転生オトメ恋世界

夢見月まひわ

文字の大きさ
44 / 49
二章

44 大切な人④

しおりを挟む
 母様に会えない日々が過ぎ去り、五年が経過した。
 その頃からだったろうか。
 町民の間で実しやかに囁かれるようになったとある噂話が城内にまで伝わってしまったのは。
 その噂の内容とは。

『第一王子エーデルトラウトは娼婦の子である』というものだった。

 ◇

「ーーーーーなんと不敬な、、、ッ!!?」

 そう声を荒げたのは当時私の侍従を任されていた王宮魔導士テオドール=ファラーだ。

「落ち着け、テオ。噂は噂だ。どうせ私の存在を快く思わない者たちが流したものだろう。いちいちそれら全てに目くじらを立てていてはラチがない」
「そ、そうは仰られましても、、、!!?」
「そのような噂、母様が見つかりさえすればどうとでもなる。母様の実力を知れば、母様を侮辱する輩は現れなくなるだろう」
「、、、いつも殿下からお聞きしておりますが、実際シェルシア様のお力とはどれ程のものなのでしょう?」
「母様の実力か、、、はっきり言えば私も知らない。だが母様は強くて素晴らしい人だ。私はそう信じている」
「殿下がそう仰るのなら、、、、、」

 母様の実力を私は知らない。
 それどころか私は母様が魔法を使っているところさえ見た事はなかった。
 だが母様から聞かされていた話や父上ことラウグス王国国王がその実力を認めているのだ。そこら辺の生半可な魔導士など太刀打ちできるはずがない。
 私はそう信じている。



 かような噂が流れ始めてから更に数ヶ月後。
 シェルシア母様の行方を追っていた王国の暗部より、このような朗報が私の耳に届いた。

『シェルシア妃と思しきお方を発見した。至急、実息であらせられる殿下に確認願いたい』

 、、、、、これで何度目だろうか。

 このような報せは初めてじゃない。
 なぜなら幼き頃の私が述べた母様の特徴と、私を産む以前の父上が知る母様の特徴をもとに捜査を行っているため、母様人物を見かける度に、このような報せが入ってくるからだ。
 その中には王族がシェルシア妃の行方を追っている事を知りならがら王族に取り入るためと、偽物を用意するような連中さえいる始末だ。
 だから私は期待などしない。
 その目で、その手で、その記憶をもって母様を見つけ出すまでは。

 しかし、今回の報せを機に、私はそれら全てを疑ってしまう事になった。

「、、、母様?」

 本能が告げる。その者が母様であると。
 しかし、理性が拒む。この者が母様であるはずがないと。

 六年の歳月は恐ろしく長い。
 私の人生は既に母様と過ごせなかった日々の方が長くなっていた。

 だからこれは迷いであり、己の弱さなのだと。

 母様を求めるあまりに私は錯覚に陥っているのだと。



 私は廃人と呼んで差し支えのない、美しさとは無縁、強さとは対極の者の末路の果てを見ていた。

「違う、、、母様、、、違う、、、だって私の母様は清く、美しく、そして、、、、、」

 母様の言葉が、記憶が、その存在すべてが偽りであったのかもしれない。
 そう思えたならどれほど良かっただろうか。そうして、また母様探しを続けられていたら、私は救われたのだろうか、、、、、なんて、、、私はもう二度と母様を一人にはさせません。

「ーーーーー母様。遅くなり申し訳ありません。あなたの息子、エーデルトラウトが今お迎えに上がりました」

 そうして噂はまこととなって広まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...