【R18】ライフセーバー異世界へ

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008 人命救助はお腹が減る?

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 まずはスープから。熱さに気をつけながら口にする。トマトベースだが色々な野菜が煮込まれていて野菜のうま味を感じる。

 美味しい~

 隣に添えられた丸いパンは焼きたてで温かい。手でちぎると表面は硬いが中身はもちもちしている。スープを少しパンに染みこませて口に頬張る。噛むとこれまた絶品。ピザのチーズもソースも美味しい。ああ、このパスタもきのことベーコンが絶品!

 美味しい~
 
 そして、そして──このスキレットにのったお肉の塊! 切り分けると肉汁がたっぷり。ミディアムレアのステーキだ! おお! 香草が効いている。

 美味しい~
 
 いちいち美味しいと心の中で感想を(と言っても同じ言葉の繰り返しだが)、顔はニコニコしながら、無言で食べ続ける事二十分。

「……見ていてスカッとするわねぇ」
 目を丸くしながらジルさんが感嘆の声を上げる。両腕をテーブルについてずっと私の食べる姿を見ていたらしい。

 驚く位集中して食べ続けていた。食べても食べてもお腹が空いている。普段なら食べる事がない人数分の食事をしている。

「す、すいません。凄い勢いで食べてしまって」
 私は食べている量、そして無言で食べ咀嚼し続ける自分が急に恥ずかしくなった。
 謝ってどうなるわけでもないのに、恥ずかしくなって手が止まる。

「ううん、そうじゃないのよ。食べ方も綺麗で何より美味しそうに食べるのを見ると、とてもスカッとするし、気持ちいいわ~」
 ジルさんは両手を振って笑う。実に優しい微笑みで思わずこちらが顔を赤らめてしまった。

「さぁドンドン食べて! まだ料理はあるから。シェフのダンも作りがいがあって喜ぶわ!」
「ありがとうございます。でもこれ以上食べ続けたら……」
 本当に全てのお皿を空っぽにしてしまうかも知れない。
 お腹を少しさすってみると結構食べた割にはあまりお腹が膨れていない。

 まだまだ入りそう。本当に? 私のお腹どうなっているの? 

 大食いというわけではないのに……スープ、パン、パスタは完食していた。恐らく大皿取り分けの二、三人分の量はあったはず。

「まぁそうなの? これからみんな集まるから、食事はまだまだあるのよ。そうそう、次の料理がまた美味しいのよ」
 ジルさんがホホホと笑う。

「あの、みんなって?」
 先ほどから誰か来る様な口ぶりだが、今この酒場であるフロアにはジルさんと奥にいるマッチョな強面シェフ以外誰もいない。

 その時だった。薄暗い酒場の入り口のドアが勢い開いて、ベルがカランカランと鳴った。

「こんにちは~ジルさん遅くなってすいません。うわぁ! いい匂い~」
 入り口付近は逆光の為姿がはっきりと見えないが、数人が入ってきた。

「あら、いらっしゃい! 待っていたのよ」
 ジルさんが入ってきた人達に手を振った。

 私は、フォークを握りしめたまま体をねじって振り向く。少しずつだが近づいてくる人達の姿が見える。

 木の板の上をブーツの音をならせて、男性が三人と女性が一人歩いてくる。

「城内で色々あって時間がかかったんですよ。も~お昼にありつけないかと思いました」
 先頭を歩いていたのは、黒いバンダナを頭に巻いている青年だった。

 こげ茶色のウェーブがかかった長めの前髪がバンダナの上から垂れている。真っ白のシャツを羽織り、黒いパンツに膝下まである茶色のブーツを履いていた。

 ジョウナイ? って何だろう。私は彼が何を言っているのかわらず首を傾げてしまう。

「本当に時間がかかったぜ。城ん中の役人は仕事が遅いんじゃねーの? なぁノア?」
 黒バンダナの青年の後ろで、頭一つ飛び抜けている長身の男性が大きな溜め息をついた。

 よく通る低めの声だ。柔らかそうな金髪で襟足が長いウルフヘア。垂れた前髪の間から見える瞳は二重だが少し垂れ目で、眉は綺麗なカーブでつり上がっている。やはり彼も白いシャツと黒いパンツ、茶色のブーツを履いている。浅黒い肌がシャツと対照的でシャツが眩しく見える。

 黒バンダナの青年とは明らかに体格が違っていてがっちり筋肉質なのが分かる。そして背が高いだけではなく足が長い! かなりの男前だ。

 シロ? しろ? ああ、城! ジョウナイって城内の事かな。しかし、どういう事。お城って何。

 次々と疑問が湧く中、彼の腰にぶら下がっている長い剣に思わず驚いた。

 ほ、本物? 生唾をゴクンと飲み込んでしまう。

「まぁ仕方ないんじゃないか。あんなものだろう。報告だけなんだから。しかしザック、あのいい方はないだろう……」
 金髪男性と同じぐらいの身長の男性が呆れた声を上げる。柔らかな声だ。

 プラチナブロンドで、短くカットされ垂れた前髪から見える瞳は切れ長。細い眉と高い鼻、雪の様に白い肌。黒い外套を羽織っているが、下には白いシャツと白いズボンが見える。膝下までの長いブーツは黒いブーツだ。黒い外套の隙間から見える腰元にはやはり剣がぶら下がっている。

 先ほどの金髪男性も男前だが、また方向性が違う。表現するなら「美しい男性」だ。

 こんな美しい男性が世の中にいるんだ! 漫画から出てきた王子様といった感じだ。

「そうですよ。ザック隊長がせっかちなんですよ。怒鳴る事ないでしょう。かわいそうに……城内の新人の兵士、落ち込んでいましたよ。ねぇマリンさん?」
 黒バンダナの青年が非難の声を上げる。

「確かにね、ちょっとかわいそうだったかも」
 鈴の鳴る様な美しい声。

 ウェーブのかかった美しいプラチナブロンドをかき上げ笑いながら溜め息をついた女性がいた。王子様の隣で微笑んだその女性は、白いシンプルなワンピースに、薄い茶色のウエスタンブーツを履いている。ウエスト部分はキュッと絞られており、程よく盛り上がった胸。白い肌に凜とした顔。鎖骨がくっきりと浮かび上がったデコルテ。

 その姿に見覚えがある。そうだ私が助けた彼女だ! 良かった。無事だったんだ。
 心から安堵したが、私の口は開きっぱなしだったと思う。

「マリンまで賛同するなよ……お? ……お前!」
 金髪男性が私の姿を捉え、近くまで来て驚いた声を上げる。

 お前って、私ですよね──

「お前は……」
 プラチナブロンドの王子様もいきなり私を「お前」呼ばわり。私を不審がる恐ろしいほど造形の整った二人の男性。

「こ、こんにちは~」
 私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
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