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栄光への挑戦
ビビッドな愛をくれ
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ー―ー俺って確か、リアムのことを白いトラさん呼ばわりしたっけ。俺を女扱いしたリアムにブチ切れて、腹立ちまぎれに、メスのトラを相手にしろと、中指を立てながら啖呵を切ったよな―ー―
「俺、大物プロデューサーに何てことを……」
『どうかされましたか? 顔色が悪いですよ』
「いえ、何でもありません」と首を振った途端に、その夜のことがフラッシュバックした。
リアムの逞しい腕に抱かれて、気絶するほどの快感を教えられ、耳元で囁かれた言葉まで蘇る。
ー―ー『La petite mort. 小さな死だ』―ー―
「俺、何てことを……」
悶絶しそうになりながら、優吾は正気を保つために、今度は赤く染まった頬をパンパンと両手で叩いた。
『本当にヘンリーのことを知らなかったんですか?』
呆れたように尋ねるジョンに返事をしようとしたとき、通り抜けの通路のリノリウムの床をコツ、コツと鳴らしながら、近づいて来る足音が聞こえた。
一瞬律かと思ったが、とうに逃げ終えたであろう律が、店長がいるのを知りながら優吾のところに戻ってくるはずがない。それを裏付けたのは、通路に響く音。靴音の間隔が長いのは、脚が長く歩幅が広い証拠だ。律よりも背が高いであろう人物。それは……
『ああ、来ましたよ』
ジョンが、優吾の後方を見てにっこり笑う。
まるでスローモーションのように感じる瞬間。すぐ後ろで足音がピタリと止まった。
「ユーゴ。探したぞ」
振り向いた優吾の目に、プラチナが縞模様をつくるサンディブロンドの髪が飛び込んできた。
ペールブルーの瞳が細められ、形のいい唇の両端がクイッと上がる。コートを片手に引っかけて立つ姿がかっこよすぎて、優吾が見惚れていると、リアムの両腕がさっと左右に開かれた。
迷わずに優吾はその腕の中に飛び込んでいった。
視界の隅に、店長の驚いた顔を捉えたが、今はリアムに会えたことが嬉しくて、他人がどう思うかなんて関係なかった。カシミアのセーター越しにリアムの鍛えられた身体を感じて、本物だと胸が熱くなる。懐かしいコロンを胸いっぱいに吸い込みながら、じゃれるように頭をリアムの肩口に擦りつけた。
「リアム、本当に、本物のリアムだ。ヘンリーってなんだよ。リアムって名前は芸名だったのか?」
「本名だよ。フランスだとhを発音しないからヘンリーはアンリになるんだ。それがしっくりこなくて、フランスにいたときは、ミドルネームのリアムを名乗っていたんだよ。それより、どうして日本に戻ったんだ? 待っていろと言ったろ」
「だってライブが終わったときに、観客は全員オーウェン推しだったじゃないか。その時は映画の主題歌だって知らなかったけれど、全世界に名を馳せたバンドボーカルが歌ったほうが話題性があるし、聞く人たちも喜ぶと思ったんだ」
「話題性はあった方がいいかもしれないが、アニメがメインだから、新人ボーカルでも構わないんだ。それにオーウェンも、自分の歌い方では、ユーゴのためにアレンジしたRaging Dark Angelを歌いこなせないと分かったみたいだ。ジョンにはオーウェンの方から、挿入歌はユーゴの方が適任だと断っていたよ。オーウェンには、別のオリジナル曲を一曲プレゼントすることにした。だからユーゴはもうオーウェンのことは気にしなくていい。オーウェンからは、ユーゴへの謝罪と歌を楽しみにしていると言付かった。それなのに、伝えようとしたら、ユーゴが消えてしまってどんなに焦ったか」
「ごめん。リアム。心配かけて。でも、どうやって俺を探したの? 住所やバンド名をしゃべったっけ?」
「最初は日本の大学に一軒ずつ電話をかけて、ユーゴのことを訊ねたんだが、個人情報は教えられないと断られてしまった。それで、リツというギタリスとユーゴ・タニザキというボーカルがいるバンドを検索したら、ラッキーなことにヒットした。所属が楽器店だということが分かったから、ジョンにあたってもらううちに、ユーゴが楽器メーカー主催のコンテストに出るという情報が入ったんだ。そこまでは順調だったんだがな……」
リアムが不満そうに、ジョンの方を見る。日本語をどれだけ理解しているのか分からないが、ジョンは申し訳なさそうに、肩を竦めた。
「俺が喜び勇んでユーゴに連絡を取ろうとしたのを、ジョンに止められたんだ。ユーゴが一人で歌うのを聞いてから、ボーカルの件を決めたかったんだと」
「まぁ、それはそうだろうね。俺は無名だし、前回はオーウェンのバックボーカルとしての印象が強かったと思うから」
「おかげで、今日までコンタクトを取るのを必死で我慢した。そのかいあって、今日は素晴らしいユーゴの歌を聞けたよ。おめでとう! ユーゴ。お前の歌は最高だ! 改めて映画の挿入歌をユーゴに頼むよ」
「俺、何て言ったらいいのか‥‥‥リアム、夢みたいだ。ありがとう」
リアムにしっかりと抱きしめられ、感動が一気に胸を突きあげ、全身に伝播する。
「会いたかった。リアムが恋しくて、歌に思いを込めて歌ったよ」
「ああ。伝わった。ステージに上がって連れ去りたいくらいの衝撃だったよ」
優吾は胸に幸せが込み上げてくるのを感じ、涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。
リアムに促されるまま、優吾はジョンには後日契約することを約束して、店長に世話になった礼を言うと、リアムと二人でコンテスト会場を後にした。
「俺、大物プロデューサーに何てことを……」
『どうかされましたか? 顔色が悪いですよ』
「いえ、何でもありません」と首を振った途端に、その夜のことがフラッシュバックした。
リアムの逞しい腕に抱かれて、気絶するほどの快感を教えられ、耳元で囁かれた言葉まで蘇る。
ー―ー『La petite mort. 小さな死だ』―ー―
「俺、何てことを……」
悶絶しそうになりながら、優吾は正気を保つために、今度は赤く染まった頬をパンパンと両手で叩いた。
『本当にヘンリーのことを知らなかったんですか?』
呆れたように尋ねるジョンに返事をしようとしたとき、通り抜けの通路のリノリウムの床をコツ、コツと鳴らしながら、近づいて来る足音が聞こえた。
一瞬律かと思ったが、とうに逃げ終えたであろう律が、店長がいるのを知りながら優吾のところに戻ってくるはずがない。それを裏付けたのは、通路に響く音。靴音の間隔が長いのは、脚が長く歩幅が広い証拠だ。律よりも背が高いであろう人物。それは……
『ああ、来ましたよ』
ジョンが、優吾の後方を見てにっこり笑う。
まるでスローモーションのように感じる瞬間。すぐ後ろで足音がピタリと止まった。
「ユーゴ。探したぞ」
振り向いた優吾の目に、プラチナが縞模様をつくるサンディブロンドの髪が飛び込んできた。
ペールブルーの瞳が細められ、形のいい唇の両端がクイッと上がる。コートを片手に引っかけて立つ姿がかっこよすぎて、優吾が見惚れていると、リアムの両腕がさっと左右に開かれた。
迷わずに優吾はその腕の中に飛び込んでいった。
視界の隅に、店長の驚いた顔を捉えたが、今はリアムに会えたことが嬉しくて、他人がどう思うかなんて関係なかった。カシミアのセーター越しにリアムの鍛えられた身体を感じて、本物だと胸が熱くなる。懐かしいコロンを胸いっぱいに吸い込みながら、じゃれるように頭をリアムの肩口に擦りつけた。
「リアム、本当に、本物のリアムだ。ヘンリーってなんだよ。リアムって名前は芸名だったのか?」
「本名だよ。フランスだとhを発音しないからヘンリーはアンリになるんだ。それがしっくりこなくて、フランスにいたときは、ミドルネームのリアムを名乗っていたんだよ。それより、どうして日本に戻ったんだ? 待っていろと言ったろ」
「だってライブが終わったときに、観客は全員オーウェン推しだったじゃないか。その時は映画の主題歌だって知らなかったけれど、全世界に名を馳せたバンドボーカルが歌ったほうが話題性があるし、聞く人たちも喜ぶと思ったんだ」
「話題性はあった方がいいかもしれないが、アニメがメインだから、新人ボーカルでも構わないんだ。それにオーウェンも、自分の歌い方では、ユーゴのためにアレンジしたRaging Dark Angelを歌いこなせないと分かったみたいだ。ジョンにはオーウェンの方から、挿入歌はユーゴの方が適任だと断っていたよ。オーウェンには、別のオリジナル曲を一曲プレゼントすることにした。だからユーゴはもうオーウェンのことは気にしなくていい。オーウェンからは、ユーゴへの謝罪と歌を楽しみにしていると言付かった。それなのに、伝えようとしたら、ユーゴが消えてしまってどんなに焦ったか」
「ごめん。リアム。心配かけて。でも、どうやって俺を探したの? 住所やバンド名をしゃべったっけ?」
「最初は日本の大学に一軒ずつ電話をかけて、ユーゴのことを訊ねたんだが、個人情報は教えられないと断られてしまった。それで、リツというギタリスとユーゴ・タニザキというボーカルがいるバンドを検索したら、ラッキーなことにヒットした。所属が楽器店だということが分かったから、ジョンにあたってもらううちに、ユーゴが楽器メーカー主催のコンテストに出るという情報が入ったんだ。そこまでは順調だったんだがな……」
リアムが不満そうに、ジョンの方を見る。日本語をどれだけ理解しているのか分からないが、ジョンは申し訳なさそうに、肩を竦めた。
「俺が喜び勇んでユーゴに連絡を取ろうとしたのを、ジョンに止められたんだ。ユーゴが一人で歌うのを聞いてから、ボーカルの件を決めたかったんだと」
「まぁ、それはそうだろうね。俺は無名だし、前回はオーウェンのバックボーカルとしての印象が強かったと思うから」
「おかげで、今日までコンタクトを取るのを必死で我慢した。そのかいあって、今日は素晴らしいユーゴの歌を聞けたよ。おめでとう! ユーゴ。お前の歌は最高だ! 改めて映画の挿入歌をユーゴに頼むよ」
「俺、何て言ったらいいのか‥‥‥リアム、夢みたいだ。ありがとう」
リアムにしっかりと抱きしめられ、感動が一気に胸を突きあげ、全身に伝播する。
「会いたかった。リアムが恋しくて、歌に思いを込めて歌ったよ」
「ああ。伝わった。ステージに上がって連れ去りたいくらいの衝撃だったよ」
優吾は胸に幸せが込み上げてくるのを感じ、涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。
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