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冒険者カーソンとクリス
93 ネストの街
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「へっ……へっくしょい! ううっ……寒い」
深夜、あまりの寒さにクリスは目覚めた。
「布団はボロボロだし、なんか湿気ってるし……臭いし身体は痒くなってくるし……盗賊の寝床使おうなんて失敗したかな……」
隣で寝ているカーソンは大丈夫だろうかと、クリスは起き上がり様子を見る。
カーソンが居るはずの布団には、大きな物体が2つあった。
クリスは物体が何なのか目をこすりながら見ていると、2つの物体は首を持ち上げた。
「…………馬?」
「ヒンッ」
「ブヒンッ」
「くかー…………くかー…………」
「えっ? いつの間に一緒に寝てたの?」
「ブルルッ」
「ブヒン」
「ん? あたしも来いって……言ってるのかな?」
馬達はクリスへ首を上下に振り、何かを訴えかけている。
クリスはこっちに来いと言われてるのかと思い、起き上がると馬達へ近付く。
カーソンは馬達に囲まれ、すやすやと眠っていた。
クリスは恐る恐るカーソンの布団に潜り込むと、横に寝そべり馬達の反応を見る。
馬達は持ち上げていた首を下げ、寝そべると目を瞑る。
馬達の体温でほんのりと暖かい布団。
クリスはカーソンにそっと抱きつき、ボソボソと呟く。
「馬達があんたの事、あっためてくれてたのね?
いいなぁ……あたしも混ぜてよ?
あんたってさ……みんなから愛されてんだね?
トレヴァのお婆さんが言ってた通りだね?
ねえ? あたしも……あっためて……」
カーソンは幸せそうな顔で眠っている。
クリスもカーソンと馬達のぬくもりに包まれ、目を瞑ると意識を手放した。
明け方、目覚めたカーソンは自分の近くにある気配に驚く。
「……あれ? 何でみんな一緒に寝てるんだ?」
「…………あ。おはよう」
「ブフンッ」
「ブヒンッ」
「おはよう。みんな、寒かったのか?」
「馬達があんたの事暖めてくれてたの、知ってた?」
「ううん、知らなかった」
「あたしも寒くて起きたらね、一緒に寝かせてくれたのよ」
「そうなのか。お前達、ありがとな?」
「ヒンッ」
「ブフンッ」
馬達はカーソンとクリスに顔をこすりつけた。
クリスが朝食を作り、昨晩と同じようにみんなで食事をする。
食事を終え、荷物をまとめた2人は馬に乗り、ネストの街へと向かう。
馬達は軽快に走り、途中で休憩や昼食を挟みながら街を目指す。
ネストの街へ着いた頃には陽が傾き、夕方となっていた。
馬に乗ったまま街の入り口へ進むと、目の前に男が現れ2人を止めた。
「おおっと待った。ここから先は馬では入れないよ」
「えっ? 馬は街に入っちゃ駄目なのか?」
「そうさ。馬は馬屋で預かる事になってんだ」
「そうなんですか?」
「あんた達降りる気配無かったからな。俺はこの街の馬番やってんだ」
馬番と名乗った男は2人に話を続ける。
「ここで降りてくれ、あんた達の馬を預かるよ。エサ代込みで2頭分、1日10ゴールドだ」
「そっか。預けなきゃないのか」
「それじゃ、お願いします」
「あいよ。お代は出発する時に貰うよ。これ、預かり札な」
「おじさん。こいつら優しい馬だから、仲良くしてくれな?」
「とっても可愛い子達です。よろしくお願いします」
「よしきた、任せてくれ。それじゃ、行ってらっしゃい」
2人は馬達から荷物を下ろし、馬番へ馬を預けると預かり札を受け取った。
2人は街へ入ると、冒険者ギルドを探す。
ギルドは大抵の街の入口近くにあり、すぐに見付かった。
2人は中に入り、受付に挨拶する。
「こんにちはー」
「ユアミから仕事終えて、報告に来ました」
受付の男は2人の挨拶に応える。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ギルド証はあるかい?」
「はい、これ俺の」
「こっちはあたしの」
「…………クリスとカーソンだね? よく来たね」
カーソンは親分の頭が入った袋と、財宝の入った袋を受付のカウンターに置いて話す。
「ユアミからネストの間に居た盗賊団、退治してきたぞ。お宝も集めてきたぞ」
「こっちのギルドで完了報告してもいいって言われました」
カーソンの話を聞き、受付の男は大変驚いた。
「なっ、何だってっ!? あの盗賊団を退治しただって? たった2人でか!?」
「うん。12人いた」
「さっくりと仕留めてきました」
「12人を……たった2人でかっ!?」
「うん。弱かったぞ?」
「数が多ければ強いってワケじゃないですよ?」
受付と2人のやり取りを聞いていた他の冒険者達がどよめきだした。
「これ、親分の首だ」
「こっちはお宝です。確認お願いします」
カーソンが差し出した袋の中身を、受付の男は資料を見ながら確認する。
「額に大きな黒子、左頬に縦2本の古傷…………確かに、こいつで間違いない。しかし、驚いたな。たった2人で始末するとは……」
「で、こっちはあいつらが持ってたお宝だ」
「隠れ家見付けて、親分が身に着けてた物と一緒に全部持ってきました」
「そ、そうか……ホントに潰して来たんだな……」
「うん。みんな殺してきたぞ」
「お宝持ってくれば、追加報酬出るんですよね?」
受付の男はお宝を確認しながら2人に話す。
「……うん。確かに、依頼のあった盗品も入ってる」
「? 依頼のも入ってる?」
「依頼が無いのも入ってました?」
「ああ。依頼に出てたのはこの8品だ。残りのはちょっと待ってくれないか?」
「? 何を待つんだ?」
「何せかなり長いことあそこら一帯荒らし回ってた盗賊団だからな。皆殺しにされて奪われていた盗品も多いのさ」
「あ、そっか。盗まれてたのも分からないお宝なんですね? 持ち主殺されてたから」
「その通り。他にも命からがら逃げた人達もね、奪還依頼かけるお金が無くて泣き寝入りしてたりするんだ」
「そんな酷い奴等だったんだな?」
「皆殺しにして正解だったね?」
「いや……今まで誰もそれが出来なかったから、出所不明の盗品がこんなにある訳なんだが……」
受付の男は、2人が回収した財宝の多さに困惑していた。
盗賊団退治の報告を受け、ギルド職員達は慌ただしく動き回っている。
受付の男は依頼完了を記録したカードと報酬を2人へ渡しながら話す。
「まずはお疲れ様、良くやってくれたな。報酬は契約金と追加分込みでとりあえず10500ゴールド、先に渡しておくよ」
「おーっ! これが大金貨か!」
「やったぁ! お金沢山貯まったね! 後で数えてみよっと」
「今、残りの盗品を調べてるよ。更に追加で報酬出るから、楽しみに待っててくれ」
「もっとお金貰えるのか?」
「やったぁ!」
依頼があった盗品以外の持ち主を調べ、買い戻しの希望があれば2人へ支払われる。
持ち主不明の物はギルドが適性価格で買い取り、そちらも2人へ支払われると説明を受けた。
値段がつき次第2人の冒険者情報に記録され、ギルド預かりの未払い金としてどこの街のギルドでも2人が要求すれば必ず支払われると約束された。
更にお金を貰えると喜ぶ2人に、受付の男は話す。
「ところで君達、この街に暫く居るかい?」
「うーん。とりあえず今晩は泊まりますけど、どうして?」
「君達の腕を見込んで、頼みたい仕事があるんだ」
「仕事?」
「明日また来てくれ。その時に詳しく話すから」
「うん、分かった」
「じゃあ、また来ますね」
受付の男から丁寧に見送られ、2人はギルドを後にした。
宿屋を探しながら、2人は先程の仕事について話し合う。
「俺達に頼みたい仕事って、何だろうな?」
「何だろうね? 難しい依頼なのかもね?」
「難しいのか?」
「無理そうなら断ればいいだけだよ。……見付けた、ここだ」
宿屋を見付けた2人は中に入った。
宿屋の女将が2人へ話しかけてくる。
「いらっしゃい。1部屋40ゴールドだよ。1部屋かい? 2部屋かい?」
クリスは少し考えた後、女将に話す。
「1部屋に2人でお願いします」
「はいよ、1部屋ね? いいねえ若いって、羨ましいねぇ」
「そ、そんなんじゃないです!」
「はい、鍵どうぞ。子作り頑張りなよ?」
「だから違いますってば! もうっ」
女将の勘繰りにクリスは慌てて否定した。
カーソンはクリスに聞く。
「あれ? また部屋一緒でいいのか?」
「別に構わないわよ。だってそうしないと、あんた拗ねるし」
「拗ねてないぞ? ただ、寂しいだけだぞ?」
「それを拗ねるって言うのよ。2部屋取るの勿体無いわ」
「払うお金、一緒だぞ?」
「あたしら出た後、お掃除する部屋ひとつだけで済むでしょ?」
「あ、そうか」
(良くも悪くもイザベラ様のせいで、今コイツ無害だし……寝込み襲われる心配ないもんね)
2人は部屋に入ると、鎧を脱ぎ始めた。
「あー、やっとベッドで寝れる」
「そうだな」
「寝袋や盗賊の寝床なんてさ、ぐっすり眠れないもんね?」
「ごめん、俺ぐっすり寝れた」
「あはは!」
クリスはカーソンの目の前で下着を脱ぎ始める。
「あーあ、下着まで汚れてる。新しい下着買おうかな?」
「クリス、盗賊の血で身体汚れてるぞ? 風呂入らないと」
「そうね、お風呂行こっと。あんたも来る?」
「え? 一緒に入ってもいいのか?」
「……多分、男女に分かれてると思うよ?」
2人は部屋に備え付けてあった浴衣に着替えると、風呂へと向かう。
宿の風呂はひとつだけで、男女関係無く宿泊者が交代で入る仕組みだった。
入り口にかかっている木札には、『未使用』と書かれている。
クリスは木札を裏返し、『使用中』とかけ直す。
「うーん……まぁ、いっか。あんたも一緒に入る?」
「うん。クリスと一緒に風呂入るの、久しぶりだ」
クリスはユアミ村の一件以来、カーソンの事を男として意識しなくなっていた。
2人は脱衣場で服を脱ぎ、裸になると風呂場へ進む。
クリスは木桶で浴槽からお湯を汲み、カーソンへかけて濡らす。
「ほい、頭と身体洗ってから浴槽入ってね?」
「うん。…………?」
「さてと、あたしも洗おっと」
「…………何だこれ?」
カーソンは洗い場の隅に置かれている白い塊に興味を持ち、手を伸ばす。
壁には『石鹸ご自由にどうぞ』と書かれていた。
カーソンは白い塊を両手で掬い取り、匂いを嗅ぐ。
谷で使っていた香油を思い出したカーソンは、身体に擦り付けてみた。
「…………わはっ」
「ん? どしたの?」
「……わははっ!」
「何か面白いものでもあった?」
「クリスぅー! これ、ぬるぬるー!」
「きゃっ!?」
カーソンは身体を白い泡まみれにしながら、クリスへ抱きついた。
背中から抱きつかれたクリスは、カーソンに胸を触られビクッと仰け反る。
カーソンは尚もクリスへ密着し、身体を動かしながら話す。
「ぬるぬる、面白い!」
「あんっ……ちょっ……やめてよ」
「クリスもぬるぬるー!」
「ちょっとっ……やんっ」
「あははは! 石鹸っての、面白いな!」
「このぬるぬるしてるの、石鹸って言うんだ?」
「いい匂いする。これで洗って身体、綺麗にするんじゃないのか?」
「へーっ、人間って面白いモンで洗ってんだね?」
「これ、楽しい! 俺もクリスもぬるぬる!」
「…………ちょっと、あたしにもそれちょうだい」
「うん…………はいこれ」
「…………よーっし! よくもやったわねっ!」
「わっ!? ごめんクリス! あひゃひゃ!」
「仕返しよっ! それそれーっ!」
「うひゃひゃ! くすぐったい! あひゃひゃ!」
「ほれほれー! そりゃそりゃー!」
「うくくっ! 楽しいけどくすぐったい!」
「楽しいねこれ! ほりゃほりゃー!」
「あひゃひゃひゃひゃ!」
「あははは!」
カーソンとクリスは、全身泡まみれになりながら抱き合ってキャッキャと奇声を上げ、お互いをこすりあいながら遊んだ。
深夜、あまりの寒さにクリスは目覚めた。
「布団はボロボロだし、なんか湿気ってるし……臭いし身体は痒くなってくるし……盗賊の寝床使おうなんて失敗したかな……」
隣で寝ているカーソンは大丈夫だろうかと、クリスは起き上がり様子を見る。
カーソンが居るはずの布団には、大きな物体が2つあった。
クリスは物体が何なのか目をこすりながら見ていると、2つの物体は首を持ち上げた。
「…………馬?」
「ヒンッ」
「ブヒンッ」
「くかー…………くかー…………」
「えっ? いつの間に一緒に寝てたの?」
「ブルルッ」
「ブヒン」
「ん? あたしも来いって……言ってるのかな?」
馬達はクリスへ首を上下に振り、何かを訴えかけている。
クリスはこっちに来いと言われてるのかと思い、起き上がると馬達へ近付く。
カーソンは馬達に囲まれ、すやすやと眠っていた。
クリスは恐る恐るカーソンの布団に潜り込むと、横に寝そべり馬達の反応を見る。
馬達は持ち上げていた首を下げ、寝そべると目を瞑る。
馬達の体温でほんのりと暖かい布団。
クリスはカーソンにそっと抱きつき、ボソボソと呟く。
「馬達があんたの事、あっためてくれてたのね?
いいなぁ……あたしも混ぜてよ?
あんたってさ……みんなから愛されてんだね?
トレヴァのお婆さんが言ってた通りだね?
ねえ? あたしも……あっためて……」
カーソンは幸せそうな顔で眠っている。
クリスもカーソンと馬達のぬくもりに包まれ、目を瞑ると意識を手放した。
明け方、目覚めたカーソンは自分の近くにある気配に驚く。
「……あれ? 何でみんな一緒に寝てるんだ?」
「…………あ。おはよう」
「ブフンッ」
「ブヒンッ」
「おはよう。みんな、寒かったのか?」
「馬達があんたの事暖めてくれてたの、知ってた?」
「ううん、知らなかった」
「あたしも寒くて起きたらね、一緒に寝かせてくれたのよ」
「そうなのか。お前達、ありがとな?」
「ヒンッ」
「ブフンッ」
馬達はカーソンとクリスに顔をこすりつけた。
クリスが朝食を作り、昨晩と同じようにみんなで食事をする。
食事を終え、荷物をまとめた2人は馬に乗り、ネストの街へと向かう。
馬達は軽快に走り、途中で休憩や昼食を挟みながら街を目指す。
ネストの街へ着いた頃には陽が傾き、夕方となっていた。
馬に乗ったまま街の入り口へ進むと、目の前に男が現れ2人を止めた。
「おおっと待った。ここから先は馬では入れないよ」
「えっ? 馬は街に入っちゃ駄目なのか?」
「そうさ。馬は馬屋で預かる事になってんだ」
「そうなんですか?」
「あんた達降りる気配無かったからな。俺はこの街の馬番やってんだ」
馬番と名乗った男は2人に話を続ける。
「ここで降りてくれ、あんた達の馬を預かるよ。エサ代込みで2頭分、1日10ゴールドだ」
「そっか。預けなきゃないのか」
「それじゃ、お願いします」
「あいよ。お代は出発する時に貰うよ。これ、預かり札な」
「おじさん。こいつら優しい馬だから、仲良くしてくれな?」
「とっても可愛い子達です。よろしくお願いします」
「よしきた、任せてくれ。それじゃ、行ってらっしゃい」
2人は馬達から荷物を下ろし、馬番へ馬を預けると預かり札を受け取った。
2人は街へ入ると、冒険者ギルドを探す。
ギルドは大抵の街の入口近くにあり、すぐに見付かった。
2人は中に入り、受付に挨拶する。
「こんにちはー」
「ユアミから仕事終えて、報告に来ました」
受付の男は2人の挨拶に応える。
「ようこそ冒険者ギルドへ。ギルド証はあるかい?」
「はい、これ俺の」
「こっちはあたしの」
「…………クリスとカーソンだね? よく来たね」
カーソンは親分の頭が入った袋と、財宝の入った袋を受付のカウンターに置いて話す。
「ユアミからネストの間に居た盗賊団、退治してきたぞ。お宝も集めてきたぞ」
「こっちのギルドで完了報告してもいいって言われました」
カーソンの話を聞き、受付の男は大変驚いた。
「なっ、何だってっ!? あの盗賊団を退治しただって? たった2人でか!?」
「うん。12人いた」
「さっくりと仕留めてきました」
「12人を……たった2人でかっ!?」
「うん。弱かったぞ?」
「数が多ければ強いってワケじゃないですよ?」
受付と2人のやり取りを聞いていた他の冒険者達がどよめきだした。
「これ、親分の首だ」
「こっちはお宝です。確認お願いします」
カーソンが差し出した袋の中身を、受付の男は資料を見ながら確認する。
「額に大きな黒子、左頬に縦2本の古傷…………確かに、こいつで間違いない。しかし、驚いたな。たった2人で始末するとは……」
「で、こっちはあいつらが持ってたお宝だ」
「隠れ家見付けて、親分が身に着けてた物と一緒に全部持ってきました」
「そ、そうか……ホントに潰して来たんだな……」
「うん。みんな殺してきたぞ」
「お宝持ってくれば、追加報酬出るんですよね?」
受付の男はお宝を確認しながら2人に話す。
「……うん。確かに、依頼のあった盗品も入ってる」
「? 依頼のも入ってる?」
「依頼が無いのも入ってました?」
「ああ。依頼に出てたのはこの8品だ。残りのはちょっと待ってくれないか?」
「? 何を待つんだ?」
「何せかなり長いことあそこら一帯荒らし回ってた盗賊団だからな。皆殺しにされて奪われていた盗品も多いのさ」
「あ、そっか。盗まれてたのも分からないお宝なんですね? 持ち主殺されてたから」
「その通り。他にも命からがら逃げた人達もね、奪還依頼かけるお金が無くて泣き寝入りしてたりするんだ」
「そんな酷い奴等だったんだな?」
「皆殺しにして正解だったね?」
「いや……今まで誰もそれが出来なかったから、出所不明の盗品がこんなにある訳なんだが……」
受付の男は、2人が回収した財宝の多さに困惑していた。
盗賊団退治の報告を受け、ギルド職員達は慌ただしく動き回っている。
受付の男は依頼完了を記録したカードと報酬を2人へ渡しながら話す。
「まずはお疲れ様、良くやってくれたな。報酬は契約金と追加分込みでとりあえず10500ゴールド、先に渡しておくよ」
「おーっ! これが大金貨か!」
「やったぁ! お金沢山貯まったね! 後で数えてみよっと」
「今、残りの盗品を調べてるよ。更に追加で報酬出るから、楽しみに待っててくれ」
「もっとお金貰えるのか?」
「やったぁ!」
依頼があった盗品以外の持ち主を調べ、買い戻しの希望があれば2人へ支払われる。
持ち主不明の物はギルドが適性価格で買い取り、そちらも2人へ支払われると説明を受けた。
値段がつき次第2人の冒険者情報に記録され、ギルド預かりの未払い金としてどこの街のギルドでも2人が要求すれば必ず支払われると約束された。
更にお金を貰えると喜ぶ2人に、受付の男は話す。
「ところで君達、この街に暫く居るかい?」
「うーん。とりあえず今晩は泊まりますけど、どうして?」
「君達の腕を見込んで、頼みたい仕事があるんだ」
「仕事?」
「明日また来てくれ。その時に詳しく話すから」
「うん、分かった」
「じゃあ、また来ますね」
受付の男から丁寧に見送られ、2人はギルドを後にした。
宿屋を探しながら、2人は先程の仕事について話し合う。
「俺達に頼みたい仕事って、何だろうな?」
「何だろうね? 難しい依頼なのかもね?」
「難しいのか?」
「無理そうなら断ればいいだけだよ。……見付けた、ここだ」
宿屋を見付けた2人は中に入った。
宿屋の女将が2人へ話しかけてくる。
「いらっしゃい。1部屋40ゴールドだよ。1部屋かい? 2部屋かい?」
クリスは少し考えた後、女将に話す。
「1部屋に2人でお願いします」
「はいよ、1部屋ね? いいねえ若いって、羨ましいねぇ」
「そ、そんなんじゃないです!」
「はい、鍵どうぞ。子作り頑張りなよ?」
「だから違いますってば! もうっ」
女将の勘繰りにクリスは慌てて否定した。
カーソンはクリスに聞く。
「あれ? また部屋一緒でいいのか?」
「別に構わないわよ。だってそうしないと、あんた拗ねるし」
「拗ねてないぞ? ただ、寂しいだけだぞ?」
「それを拗ねるって言うのよ。2部屋取るの勿体無いわ」
「払うお金、一緒だぞ?」
「あたしら出た後、お掃除する部屋ひとつだけで済むでしょ?」
「あ、そうか」
(良くも悪くもイザベラ様のせいで、今コイツ無害だし……寝込み襲われる心配ないもんね)
2人は部屋に入ると、鎧を脱ぎ始めた。
「あー、やっとベッドで寝れる」
「そうだな」
「寝袋や盗賊の寝床なんてさ、ぐっすり眠れないもんね?」
「ごめん、俺ぐっすり寝れた」
「あはは!」
クリスはカーソンの目の前で下着を脱ぎ始める。
「あーあ、下着まで汚れてる。新しい下着買おうかな?」
「クリス、盗賊の血で身体汚れてるぞ? 風呂入らないと」
「そうね、お風呂行こっと。あんたも来る?」
「え? 一緒に入ってもいいのか?」
「……多分、男女に分かれてると思うよ?」
2人は部屋に備え付けてあった浴衣に着替えると、風呂へと向かう。
宿の風呂はひとつだけで、男女関係無く宿泊者が交代で入る仕組みだった。
入り口にかかっている木札には、『未使用』と書かれている。
クリスは木札を裏返し、『使用中』とかけ直す。
「うーん……まぁ、いっか。あんたも一緒に入る?」
「うん。クリスと一緒に風呂入るの、久しぶりだ」
クリスはユアミ村の一件以来、カーソンの事を男として意識しなくなっていた。
2人は脱衣場で服を脱ぎ、裸になると風呂場へ進む。
クリスは木桶で浴槽からお湯を汲み、カーソンへかけて濡らす。
「ほい、頭と身体洗ってから浴槽入ってね?」
「うん。…………?」
「さてと、あたしも洗おっと」
「…………何だこれ?」
カーソンは洗い場の隅に置かれている白い塊に興味を持ち、手を伸ばす。
壁には『石鹸ご自由にどうぞ』と書かれていた。
カーソンは白い塊を両手で掬い取り、匂いを嗅ぐ。
谷で使っていた香油を思い出したカーソンは、身体に擦り付けてみた。
「…………わはっ」
「ん? どしたの?」
「……わははっ!」
「何か面白いものでもあった?」
「クリスぅー! これ、ぬるぬるー!」
「きゃっ!?」
カーソンは身体を白い泡まみれにしながら、クリスへ抱きついた。
背中から抱きつかれたクリスは、カーソンに胸を触られビクッと仰け反る。
カーソンは尚もクリスへ密着し、身体を動かしながら話す。
「ぬるぬる、面白い!」
「あんっ……ちょっ……やめてよ」
「クリスもぬるぬるー!」
「ちょっとっ……やんっ」
「あははは! 石鹸っての、面白いな!」
「このぬるぬるしてるの、石鹸って言うんだ?」
「いい匂いする。これで洗って身体、綺麗にするんじゃないのか?」
「へーっ、人間って面白いモンで洗ってんだね?」
「これ、楽しい! 俺もクリスもぬるぬる!」
「…………ちょっと、あたしにもそれちょうだい」
「うん…………はいこれ」
「…………よーっし! よくもやったわねっ!」
「わっ!? ごめんクリス! あひゃひゃ!」
「仕返しよっ! それそれーっ!」
「うひゃひゃ! くすぐったい! あひゃひゃ!」
「ほれほれー! そりゃそりゃー!」
「うくくっ! 楽しいけどくすぐったい!」
「楽しいねこれ! ほりゃほりゃー!」
「あひゃひゃひゃひゃ!」
「あははは!」
カーソンとクリスは、全身泡まみれになりながら抱き合ってキャッキャと奇声を上げ、お互いをこすりあいながら遊んだ。
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