翼の民

天秤座

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クリスの受難

57 妄想

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 広間に静寂が戻り始めた頃、グスタフが大勢の兵士を引き連れてどやどやと押しかけて来た。

 グスタフはエルザを見るなり怒鳴り付ける。

「エルザ! 貴様っ、何をした!」
「……陛下をお守りしつつ、この場の平定をしておりましたが?」
「貴様っ、護衛隊長の分際で兵士共に命令を下しおったな!」
「将軍が何処に居られるか分からんのです。私が代わりに指示を出しました」
「余計な事をするなっ! 陛下っ、この女は島の風紀を乱しております! 反逆罪で処刑なさるべきでございます!」
「……相変わらず私を処刑なさろうとしておりますな?」
「貴様が身分をわきまえずに好き勝手動くからだ!」
「では将軍。将軍はこの一大事に何処へ行っておられたのですかな?」
「貴様に言う筋合いは無いっ!」
「やれやれ、ご自身の職務放棄は棚に上げるおつもりですかな?」

 エルザはグスタフへつかつかと近付き、顔をじろりと睨み付ける。


 ルドルフは一触即発状態のエルザとグスタフをいさめながら話す。
 
「まあ待てエルザ。グスタフよ、エルザは余の命令で動いたのだ。お前は余の命令に不服か?」
「い、いえ。陛下のご指示であったとは知りませんでした」
「グスタフよ。余も今までお前が何処に居ったのか知りたい」
「あ、いや、その……」
「陛下。グスタフ将軍の身体より情事の臭いが致します」
「エルザっ! 貴様何を言う!」
「女の臭いがすると言いました。大方、女を抱いていたのでしょう」
「それは誠か? グスタフよ?」
「いや、その……はい。女を抱いておりました」
「将軍、まさか自分だけ果ててから来てはいませぬか? 相手させた女をほったらかしにしておりませぬか?」
「きっ、貴様の知った事かっ!」
「島の一大事だというのに、自分が果てるまで行為を続けておったワケですな?」
「貴様っ! いい加減にしろっ!」
「グスタフよ、エルザに当たり散らすな。お前は将軍としての自覚が無いのか?」
「陛下っ! この女の言う事を鵜呑みになさってはいけませんっ!」
「……そうか。お前は余の言葉を聞かぬのだな?」
「めっ、滅相もございませぬ!」
「ではもう一度聞こう。お前は将軍としての自覚はあるのか?」
「……ございます」
「では何故、動かなかったのだ?」
「へっ、兵共が報告をしに来ず、初動が遅れたのでございますっ!」

 グスタフの背後で聞いていた兵士達は、突然自分達のせいにされ困惑する。


 エルザは兵士達の困惑ぶりを気の毒な目で見ながらルドルフに話す。

「陛下、どうやら兵士達は将軍を気遣っております。恐らくは部屋の外で待機し続け、将軍が果ててから報告したようでございます」
「それはまことか?」
「兵士達の目と、子種の臭いをぷんぷんとさせている将軍から推測した、私の見解でございます」
「ルドルフよ。お前はお前を気遣った兵士達に責任をなすり付けるつもりか?」
「う、いや、その……」
「お前はそれしか言えぬのか?」
「う、いや、その……はっ、申し訳ございません」

 グスタフは顔色を真っ青にしながら、しどろもどろになって謝罪した。


 ルドルフは今回の経緯を知っておかねばならぬと思い、ソーマとグスタフに話す。

「ソーマ、グスタフ。余はお前達に聞きたい事がある」
「……あ。ボク、グスタフに用事を思い出しました」
「はっ! 皇子、ご用事とは何でございましょうか?」
「父上、グスタフ借ります。お話はその後で」
「皇子、お供致します」
「では父上、これにて失礼します。グスタフ来い!」
「はっ! 皇子!」
「…………余の納得する言い訳を考えて来い!」

 あからさまな遅延行為を行った2人に流石のルドルフも怒り、逃げように去ってゆく2人の背中に向けて怒鳴り付けた。


 エルザは兵士達に指示を出す。

「お前達、広間に散らばった血痕の掃除をしろ。本来であれば将軍が命令せねばならぬのだが、殿下と何処かに行ってしまわれた。仕方なく私が命令を下す」
「はっ! エルザ様!」
「仰せのままに」
「お前達が何を考えているのかはある程度察しておる。だが、決して口に出すなよ?」
「はっ!」
「……耐えます」
「お前達……すまぬな」
「エルザ様……」

 エルザは振り返り、ルドルフの護衛へと戻る。

 その場に居合わせた兵士達はエルザの背中へ深々と頭を下げ、誰もが次期将軍はエルザになって欲しいと心の底から願った。


 ルドルフの目の前に戻ったエルザはひざまずき、深々と頭を下げながら話す。

「例え一時であれ陛下の護衛を離れたご無礼、お許し下さいませ」
「良いのだ。お前でなければこの騒ぎ、鎮める事など出来ん」
「有り難うございます」
「エルザよ、お前はソーマをどう思う?」
「……今のままでは、次期皇帝には難しいかと」
「であろうな。余もそう思う」
「守るべき臣民へ罪を着せるのは、如何なものかと存じます」
「余の息子は、ソーマは本当に……この世を救えるのか?」
「18年前の……神のお告げでございますか?」
「やはり……余が殺めてしまった谷の子であったのかも知れん」
「殺めたのはグスタフ将軍でございます。陛下ではございませぬ」
「命令を下したのは余だ。グスタフの責には出来ん」
「陛下……」
「余は……神を失望させてしまったのかも知れん」
「その様な事はございませぬ。殿下は将来立派な救世主となられますでしょう」
「本当に、そう思っておるのか?」
「……はい」
「余でも分かる嘘だな。あいつはその様な器では無い。むしろあいつがこの世を滅ぼしてしまうであろう」
「陛下。物事を悪くお考えなさってはいけませぬ」
「この世を滅ぼすのがソーマで、この世を救うのが谷の子……しかし谷の子は余が殺め、既にこの世には居らぬ」
「陛下……」
「エルザよ。余は何としてでもソーマがこの世を滅ぼさぬよう、食い止めるぞ」
「はっ! このエルザ、陛下の剣となり、盾となって命の限りお守り致します」
「宜しく頼む」
「私ごときには大変勿体無きお言葉でございます」

 ルドルフは振り返り、広間を後にする。

 エルザはルドルフの後に続き、共に立ち去って行った。 




 一方、落とし穴の底。

 クリスとティナは2人並んで壁にもたれかかって座っていた。

「谷……帰りたいな?」
「……そうだね」
「ここ、出れるかな?」
「きっと出れるよ。一緒にがんばろ?」
「うん」
「ティナありがとね」
「ん? 何がだ?」
「助けに来てくれて……とっても嬉しいよ」
「俺もクリス助けれて、とっても嬉しい」
「……ごめんね?」
「? 何で謝るんだ?」
「あたしが島に行くって言わなかったら……こんな事にならなかったのに」
「大丈夫。俺、クリス守る」

 ティナはクリスを安心させようと、不安な気持ちを押し殺して大丈夫と伝えた。


 クリスは遠い目をさせながら、突然思い出話を始める。

「……ねえティナ? あたしね、ずっと前からあんたの事知ってた気がするの」
「? ずっと前って?」
「えっとね。あんたが産まれた日、変な夢見たの」
「変な夢って?」
「沢山の女の人達と一緒に、あんたが産まれて喜んでる夢」
「? 何だそれ?」
「変な夢でしょ? だから今でも覚えてるの」
「その夢見たから、俺を前から知ってたのか?」
「うん。その夢に出てた女の人達ね、おんなじ事言ってたの」
「何て言ってたんだ?」
「カ…ソンが産まれた、今度こそひとつになれる…って」
「?」
「んでね、あんたがカーソンって名前付けられて、ああそうかって思ったの」
「? ……あ。俺、カーソンって名前だったっけか?」
「夢の中ではカとソンしか聞き取れなかったけど、カーソンって言ってたんだなって分かったよ」
「その女の人達、クリスと関係あるのか?」
「……分かんない。みんな知らない顔の人達だったよ?」
「何か、変な夢だな?」
「うん。変な夢だった」
「クリスも俺産まれて、嬉しかったのか?」
「その夢に出てた女の人達、あんたが産まれてホントに嬉しかったみたい。あたしも一緒になって喜んでたよ?」
「ふーん……」
「だけど、あんたすぐグスタフに殺されちゃってさ、その夢ずっと忘れてたんだ」
「じゃあ、今思い出したのか?」
「ううん、前にも思い出した事あるよ?」
「いつだ?」
「隊長とナタリーとあたしとであんたの事助けた時、また思い出したの」
「あ。あの時か?」
「うん。そして今日、あんたとキスしてまた思い出したの」

 クリスはティナとキスをして、昔見た夢を思い出したと語った。


 ティナはクリスに首をかしげながら話す。

「なあクリス? キスって何だ?」
「さっきあんたがあたしにした事よ」
「? 俺、何したっけ?」
「あたしの唇、奪ったでしょ?」
「あ。あれがキスって言うのか?」
「うん、そう。あたし、キスなんて初めてされてさ、ビックリしちゃっちゃ・・
「……ごめん。俺、クリスの事ビックリさせた」
「ううん、いいの。あたしもビックリしすぎて、あんたにビンタしちゃっちゃ・・もん」
「クリスのビンタ、速すぎて避けれなかった」
「へっ? 隊長の一撃すら避けるのに、あれ反応出来なかったの?」
「うん。殺気がない攻撃は、避けるの難しい」
「そうなんだ? ごめんね?」
「俺もごめん」

 いつの間にか2人は頭を傾け、くっ付け合っていた。


 ティナは立ち上がり、両手を天に向かって伸ばしながら話す。

「うぅーんっ……っと。さて、お腹減って動けなくなる前に、脱出方法考えるか?」
「うん…………ねぇティナ? あんた声変わった?」
「え? あーっ……あぁーっ……あれ? 本当だ」
「何か、声が太くなってるよ?」
「うん。俺、どっか変になったのか? あ、喉がぼこっとしてる」

 ティナは声が変わった原因を調べようと、喉元を触った。

 喉には今まで無かった、押すと固い膨らみが出来上がっていた。

 不思議がって喉元を触っていると、ふと胸当てのあたりがブカブカになっている事に気付く。

 胸当ての隙間から手を差し込み、自分の胸を触ったティナは更に不思議がる。

「あれ? おっぱい、ぺったんこになった」
「? どしたの?」
「あれっ? えっ? ちょっと……あれっ?」
「何? 身体おかしくなってるの?」
「……うん、何か変。鎧、脱いでみる」

 ティナは鎧を外し、その場でガシャガシャと音を立てながら脱ぎ始めた。

 鎧を外し、服のみになったティナは、股間に違和感を感じてモゾモゾと服の上から触ってみる。

 ティナの股間には、5年前にあった懐かしい物体がぶら下がっていた。


 ティナは股間の物体を触り、驚きの声を上げる。

「あっ!? 俺……男に戻ってる!」
「……へっ!?」
「ちんちん! ちんちんあるっ!」
「何ですってぇっ!?」
「ここ、魔力消されるのかも。イザベラの魔力、消えたんだ」
「お……男……」
「クリス見るか? 俺のちんちん」
「え……いや……その……うん」
「ほらっ、ちんちん戻ってる」
「…………おっ、おっきい……」

 クリスはティナの股間にぶら下がっている物体を見て、生唾をごくりと飲み込んだ。


 5年前に見たあの時よりも遥かに大きくなった物体に、クリスは顔を赤くしながら思う。

(うわぁ……これが成長した男のおちんちんかぁ。
 あん時よりも相当おっきくなってるよ……。
 こんなのが……アソコに挿入はいってくるの?
 裂け……ないかな?
 あ、そっか。裂けるから破瓜って言うのか。
 うへぇ……凄いなぁ……。
 こいつもう、子供作れる身体になってたんだなぁ。
 あたし……このおちんちんも貰えるのかぁ。
 ど、どうしよう。今……もう貰っちゃう?
 こんなトコで子作り……まあ、それもありっちゃありね)

 クリスの妄想はどんどん膨らみ、暴走しかけていた。


 ティナは顔を赤くして股間を見続けているクリスを不思議に思い、話しかける。

「クリス、どうした?」
「…………」
「ちんちん、珍しいのか?」
「…………」
「……クリス?」
「あっ、えっ? 何? どしたの?」
「クリス、俺のちんちんずっと見てる」
「あ、いやほら……女には付いてないから……珍しくって」
「なあクリス、欲しいんじゃ無いのか?」
「えっ!? やっぱ、ずっと見られてたら……分かっちゃっちゃ・・?」
「うん。クリス欲しいなら、あげるぞ?」
「えっ……どっ、どうしよっ……かな?」
「俺、あげてもいいぞ?」
「……じゃあ……欲しい」
「うん、分かった。今脱ぐ」
「じゃあ、あたしも……」

 
 クリスは立ち上がり、ビリビリに引き裂かれ、全く用を為していない服をドキドキしながら脱ぎ捨てた。

 目の前で服を脱いでいる男、ティナからカーソンへと戻った男に、先程守ってくれた自分の処女を捧げる覚悟を決める。

 

 クリスは自分の右手を股間にあてがい、おぼつかぬ指で男を受け入れる準備を始めた。

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