【R18】ライフセーバー異世界へ

成子

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005 ここは何処なの?

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 気が付くと冷たく暗い場所で私は横たわっていた。

 暗く深い海の底を漂っている様だ。だけれど少しも苦しくない。ああ、冷たいけれども何だろう心地がいい。

 このまま沈んでいられたら──
 眠っていられたら──
 辛い事など忘れてしまえるのに──
 辛い事って?

 その瞬間ザーッと波が起こり水中が渦巻く様だ。渦がはじまっているその先には、笑っている恋人だったしゆうと姉のはるの姿が見える。

 二人は微笑み合っている。

 ああ、美男美女。雑誌から抜け出た様に美しいカップルだ。

 秋は背が高くてサラサラのストレートの髪で後ろは短く切り上げている。前髪は眉にかかるぐらいの長さで、隙間から見えるくっきりした二重の瞳とスラッとした鼻。顎から耳にかけてのラインもスッキリしていてとてもハンサムだった。サッカーで鍛えられた体は彼が勤めているスポーツジムのモデルとしてポスターになるぐらいだ。

 春見はスマートだが出るところは出て、引き締まるところは引き締まるといった女性から見ても理想的な体型だ。ふわっとした栗色の髪に大きな瞳。いつも柔らかく微笑んでくれるが、時折見せる何ともいえない色気があり、同性ですらときめいてしまう。

 比べて私は、水泳選手体特有の広い肩幅と、筋肉質でおっぱいもあるっていうより胸板って感じで。それはお腹は引き締まっていますけれども下手すればそのあたりの男性よりも逞しいシックスパッドが拝める時があったりなかったり。

 秋の隣に並べばちょっとした弟的な感じですけれど。

 微笑み合っていた二人は突然俯いて、徐々に美しい顔をゆがませる。

 何故そんな悲しそうな顔をするの?

 姉の春見は静かに涙を流した。

「私はなつに酷い事を。夏見にちゃんと私の気持ちを伝えてから、秋君の事を受け入れるべきだったのに」

「違うんだ。俺が悪いんだ。俺が心変わりした事をちゃんと夏見に話をしないままにこんな……」

 秋が両手で顔を覆って、くぐもった声で呟いた。声には後悔が滲んでいる。

 それを遠くで見ながら私はどんどん冷めていく。

 皆が皆話をしなかった事を後悔して自分を責める。

 裏切られた私としては、一番悪いのは目の前にいる二人なのではないかと思うけれど。

 そんな私もあの現場で、三人が鉢合わせた時もおちゃらけて本当の気持ちを伝えなかった。

 春見の事は大好きだけれど、コンプレックスもあり何をやってもかなわないと諦め、私自身向き合えなかった。今までそうやって回避する人生だった。

 唯一のよりどころだった水泳だって、特に自慢の出来る成績は残せなかった。社会人になったって就職先が見つからずスイミングスクール、ライフセーバー、海の家のアルバイト、全てが中途半端としか言いようもなく。自信をなくしていた。

 本当の気持ちをぶつけていたら何か変わっていたのかな?

 後悔が胸にチクッと刺さった時、真っ暗だった辺りを照らす光が見えた。

 上を見上げると水面の様に白く光キラキラしたものが見える。ここは海の底だ。

 そうだ。もう一度、自分の気持ちとちゃんと向かい合おう。
 もし伝えた後に関係が壊れてしまったら。
 どうやって関係を修復するかはその後だ。

 そう心に決めて大きく手をかき、水面へ向かって浮上した。

「……ちゃんと話さなきゃ」
 呟いてゆっくりと瞳を開けると、見た事もない天井が目に入った。

 天井には空調を調整する大きな三枚の羽根がついた金属製の扇風機が目に入った。ゆっくりと回りながら、外から入る空気と部屋の中の空気を循環していた。

「あれ?」
 私はクッションの良いベッドの上で枕に埋もれながら目をこすった。白いカバーに入った羽布団が体にかけられていた。

 体を起こして自分の様子を見る。派手な黄色のTシャツやオレンジ色のパンツ、その下に着ていたツーピースのスポーツタイプの水着も全て脱がされていた。代わりに着ていたのは白いロングのシャツ一枚。

 洗い立てのいい香りがする。体は海水につかっていた割にはべたつかない。誰かがきれいに拭いてくれた様だ。髪の毛はやはりお風呂に入ったわけではないので、少しべたついているが、頭皮からミントの香りがする。これも精一杯清潔にしてくれたのだろう。

 ベッドからゆっくりと片足を下ろし部屋中を見わたす。六畳ほどの広さの部屋で、壁も床も木材で出来ていた。きれいに掃除されており、自分が寝ていたベッドの横にあるテーブル上には、水を張った陶器の小さなボウルが置かれている。

 ボウルの水からミントの香りが仄かにする。ベッドの反対側の奥には小さな机と椅子、その隣に本棚がある。本棚には何の本も置かれていない。どれも装飾のないシンプルな家具だ。

 ベッドの側には背もたれのついた木の椅子が置かれている。誰かが座っていたのか椅子の上には本が一冊置いてあった。部屋には一つだけ小窓がついており外から潮の香りがしている。

 まだ日が高いので、町の雑踏のざわめきと海鳥の鳴き声が聞こえた。

「ここは何処なの……」

 全く覚えのない部屋で呆然とするしかなかった。
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