【R18】ライフセーバー異世界へ

成子

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009 誤解です

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 私を発見すると、先ほどまで和やかに会話をしていた四人の雰囲気は一転した。

 特に王子様と金髪男性の二人は、怖い顔つきになって腰の剣に手を置いた。
 最初に声を上げたのは王子様だった。

「お前はそこで何をしている」
 私が座っている事もあるが、見下ろされる。ブリザードが吹くかの如く冷たい瞳。瞳の色がアイスブルーなので更に冷たく見える。

「何って。ご飯……」
 食べていました。

 確かに図々しいけれど、そんなに睨みつけられる事なのか。怒りを向けられる意味が分からず、相変わらず間抜けな顔のままで見上げる。

「あらぁノアったら、見て分からないの? 食事をしてるのよ」
 私の向かい側に座っていたジルさんがゆったりとした声を上げる。

 ジルさんは私の向かい側にまっすぐ座っていたがお尻を中心に九十度回転すると、男性二人に向かって足を組み直す。

 王子様はノアという名前らしい。

「ジル! こんな得体の知れない野郎に何故、料理を振る舞ってんだ!」
 次に唸り声を上げたのは金髪の男だった。

 ジルさんに食ってかかっている。やはり上から睨みつけられる。こちらも少し動けば噛みつかんばかりの勢いだ。

「……得体の知れない野郎」
 ボソッとオウム返しで呟く。

「そうですよジルさん。ザック隊長の言う通りです」
 黒バンダナの青年が便乗する様に頷いた。

「シン。確かお前は泳いでいたのを見たと言ったな。子供でも男には間違いないんだ気をつけろ」
 黒バンダナの男はシン、この金髪長身の男はザックという名前らしい。

 なんだか非常に失礼な事ばかり言われる。
 子供でも男には間違いないって……

 そこで深い溜め息をついたジルさんが呆れた様に声を上げる。

「もーどうしてそんなに突っかかるの? 色々聞きたい事もあるでしょうけど、あんた達ときたら……」

 今度は王子様ノアが、静かに話しはじめる。

「ジル。ここ最近、禁止されている奴隷売買がかなり横行しているんだ。海でも山でも商人の手を逃れた奴隷が見つかっている。この事に便乗して、隣国からかんちようをまぎれ込ませている可能性だってあるんだ」
 説得する様にひと言ひと言に力を込める。ジルさんに対して凄く心配しているのだろう。

 奴隷ってそんなの今でもあるの? 私は物騒な言葉に驚いてしまう。しかし……カンチョウって何だろう?

 そこでジルさんがダンと音を立ててテーブルをたたいた。テーブルの上の食事が少しジャンプをした。

「私が言いたいのは、お礼の一つも言えないのかって事よ! マリンを助けてくれた事はどう思っているの!」
 今度はジルさんが低い声で唸った。酷くドスがきいている声だった。

「!! それは……」
 そこで男性三人が力をなくした様にうなだれたのが分かった。困った様に私を見るとすぐに視線を逸らした。

 ジルさんって……何ていい人なの! もしかしてこの中で一番男前なのでは? そういえば先ほども起きた時一番にお礼を言ってくれたっけ。

 私は感動して心があたたかくなった。

「そうよまずは、私にお礼を言わせて」
 男性三人が壁になってすっかり姿が隠れていた、プラチナブロンドの女性が歩み出た。

「マリン!」
 ノアとザックが声を揃えて前に出た彼女を呼び止める。

 声の持ち主は、海で溺れていた彼女だ。

「無事だったんですね」
 必死にした人命救助は無駄では無かった。

 美しいお人形さんの様な顔だった。
 瞳は海の底の色に似た美しいブルー。ピンク色の薄い唇が綺麗な弧を描いて微笑んだ。

「ありがとうございました。あの時、海の底から現れて助けてくれなかったら、私は生きていなかったと思います。本当に感謝しています」
 手を出して握手を求められた。白く細い指。

 凄いこんなに綺麗な人がいるんだ……ポーッと見惚れながら私も椅子から立ち上がって、ゴシゴシと手をシャツで手を拭くと握手をした。

 握手をしたら周りの男性がピクッと動いて凄く警戒しているのが分かる。

 そんなに警戒しなくても、どう考えたって体格差からして力ではかなわないと思うんですけれども……

 マリンはニッコリ笑って握った手を見つめながら驚いた様な声を上げる。
「小さな手で驚きました。海の底で助けてくれた時はもっと力強い手だったと思っていたから。柔らかくてツヤツヤしていて……そう、なんだか女の子と握手しているみたいだわ」
 この女性も勘違いしているのか。苦笑いしかない。
 そりゃそうか、豪快に海から引きあげたから男と思われても仕方がないか。

 私は「柔らかくてツヤツヤしていて」という言葉の下りに、すっかり気をよくしてしまい、勘違いされている事など、どうでもよくなってしまった。
 
「実は私、女子なんです。最近はあんまり男の子に間違われなくなったんですけど。まぁ、男の子に間違われるのはよくある事なので、あまり気にはならないですけどっ……て、柔らかくてツヤツヤとか言われると照れちゃいますね、アハハハ……何言ってるんだろう私……」

 凄く恥ずかしくなって鼻の頭を掻いてしまう。

「「「「え?!」」」」
 その時、ビックリするぐらい大きな四重奏の声が聞こえた。

「はい?」
 笑った顔のまま周りを見回すと、ジルさん以外のメンバーがもの凄い目を丸くして、口を開け中腰で固まっている。
 数秒の時間が過ぎただろうか、握手をしているマリンさんが気が付いた様に声を上げる。

「ごっ、ごめんなさい! 私ずっと男の子だと思っていて。え?! え?! ど、どうしよう……」
 とても落ち着いていたのに、突然パニックに陥っていた。

 少し可愛らしいその姿に私は少し吹き出してしまった。
「ぷっ」
 失礼な事言われているのは私なのに、この反応は少し面白い。

 そこで、ずっと肩を揺らして吹き出すのを我慢していたジルさんがとうとう声を上げた。

「ぷっ、くふふ。うふっ。あっはっは。もう駄目、笑えるわ。アハハハ! 嫌だわ~何でナツミが笑うの。あなたは怒るところでしょ? こんな失礼な事言われているのに」

 もう我慢できないといった感じでジルさんが天を仰いで笑い転げた。

「そうなんですけど、みんなの顔がおかしくって。ふっ、ぷぷぷ。あ、駄目! アハハハ」

 私もジルさんとテーブルをたたきながら、おかしくて笑い転げた。

 そして──置いてけぼりになった男性達が動き出すには後、数秒必要だった。
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