翼の民

天秤座

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冒険者カーソンとクリス

82 串焼き肉

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 カーソンとクリスは街から出て、南西へ向かって走り続けていた。

 走りながら2人は話す。

「まさか昨夜の男が、手配されてた奴だったなんてね!」
「知ってたら、首切って持ってったのにな!」
「でも、そんなモン持ち歩いてたら宿屋のおじさん、泊めてくれなかったかもよ?」
「シルフ、こっちだって。少しずれてた」
「風の目で見てんのね? 死体まだある?」
「うん。灰かけてたから、まだ虫ついてない」
「何となくやったのに、いい結果になってたみたいだね?」
「うん」

 およそ1時間後、2人は昨夜殺した盗賊の死体へたどり着いた。

「居た居た。こいつだ」
「よっ……と。カーソンお願い」
「任せろ」
「まず先にさ、最小火力で足切ってみてよ」
「うん、分かった」
「灰にしちゃっちゃ・・ら、200ゴールドとここまで走ってきた労力丸々損するわ」

 カーソンは右の腰からサイファを1本取り出し、右手に最小の火力で剣を作ると、盗賊ゲーブルの死体の足へと振る。


 ボジュッ

 死体は煙を上げながら、サイファに足を切断された。


 カーソンは切断された足を見ながら話す。

「これなら、灰にならないな」
「そうだね、いい切れ具合だわ」
「じゃあ、首切るぞ?」
「よろしく」

 ボジュッ

 ゲーブルの首は、サイファに切断された。


 ゲーブルの頭を布の袋に入れ、2人は街に向かって再び走り出す。

 街まであと半分、という所で2人は3人の冒険者と思われる男達と遭遇する。

 息も絶え絶えにふらつきながら、此方に何かを言いかけようとする3人。

 話しかけられる理由に思い当たるフシのない2人は、走る速度を緩めずにそのまま3人の横を駆け抜けた。


 街の中へと駆け込み、そのまま冒険者ギルドに到着すると、マッコイに首の入った袋を差し出しながら2人は話す。

「ゲーブルの首、持ってきたぞ!」
「確認お願いします」
「ほっほぉー、大した新人だ! 早速仕事をこなしたな? どれどれ………うん、こいつは確かに盗賊ゲーブルの首だ」
「依頼、達成か?」
「ああ、お疲れさん。ギルド証出してくれ」
「えっと……はい」
「成功の情報入れるんですか?」
「ああそうさ。依頼達成1発目が盗賊退治って冒険者、滅多に居ねえぞ?」
「そうなのか?」
「あたし達、珍しいんですか?」
「大抵の連中はドブ掃除やら荷物運びを1発目に選ぶんだけどな。まあ、登録前から退治してりゃこういう事にもなるわな」
「あいつら、弱かったぞ?」
「暗闇であたし達剣士だって思われなかったのかもね?」
「それはそれでゲーブルの運の尽きってやつさ。そらっ、報酬の1400ゴールドだ」
「やったっ! お金増えちゃっちゃ・・!」
「ほいよ、カード返すぜ」
「ありがとう!」

 カーソンとクリスは、1400ゴールドを手に入れた。

 受け取ったギルド証を2人は左胸のポケットにしまう。


 マッコイはカウンターの後ろにある大きめの箱を開け、袋ごとゲーブルの頭を放り込む。

 クリスはそれを見て、マッコイに聞く。

「マッコイさん……箱にそんなの入れて、腐らないの?」
「あぁん? 心配いらねえよ。氷種こおりだねが入ってっから」
「氷種…って何?」
「おいおい冗談だろ? ……まさか本当に知らねえのか? ほら、これだよ」

 マッコイは机の引き出しから一辺が正三角形の形をした八面立方体を取り出し、クリスへ見せた。

 立方体の頂点には紐が付いている。


 クリスはマッコイの持つ八面立方体をしげしげと見つめながら聞く。

「これが氷種?」
「そうさ。氷の魔法の力を封じ込めた道具でな、使う時はこの紐を引っ張るんだ。
 それで何でもカチンコチンさ。
 似たようなのに火種もある。
 物を凍らせる氷種と違ってな、火種は燃やすんだよ」
「へーっ。便利な道具!」
「道具屋で売ってるぞ? 火種も氷種もよ」
「後で買いに行こっと」

 氷種を引き出しへしまいながら、マッコイはクリスへ聞く。

「……ところでよ。この盗賊、何かお宝持っていなかったか?」
「いいえ、ゴールドは持っていましたけど……」
「そうか、そいつは残念だ。
 あのな、このテの依頼は、依頼主が盗まれた物を取り返し欲しいから出したりするんだ。
 出来ればそのお宝を取り返して、ギルドに渡して欲しかったな。
 そしたらな、追加報酬が出るぞ? 
 盗賊が持っていた金については、どこの誰のものになろうとギルドは知らねえから気にすんな。  
 但し、お宝を取ったら必ずギルドへ渡してくれ。
 欲出して売っ払おうなんて考えるなよ?
 今度はお前らが依頼対象にされちまうぜ?」
「はい、気を付けます。あんたもちゃんと聞いてた?」
「うん。お金はいいけど、お宝はダメなんだな?」
「そそ、そういう事。さて、お腹空いたな。あんたはどう?」
「うん。腹減った。」
「よし、何か食べに行こっか!」
「うん!」

 2人はギルドを後にし、街中を歩いた。

 賑やかな人通りを歩きながら、2人は食べ物屋を探す。

「なあ、クリス。人間の街って面白いな! 見たこと無いものでいっぱいだ!」
「そうだね! 谷の生活じゃ考えられないものばかりだね?」
「おほー! 見ろクリス! 肉焼いてるぞ! 肉っ!」
「……あんたやっぱり肉なのね?」
「クリスー! ここにしよう! ここ!」
「はいはい、分かったよ」
「肉っ! 肉ぅー!」

 2人は通りの道で肉を焼いて売る露店の前に立ち寄った。


 露店の店主は、串に刺した肉を焼きながら2人へ話す。

「いらっしゃい! 1本3ゴールドだよ」
「おーっ! うまそうー!」
「とりあえずあたし、1本でいいや。あんたは?」
「5本!」
「おじさん、6本下さい」
「毎度あり! 6本で20ゴールドだよ」
「? おじさん、3ゴールドが6本だと、18ゴールドだぞ?」
「あっ、ごめんごめん! おじさん計算間違えちゃったよ。そうそう、18ゴールドだった」
「えっと……はい、18ゴールド」
「ほい、確かに貰ったよ。はい、6本」
「ありがとう!」
「……ありがとう」
 
 クリスはこの店主が値段を訂正した時の目を見て、違和感を感じていた。

 計算の出来るカーソンが気付いて定価で支払ったが、もし自分だけだったら2ゴールド損をした可能性があったのかも知れない、この店主がわざと値段を高く要求したのではないかと思う。



 串焼き肉を頬張りながら通りを歩くカーソンとクリス。

 カーソンは串焼き肉をもっちゃくっちゃと食べながら周りをキョロキョロと見回し、次の獲物を探していた。

 クリスはカーソンの目が光ってるかと思うほどの、次の食べ物を探す姿勢に呆れていた。


 次の食べ物を探していたカーソンは、ぴたっと足を止める。

 今度は何を食べるのかと、クリスはカーソンの見ているほうへ視線を送る。

 しかし、カーソンの視線の先には食べ物屋らしき店は無い。


 カーソンは口の中の肉をごくんと飲み込み、視線の先へと歩き出す。

 クリスも後に続き、カーソンが目指している場所に居る男の子に気付く。

 男の子はカーソンをじっと見ていたようであった。

 着ている服はボロボロで、髪もボサボサ。頬は痩せこけ、満足な食事が出来ていないと、クリスは感じた。


 カーソンは男の子の前にしゃがみ込み、視線の高さを合わせて話す。

「どうした? 腹減ったのか?」
「…………」
「この肉、食べるか?」
「……うん」
「じゃあ、1本あげるぞ?」
「……あり…がと」

 カーソンが差し出した串焼き肉を受け取った男の子は、一目散に駆け出していった。


 駆け出していった男の子の背中を見ながら、クリスはカーソンへ話す。

「あんた、あの男の子に気付いたのね?」
「うん。お腹減ってそうだった」
「自分のお肉、あげても良かったの?」
「うん。あの子お腹減ってたんなら、あげてもいい」
「優しいね?」
「島で、死なせたから……」
「………そっか? うん、助けられなかったもんね?」
「お腹減るって、ほんと悲しいから……」

 カーソンは優しい瞳で、男の子が去っていった方角を見ている。

 クリスはその姿に、胸がキュンと締めつけられた。



「あーっ! あーっ! やだーっ! これぼくのだーっ!」

 遠くで叫び声が聞こえ、カーソンとクリスは無意識に声が聞こえた方向へ駆け出した。


 2人が騒動の現場へ駆けつけると、先程カーソンから串焼き肉を貰った男の子が、大きい男の子に串焼き肉を奪われそうになっていた。

 カーソンは慌てて奪い取ろうとしている男の子を止める。

「やめろ。その肉は俺がこの子にあげたんだ」
「俺も食いたい! それ食いたいっ!」
「やだっ! ぼくのだっ!」
「待て待て。じゃあほら、お前にもこれあげるから、2人で仲良く食え」
「あ……ありがとう、お兄ちゃん」
「ここで食えよ? じゃないとまた、誰かに取られるかも知んないぞ?」
「はい」
「うん」

 カーソンは奪い取ろうとしている男の子にも、自分の串焼き肉を1本分け与え、ここで食べるように指示した。

 2人の男の子は、夢中になって串焼き肉を頬張る。

 真剣な顔から、段々と嬉しそうな顔になって食べ続ける男の子達。


 その姿を優しそうに見つめるカーソンの肩を、後ろからクリスがぽんぽんと叩く。

「カーソン……ちょっと、周り見てごらん?」
「ん? ……あ」
「なんか、この子達みたいなの、沢山集まっちゃっちゃ・・よ?」
「……どうしよう……あと1本しかない」
「そっちの心配してんの!?」

 カーソンとクリス、2人の男の子の周りには、同じような恰好の子供達が沢山集まり、じっと見ていた。

 貧しそうな男の子や女の子、どう見ても10人以上は居る。

 
 その物欲しそうな瞳にいたたまれなくなったカーソンは、申し訳なさそうな顔でクリスへ話す。

「クリス……あの子達にも……食べさせていいか?」
「……はぁっ、もうっ。駄目って言えないじゃない」
「いいのかっ!?」
「しょうがないでしょ。この子達だけ食べれて、あの子達だけ食べれないなんてズルいもんね?」
「ありがとうクリス! 俺、買ってくる!」
「そこの兄ちゃん! 買うんならウチの買ってくれよ!」
「えっ?」

 さっきの店にまた串焼き肉を買いに行こうとしたカーソンを、目の前の露店の店主が呼び止めた。

 その露店も串焼き肉を売っていた。


 露店の店主はカーソンへ話す。

「さっきの店行くんならやめときな? あそこのは安いだけで旨くもなんともねぇぞ?」
「え? 結構旨かったぞ?」
「その子ら食ってるの、3ゴールドのやつだろ?」
「分かるのか?」
「あの店のはやめときな。安い肉にタマネギの量増やしてごまかしてんだ」
「おじさんの店は、もっと高いのか?」
「うちの串焼き肉は5ゴールドだ。ただし、味は格別だぞ?」
「2ゴールド違うと、味違うのか?」
「じゃあほれ、1本あげるからよ。姉ちゃんと一緒に食ってみな?」
「くれるのか? ありがとうおじさん」

 カーソンは店主から串焼き肉を1本貰い、クリスと分け合って試食する。


 2人は串焼き肉を噛みしめながら、その味に感動する。

「う…旨い。この肉旨い! 柔らかい! 肉の味濃い!」
「美味しい…さっきのお店とぜんぜん違う……」
「そらそうだ! あんなボッタクリとうちの店、一緒にしないでくれよ」
「ボッタクリ…って何だ?」
「値段に見合うモン出さねえのを、ボッタクリって言うんだ。もしかしてよ、あの店値段ごまかさなかったか?」
「あっ! そうですそうです! 6本20ゴールドって言われました!」
「だろ? あそこな、金の勘定出来なさそうな奴が買いに来るとよ、ふっかけて売りつけるんだ」
「え? あれ、わざと間違えたのか?」
「……やっぱり! 何か変だと思ってた!」
「ああいうズルする店はよ、そのうち潰れっから。と、いうわけでだ。ウチの串焼き肉、買ってくんねぇか?」
「買う! あの子達全員分買う!」
「みんな、おいでおいで? 一緒にお肉食べようよ?」
「今からばんばん焼くからな。焼きたての食ってくれ」


 クリスが手招きすると、子供達は一斉にわらわらと露店の前に集まってきた。

 子供達は店主から順番に串焼き肉を渡され、とても幸せそうな顔をしながら美味しそうに頬張る。

 その中で、誰よりも幸せそうな顔をしながら頬張る男、カーソン。

 クリスはどっちが子供なのか分からないと思いながら、自分も串焼き肉を頬張った。


 とても旨そうに食べているカーソンとクリスと子供達に、街行く通行人も足を止め、自然と露店前には自分も食べようと思った人達が行列を作り出した。
 

 焦ったのは露店の店主。

 いくら焼いてもすぐに買い求められてしまい、全く追い付かなくなってしまう。

 必死で焼き続ける店主に、カーソンは話しかける。

「なあ、おじさん。俺も手伝うぞ?」
「いいっていいって! 兄ちゃん達が旨そうに食ってくれたんで、こんなに大繁盛さ! ありがとよ!」
「でも、ひとりで大変じゃないのか?」
「大丈夫だって! 気持ちだけ貰っとくわ!」
「おじさん、嬉しそうだな?」
「そらそうよ! この調子じゃ今日の分あっという間に売り切っちまう。夜までに捌けりゃいいと思ってたのに、兄ちゃんありがとな!」
「えっと、お金払う。子供達が15人で2本ずつ、俺が7本、クリスが3本で40本だから…………はい、200ゴールド」
「ありがとよ! はい、お釣り」
「え? 中銀貨2枚で丁度200ゴールドじゃないか? 何で10ゴールドお釣りくるんだ?」
「売ったのは38本だぜ? 兄ちゃんが間違えてんだよ」
「ううん、40本食ったぞ?」
「いいや38本だ。2本余計に売った覚えはねぇぞ?」

 店主はカーソンに片目を瞑り、ニコッと微笑んだ。

 
 クリスは店主が2本おまけしてくれたと察し、カーソンの手を引きながら話す。

「おじさん、ご馳走さま! 美味しかったです」
「おう! 毎度ありっ!」
「クリス、おじさん2本間違えてーー」
「わざと間違えておまけしてくれたのよ。こういう好意はね、有り難く貰うんだよ?」
「そうなのか? おじさん、ありがとう!」
「兄ちゃんもありがとな!」

 カーソンとクリスは、尚も客が並び続けている露店の店主へ手を振り、その場を去った。



 旨い昼食だったと、歩きながら話す2人。

 そんな中、カーソンは後ろからズボンの裾を小さな女の子にクイクイと引っ張られる。

「ん? どした?」
「おにく、ありがとう」
「旨かったか?」
「うん」
「そかそか、良かった」
「……ついてきて」
「ん?」
「どうしたの? あたし達、付いて行けばいいの?」
「うん。ついてきて」
「……行ってみる?」
「分かった」


 カーソンとクリスは、どこかに連れて行きたがっている女の子に興味を持ち、付いてゆく。



 女の子は先頭を歩きながら何度も振り返り、2人が後ろから付いてきているか確認しながら道を案内した。

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