのために頑張ってきたのです。
 それは、まあ、最初は魔王様が嫌な男で……好みじゃなかったら考えが変わったかもしれませんけど……ほら、思ってた以上に素敵というかかっこいいし、少年みたいに可愛いし、優しいし、その……やだもう」

 そんなやりとりがあった、うむ、幸せならよかった。


「はい、フリージア。これで今日の分は終わり? 本当に凄いや、三倍仕事が速くなったよ。ありがとう」

「いえ、そんな、私はやるべきことをやってるだけですわ。えっと、えへへ。 ……あ、最後にまだこちらの資料が残ってますね、地下のダンジョンの崩落に関して――」

「あ、そういえばリッチさんのダンジョンの最下層の工事が難航しているようですね」

 ダンジョンの最下層で崩落事故が起きていたようだ。

「はい、それに関して人員の派遣を検討してるのですが、危険がともないますので。どうしたものかと……」

「あ、ならせっかくですから僕が直接向かいましょうか? 仕事はだいぶ楽になりましたし。久しぶりにダンジョン工事と行きましょうか」

「魔王様自らそんな土木作業なんて……魔王様の仕事ではありません」

「そうかな、楽しいよ? エルフさんも一緒にどう? 案内したいし、嫌ならしょうがないけど……」

「はい! 地の底でもどこでも、このフリージアお供します!」
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