翼の民

天秤座

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冒険者カーソンとクリス

91 馬上の盗賊

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「ん……ふゎぁ……ん……」

 真夜中に、クリスは目を覚ました。

 カーソンは起き上がるクリスに話しかける。

 クリスは伸びをしながら、寝袋から出てきて話す。

「お? 起きたかクリス」
「うーん…………っと、ありがと。さ、次はカーソンが寝て」
「分かった。それじゃ、おやすみ」
「ゆっくり休んでね?」

 カーソンは寝袋に入り、眠りについた。

 クリスは薪をくべながら、周りを警戒する。

 横ではカーソンが、スースーと寝息をたてている。



 東から太陽が昇り始めた。

 差し込む光と周囲に漂ういい匂いでカーソンは目覚め、寝袋から出てきた。

「ふゎぁ…………あ。うー……」
「おはよう。盗賊、来なかったね?」
「おはようクリス。腹減った」
「はい、準備してるよ。簡単なものだけど、とりあえずお腹に入れて」
「ありがとう。」
「熱いから気を付けてね?」
「うん。………………ズズッ…………ああ、スープ旨い」
「はい、パン。干し肉挟んどいたよ?」
「おーっ…………あむっ……むっ……」
「しっかしさ……人間の作ったパンって不味いよね」
「うん。固くてスープ無いと喉通らないな」
「アゴが疲れちゃうわ、こんな固いパン」
「谷のパンと、何が違うんだ?」
「パン菌の発酵時間が足りないとかじゃないの?」
「あーそっか。だからすぐ固くなるのか?」
「捏ねてから30分も待てばいいだけなのにね? 人間ってそんくらいも待てずに焼くのかな」
「寿命短いと、食べるのも急いでるのか?」
「時間の感覚は確かに違うんだろうね」

 カーソンとクリスは、パンに干し肉をはさんだものを食べる。

 固すぎてスープに浸さなくては食べられないパンを、2人は黙々とかじった。



 朝食を食べ終わるとリュックに荷物をまとめ、背負いながら話す。

「盗賊、襲ってくるかな?」
「どうかしら? でも、いつ来てもいいように気構えはしとかなきゃね」
「そうだな。どっかで待ち伏せしてるかもしれないしな」
「警戒だけは忘れないようにしなくちゃね」

 2人は焚き火を足で踏み消し、火が消えた事を確認すると東へ歩き出した。


 周囲を警戒しながら、ネストの街へ向けて2人は歩き続ける。

 どれくらい歩いただろうか。

 前方から聞こえてくる足音に、2人は立ち止まる。

「クリス、足音が聞こえる。前からだ」
「この足音……馬かしらね?」

 2人は警戒し、リュックを脱いで身体を身軽にした。


 馬の足音はどんどん近付いてくる。

 やがて姿を見せた馬は3頭、それぞれに男が乗っていた。


 男達は剣を抜き、2人に近付いてきた。

 馬を操り、2人の回りを囲みながら男達は話す。

「へっへ。金とその荷物、置いてきな!」
「死んだらその荷物、貰ってやるぜ?」
「ついでに金も貰ってやるよ、安心しな」


 脅しをかける盗賊にクリスは叫び返す。

「あんたらに渡すお金も荷物も無いわよ!」
「馬鹿め! 俺達に勝てるとでも思ってんのか?」
「兄ちゃんは残念だけどよ、ここで死にな」
「姉ちゃんはちょいとよ、俺達と気持ちいい事しようぜ」
「前に捕まえてた女死んじまってよ、みんな溜まってんだ」
「たっぷり可愛がってやるよ」
「ぐひひっ」

 クリスはカーソンに念を押す。

「いい? ひとりは殺さずに捕まえるよ!」
「クリス、馬は可愛そうだから殺さないでくれ」
「もちろんよ。ひとりだけ生かして、残りの連中の居場所聞き出すわよ!」
「よし、分かった!」

 2人は馬上から切りかかってくる男達を相手に剣を抜いた。


 クリスは盗賊が振り下ろしてきた剣を盾で軽くあしらい、盗賊の胸めがけ剣を突き刺す。

「ぐえぇ……」
「わ! さくっと刺さった!」
「あぶぇっ! やめっ……死にたくーー」
「やっ!」
「かっ…………かふっ……」
「ドンガさんの剣……よく刺さるわ」

 クリスに剣を突き刺された盗賊は、馬から転げ落ちる。

 仰向けになっている盗賊に、クリスは追撃の突きを心臓へ刺す。

 盗賊はそのまま絶命した。

 

 カーソンはサイファの剣を倍の長さで作る。

「げっ!? なななっ……」
「おりゃっ!」
 
 ボジュッ

 サイファの刃に恐怖した盗賊は凍りつく。

 カーソンはサイファをそのまま振り抜き、馬上の盗賊を斜めに切り落とした。

 斬られた盗賊は、切り口から半身がそのまま斜めにずり落ちる。

 馬上に残された半身は仰け反り、馬から転げ落ちた。


 盗賊は瞬く間に2人、葬られた。 

「何だ、ハナシになんないわね」
「馬は殺しちゃ可愛そうだもんな」
「ひっ……ひぃぃぃーっ!」

 ひとり残された盗賊は、奇声を上げながら一目散に逃げ出した。

 クリスが叫ぶ。

「あっ!? 待てっ! しまった、馬から落としとくんだった」
「大丈夫だ。今、風の目で追ってる」
「あ、良かった! よろしく!」


 カーソンが目を瞑り、風の目で追っている間クリスは死体を漁ってゴールドを抜き取った。


 クリスが馬を撫でていると、カーソンが目を開けて右手で遠くに見える丘を指差しながら話す。

「分かったぞ。あそこの丘の陰だ」
「あの丘ね。……ねえ? この馬、使えないかな?」
「え? クリス馬乗ったことあるのか?」
「ないけどさ……乗って移動出来たら便利じゃない? 歩くの疲れちゃっちゃ・・し」
「うーん……じゃあ、乗せてくれるか馬に聞いてみる」
「へっ!? あんた今、馬に聞いてみるって言った?」
「うん、言った」

 カーソンは馬の目を見ながら語りかける。

「なあ? 俺達の事、乗せてくれるか?」
「ヒンッ?」
「うん、そうだ」
「ブヒンッ?」
「俺、何て言ってるか分かるぞ?」
「ヒンヒンッ」
「そうか? だってお前達も分かるんだし、おかしくないだろ?」
「ブヒンッ ヒヒンッ」
「あ、そうなのか? 俺とは違う聞こえかたしてるのか」
「ブフンッ」
「それでな? 俺達、お前達に乗りたいんだけど、いいか?」
「ブルルッ ヒンヒンッ」
「そうなのか? 何でもいいか?」
「ブルルッ ブヒンヒンッ」
「そっか。俺は肉のほうがいいけどな?」
「ブフンッ ブルルッ」
「ちょっと待ってろ。クリス、こいつら腹減ってるんだって」
「………………」
「何か食わせるのあるか?」
「な…………」
「あ、無いのか?」
「何であんた……馬と話せんの?」
「馬だけじゃなく、色んな動物と話せるぞ?」
「何で?」
「何でって言われても……俺話せるし、何言ってるかも聞けるぞ?」
「動物と話せるって……何なのよあんた?」
「俺、ずっと森に居たから話せるんじゃないのか?」
「……あっ、そっか。あんた13年も森で動物達と暮らしてたんだもんね?」

 クリスはカーソンの隠された能力に唖然としたが、谷に保護されるまでの間ずっと動物達と一緒に暮らしていれば、自然と習得したのかと納得する。


 クリスはふと思った疑問をカーソンに投げかけた。

「ところであんた、谷の外で狩りしてたけどさ、捕まえた動物達にはどうしてたの?」
「ちゃんと謝ってたぞ。ゴハンになってくれって」
「うん分かった……なんて言わなかったでしょ?」
「いや、ちゃんと分かってくれたぞ? 自然の掟だからしょうがないって」
「へぇ……動物達って、捕まったら食べられるの覚悟してるんだ?」
「うん」
「あ、じゃあさ……谷の牛があんたに牛乳飲んでいいよって言ってたの、ホントだったんだ?」
「うん。飲んでくれると助かるって」
「助かる? 何で?」
「飲んで減らしてくれないと、おっぱい痛くなるって」
「へぇぇ……知らなかったよ。じゃあ、ウサギの話も?」
「うん」
「あ、思い出させちゃってごめん」
「俺、あのウサギは絶対忘れちゃいけないと思ってるから、大丈夫」
「そっか。んで、馬がゴハン欲しいって言ってるの?」
「うん、馬達腹減ってるって。何か食わせてくれたら乗せてもいいってよ」
「はいはい、あるよ。やっぱニンジンがいいのかな?」
「嫌いなの以外なら何でもいいって言ってる。肉は今いらないって」
「お肉食べないの?」
「病気じゃないからいらないだってよ」
「病気になったら食べるの?」
「うん。肉食べると病気がすぐにうんちと一緒に出るってよ」
「いや、それって……まあ、いっか」

 クリスはリュックから野菜類と果物類を取り出す。

 カーソンはクリスから渡され、ひとつひとつ見せながら馬に聞く。

「これ、食えるか?」
「ブフンッ」
「これは?」
「ヒンッ」
「あ、これは嫌か」
「ヒンッヒンッ」
「クリス、ここにあるのジャガイモとタマネギ以外は全部食えるって」
「ジャガイモとタマネギ以外、大丈夫なんだ?」
「あとな、今口につけられてるハミっての外してくれって」
「ふんふん、これね?」
「これついてるとうまく飲み込めないみたいだ」

 カーソンとクリスは、馬達がくわえさせられているハミを外す。

 
 カーソンとクリスはニンジンを手にし、馬達へ食べさせる。

「馬ってニンジン好きなのか?」
「ヒンッ ヒヒンッ」
「何て言ったの?」
「好きだって。でも、こればっかりだと飽きるみたいだ」
「あはは! あたし達と一緒なんだね」
「ヒンッヒンッ」
「その通りだって」
「え? あたしの話、分かるの?」
「ブヒンッ ヒンヒンッ」
「何言ってるかは分かんないけど、言ってる事は分かるってよ」
「? それってどういう事?」
「たぶんイザベラ様達が使う、頭の中に話してくるあれみたいなのじゃないか?」
「あ、あるほどね。言葉は分かんないけど、意味は伝わるのね?」
「ブフンッ」
「お前達、頭いいなだって」
「ありがとっ! ささ、沢山食べてよ」
「ブヒンッ? ヒィンッ」
「いいのか? 嬉しいありがとうだって」
「それ、あんたがいつも言ってるやつね」
「え? そうか?」
「次、このリンゴ食べる?」
「ヒンッ」
「甘いの大好きだって」
「へーっ、甘いの好きなの?」
「ブヒンッ ブルルッ」
「お前達、いい奴だなって言ってる」
「あはは!」

 カーソンとクリスは、手持ちの食糧を2頭の馬へ分け与える。

 
 馬達は2人の手から渡される食べ物を、喜んで食べ続けた。
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