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冒険者カーソンとクリス
81 冒険者ギルド
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翌日、朝食を済ませた2人は宿屋の男からの助言通り、冒険者ギルドへと向かう事にする。
宿屋の男から、連泊するなら荷物を置いていっても構わないと言われたが、元々荷物など無かった2人は部屋を引き払って宿から出る。
2人は宿屋の男が教えてくれた建物の前までやってくる。
昨夜は暗闇で気付かなかったが、冒険者ギルドは街の入り口すぐそばにあった。
周囲に併設されている建物よりも古く、年代を感じさせる外観をしていた。
期待と不安を抱えながら、2人はギルドの中へと入ってゆく。
ギルドの中は思っていたよりも広いが、人はまばらだった。
まだ朝の早いうちであったせいか、2人以外に出入りする者もいない。
入り口に立った2人は周囲を見渡す。
入り口から正面突き当たりには受付と書かれた看板が吊り下がり、カウンターの向こう側ではギルド職員と思われる人達ががせわしなく動き回っていた。
正面カウンター、向かって右側の壁には紙が所狭しと貼り付けられ、貼られている紙を3人が腕を組みながら見ている。
入り口からカウンターまでの間にはテーブル席が設けられ、鉄や革製の防具を身に纏った男女が数名、仲間と思われる者達と話し込んでいた。
カーソンとクリスは奥へと進みながら話す。
「ふーん……ここが冒険者ギルドか」
「何人か居るけど、どう? 強そうに見える?」
「んー……あいつ強そうだけど、エリより弱いと思う」
「あ、やっぱり? あたしもそんな気がしてたよ」
「動きが遅そうだ」
「そうだね」
冒険者と思われる人間達の実力を値踏みしながら、2人は受付へと向かった。
受付のカウンターには屈強そうな男が座っていた。
男は2人へ気さくに話しかけてくる。
「良く来たな。ギルド証はあるか?」
「? ギルド証…って何だ?」
「あの、初めて来たので分かりません」
「見学か? それとも冒険者希望か?」
「冒険者って…何するんだ?」
「冒険すんだよ。当たり前じゃねぇか」
「冒険すると、お金貰えるんですか?」
「正確には違うな。依頼された色んな仕事を引き受け、達成すると金が貰えるんだよ」
「仕事って…何するんだ?」
「そりゃ何でもだ。悪い事以外な」
「何でもやるんですか?」
「冒険者なんて大層な呼び名してんだけどな、早い話が何でも屋だ」
「ふーん……」
「例えば、どんな仕事があるんですか?」
「簡単なモンだと街のドブ掃除、命がけってなると魔物退治とかだな。とにかく、依頼されたモンは全て冒険者の仕事だ」
「どうすれば、仕事出来るんだ?」
「あんたら、仕事してぇのか?」
「お金貰えるなら、ちょっとしてみたいです」
「ほいじゃ決まりだな。登録してやるからちょっと待ってろ」
男は振り返り、後ろの棚から書類を取り出す。
書類を2人に差し出しながら、男は話す。
「じゃあ、この書類に名前書いてくれ。2人とも別々にな?」
「うん、分かった」
「はい」
「本名で書けよ? 偽名使うと後でめんどくせえ事になるからな?」
「めんどくせえ…ってどうなるんだ?」
「俺らギルド側がめんどくせえんだよ。
そうだな、例えばお前さんが今本名で登録したとする。
依頼を受けても失敗しまくって、信用を失う。
うちらギルドもな、失敗しまくってる奴に大事な仕事は任せられねぇ。
お前さんが仕事したいって来てもな、仕事させられねぇ。
仕事をしたいお前さんは、偽名でもう一度登録して別人になりすます。
複数の名前で登録してるってバレりゃ、国中のギルドに指名手配だ。
鼻血が出るくらいの罰金請求されっからな?」
「仕事、失敗しなきゃいいんじゃないのか?」
「そりゃそうだ。だがな、そうやって重複登録してる奴が多いんだよ」
「それ調べる事になるから、ギルドは面倒くさいんですね?」
「ああ。登録させちまった職員も何かしらの罰を喰らう。ホントにめんどくせえんだ」
「ふーん……」
男の話を聞きながら、2人は書類に自分の名前を書いた。
2人から書類を渡された男は、受け取った書類に目を通しながら話す。
「……よし、カーソンとクリスだな?」
「うん」
「はい」
「ようこそ冒険者ギルドへ。俺はマッコイってんだ、以後よろしくな!」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします、マッコイさん」
「仕事の依頼はあんたらの左側にあるボードを見な。いいか? 己の実力に合った仕事を選ぶんだぞ?」
「うん、分かった」
「なるべく失敗しないようにします」
「これから2人のギルド証作るから、ちょっと待っててくれ。それこそ依頼ボードでも眺めてりゃいい」
「うん」
「分かりました」
2人はギルド証が発行されるのを待ちながら、依頼ボードを見る。
依頼は実に様々あり、街の清掃や荷物運び、魔物殲滅や盗賊退治と、ギルド職員マッコイが言っていた通り、何でも依頼されていた。
2人は、依頼金額の一番高い手配書に目が止まる。
『翼の民の捕獲』
条件 生きている状態のみ
報酬 オス 1500000ゴールド
メス 500000ゴールド
備考 命の保障なし
契約金不払いの場合減額
2人は依頼書を見ながら話す。
「俺達が殺してたのって、冒険者だったのか?」
「実力に見合わない仕事したのね、ほんと気の毒に」
依頼を眺め続けていた2人は、人相書き付きの手配書を見付けた。
『盗賊ゲーブルの退治』
条件 生死問わず
報酬 首のみ 1000ゴールド
捕獲 2000ゴールド
備考 手下2名存在 生死問わず
盗品回収時に追加報酬あり
人相書きの顔を見て、2人は首をかしげた。
「なあ? この顔、どっかで見た事ないか?」
「うーん……確かに、どこかで見た気がする」
「そんな前じゃないと思う」
「つい最近の気が…………あっ!?」
「? クリス思い出し……あっ!」
2人は思い出し、お互いを指差しながら同時に叫ぶ。
「昨日殺した男だ!」
「あいつの首持ってきたら、1000ゴールド貰えるのか!」
「行こ行こ! 首切って持ってこよっ!」
「うん!」
「急がなきゃ!」
2人は受付カウンターへ駆け寄り、マッコイへ話す。
「マッコイ! 俺達仕事する!」
「こらっ! ちゃんと『さん』を付けなきゃ駄目!」
「何でだ?」
「呼び捨てに出来るほど、あんた偉いの?」
「偉くないと『さん』付けなきゃないのか?」
「いきなり呼び捨てにしちゃ、相手に失礼だよ?」
「そっか! マッコイさん! 俺達仕事する!」
マッコイは焦る2人をなだめながら話す。
「おいおい、まだギルド証出来てねぇぞ?」
「でも、仕事したい!」
「お願いします!」
「そんな焦んなよ。まずは何を引き受けるか俺に言ってくれ」
「えっと……何だっけ?」
「盗賊ゲーブルの退治です、マッコイさん」
「あ? 盗賊退治だと? おいおい、ルーキーが成功するような仕事じゃねぇぞ?」
「ううん、もう成功してるぞ?」
「昨日の夜、街に来る前にあたし達襲って来た奴なんです。返り討ちにして、今は死体で転がってます」
「…………ホントかよ、えぇ?」
「うん。手下の2人も殺したぞ?」
「受けたらすぐ行って、首取ってきます」
「そうか。ほいじゃ、手続き始めるから待ってな。その依頼書、ボードから剥がして持ってきてくれ」
「うん!」
「はい!」
マッコイは2人が剥がして持ってきた依頼書の番号を確認し、依頼リストを調べる。
「ええっと……盗賊リストのげ、げ、げ……あった。ゲーブル」
「あったか?」
「手続きお願いします」
「分かった……けどよ、あんたら金持ってんのか?」
「? お金?」
「引き受けるのに、お金払うんですか?」
「あ、わりぃ。あんたらそんなすぐに動くと思わなかったからよ、依頼の仕組みまだ言ってなかったよ」
「依頼の仕組み?」
「お金払わないと、依頼受けられないんですか?」
首をかしげている2人へ、マッコイは話す。
「依頼を引き受けるにはな、提示されてる報酬の10%を契約金としてギルドに預ける仕組みになってんだ」
「? 何でだ?」
「失敗した時の罰金代わりだよ」
「成功したら、そのお金どうなるんですか?」
「ギルドから、預かった契約金を倍額にして報酬総額へ上乗せする仕組みさ」
「契約金払えば、倍で返してくれるのか?」
「そういうこった。成功さえすれば、冒険者側に不利益は無ぇぞ」
「へぇ……失敗したら罰金に、成功したら倍で返してくれんですね?」
「そうさ。この契約金と、依頼者の出してくれる依頼金でこの冒険者ギルドは成り立ってんだよ」
「ギルドのお金、無くなったりしないのか?」
「そんな心配まずねぇな。資金は全ギルドで共有してっからよ、今もどっかの街で依頼者が金払ってくれて、失敗した冒険者から契約金取ってるよ」
「何か生々しい話……」
「これがこの冒険者ギルドっていう組織の仕組みなんだよ」
「ふーん……あ、契約金払うぞ?」
「ほいじゃ、報酬が2000ゴールドだから、200ゴールドな?」
「もう生きてないから、100ゴールドじゃないんですか?」
「すまねぇな、最大報酬額の10%を貰うってのが決まりなんだ。だからこの場合、このまま達成すりゃ最低でも1400ゴールドは支払われるぞ?」
「200ゴールド払って、1400ゴールド貰う。クリス、俺達1200ゴールド増えるぞ?」
「そっか!」
別の職員に背中をポンポンと叩かれたマッコイは、その職員からカードを2枚受けとる。
ギルド証は金属製の長方形状のプレートで、大きさは親指と人差し指で上下を挟める程度の寸法。
左上に穴が空いていて、紐か何かを通せば首からぶら下げる事も出来るようになっている。
カードにはカーソンとクリスの名前が刻印されてあった。
カードを受け取ったマッコイは内容を確認し、2人へ手渡しながら話す。
「ほい、お待たせ。ギルド証出来たぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「無くすなよ? 再発行には100ゴールドかかるからな?」
「うん、分かった」
「この穴に紐通して、首からぶら下げよっかな?」
「そうだな、そうしてくれ」
「ギルド証ぉー、ギルド証ぉーっ」
「偽造とかすんじゃねぇぞ?」
「え? 偽造って?」
「たまにやる馬鹿いるんだよ。勝手に中身いじってよ、ギルドが管理してる情報と合わねえ奴が」
「情報?」
「それ、ただの金属プレートに見えるだろ? 実はな、そのプレートに情報が記録出来るようになってんだ」
「え? どうやって?」
「そいつは秘密だ。とある別なギルドの技術が使われてっからな」
「冒険者以外のギルドもあるのか?」
「もちろんだ。あっちのギルドはこういうワケ分かんねぇ仕組み作るのが得意なんだ」
「マッコイさんもこのカードの仕組み、分かんないんですか?」
「ああ。ここにある専用のカード読み取り箱に入れるとよ、ここ以外のギルドでやった事も全部分かっちまう仕組みなんて、俺の頭じゃ理解出来ねぇ」
「ふーん……このカード、凄いのか?」
「だから無くすんじゃねぇぞ?」
「はい、気を付けます」
「そのカードにはもう盗賊退治の依頼引き受け中って情報書き込まれてっからな? 初っぱなから失敗とかすんなよ?」
「うん、分かった」
2人はカードを左胸のポケットに入れた。
カーソンは袋からお金を取り出しながら話す。
「えっと、200ゴールドだから……中銀貨2枚っと。はい、契約金」
「確かに、預かったぜ? 2週間以内に証拠品持ってこいよ?」
「? 何で2週間?」
「依頼は引き受けてから2週間以内に達成報告がなけりゃ、失敗扱いだ。契約金は罰金として回収され、依頼は再度掲示板に乗っかるんだ」
「へー……」
「依頼って、そんなに長く出せるんですか?」
「誰かが成功するまでずっと出てるまんまだぞ。依頼人もそれを願って金払ってんだしな」
「なあ? やっぱりやめたって、依頼無くなる事ないのか?」
「もちろんあるぞ。ただ、取り消しは受け付けるが返金はしねぇぞ? 依頼金はそのままギルドの金になるからな?」
「え? じゃあ、依頼受けて契約金払ってた状態で依頼が取り消された時って、どうなるんですか?」
「基本的に報酬は出ねぇ。ただし、契約金は全額返すし、依頼を遂行する為に使った金は証明出来るモンがあれば、それもギルドから支払う」
「ふーん……」
「基本的に失敗しねぇ限り、冒険者は損しねぇから安心しろ。依頼人も取り消さねぇ限り、目的は果たせっから損はしねぇ」
「そうなんですね?」
「おし、じゃあ盗賊ゲーブルの首、待ってっからな?」
「うん! 行ってくる!」
「カーソン、急ごう! 走ってこ!」
「分かった!」
2人は駆け出し、冒険者ギルドから出て行った。
3人の冒険者が2人の後を追うように出て行ったのを見ながら、マッコイは呟く。
「登録する前から盗賊仕留めるくれぇの腕前あんなら、多分大丈夫だとは思うけどな……」
マッコイは、2人の実績を他の冒険者に横取りされてしまう事を、少し心配していた。
宿屋の男から、連泊するなら荷物を置いていっても構わないと言われたが、元々荷物など無かった2人は部屋を引き払って宿から出る。
2人は宿屋の男が教えてくれた建物の前までやってくる。
昨夜は暗闇で気付かなかったが、冒険者ギルドは街の入り口すぐそばにあった。
周囲に併設されている建物よりも古く、年代を感じさせる外観をしていた。
期待と不安を抱えながら、2人はギルドの中へと入ってゆく。
ギルドの中は思っていたよりも広いが、人はまばらだった。
まだ朝の早いうちであったせいか、2人以外に出入りする者もいない。
入り口に立った2人は周囲を見渡す。
入り口から正面突き当たりには受付と書かれた看板が吊り下がり、カウンターの向こう側ではギルド職員と思われる人達ががせわしなく動き回っていた。
正面カウンター、向かって右側の壁には紙が所狭しと貼り付けられ、貼られている紙を3人が腕を組みながら見ている。
入り口からカウンターまでの間にはテーブル席が設けられ、鉄や革製の防具を身に纏った男女が数名、仲間と思われる者達と話し込んでいた。
カーソンとクリスは奥へと進みながら話す。
「ふーん……ここが冒険者ギルドか」
「何人か居るけど、どう? 強そうに見える?」
「んー……あいつ強そうだけど、エリより弱いと思う」
「あ、やっぱり? あたしもそんな気がしてたよ」
「動きが遅そうだ」
「そうだね」
冒険者と思われる人間達の実力を値踏みしながら、2人は受付へと向かった。
受付のカウンターには屈強そうな男が座っていた。
男は2人へ気さくに話しかけてくる。
「良く来たな。ギルド証はあるか?」
「? ギルド証…って何だ?」
「あの、初めて来たので分かりません」
「見学か? それとも冒険者希望か?」
「冒険者って…何するんだ?」
「冒険すんだよ。当たり前じゃねぇか」
「冒険すると、お金貰えるんですか?」
「正確には違うな。依頼された色んな仕事を引き受け、達成すると金が貰えるんだよ」
「仕事って…何するんだ?」
「そりゃ何でもだ。悪い事以外な」
「何でもやるんですか?」
「冒険者なんて大層な呼び名してんだけどな、早い話が何でも屋だ」
「ふーん……」
「例えば、どんな仕事があるんですか?」
「簡単なモンだと街のドブ掃除、命がけってなると魔物退治とかだな。とにかく、依頼されたモンは全て冒険者の仕事だ」
「どうすれば、仕事出来るんだ?」
「あんたら、仕事してぇのか?」
「お金貰えるなら、ちょっとしてみたいです」
「ほいじゃ決まりだな。登録してやるからちょっと待ってろ」
男は振り返り、後ろの棚から書類を取り出す。
書類を2人に差し出しながら、男は話す。
「じゃあ、この書類に名前書いてくれ。2人とも別々にな?」
「うん、分かった」
「はい」
「本名で書けよ? 偽名使うと後でめんどくせえ事になるからな?」
「めんどくせえ…ってどうなるんだ?」
「俺らギルド側がめんどくせえんだよ。
そうだな、例えばお前さんが今本名で登録したとする。
依頼を受けても失敗しまくって、信用を失う。
うちらギルドもな、失敗しまくってる奴に大事な仕事は任せられねぇ。
お前さんが仕事したいって来てもな、仕事させられねぇ。
仕事をしたいお前さんは、偽名でもう一度登録して別人になりすます。
複数の名前で登録してるってバレりゃ、国中のギルドに指名手配だ。
鼻血が出るくらいの罰金請求されっからな?」
「仕事、失敗しなきゃいいんじゃないのか?」
「そりゃそうだ。だがな、そうやって重複登録してる奴が多いんだよ」
「それ調べる事になるから、ギルドは面倒くさいんですね?」
「ああ。登録させちまった職員も何かしらの罰を喰らう。ホントにめんどくせえんだ」
「ふーん……」
男の話を聞きながら、2人は書類に自分の名前を書いた。
2人から書類を渡された男は、受け取った書類に目を通しながら話す。
「……よし、カーソンとクリスだな?」
「うん」
「はい」
「ようこそ冒険者ギルドへ。俺はマッコイってんだ、以後よろしくな!」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします、マッコイさん」
「仕事の依頼はあんたらの左側にあるボードを見な。いいか? 己の実力に合った仕事を選ぶんだぞ?」
「うん、分かった」
「なるべく失敗しないようにします」
「これから2人のギルド証作るから、ちょっと待っててくれ。それこそ依頼ボードでも眺めてりゃいい」
「うん」
「分かりました」
2人はギルド証が発行されるのを待ちながら、依頼ボードを見る。
依頼は実に様々あり、街の清掃や荷物運び、魔物殲滅や盗賊退治と、ギルド職員マッコイが言っていた通り、何でも依頼されていた。
2人は、依頼金額の一番高い手配書に目が止まる。
『翼の民の捕獲』
条件 生きている状態のみ
報酬 オス 1500000ゴールド
メス 500000ゴールド
備考 命の保障なし
契約金不払いの場合減額
2人は依頼書を見ながら話す。
「俺達が殺してたのって、冒険者だったのか?」
「実力に見合わない仕事したのね、ほんと気の毒に」
依頼を眺め続けていた2人は、人相書き付きの手配書を見付けた。
『盗賊ゲーブルの退治』
条件 生死問わず
報酬 首のみ 1000ゴールド
捕獲 2000ゴールド
備考 手下2名存在 生死問わず
盗品回収時に追加報酬あり
人相書きの顔を見て、2人は首をかしげた。
「なあ? この顔、どっかで見た事ないか?」
「うーん……確かに、どこかで見た気がする」
「そんな前じゃないと思う」
「つい最近の気が…………あっ!?」
「? クリス思い出し……あっ!」
2人は思い出し、お互いを指差しながら同時に叫ぶ。
「昨日殺した男だ!」
「あいつの首持ってきたら、1000ゴールド貰えるのか!」
「行こ行こ! 首切って持ってこよっ!」
「うん!」
「急がなきゃ!」
2人は受付カウンターへ駆け寄り、マッコイへ話す。
「マッコイ! 俺達仕事する!」
「こらっ! ちゃんと『さん』を付けなきゃ駄目!」
「何でだ?」
「呼び捨てに出来るほど、あんた偉いの?」
「偉くないと『さん』付けなきゃないのか?」
「いきなり呼び捨てにしちゃ、相手に失礼だよ?」
「そっか! マッコイさん! 俺達仕事する!」
マッコイは焦る2人をなだめながら話す。
「おいおい、まだギルド証出来てねぇぞ?」
「でも、仕事したい!」
「お願いします!」
「そんな焦んなよ。まずは何を引き受けるか俺に言ってくれ」
「えっと……何だっけ?」
「盗賊ゲーブルの退治です、マッコイさん」
「あ? 盗賊退治だと? おいおい、ルーキーが成功するような仕事じゃねぇぞ?」
「ううん、もう成功してるぞ?」
「昨日の夜、街に来る前にあたし達襲って来た奴なんです。返り討ちにして、今は死体で転がってます」
「…………ホントかよ、えぇ?」
「うん。手下の2人も殺したぞ?」
「受けたらすぐ行って、首取ってきます」
「そうか。ほいじゃ、手続き始めるから待ってな。その依頼書、ボードから剥がして持ってきてくれ」
「うん!」
「はい!」
マッコイは2人が剥がして持ってきた依頼書の番号を確認し、依頼リストを調べる。
「ええっと……盗賊リストのげ、げ、げ……あった。ゲーブル」
「あったか?」
「手続きお願いします」
「分かった……けどよ、あんたら金持ってんのか?」
「? お金?」
「引き受けるのに、お金払うんですか?」
「あ、わりぃ。あんたらそんなすぐに動くと思わなかったからよ、依頼の仕組みまだ言ってなかったよ」
「依頼の仕組み?」
「お金払わないと、依頼受けられないんですか?」
首をかしげている2人へ、マッコイは話す。
「依頼を引き受けるにはな、提示されてる報酬の10%を契約金としてギルドに預ける仕組みになってんだ」
「? 何でだ?」
「失敗した時の罰金代わりだよ」
「成功したら、そのお金どうなるんですか?」
「ギルドから、預かった契約金を倍額にして報酬総額へ上乗せする仕組みさ」
「契約金払えば、倍で返してくれるのか?」
「そういうこった。成功さえすれば、冒険者側に不利益は無ぇぞ」
「へぇ……失敗したら罰金に、成功したら倍で返してくれんですね?」
「そうさ。この契約金と、依頼者の出してくれる依頼金でこの冒険者ギルドは成り立ってんだよ」
「ギルドのお金、無くなったりしないのか?」
「そんな心配まずねぇな。資金は全ギルドで共有してっからよ、今もどっかの街で依頼者が金払ってくれて、失敗した冒険者から契約金取ってるよ」
「何か生々しい話……」
「これがこの冒険者ギルドっていう組織の仕組みなんだよ」
「ふーん……あ、契約金払うぞ?」
「ほいじゃ、報酬が2000ゴールドだから、200ゴールドな?」
「もう生きてないから、100ゴールドじゃないんですか?」
「すまねぇな、最大報酬額の10%を貰うってのが決まりなんだ。だからこの場合、このまま達成すりゃ最低でも1400ゴールドは支払われるぞ?」
「200ゴールド払って、1400ゴールド貰う。クリス、俺達1200ゴールド増えるぞ?」
「そっか!」
別の職員に背中をポンポンと叩かれたマッコイは、その職員からカードを2枚受けとる。
ギルド証は金属製の長方形状のプレートで、大きさは親指と人差し指で上下を挟める程度の寸法。
左上に穴が空いていて、紐か何かを通せば首からぶら下げる事も出来るようになっている。
カードにはカーソンとクリスの名前が刻印されてあった。
カードを受け取ったマッコイは内容を確認し、2人へ手渡しながら話す。
「ほい、お待たせ。ギルド証出来たぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「無くすなよ? 再発行には100ゴールドかかるからな?」
「うん、分かった」
「この穴に紐通して、首からぶら下げよっかな?」
「そうだな、そうしてくれ」
「ギルド証ぉー、ギルド証ぉーっ」
「偽造とかすんじゃねぇぞ?」
「え? 偽造って?」
「たまにやる馬鹿いるんだよ。勝手に中身いじってよ、ギルドが管理してる情報と合わねえ奴が」
「情報?」
「それ、ただの金属プレートに見えるだろ? 実はな、そのプレートに情報が記録出来るようになってんだ」
「え? どうやって?」
「そいつは秘密だ。とある別なギルドの技術が使われてっからな」
「冒険者以外のギルドもあるのか?」
「もちろんだ。あっちのギルドはこういうワケ分かんねぇ仕組み作るのが得意なんだ」
「マッコイさんもこのカードの仕組み、分かんないんですか?」
「ああ。ここにある専用のカード読み取り箱に入れるとよ、ここ以外のギルドでやった事も全部分かっちまう仕組みなんて、俺の頭じゃ理解出来ねぇ」
「ふーん……このカード、凄いのか?」
「だから無くすんじゃねぇぞ?」
「はい、気を付けます」
「そのカードにはもう盗賊退治の依頼引き受け中って情報書き込まれてっからな? 初っぱなから失敗とかすんなよ?」
「うん、分かった」
2人はカードを左胸のポケットに入れた。
カーソンは袋からお金を取り出しながら話す。
「えっと、200ゴールドだから……中銀貨2枚っと。はい、契約金」
「確かに、預かったぜ? 2週間以内に証拠品持ってこいよ?」
「? 何で2週間?」
「依頼は引き受けてから2週間以内に達成報告がなけりゃ、失敗扱いだ。契約金は罰金として回収され、依頼は再度掲示板に乗っかるんだ」
「へー……」
「依頼って、そんなに長く出せるんですか?」
「誰かが成功するまでずっと出てるまんまだぞ。依頼人もそれを願って金払ってんだしな」
「なあ? やっぱりやめたって、依頼無くなる事ないのか?」
「もちろんあるぞ。ただ、取り消しは受け付けるが返金はしねぇぞ? 依頼金はそのままギルドの金になるからな?」
「え? じゃあ、依頼受けて契約金払ってた状態で依頼が取り消された時って、どうなるんですか?」
「基本的に報酬は出ねぇ。ただし、契約金は全額返すし、依頼を遂行する為に使った金は証明出来るモンがあれば、それもギルドから支払う」
「ふーん……」
「基本的に失敗しねぇ限り、冒険者は損しねぇから安心しろ。依頼人も取り消さねぇ限り、目的は果たせっから損はしねぇ」
「そうなんですね?」
「おし、じゃあ盗賊ゲーブルの首、待ってっからな?」
「うん! 行ってくる!」
「カーソン、急ごう! 走ってこ!」
「分かった!」
2人は駆け出し、冒険者ギルドから出て行った。
3人の冒険者が2人の後を追うように出て行ったのを見ながら、マッコイは呟く。
「登録する前から盗賊仕留めるくれぇの腕前あんなら、多分大丈夫だとは思うけどな……」
マッコイは、2人の実績を他の冒険者に横取りされてしまう事を、少し心配していた。
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