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007 素敵な宿屋
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「歩けるみたいね。じゃぁ、私についてきて?」
赤髪の女性ジルさんは背が高い上に七センチのヒールを履いている。かなりの迫力だ。
ジルさんが金色のヒールをカツカツと音を立てて歩いていく後ろを、私はキョロキョロしながら進む。長い板張りの廊下を、膝下まである白いシャツを着たまま、茶色い革製のスリッパを履きペタペタ歩く。
この階の一番奥の角部屋で眠っていた様だ。ドアを開けると長い廊下となっていた。左側の壁伝いに上半身が見えるぐらいの大きさの窓が、等間隔で設置され明るい光を取り入れている。
窓から外を覗くと、この近辺の建物は白い壁に囲まれている。白い壁と青い空がとても綺麗だ。辺りは同じ様な高さの建物が並んでいる。全て白塗りの壁でオレンジ色の屋根が見えた。
異国情緒あふれるその風景を目にしたら、磯の香りがする風が流れ込んで来た。波の音がかすかに聞こえる。海が近い。私がプラチナブロンドの女性を助けた海だろう。
廊下の右側には扉が四つ、等間隔で並んでいた。私が眠っていた部屋を入れるとこの階には五つの部屋がある事になる。
長い廊下を歩いて突き当たりにたどり着くと階段があった。急勾配で幅は人が二人分程の狭い階段だ。木の板を軋ませながら、おそるおそる四階、三階、二階と下りる。下りた階数で、自分が寝ていたのが五階であるという事が分かった。
二階の階段を下りたら扉があり、ジルさんは鍵を開けて開く。すると綺麗に装飾された階段になっていた。今までと同じ様に部屋が並んでいるが、廊下には壺に生けられた花。壁は板張りではなく白壁に塗られていた。
確か宿屋だと言っていた。この階は泊まれる部屋ではないだろうか。
三階より上の階の部屋は従業員用なのかな。廊下の装飾が異なっている。
宿屋なのに酒場。そして歌い手で踊り子……ショーを見る事が出来る酒場なのか。
思わず足を止めて廊下を奥まで眺めて考えていると、ジルさんが階段下まで一足先に下りて振り向いた。
「ああ、そこはお客用の宿部屋よ。別棟にも泊まる事が出来る部屋はあるけどね。女の子たちの踊りや歌なんかが楽しめる酒場と宿屋が併設しているのがこの辺りの定番なの」
「そ、そうですか『ぐうぅ~』……」
言い終わる前に私の声より大きな音で再びお腹がなった。その大きさに驚いてしまい改めて耳の先まで顔が真っ赤になる。
音の大きさに目を丸くしたジルさんが小さく吹き出すと肩を揺らせて笑った。
「フフ。お昼だから食事を用意していたところなの。ウチのシェフは最高の腕前なのよ。沢山食べてね?」
可愛らしくウインクされて、頷く事しか出来なかった。
とにかくこのお腹のなり具合を落ち着かせる必要があるかも。
一階まで下りると、大きく開けた酒場が広がっていた。樽が壁伝いに積み上がっており、カウンターの奥には棚いっぱいのお酒の瓶が並んでいる。
棚は格子状なので、その奥にある厨房が見え隠れする。酒場の半分程のスペースが奥に広がっており、キッチンとなっている。全て木製や一部石造りだ。
酒場に目を移すと中央には比較的背の高い丸いテーブルが五つ設置されている。一つのテーブルには椅子が六つ並んでいる。椅子は背もたれのない丸椅子タイプで、軽く腰掛けながら簡単な食事やお酒が飲める様になっている。立ち飲み屋に近い様な感じだ。
壁伝いには四角い四人が座れる椅子とテーブルが並んでいる。椅子は中央にあるタイプと異なり背もたれがあり深く座れるタイプだ。隣とは仕切られているのでちょっとした個室の様だ。じっくり食事をする場合はこちらに座った方が良いかもしれない。
壁伝いには窓が開いており、外に行き交う人が見える。明らかに服装が現代と違う。何時か演劇を見た時の……例えるなら昔のヨーロッパの下町の様だ。
ドレスを着ている人はいないが、革のベストやシャツ、ズボンそして足は革製のブーツといった軽装が多い。髪の色はジルさんと同じ赤毛か茶系。そして金髪が多い。
(ここ何処なの? 国が日本じゃないんだけど。私はやっぱり夢を見ているの?)
先ほどからこの疑問について口にしようとすると、話す事をはばかる様にお腹が音を立てるのでひと言も声を出せない。
酒場である店内には人はおらず、厨房から料理のいい香りと、酒瓶の格子棚の隙間からチラチラ見える人が一人だけいた。
厳つい左目に傷のある大男が大きなフライパンを振っている。黒いタンクトップの腕は女性のウエストぐらいありそうだ。
完全にムキムキ逆三角形。左腕の上腕二頭筋にはドクロのマークのタトゥーが見える。もしかして、ジルさんの言っていたシェフってあの人?!
彼の風貌に驚いて思わず心の中で呟く。
(これは夢だ、夢なんだ!)
何故か盗人の様な忍び足でジルさんのあとを付けると、一番奥の壁際の席に座る様に促された。椅子に深く腰をかける。
「さぁ、こっちよ」
「!!!」
目の前に広がる料理に驚き、涎が垂れそうになる。
テーブルの上には、トマトのスープ、チーズがたっぷりのったピザ、きのこが入ったクリームパスタに、スキレットの上に豪快にのった肉の塊。木の器にたっぷり入った色とりどりの生野菜。尻尾の部分が七色という見た事がない魚のアクアパッツァ。どれも二、三人前はある。
「あ、あの~ナツミ? 涎が……ね?」
「はっ! 『ぐぅ~』……」
慌てて口の端をシャツの袖で拭う。涎が垂れそうではなく既に垂れていた。
そしてお腹がなりっぱなしだ。
何なの私のお腹は。壊れた楽器みたいにぐぅぐぅ音を立てるばかり。
恥ずかしくて仕方がない。顔を真っ赤にしながら向かい側に座るジルさんを申し訳なさそうに見る。
ジルさんはクスクス笑いながら、パンと掌を合わせると目の前の美味しそうな食事の前で両手を広げた。
「さぁ、どんどん食べて。あとでみんなも合流する予定だから」
みんなって誰? そう思ったが、とても空腹には勝てそうにない。
私は両手を揃えると小さくお辞儀をし、お腹の音に負けないぐらい大きな声で「頂きます」と言った。
赤髪の女性ジルさんは背が高い上に七センチのヒールを履いている。かなりの迫力だ。
ジルさんが金色のヒールをカツカツと音を立てて歩いていく後ろを、私はキョロキョロしながら進む。長い板張りの廊下を、膝下まである白いシャツを着たまま、茶色い革製のスリッパを履きペタペタ歩く。
この階の一番奥の角部屋で眠っていた様だ。ドアを開けると長い廊下となっていた。左側の壁伝いに上半身が見えるぐらいの大きさの窓が、等間隔で設置され明るい光を取り入れている。
窓から外を覗くと、この近辺の建物は白い壁に囲まれている。白い壁と青い空がとても綺麗だ。辺りは同じ様な高さの建物が並んでいる。全て白塗りの壁でオレンジ色の屋根が見えた。
異国情緒あふれるその風景を目にしたら、磯の香りがする風が流れ込んで来た。波の音がかすかに聞こえる。海が近い。私がプラチナブロンドの女性を助けた海だろう。
廊下の右側には扉が四つ、等間隔で並んでいた。私が眠っていた部屋を入れるとこの階には五つの部屋がある事になる。
長い廊下を歩いて突き当たりにたどり着くと階段があった。急勾配で幅は人が二人分程の狭い階段だ。木の板を軋ませながら、おそるおそる四階、三階、二階と下りる。下りた階数で、自分が寝ていたのが五階であるという事が分かった。
二階の階段を下りたら扉があり、ジルさんは鍵を開けて開く。すると綺麗に装飾された階段になっていた。今までと同じ様に部屋が並んでいるが、廊下には壺に生けられた花。壁は板張りではなく白壁に塗られていた。
確か宿屋だと言っていた。この階は泊まれる部屋ではないだろうか。
三階より上の階の部屋は従業員用なのかな。廊下の装飾が異なっている。
宿屋なのに酒場。そして歌い手で踊り子……ショーを見る事が出来る酒場なのか。
思わず足を止めて廊下を奥まで眺めて考えていると、ジルさんが階段下まで一足先に下りて振り向いた。
「ああ、そこはお客用の宿部屋よ。別棟にも泊まる事が出来る部屋はあるけどね。女の子たちの踊りや歌なんかが楽しめる酒場と宿屋が併設しているのがこの辺りの定番なの」
「そ、そうですか『ぐうぅ~』……」
言い終わる前に私の声より大きな音で再びお腹がなった。その大きさに驚いてしまい改めて耳の先まで顔が真っ赤になる。
音の大きさに目を丸くしたジルさんが小さく吹き出すと肩を揺らせて笑った。
「フフ。お昼だから食事を用意していたところなの。ウチのシェフは最高の腕前なのよ。沢山食べてね?」
可愛らしくウインクされて、頷く事しか出来なかった。
とにかくこのお腹のなり具合を落ち着かせる必要があるかも。
一階まで下りると、大きく開けた酒場が広がっていた。樽が壁伝いに積み上がっており、カウンターの奥には棚いっぱいのお酒の瓶が並んでいる。
棚は格子状なので、その奥にある厨房が見え隠れする。酒場の半分程のスペースが奥に広がっており、キッチンとなっている。全て木製や一部石造りだ。
酒場に目を移すと中央には比較的背の高い丸いテーブルが五つ設置されている。一つのテーブルには椅子が六つ並んでいる。椅子は背もたれのない丸椅子タイプで、軽く腰掛けながら簡単な食事やお酒が飲める様になっている。立ち飲み屋に近い様な感じだ。
壁伝いには四角い四人が座れる椅子とテーブルが並んでいる。椅子は中央にあるタイプと異なり背もたれがあり深く座れるタイプだ。隣とは仕切られているのでちょっとした個室の様だ。じっくり食事をする場合はこちらに座った方が良いかもしれない。
壁伝いには窓が開いており、外に行き交う人が見える。明らかに服装が現代と違う。何時か演劇を見た時の……例えるなら昔のヨーロッパの下町の様だ。
ドレスを着ている人はいないが、革のベストやシャツ、ズボンそして足は革製のブーツといった軽装が多い。髪の色はジルさんと同じ赤毛か茶系。そして金髪が多い。
(ここ何処なの? 国が日本じゃないんだけど。私はやっぱり夢を見ているの?)
先ほどからこの疑問について口にしようとすると、話す事をはばかる様にお腹が音を立てるのでひと言も声を出せない。
酒場である店内には人はおらず、厨房から料理のいい香りと、酒瓶の格子棚の隙間からチラチラ見える人が一人だけいた。
厳つい左目に傷のある大男が大きなフライパンを振っている。黒いタンクトップの腕は女性のウエストぐらいありそうだ。
完全にムキムキ逆三角形。左腕の上腕二頭筋にはドクロのマークのタトゥーが見える。もしかして、ジルさんの言っていたシェフってあの人?!
彼の風貌に驚いて思わず心の中で呟く。
(これは夢だ、夢なんだ!)
何故か盗人の様な忍び足でジルさんのあとを付けると、一番奥の壁際の席に座る様に促された。椅子に深く腰をかける。
「さぁ、こっちよ」
「!!!」
目の前に広がる料理に驚き、涎が垂れそうになる。
テーブルの上には、トマトのスープ、チーズがたっぷりのったピザ、きのこが入ったクリームパスタに、スキレットの上に豪快にのった肉の塊。木の器にたっぷり入った色とりどりの生野菜。尻尾の部分が七色という見た事がない魚のアクアパッツァ。どれも二、三人前はある。
「あ、あの~ナツミ? 涎が……ね?」
「はっ! 『ぐぅ~』……」
慌てて口の端をシャツの袖で拭う。涎が垂れそうではなく既に垂れていた。
そしてお腹がなりっぱなしだ。
何なの私のお腹は。壊れた楽器みたいにぐぅぐぅ音を立てるばかり。
恥ずかしくて仕方がない。顔を真っ赤にしながら向かい側に座るジルさんを申し訳なさそうに見る。
ジルさんはクスクス笑いながら、パンと掌を合わせると目の前の美味しそうな食事の前で両手を広げた。
「さぁ、どんどん食べて。あとでみんなも合流する予定だから」
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