ペットサロン「王様の耳」へようこそ

マスカレード 

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怪しい教祖

ペットサロン「王様の耳」へようこそ!

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 玲香が[王様の耳]にやって来たのは、2日後の金曜日で、ペットサロンに着くなり、興味深い話を尚季に話し始めた。

「神社の氏子に、女性介護士の伊藤さんって方がいるんだけど、訪問介護先の70代の奥さんが光導の信者らしいのよ。脚が悪いから、買い物や光導への送迎をしていてね・・・・・・」

 足が悪いおばあさんは、田中正子と言う名前で、老猫を飼っている。光導に行く時はその猫を連れていくのだが、じっとしていないので、介護の伊藤さんも光導の集会に付き添っていくらしい。

 一人身の田中さんは話すことと言ったら、ほとんどが老猫の体調のことばかりなのだが、信者を導くはずの教祖の答えは、猫の身体に悪いことばかりを指示する。

 さすがに心配になった伊藤さんが、あの教祖はおかしいのではないかと田中さんに問いかけると、普段は穏やかなおばあさんが激昂したので驚いたと玲香の父に話しているのを、玲香は聞いてしまったのだ。

 尚季から電話をもらった後、玲香は伊藤さんに電話をかけ、様子を探りに行きたいので、伊藤さんからの紹介ということにしてもらってもよいかと尋ねると、田中さんの身を案じていた伊藤さんは、心良く承諾してくれた。


「伊藤さんは、ただの仕事で介護をしているんじゃなくて、本当に心が優しい人なんだな。でもさ、玲香と伊藤さんの繋がりはどうする? さすがに玲香が神社の神主の娘で、自分も勤めてお祓いをしているなんて言えないだろ? 」

「警戒されちゃまずいものね。じゃあ、祖母の介護をしている伊藤さんと仲良くなって、光導を勧められたことにすればいいわ。私と尚季くんは大学生でどう?」

「オッケー! 話がまとまったところで、さっそく行こうぜ」

 尚季の声に玲香もソファーから立ち上がり、[王様の耳]からバスで20分ほど行った雑木林の中に建つ光導へと出発した。

 雑木林に入る石畳の両側に建つ石門の前で、尚季と玲香は石門の上にある不可思議な生き物の石像を見て眉をしかめた。

「なんだこれ?顔が狐で、耳がたぬき、身体がとかげで、尻尾が猫?って感じで、ミックスされた想像上のキモキモ生物だな」

 尚季の声の嫌そうな声を聞いて、中折れ帽を少し持ち上げ、ちびすけが顔を覗かせ、キモキモ生物を見る。途端に、ギャッと鳴いて帽子の中に引っ込んでしまった。


「なおたん、怖いキュル。おうちに帰るキュルル」

「いや、ここまで来て、気持ち悪いからって逃げ帰るのも何だろう? 玲香行くぞ! 」

「いいわよ! でも、危ないと思ったら、ダッシュするからね」

 二人と一羽は石門をくぐり、鬱蒼とした木に囲まれた石畳を奥へ奥へと進んで行った。デデ~~ンと目の前に現れたのは、朱塗りの円柱と白い壁、緑の瓦を載せた平安神宮の應天門のような建物だった。

「派手~~~~! 」

「威圧感半端ないわ! 」

 尚季と玲香が建物を見上げ、唖然としていると、突然建物の扉がスライドして、中から白装束を着た、女性が現れた。

「どちら様ですか? ここは光導の本殿ですが、ご見学でいらっしゃいますか? 」

「そ、そうです。えっと、ここに通っている介護士の伊藤さんからの紹介で、の教祖さまの教えに興味を持ったので、一度見学できたらと思ったのですが、よろしいでしょうか? 」

 白装束の中年女性は、現れた時と同じように、扉をそっと閉めて姿を消したが、すぐに戻ってきて、尚季と玲香を扉の中に招き入れた。

 広い玄関土間の正面には大きく光導と墨で書かれた掛け軸がかかっていて、その両側には何焼きかは分からないが、高そうな大壺に枝や花が生けられている。

 尚季と玲香は偵察に来たことがばれませんようにとどきどきしながら、上がりかまちに並べられたスリッパに足を入れ、掛け軸の前を右に折れて、磨き上げられた木の廊下を女性の後ろからついて行った。

 廊下を中ほどまで進み、左側にあるふすまの扉の前で、白装束の女性が声をかけると、中から低く地を這う様な声が入れと命ずる。

 尚季と玲香は不安気に顔を見合わせたが、二人の前で襖がスッと引かれて、目の前に畳みの大広間が現れた。

 その一番奥には、一段高くなった板間があり、その上に天皇の即位式に使われるような、仰々しい高御座たかみくらが置いてある。その空間を埋めるような巨体と、それに見合う大きな顔にある切れ長の目から、尚季と玲香に鋭い眼光が放たれた。

 一瞬、尚季の身体が金縛りにあったように動かなくなり、背筋がぞっと粟立って、息をするのもままならなくなった。

 尚季が身体にまとわりつく悪気を跳ね返すように力を込めると、何とか束縛が解け、動けるようになる。すぐに、横にいる玲香を見ると、青ざめた顔で教祖を注視している玲香の身体が、小刻みに震えているのが分かった。

「玲香、大丈夫か? 」

「何あれ? 人間じゃないものが取りついているわ」

「何だって? 」

 尚季が教祖の顔に視線を戻すと、ちびすけの震えに伴って、中折れ帽がカタカタと揺れだした。尚季が、慌てて頭に手をやると、それまで二人をじっと睨んでいた教祖が、口を開いた。
 
「お前、帽子に何を隠している? そしてその女は何者だ? 私の姿が見えるようだな? 」

 これはやばいと判断した尚季と玲香が、横眼で合図を送り合い、身を翻して入ってきた襖へと駆けだす。
 ところが、襖の前には、先ほどの女性だけでなく、白装束を身に付けた二人の男性が陣取っていて、逃げられないように両手を開いて出口を塞いでいた。

 尚季が振り返って周囲を見渡すが、左右は壁で他に出口はない。
 諦めかけた時、教祖が座る高御座を飾る布の後ろに、隠れるように木の引き戸があるのを見つけた。

 後ろは男二人に、女が一人だから、突破は難しいだろう。
 だが、前は一人でも、教祖は相撲取りか、レスラー並みの身体のでかさだ。 尚季一人ならまだしも、玲香を連れて逃げるのは不可能に思われた。
 どうすればいい? と尚季が必死で考えているのを、地の底から湧くような教祖の低い声が中断した。

「そこの草食男。大人しく従えば乱暴はしない。帽子を取って中身を見せよ」

「はぁ~? 草食男って何だよ! それを言うなら草食系男子だろ。でも、俺の中身は肉食だぞ。柔道に合気道、剣道にもろもろの武道を身に付けているから、お前なんて一たまりもなくやっつけられるぞ。怪我しないうちに、信者だか何だかしらないが、あの3人をどかせろよ」

「尚季くん、後ろ! 」

 玲香が叫んだ時には、後ろから近付いた男性信者に尚季の中折れ帽は取られていた。途端に、ぴよ~~んと飛び出したうさ耳を抑え、しまったと尚季は思ったが、反応したのは、ただ一人、ふてぶてしく高御座にふんぞり返る教祖だけだった。

「うさぎの耳か。やっぱり、草食男じゃないか。どうせ、剣道だとか合気道だとかいうのは、はったりだろう。それに、そのうさ耳に隠れているヒナは何だ? 」

 教祖の問いかけに、信者たちが尚季の頭をじっと見るが、どうやら彼らにはうさぎの耳も鳥のヒナも見えないらしい。顔を見合わせて見えるかどうかか聞き合い、3人が同時に首を振る。尚季はその様子を見て、心の中でしめしめと思った。

「あんた頭がおかしいんじゃないか? 人間にうさぎの耳なんて生えてるわけないじゃん。それと、ヒナって何? 鳥の声なんて聞こえないけど、それって、信者たちに自分だけは見えるって騙して、操ろうとしているわけか? 」

 教祖を侮辱されたら、信者は怒るはずだが、尚季の言葉が信者の信仰を揺らがせたのか、俯き加減で信者同志の様子を窺うものの、誰も何も言わない。すると、ちびすけがうさ耳にそっと囁いた。

「れいたん、伝えてきた。もっと言えゆってる。怒らせると、ほんしょう出るキュルル」

 尚季は指でオッケーマークを作ると、教祖を挑発し始めた。

「なぁ、俺さ、こう見えても獣医の免許を持ってるんだよな。あんたがここで、でたらめな神託を授けたことを人づてに聞いたんだけど、あんたと同じような体型の犬の飼い主に、もっと好きなだけ食べさせていいって言ったんだって? 俺がダイエットしないと病気になるとペットに運動を勧めたら、ペットの意に沿わない運動は、動物虐待だって止めたらしいじゃん。それって、ペットが早死にするって分かってて言ったのか? 」

 一方的にまくしたてる尚季の言葉に、教祖の顔が怒りで赤くなり、ぶるぶると震えて、座っているイスがギシギシと音を立てた。
 教祖が高御座から立ち上がり、ゆであがったような顔を尚季に向け、板の間の段を降りて来る。
 口からはこの世のものとは思えない地を揺るがすような低い唸りが漏れている。教祖が着物の袖を広げ、両手を顔の前でクロスさせ、すぐにその手を横に開く。

「見ちゃダメ! 目を塞いで! 」

 玲香の叫びに、ちびすが尚季の鼻に飛び降り、羽を広げて尚季の目を覆った。

 ちびすけの羽の隙間から、横眼で信者を見ると、目を見開いたまま突っ立って、教祖の眼光の術を受けてしまっていた。
 低いと思っていた教祖の声が分裂して、幾重にも重なった声に代わり、言うことを聞くのだと命令をする。疑いを持ち始めていた信者は魂が抜けたように、教祖の言葉に素直に頷いた。

「信者たちよ、その男と女を捉えよ」

 教祖が命令を下した途端、信者3人が尚季と玲香に襲い掛かってくる。
 ただ、操られているせいか、今一つ動きが鈍いので、両手を上げて掴みかかろうとした男性信者の下をかいくぐり、後ろに回った尚季が背中を思いっきり押すと、押された男性信者が、他の信者に倒れ掛かって共倒しになった。

 じたばたもがいている男性信者を後目に、玲香を案じて横を向くと、玲香は何やら呪文を唱えながら、女性信者の前で縦横無人に手刀を切っている。 
 緩やかなウェーブを描くように、上から下へと垂直に立てた手で波線を辿った後、斜め上から下へ刀を振り下ろすようにする。それは舞いのようにだんだん速くなり、「はっ!」という掛け声とともに、揃えた人差し指と中指で女性信者の額を指した。

 すると、女性信者は口から泡を吹き、畳の上へと崩れ落ちる。玲香が身体を支えて、頭を保護しながら、女性信者を寝かせると、頭の上から分裂した教祖の声が降ってきた。

『お前は何者だ? なぜそんな術を使う? 』

「私は除霊をするお祓い師なのよ。今から、あなたに憑いているものを祓ってあげるわ」

 玲香が祓いの舞いを始めると、教祖の背中の影がはっきりと模られ、それは沢山の動物の影へと分裂していく。形がはっきり見えだした時、幾重にも重なった声がそれぞれ違う言葉を発することを、尚季には聞き取れるようになった。

 頭を抑えながら、大きな身体でもがいていた教祖が、力を振り絞って畳を蹴り、玲香の元へと突進する。夢中で舞っていた玲香は逃げ遅れ、教祖の伸ばした手に捕らえられた。

「玲香を放せ!」

 尚季が教祖の腕を掴み、玲香から引き剥がそうとするが、その巨体はびくともしない。玲香を腕に抱えたまま、腕でなぎ払われ、尚季は畳に尻もちをついた。

 教祖の脚が畳みに転がった尚季を踏みつけようとしたとき、ちびすけが尚季の頭から飛んで、教祖の脚を突っつく。
 教祖は片足で立っていたので、バランスを崩し、玲香ともども、ドシンと横へ倒れた。

 幸いにも玲香は下敷きにならずに済み、畳に手をついた教祖の隙を狙って、教祖の後ろに回り込み、続きの呪文と祓いの舞いを始めた。

『呪文をとめろ~~。われわれを引き剥がすな』

 どのくらいの声が重なっているのか分からないほどの重低音が部屋中に跳ね返って、障子や木戸、高御座をガタガタ揺らす。
 何度も繰り返される咆哮は、尚季の頭の中でもぶつかり合い、尚季は思わず自分の耳を押させたが、叫びは止まない。
 うさみみに手を伸ばすとそれに包まっていたちびすけが、尚季の意向を察し手に飛び乗り、うさ耳を塞ぐのを妨げないようにした。

 重低音が止んだので、尚季が周囲を見回すと、女性信者は気絶したままだが、男性信者二人が、先ほどの尚季と同じように耳を塞いで首を振って、音から逃れようとしているのが目に入った。術をかけられた信者たちには、あの教祖に取り憑いた物の怪の声が聞こえるらしい。

 玲香に視線を戻すと、沢山の霊を相手に苦戦しているらしく、額に汗がにじんでいる。教祖はもがきながら起き上がり、玲香の舞いを止めようと、足元に這いつくばっていく。

 ちびすけが、うさ耳を押さえた尚季の手から首を伸ばし、うさ耳と手の隙間にくちばしを突っ込んで、キュルキュルと鳴いた。

「なおたん。どうぶつの声きいてあげてキュル。みんな苦しい言うキュルル」

「苦しんでるって言っても、あいつから引き剥がして成仏させないと、あいつを操っている霊達が、他のペットを死に追いやるんじゃないか? 」

「きょうそから、いなくなっても、誰かにつくキュル。ばらばらにするの危ないキュルル」

「分かった。玲香だけに大変な思いをさせたくないから、俺も手伝うよ」

 尚季が、うさ耳から手を離すと、それまでとは異なる声がちらほら耳に入ってきた。
 尚季は真剣にそれらの声を聞こうとして、神経を集中させる。

『捨てられた~。ずっと待ってるのに、ご主人さまが迎えに来ない』

『新しい子猫に夢中のご主人さまは、私を忘れてしまった。構ってもくれない』

『ご主人は年よりで、もう僕のことを面倒見れないと言って、保健所に連れてったんだ』

『寂しい。寂しい。ご主人さまに構ってほしい。寂しいよ~~~』

 何と言う寂寥感だろう。尚季は動物霊たちの声に胸をつかれ、涙を流した。
「おい、動物霊たち」
 尚季が話しかけると、這いつくばっていた教祖がぴくりとして尚季を振り返った。
 畳みに移った沢山の動物の影も、尚季を振り返ったのが見て取れる。

「寂しいから、生きているペットを仲間に引き込もうとしているのか? 」

『違う。ペットを亡くせば、飼い主は悲しくて寂しがる』

『教祖が慰めれば、飼い主は教祖を信頼して離れなくなるでしょ』

『もう、僕たちは捨てられなくて済むんだ』

 飼い主を恋しがるあまり、生きている仲間を犠牲にしても、飼い主の愛情を手に入れようとする動物霊たちは哀れだが、このまま犠牲動物を出すのはまずいと尚季は思った。
 教祖に傾倒している飼い主たちは、自分の頭で考えてペットに対処しているのではなく、操られているのだから、いつか正気に戻った時、ペットに行った誤った対処に、教祖ばかりか、自分自身を責めて負の連鎖が広がるだろう。

 その時に、また引き寄せられた物の怪が、悪さをしないとは限らない。
 どうすればペットたちの心をなだめられるのだろう。尚季はそれを直接動物霊たちに聞くことにした。

「お前たちが、仲間のペットを死に追いやって手に入れた飼い主は、お前たちが会いたがっている本当の飼い主じゃないんだぞ。もし、ペットを亡くした悲しみで操ろうとしている飼い主が本当のことを知ったら、お前たちを思うどころか、憎しみの目を向けるかもしれない。そうなったらお前たちはどうなる?」

『いやだ~。憎まれるのはいやだ~』

『もう一度かわいがって欲しいだけなの』

 分かったと尚季は頷くと、尚季が動物霊と話し始めてから、お祓いを中断していた玲香に動物霊たちの言い分を放し始めた。


 動物霊たちは、理解しようとしてくれる尚季には語りかけるが、消し去ろうとする玲香には頑なに身を守って、何も伝えようとしないらしい。
 尚季が一通り話終わると、玲香は悲しそうな表情で教祖の肩辺りを見て、そっと動物霊たちに語りかけた。

「そうだったの。それは辛い思いをしたのね。でも、だからと言って、他の動物を苦しめたり、人間を悲しませたりしちゃいけないわ」

「あいつらは、寂しいって鳴いてるんだ。飼い主に愛されたいって・・・・・・。あっ、そうだ、玲香はあいつらの飼い主を呼び出せないのか? 」

 玲香ははぁ?と言いながら首を突き出して、尚季が本気かどうか探ると、がくっと項垂れて溜息をつく。

「あのね、私はイタコじゃないんだから、召喚はできないの」

「じゃあ、どうしたらあいつらの気持ちを和らげてやれるんだ? このままじゃ、払っても成仏しないんだろ? 」

 尚季が悩んでいる間も、動物霊たちが、飼い主に会いたいよ~と鳴いているので、考えがまとまらない。もともと深く考えむのが苦手で、先に行動が出る尚季は、この時も考えも無しに言葉が口をついた。

「そうだ! あいつらを連れて、飼い主に会いに行こうぜ! 」

「なおたん、死んじゃった飼い主もいるキュル。どうやって会うキュルル? 」

「う~ん、とりあえず行ってみて、近所に飼い主のことを聞くのがいいのかなって・・・・・・。あいつらの思い込みと飼い主の気持ちが違っている場合があるだろ? それが分かるだけでも、あいつらは救われるんじゃないかなって思うんだ」

 玲香もちびすけも、尚季の案がいいのかどうか、あれこれ考えてみたが、もし、動物霊たちの言う通り、不当な扱いを受けていたことが分かっても、状況が今と変わらないのなら、一匹でも思い違いだと分かって、幸せな気持ちで成仏させた方がいいという結論に達した。

「でさ、この大きな教祖ごと連れて行くのか? こんなの連れて行ったら、生きている飼い主だって気圧されて、話すどころか胡散臭がって家の中に引っ込んじまうんじゃないか?」

「う~ん、確かに。隠れてついてきなさいと言ったって、この巨漢じゃ目立ち過ぎるわね」

「なおたん、いい考えがあるキュルル。なおたんに動物霊たんたちが乗り移ればいいキュル」

「あっ? お前、何言ってるんだ? そんな恐ろしいこと、どうやってやるんだ。玲香が祓ったら、あいつらバラバラに飛んでいくかもしれないんだぞ。 もう一度同じ奴らを一か所に集められるのか?」

 尚季は自分の肩に、動物霊が憑りつくことを考えた途端、まだ憑いてもいないのに、背中がぞっとして、鳥肌が立つのを感じた。ちびすけのアイディアを却下しようと、早口でお祓い後のことをまくしたてる。

「なおたん、お祓いしなくていいキュルル。僕も霊だから、呼べばみんなこっちへ来るキュル」

「うっ・・・・・・」

 尚季が二の句を告げず固まってしまったのを見て、玲香が必死で笑いをかみ殺している。今まで霊に無関心で感じもしなかった尚季にしたら、あれらがぞろぞろと自分に憑くのはさぞ恐怖だろう。
 だが、見た目は草食系の尚季は、中身は結構勝気で、高校時代に外見をからかう相手に容赦がなかったことを知っている玲香は、尚季がちびすけと玲香の前で、本音を言えずにいることを察して、余計におかしかったのだ。

「尚季君、ちびちゃんの言う通りにしたら? 飼い主と会っても満たさされずに残った霊は、私が祓ってあげるから・・・・・・。少しでもこの世で悪さをする数を減らしましょう」

「ぐっ・・・・・・」

「ちびちゃん、尚季君がグッドだって。やっちゃって! 」
 違うとか、いや、そうじゃないとか、慌てる尚季を玲香が必死で宥めるので、ちびすけが心配そうに、うさ耳から身を乗り出して尚季の顔を覗き込んだ。

「なおたん、ひょっとして霊怖いキュル? 僕のことも怖かったキュル? 」

「霊なんて、全然怖くないぞ! ちびすけのことはかわいいと思ってるから、そんな悲しそうな顔するなよ」

「よかったキュルル。僕もなおたんにもう一度会いたい思ったキュル。動物霊たんたちの気持ち分かるキュルル」

 尚季はちびすけの言葉に胸を打たれた。何度も何度も猫に食べられかけたのを救った尚季は、ちびすけにとって、命を奪われた最期の瞬間、魂を願いが叶う石に変えてでも、会いたかった相手なのだろう。

 そう考えたら、切なくて泣けてきた。男なんだから、人前で泣いちゃみっともないと思うのだが、目じりから溢れた涙は頬を伝う。そしてそれは、流れ落ちることなく、うさ耳から肩に飛び降りて、首を伸ばしたちびすけの小さなくちばしの中に消えていった。

「なおたんが、僕のことを思ってくれる味キュル。僕しあわせキュルル」

 羽と尾を震わせて喜ぶちびすけを見ていたら、尚季は同じ霊である動物霊たちも怖くなくなった。ちびすけに、霊達を尚季の肩に呼ぶように伝えると、ちびすけは頷いて尚季のうさ耳に戻っていった。

「みんなおいでキュル。なおたん、みんなの飼い主のお話聞いてくれるキュル」

 教祖に憑いた動物霊たちは、お互いに顔を見合わせどうするかあれこれ話し合ったが、一匹が行くと言い出すと、他の仲間たちも僕も、私もと色めき立った。
 
その動物霊たちに、身体が小さいちびすけが、凛とした声で言い放つ。
「なおたん、僕の大切な人キュル。もし悪さをしたら僕が許さないキュル。わかったらこっちおいでキュルル」

 動物霊たちは一斉に頷くと、教祖の身体から離れ、尚季に向かって飛んで行った。

「うへ~っ。何か肩が急に重くなった感じ」

 尚季がごきごきと肩を回しながら不満を言うと、ちびすけも、玲香も、動物霊たちも思わず吹き出して、部屋の中に笑い声が響いた。
 気を失っていた信者や、動物霊に操られていた教祖が笑い声に目を覚まし、何が起きたのかと上半身を起こしたので、尚季と怜良は素早く入ってきた襖から出て、磨かれた板の間を出口へと走っていった。

「あの教祖、信者たちにペットのことで、もう無茶を言わないといいわね」

「ああ、今度、瑞希のところに通っているフレンチブルのマルに、探りを入れてみるよ」

「マルがもう一度、【王様の耳】に来るといいキュル」

 光導の建物を見つめた二人と一羽は、願わくば信者にとっても、ペットにとってもいい環境を得られることを願いながら、踵を返して光導を後にしたのだった。

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