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冒険者カーソンとクリス
90 野宿
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カーソンとクリスはまだ、火を噴き上げる岩の所に居る。
「あ、そうだ。こういう所はオドが湧いているんだっけ?」
「確かにそうね、オドを感じる。吸っておこっか?」
「すぅーっ……はぁーっ……。おおっ、オド入ってくる」
「ねえ? ところであんた、今まで殺した人間からオド吸ってた?」
「ううん、吸ってない」
「何でよ? 吸わなきゃ駄目でしょ、オド足りなくなったらどうすんの?」
「ゴハン食べて補充する」
「それだけじゃ足りないよ? 吸いなさいよ」
「だって、殺すの悪い人間。俺、悪いオド吸いたくない」
「オドに良いも悪いもないんだよ?」
「え? そうなのか?」
「そんな馬鹿みたいな理由で吸ってないの?」
「うん。俺、悪い奴になりたくないから、悪い人間のオド吸ってない」
「大丈夫だってば。あたし吸ってるけど、悪い奴に見える?」
「ううん、クリスいい人」
「でしょ? あたしが吸ってても平気なんだからさ、殺したらちゃんと吸いなさいよ?」
「うん……でも、あんまり吸いたくない」
「お願いだから吸ってよ。オド足りなくなったらあたし達、生きていけないんだよ?」
「うん、分かった。これからはちゃんと吸う」
「約束してよ?」
「うん、約束する」
悪人のオドを吸えば自分もその影響を受けてしまうと思い込んでいたカーソン。
クリスはその考えを否定し、きちんと吸えと約束させた。
カーソンはオドを吸い続けながら、クリスへ聞く。
「なあ? オドってどれくらい身体に貯められるんだ?」
「ローラ様のお話では、個人によって差があるし、歳をとると貯め込める量も増えるそうよ?」
「じゃあ、俺って貯め込める量少ないかもな。クリスは?」
「168歳だから、あんたより多いわね。ふふん」
「……俺、前から気になってたんだけど、イザベラ様とローラ様って何歳なんだ?」
「実はね、あたしもよく分かんないのよ。あたしが小さい頃からお2人はあの姿で、ずっとあの場所に座ってるから」
「ふーん、クリスが小さい頃からか」
「なんかヨミ婆ちゃんよりも歳上みたいだよ?」
「え? 母さんより若く見えるのにか?」
「そうなんだよね。ぜんぜん若く見えるのにね?」
「魔力で何かしてるのか?」
「あー、そうかも? オド、ちゃんと吸った?」
「うん、吸った」
「んじゃ、とりあえず村に帰ろっか?」
「……なあクリス。俺、人の気配がするけど、気のせいか?」
「あ。やっぱりあんたも感じてた? ほんの少し、殺気みたいなの感じるよね?」
「でも、周りに誰も居ないんだよな?」
「もしかして、あたし達に見えない火の精霊が居るんじゃない?」
「うーん。そうかもな」
「ま、気にしても見えないものは見えないんだから、村に帰ろうよ」
「分かった」
周囲から僅かに感じる違和感に首をかしげながら、2人は村の中心部へと帰っていった。
村に帰ってきた2人は、冒険者ギルドへ立ち寄る。
「こんにちは。仕事しに来ました」
「いらっしゃい。ギルド証はある?」
「うん」
「はい、これ」
「……はい、カーソンにクリスね。依頼はあなたたちの後ろに貼り出してあるわよ。いい? 自分の力に見合った仕事を受けるのよ?」
「うん、分かった」
「頑張ります」
ギルド受付の女性から案内を受け、2人は依頼ボードを見た。
『ユアミ・ネスト間を荒らす盗賊団の退治』
条件 生死問わず
報酬 首のみ 3500ゴールド
捕獲 5000ゴールド
備考 手下複数名存在 生死問わず
盗品回収時に追加報酬あり
「盗賊団の退治かぁ。どう? これまた受けてみない?」
「村から次の街、ネストまでの間に出没するんだな? よし、受けるか」
2人は依頼ボードから手配書を剥がし、ギルド証と共に受付へ渡した。
受付の女性は依頼書を保管リストと照合し、2人へ話す。
「この盗賊団、ギルドに届いてる情報では10人くらい居るけど、2人で大丈夫?」
「10人くらいなら大丈夫だよね? あたし5人、あんた5人斬れば」
「うん。でも、10人も首運ぶの大変そうだな」
「ギルドに届けるのは親分の首ひとつで充分よ。そんなに沢山持ってこられても私達だって処分に困るわ」
「生かしたまま連れてきたらどうなるんですか?」
「そりゃ決まってるわ。罪状全て吐かせてから処刑よ」
「連れてきても殺すのか?」
「そうね。例外無く死んで罪を償わせるわ」
「じゃあ、首だけでもいいって事ですね?」
「やりかたは引き受けた冒険者に全部任せてるのよ。でも、生かして連れてくると役人が面倒臭がるのよね」
「悪い奴、生きてると面倒なんだな?」
「ギルドとしてはね、依頼達成の証拠があればいいのよ」
「お宝とか見付けたら、持ってきたほうがいいんですよね?」
「そうね。依頼人が喜ぶわ」
「なあ? 全員殺せないで、逃げられたらどうすればいいんだ?」
「親分だけの首持ってきて、残りの9人は逃げててもいいんですか?」
「それはそれでしょうがないわ。どうせまた徒党を組んで、手配されるのがオチでしょうしね」
「逃げた子分が沢山集まったらどうするんだ?」
「人数増えたら次が大変になりませんか?」
「それに頭を悩ませるのは、冒険者でもギルドでも無いわ。心配しないでいいわよ?」
「そっか。じゃあ俺達、なるべく殺すようにする」
「逃げてもまた悪さしないように、手とか足切り落としてやろうね」
「そうだな。先にそうするか」
「あなた達、その考え方……凄く物騒よ?」
受付の女性は、2人が殺人と四肢損壊を前提にしている会話に背筋を凍らせた。
2人の依頼受注手続きを済ませ、受付の女性はギルド証を2人へ返す。
クリスは契約金の500ゴールドを支払った。
「はい、確かに預かったわよ。それじゃ、頑張ってね」
「うん、行ってくる」
「2週間以内には決着つけます」
「盗賊団を退治出来たら、ネストの街のギルドに報告してもいいからね」
「分かった」
「こっちに戻って来なくてもいいんですね」
「気を付けてね? 行ってらっしゃい」
依頼を引き受けた2人はギルドを出て、市場に向かう。
クリスは市場の売り物を見定めながら、カーソンへ話す。
「ネストの街にはここから歩いて2日かかるんだってよ。食料とか道具、買わなきゃね」
「食料、沢山買わないとな!」
「言っとくけど、買った量だけ重さがあるのよ? あんた運べんの?」
「う……荷物、重くなるのか」
「買うのは必要最低限分ね。あたしが選ぶから、あんたは黙って見てなさい」
「うん」
「お金がちゃんと合ってるか、計算してよ?」
「分かった」
クリスは市場を歩き回り、2人が背負うリュックと炊事に必要な道具、寝具に食料を買い込む。
買い込んだ物を2つのリュックへしまい、ひとつをカーソンに背負わせて聞く。
「どう? 重い?」
「ううん、大丈夫。重くない」
「本当は馬車があればラクなんだろうけどさ、あたし達の所持金じゃ到底買えないもんね」
「それじゃ、明るいうちに出発するか!」
「そうだね、よっ……と」
2人はネストの街に向け、ユアミ村から東に向かい旅立った。
道は平坦で、2人の足取りは軽い。
途中の小川で水分を補給したり、木陰で一休みしながら、ひたすら歩いた。
歩きながら2人は初めて出会った時の事、カーソンが女の子にされていた時の事、島での出来事を楽しそうに話しながら歩く。
時は経ち、周囲はいつの間にか暗くなっていた。
クリスはカーソンに休憩の話を持ちかける。
「あー疲れた。ねえ、そろそろここで休まない?」
「そうだな、俺も歩くの疲れた」
「それじゃ、ゴハンの仕度するわね。あんたも手伝ってよ」
「うん、分かった。薪拾ってくる」
「よろしくね。あたしは材料切っておくから」
「石、こんくらいでいいか?」
「えっと……もう少し小さくお願い」
「こんくらいか?」
「あ、うんうん。丁度いいよ」
調理器具の使い勝手がいいように簡易的なかまどを石で組んだカーソン。
その足で薪を探しに周辺を歩き出した。
暫くして、カーソンは薪を集めて戻ってくる。
「クリスー。これくらいあればいいか?」
「うん、充分。そこに積み上げて」
「分かった。ん? なんだそれ?」
クリスの手には一辺が正三角形の八面立方体が握られていた。
「マッコイさんが言ってた、火種ってやつよ。村でも売ってたの」
「へー、それが火種か」
「見ててよ、それっ」
クリスは八面立方体の紐を引き、かまどの中へ組んだ薪に放り込んだ。
やがて八面立方体は赤く光り出し、激しく燃え上がる。
「わっ!? 燃えた!」
「便利な道具だよね。さ、料理始めるわよ」
「クリス……本当に料理出来るのか?」
「失礼ね。これでもお母様から教わってたのよ? あんたが寝てる間にね」
「えー、知らなかった。クリス、凄いな」
「…………先に言っておくけど、味の保証はしないからね?」
「う……うん。分かった」
クリスは料理を作り始める。
グレイスから教わったと豪語した通り、手際はなかなか良かった。
「ねえ、ちょっと味見してちょうだい」
「分かった。…………あんまり味がしない」
「んー、塩がまだ足りなかったか…………これくらいかな? さ、もっかいよろしく」
「…………んっ!? 旨い! 旨いぞクリス!」
「本当!? 良かった。それじゃ、ゴハンにしよっか!」
「うん! 腹減った!」
カーソンはかまどの石を足で崩し、近くに並べる。
クリスはフライパンや片手鍋をその石の上に置き、石の余熱で保温する。
料理を皿に取り分け、2人は夕食を始めた。
「いただきまーす。…………うん、旨い」
「…………うん。我ながら良く出来た。うんうん」
「これ、母さんの味だ」
「でしょ? そのうちあたし独自の味つけもするからね?」
「うん、楽しみ」
「任しといてよ」
カーソンは美味しそうにクリスの料理を食べる。
クリスはその姿を嬉しそうに見つめ、自分の料理の腕前を自画自賛しながら一緒に食べた。
2人は食後の後片付けをしながら話す。
「これ、洗ったほうがいいよな?」
「明日、川があったらそこで洗うからいいよ」
「今洗わなくてもいいのか?」
「水袋の水、念の為に使わないほうがいいと思うよ?」
「あ、ヒーリング用に取っとくのか?」
「そそ。怪我したら治さないと大変だもん」
「そうだな」
洗い物は後でする事として、2人は焚き火の周りに寝床を作る。
ユアミの市場で買った寝袋に入り、2人は横になる。
寝袋に入ったまま、カーソンはクリスに話しかけた。
「なあ? 寝てる時、盗賊団に襲われないよな?」
「どうかな? 寝てる間に来られても困るし、念の為交代で起きてようか?」
「じゃあクリス、先に寝ろ。俺が見張ってる」
「ありがとう。じゃ、先に寝るね? もし眠くなったら、あたしの事起こしてね?」
「うん、分かった」
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
カーソンは盗賊の襲撃に備え、寝袋から出る。
焚き火へ薪をくべながら周囲を見回し、寝ずに見張った。
「あ、そうだ。こういう所はオドが湧いているんだっけ?」
「確かにそうね、オドを感じる。吸っておこっか?」
「すぅーっ……はぁーっ……。おおっ、オド入ってくる」
「ねえ? ところであんた、今まで殺した人間からオド吸ってた?」
「ううん、吸ってない」
「何でよ? 吸わなきゃ駄目でしょ、オド足りなくなったらどうすんの?」
「ゴハン食べて補充する」
「それだけじゃ足りないよ? 吸いなさいよ」
「だって、殺すの悪い人間。俺、悪いオド吸いたくない」
「オドに良いも悪いもないんだよ?」
「え? そうなのか?」
「そんな馬鹿みたいな理由で吸ってないの?」
「うん。俺、悪い奴になりたくないから、悪い人間のオド吸ってない」
「大丈夫だってば。あたし吸ってるけど、悪い奴に見える?」
「ううん、クリスいい人」
「でしょ? あたしが吸ってても平気なんだからさ、殺したらちゃんと吸いなさいよ?」
「うん……でも、あんまり吸いたくない」
「お願いだから吸ってよ。オド足りなくなったらあたし達、生きていけないんだよ?」
「うん、分かった。これからはちゃんと吸う」
「約束してよ?」
「うん、約束する」
悪人のオドを吸えば自分もその影響を受けてしまうと思い込んでいたカーソン。
クリスはその考えを否定し、きちんと吸えと約束させた。
カーソンはオドを吸い続けながら、クリスへ聞く。
「なあ? オドってどれくらい身体に貯められるんだ?」
「ローラ様のお話では、個人によって差があるし、歳をとると貯め込める量も増えるそうよ?」
「じゃあ、俺って貯め込める量少ないかもな。クリスは?」
「168歳だから、あんたより多いわね。ふふん」
「……俺、前から気になってたんだけど、イザベラ様とローラ様って何歳なんだ?」
「実はね、あたしもよく分かんないのよ。あたしが小さい頃からお2人はあの姿で、ずっとあの場所に座ってるから」
「ふーん、クリスが小さい頃からか」
「なんかヨミ婆ちゃんよりも歳上みたいだよ?」
「え? 母さんより若く見えるのにか?」
「そうなんだよね。ぜんぜん若く見えるのにね?」
「魔力で何かしてるのか?」
「あー、そうかも? オド、ちゃんと吸った?」
「うん、吸った」
「んじゃ、とりあえず村に帰ろっか?」
「……なあクリス。俺、人の気配がするけど、気のせいか?」
「あ。やっぱりあんたも感じてた? ほんの少し、殺気みたいなの感じるよね?」
「でも、周りに誰も居ないんだよな?」
「もしかして、あたし達に見えない火の精霊が居るんじゃない?」
「うーん。そうかもな」
「ま、気にしても見えないものは見えないんだから、村に帰ろうよ」
「分かった」
周囲から僅かに感じる違和感に首をかしげながら、2人は村の中心部へと帰っていった。
村に帰ってきた2人は、冒険者ギルドへ立ち寄る。
「こんにちは。仕事しに来ました」
「いらっしゃい。ギルド証はある?」
「うん」
「はい、これ」
「……はい、カーソンにクリスね。依頼はあなたたちの後ろに貼り出してあるわよ。いい? 自分の力に見合った仕事を受けるのよ?」
「うん、分かった」
「頑張ります」
ギルド受付の女性から案内を受け、2人は依頼ボードを見た。
『ユアミ・ネスト間を荒らす盗賊団の退治』
条件 生死問わず
報酬 首のみ 3500ゴールド
捕獲 5000ゴールド
備考 手下複数名存在 生死問わず
盗品回収時に追加報酬あり
「盗賊団の退治かぁ。どう? これまた受けてみない?」
「村から次の街、ネストまでの間に出没するんだな? よし、受けるか」
2人は依頼ボードから手配書を剥がし、ギルド証と共に受付へ渡した。
受付の女性は依頼書を保管リストと照合し、2人へ話す。
「この盗賊団、ギルドに届いてる情報では10人くらい居るけど、2人で大丈夫?」
「10人くらいなら大丈夫だよね? あたし5人、あんた5人斬れば」
「うん。でも、10人も首運ぶの大変そうだな」
「ギルドに届けるのは親分の首ひとつで充分よ。そんなに沢山持ってこられても私達だって処分に困るわ」
「生かしたまま連れてきたらどうなるんですか?」
「そりゃ決まってるわ。罪状全て吐かせてから処刑よ」
「連れてきても殺すのか?」
「そうね。例外無く死んで罪を償わせるわ」
「じゃあ、首だけでもいいって事ですね?」
「やりかたは引き受けた冒険者に全部任せてるのよ。でも、生かして連れてくると役人が面倒臭がるのよね」
「悪い奴、生きてると面倒なんだな?」
「ギルドとしてはね、依頼達成の証拠があればいいのよ」
「お宝とか見付けたら、持ってきたほうがいいんですよね?」
「そうね。依頼人が喜ぶわ」
「なあ? 全員殺せないで、逃げられたらどうすればいいんだ?」
「親分だけの首持ってきて、残りの9人は逃げててもいいんですか?」
「それはそれでしょうがないわ。どうせまた徒党を組んで、手配されるのがオチでしょうしね」
「逃げた子分が沢山集まったらどうするんだ?」
「人数増えたら次が大変になりませんか?」
「それに頭を悩ませるのは、冒険者でもギルドでも無いわ。心配しないでいいわよ?」
「そっか。じゃあ俺達、なるべく殺すようにする」
「逃げてもまた悪さしないように、手とか足切り落としてやろうね」
「そうだな。先にそうするか」
「あなた達、その考え方……凄く物騒よ?」
受付の女性は、2人が殺人と四肢損壊を前提にしている会話に背筋を凍らせた。
2人の依頼受注手続きを済ませ、受付の女性はギルド証を2人へ返す。
クリスは契約金の500ゴールドを支払った。
「はい、確かに預かったわよ。それじゃ、頑張ってね」
「うん、行ってくる」
「2週間以内には決着つけます」
「盗賊団を退治出来たら、ネストの街のギルドに報告してもいいからね」
「分かった」
「こっちに戻って来なくてもいいんですね」
「気を付けてね? 行ってらっしゃい」
依頼を引き受けた2人はギルドを出て、市場に向かう。
クリスは市場の売り物を見定めながら、カーソンへ話す。
「ネストの街にはここから歩いて2日かかるんだってよ。食料とか道具、買わなきゃね」
「食料、沢山買わないとな!」
「言っとくけど、買った量だけ重さがあるのよ? あんた運べんの?」
「う……荷物、重くなるのか」
「買うのは必要最低限分ね。あたしが選ぶから、あんたは黙って見てなさい」
「うん」
「お金がちゃんと合ってるか、計算してよ?」
「分かった」
クリスは市場を歩き回り、2人が背負うリュックと炊事に必要な道具、寝具に食料を買い込む。
買い込んだ物を2つのリュックへしまい、ひとつをカーソンに背負わせて聞く。
「どう? 重い?」
「ううん、大丈夫。重くない」
「本当は馬車があればラクなんだろうけどさ、あたし達の所持金じゃ到底買えないもんね」
「それじゃ、明るいうちに出発するか!」
「そうだね、よっ……と」
2人はネストの街に向け、ユアミ村から東に向かい旅立った。
道は平坦で、2人の足取りは軽い。
途中の小川で水分を補給したり、木陰で一休みしながら、ひたすら歩いた。
歩きながら2人は初めて出会った時の事、カーソンが女の子にされていた時の事、島での出来事を楽しそうに話しながら歩く。
時は経ち、周囲はいつの間にか暗くなっていた。
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「あー疲れた。ねえ、そろそろここで休まない?」
「そうだな、俺も歩くの疲れた」
「それじゃ、ゴハンの仕度するわね。あんたも手伝ってよ」
「うん、分かった。薪拾ってくる」
「よろしくね。あたしは材料切っておくから」
「石、こんくらいでいいか?」
「えっと……もう少し小さくお願い」
「こんくらいか?」
「あ、うんうん。丁度いいよ」
調理器具の使い勝手がいいように簡易的なかまどを石で組んだカーソン。
その足で薪を探しに周辺を歩き出した。
暫くして、カーソンは薪を集めて戻ってくる。
「クリスー。これくらいあればいいか?」
「うん、充分。そこに積み上げて」
「分かった。ん? なんだそれ?」
クリスの手には一辺が正三角形の八面立方体が握られていた。
「マッコイさんが言ってた、火種ってやつよ。村でも売ってたの」
「へー、それが火種か」
「見ててよ、それっ」
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「わっ!? 燃えた!」
「便利な道具だよね。さ、料理始めるわよ」
「クリス……本当に料理出来るのか?」
「失礼ね。これでもお母様から教わってたのよ? あんたが寝てる間にね」
「えー、知らなかった。クリス、凄いな」
「…………先に言っておくけど、味の保証はしないからね?」
「う……うん。分かった」
クリスは料理を作り始める。
グレイスから教わったと豪語した通り、手際はなかなか良かった。
「ねえ、ちょっと味見してちょうだい」
「分かった。…………あんまり味がしない」
「んー、塩がまだ足りなかったか…………これくらいかな? さ、もっかいよろしく」
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「本当!? 良かった。それじゃ、ゴハンにしよっか!」
「うん! 腹減った!」
カーソンはかまどの石を足で崩し、近くに並べる。
クリスはフライパンや片手鍋をその石の上に置き、石の余熱で保温する。
料理を皿に取り分け、2人は夕食を始めた。
「いただきまーす。…………うん、旨い」
「…………うん。我ながら良く出来た。うんうん」
「これ、母さんの味だ」
「でしょ? そのうちあたし独自の味つけもするからね?」
「うん、楽しみ」
「任しといてよ」
カーソンは美味しそうにクリスの料理を食べる。
クリスはその姿を嬉しそうに見つめ、自分の料理の腕前を自画自賛しながら一緒に食べた。
2人は食後の後片付けをしながら話す。
「これ、洗ったほうがいいよな?」
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「今洗わなくてもいいのか?」
「水袋の水、念の為に使わないほうがいいと思うよ?」
「あ、ヒーリング用に取っとくのか?」
「そそ。怪我したら治さないと大変だもん」
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「なあ? 寝てる時、盗賊団に襲われないよな?」
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