9 / 168
009 誤解です
しおりを挟む
私を発見すると、先ほどまで和やかに会話をしていた四人の雰囲気は一転した。
特に王子様と金髪男性の二人は、怖い顔つきになって腰の剣に手を置いた。
最初に声を上げたのは王子様だった。
「お前はそこで何をしている」
私が座っている事もあるが、見下ろされる。ブリザードが吹くかの如く冷たい瞳。瞳の色がアイスブルーなので更に冷たく見える。
「何って。ご飯……」
食べていました。
確かに図々しいけれど、そんなに睨みつけられる事なのか。怒りを向けられる意味が分からず、相変わらず間抜けな顔のままで見上げる。
「あらぁノアったら、見て分からないの? 食事をしてるのよ」
私の向かい側に座っていたジルさんがゆったりとした声を上げる。
ジルさんは私の向かい側にまっすぐ座っていたがお尻を中心に九十度回転すると、男性二人に向かって足を組み直す。
王子様はノアという名前らしい。
「ジル! こんな得体の知れない野郎に何故、料理を振る舞ってんだ!」
次に唸り声を上げたのは金髪の男だった。
ジルさんに食ってかかっている。やはり上から睨みつけられる。こちらも少し動けば噛みつかんばかりの勢いだ。
「……得体の知れない野郎」
ボソッとオウム返しで呟く。
「そうですよジルさん。ザック隊長の言う通りです」
黒バンダナの青年が便乗する様に頷いた。
「シン。確かお前はこいつが泳いでいたのを見たと言ったな。子供でも男には間違いないんだ気をつけろ」
黒バンダナの男はシン、この金髪長身の男はザックという名前らしい。
なんだか非常に失礼な事ばかり言われる。
子供でも男には間違いないって……
そこで深い溜め息をついたジルさんが呆れた様に声を上げる。
「もーどうしてそんなに突っかかるの? 色々聞きたい事もあるでしょうけど、あんた達ときたら……」
今度は王子様ノアが、静かに話しはじめる。
「ジル。ここ最近、禁止されている奴隷売買がかなり横行しているんだ。海でも山でも商人の手を逃れた奴隷が見つかっている。この事に便乗して、隣国から間諜をまぎれ込ませている可能性だってあるんだ」
説得する様にひと言ひと言に力を込める。ジルさんに対して凄く心配しているのだろう。
奴隷ってそんなの今でもあるの? 私は物騒な言葉に驚いてしまう。しかし……カンチョウって何だろう?
そこでジルさんがダンと音を立ててテーブルをたたいた。テーブルの上の食事が少しジャンプをした。
「私が言いたいのは、お礼の一つも言えないのかって事よ! マリンを助けてくれた事はどう思っているの!」
今度はジルさんが低い声で唸った。酷くドスがきいている声だった。
「!! それは……」
そこで男性三人が力をなくした様にうなだれたのが分かった。困った様に私を見るとすぐに視線を逸らした。
ジルさんって……何ていい人なの! もしかしてこの中で一番男前なのでは? そういえば先ほども起きた時一番にお礼を言ってくれたっけ。
私は感動して心があたたかくなった。
「そうよまずは、私にお礼を言わせて」
男性三人が壁になってすっかり姿が隠れていた、プラチナブロンドの女性が歩み出た。
「マリン!」
ノアとザックが声を揃えて前に出た彼女を呼び止める。
声の持ち主は、海で溺れていた彼女だ。
「無事だったんですね」
必死にした人命救助は無駄では無かった。
美しいお人形さんの様な顔だった。
瞳は海の底の色に似た美しいブルー。ピンク色の薄い唇が綺麗な弧を描いて微笑んだ。
「ありがとうございました。あの時、海の底から現れて助けてくれなかったら、私は生きていなかったと思います。本当に感謝しています」
手を出して握手を求められた。白く細い指。
凄いこんなに綺麗な人がいるんだ……ポーッと見惚れながら私も椅子から立ち上がって、ゴシゴシと手をシャツで手を拭くと握手をした。
握手をしたら周りの男性がピクッと動いて凄く警戒しているのが分かる。
そんなに警戒しなくても、どう考えたって体格差からして力ではかなわないと思うんですけれども……
マリンはニッコリ笑って握った手を見つめながら驚いた様な声を上げる。
「小さな手で驚きました。海の底で助けてくれた時はもっと力強い手だったと思っていたから。柔らかくてツヤツヤしていて……そう、なんだか女の子と握手しているみたいだわ」
この女性も勘違いしているのか。苦笑いしかない。
そりゃそうか、豪快に海から引きあげたから男と思われても仕方がないか。
私は「柔らかくてツヤツヤしていて」という言葉の下りに、すっかり気をよくしてしまい、勘違いされている事など、どうでもよくなってしまった。
「実は私、女子なんです。最近はあんまり男の子に間違われなくなったんですけど。まぁ、男の子に間違われるのはよくある事なので、あまり気にはならないですけどっ……て、柔らかくてツヤツヤとか言われると照れちゃいますね、アハハハ……何言ってるんだろう私……」
凄く恥ずかしくなって鼻の頭を掻いてしまう。
「「「「え?!」」」」
その時、ビックリするぐらい大きな四重奏の声が聞こえた。
「はい?」
笑った顔のまま周りを見回すと、ジルさん以外のメンバーがもの凄い目を丸くして、口を開け中腰で固まっている。
数秒の時間が過ぎただろうか、握手をしているマリンさんが気が付いた様に声を上げる。
「ごっ、ごめんなさい! 私ずっと男の子だと思っていて。え?! え?! ど、どうしよう……」
とても落ち着いていたのに、突然パニックに陥っていた。
少し可愛らしいその姿に私は少し吹き出してしまった。
「ぷっ」
失礼な事言われているのは私なのに、この反応は少し面白い。
そこで、ずっと肩を揺らして吹き出すのを我慢していたジルさんがとうとう声を上げた。
「ぷっ、くふふ。うふっ。あっはっは。もう駄目、笑えるわ。アハハハ! 嫌だわ~何でナツミが笑うの。あなたは怒るところでしょ? こんな失礼な事言われているのに」
もう我慢できないといった感じでジルさんが天を仰いで笑い転げた。
「そうなんですけど、みんなの顔がおかしくって。ふっ、ぷぷぷ。あ、駄目! アハハハ」
私もジルさんとテーブルをたたきながら、おかしくて笑い転げた。
そして──置いてけぼりになった男性達が動き出すには後、数秒必要だった。
特に王子様と金髪男性の二人は、怖い顔つきになって腰の剣に手を置いた。
最初に声を上げたのは王子様だった。
「お前はそこで何をしている」
私が座っている事もあるが、見下ろされる。ブリザードが吹くかの如く冷たい瞳。瞳の色がアイスブルーなので更に冷たく見える。
「何って。ご飯……」
食べていました。
確かに図々しいけれど、そんなに睨みつけられる事なのか。怒りを向けられる意味が分からず、相変わらず間抜けな顔のままで見上げる。
「あらぁノアったら、見て分からないの? 食事をしてるのよ」
私の向かい側に座っていたジルさんがゆったりとした声を上げる。
ジルさんは私の向かい側にまっすぐ座っていたがお尻を中心に九十度回転すると、男性二人に向かって足を組み直す。
王子様はノアという名前らしい。
「ジル! こんな得体の知れない野郎に何故、料理を振る舞ってんだ!」
次に唸り声を上げたのは金髪の男だった。
ジルさんに食ってかかっている。やはり上から睨みつけられる。こちらも少し動けば噛みつかんばかりの勢いだ。
「……得体の知れない野郎」
ボソッとオウム返しで呟く。
「そうですよジルさん。ザック隊長の言う通りです」
黒バンダナの青年が便乗する様に頷いた。
「シン。確かお前はこいつが泳いでいたのを見たと言ったな。子供でも男には間違いないんだ気をつけろ」
黒バンダナの男はシン、この金髪長身の男はザックという名前らしい。
なんだか非常に失礼な事ばかり言われる。
子供でも男には間違いないって……
そこで深い溜め息をついたジルさんが呆れた様に声を上げる。
「もーどうしてそんなに突っかかるの? 色々聞きたい事もあるでしょうけど、あんた達ときたら……」
今度は王子様ノアが、静かに話しはじめる。
「ジル。ここ最近、禁止されている奴隷売買がかなり横行しているんだ。海でも山でも商人の手を逃れた奴隷が見つかっている。この事に便乗して、隣国から間諜をまぎれ込ませている可能性だってあるんだ」
説得する様にひと言ひと言に力を込める。ジルさんに対して凄く心配しているのだろう。
奴隷ってそんなの今でもあるの? 私は物騒な言葉に驚いてしまう。しかし……カンチョウって何だろう?
そこでジルさんがダンと音を立ててテーブルをたたいた。テーブルの上の食事が少しジャンプをした。
「私が言いたいのは、お礼の一つも言えないのかって事よ! マリンを助けてくれた事はどう思っているの!」
今度はジルさんが低い声で唸った。酷くドスがきいている声だった。
「!! それは……」
そこで男性三人が力をなくした様にうなだれたのが分かった。困った様に私を見るとすぐに視線を逸らした。
ジルさんって……何ていい人なの! もしかしてこの中で一番男前なのでは? そういえば先ほども起きた時一番にお礼を言ってくれたっけ。
私は感動して心があたたかくなった。
「そうよまずは、私にお礼を言わせて」
男性三人が壁になってすっかり姿が隠れていた、プラチナブロンドの女性が歩み出た。
「マリン!」
ノアとザックが声を揃えて前に出た彼女を呼び止める。
声の持ち主は、海で溺れていた彼女だ。
「無事だったんですね」
必死にした人命救助は無駄では無かった。
美しいお人形さんの様な顔だった。
瞳は海の底の色に似た美しいブルー。ピンク色の薄い唇が綺麗な弧を描いて微笑んだ。
「ありがとうございました。あの時、海の底から現れて助けてくれなかったら、私は生きていなかったと思います。本当に感謝しています」
手を出して握手を求められた。白く細い指。
凄いこんなに綺麗な人がいるんだ……ポーッと見惚れながら私も椅子から立ち上がって、ゴシゴシと手をシャツで手を拭くと握手をした。
握手をしたら周りの男性がピクッと動いて凄く警戒しているのが分かる。
そんなに警戒しなくても、どう考えたって体格差からして力ではかなわないと思うんですけれども……
マリンはニッコリ笑って握った手を見つめながら驚いた様な声を上げる。
「小さな手で驚きました。海の底で助けてくれた時はもっと力強い手だったと思っていたから。柔らかくてツヤツヤしていて……そう、なんだか女の子と握手しているみたいだわ」
この女性も勘違いしているのか。苦笑いしかない。
そりゃそうか、豪快に海から引きあげたから男と思われても仕方がないか。
私は「柔らかくてツヤツヤしていて」という言葉の下りに、すっかり気をよくしてしまい、勘違いされている事など、どうでもよくなってしまった。
「実は私、女子なんです。最近はあんまり男の子に間違われなくなったんですけど。まぁ、男の子に間違われるのはよくある事なので、あまり気にはならないですけどっ……て、柔らかくてツヤツヤとか言われると照れちゃいますね、アハハハ……何言ってるんだろう私……」
凄く恥ずかしくなって鼻の頭を掻いてしまう。
「「「「え?!」」」」
その時、ビックリするぐらい大きな四重奏の声が聞こえた。
「はい?」
笑った顔のまま周りを見回すと、ジルさん以外のメンバーがもの凄い目を丸くして、口を開け中腰で固まっている。
数秒の時間が過ぎただろうか、握手をしているマリンさんが気が付いた様に声を上げる。
「ごっ、ごめんなさい! 私ずっと男の子だと思っていて。え?! え?! ど、どうしよう……」
とても落ち着いていたのに、突然パニックに陥っていた。
少し可愛らしいその姿に私は少し吹き出してしまった。
「ぷっ」
失礼な事言われているのは私なのに、この反応は少し面白い。
そこで、ずっと肩を揺らして吹き出すのを我慢していたジルさんがとうとう声を上げた。
「ぷっ、くふふ。うふっ。あっはっは。もう駄目、笑えるわ。アハハハ! 嫌だわ~何でナツミが笑うの。あなたは怒るところでしょ? こんな失礼な事言われているのに」
もう我慢できないといった感じでジルさんが天を仰いで笑い転げた。
「そうなんですけど、みんなの顔がおかしくって。ふっ、ぷぷぷ。あ、駄目! アハハハ」
私もジルさんとテーブルをたたきながら、おかしくて笑い転げた。
そして──置いてけぼりになった男性達が動き出すには後、数秒必要だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる