【R18】ライフセーバー異世界へ

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066 オベントウ大作戦 その2

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「さぁ、ナツミ、待っていたぞ。本当に食べるんだな? それを」
 ダンさんが私のお皿に載っている薄焼き卵を巻いた、三つのおにぎりを指差した。どうもダンさんには米を丸めて固めただけの物体に見えるらしい。
「もちろん食べますよ。お腹ペコペコだし。ああ、美味しそう……」
 私はおにぎりの載ったお皿を目線に挙げてうっとり呟く。
 ダンさんの部下である料理人二人もダンさんと同じ様におにぎりを見つめていた。
「美味そうかぁ? それ。すっかり冷えているだろう。理解できないなぁ米を携帯しようなんて。バゲットで挟んだサンドが良いと思うが。そもそもそんなに卵で全部を覆い隠したら中身が分からないだろ」
 料理人の一人が顎の不精ひげを撫でながら首を傾げていた。ダンさんと同じ様に頭はつるりと毛が剃られており黒いバンダナを巻いている。浅黒い肌と隆々とした筋肉。料理人は皆黒いタンクトップ着用でムキムキじゃないとダメなのかと思う程ダンさんとシルエットが似ている。
「中身は分かってますよ。あれ? でもこの三種類、どれが何の中身だっけ」
 具は三種類で、鶏肉の入ったトマトご飯と、魚介類がたっぷり入ったパエリア、そしてハーブで味付けした大きな肉団子が入っているもの。どれもお昼の残り物だ。それを海苔がないので、薄焼き卵でくるりと全てを巻いてみた。しかし、全てを巻いたせいで何が入っているのか分からなくなった。更に私が欲張りなせいで、おにぎりは大きくなって特大になってしまった。
「どの『ひよこ』に何が入っているのか、分からなくなったの?」
 隣でニコがおにぎりを『ひよこ』と呼ぶ。
「だから、これは海苔の代わりの薄焼き卵で『ひよこ』ではないよ」
 私は『ひよこ』を改めて否定した。

 そもそもご飯はお皿に入っているか握っているかの違いだけなのに。
 それにおにぎりは冷たくなっても比較的抵抗なく食べる事が出来るのに。



 事の始まりは、ニコと旅人の部屋掃除に取りかかろうと厨房から去ろうとした時だった。
 ダンさんがお昼の残り物を別皿に移し替えていた。今日はご飯類の昼食が多かったので、微妙に残った物をどうするか考えている様だった。
「……俺が喰うか。中途半端な量だし」
 と、呟いていたのを聞いたので、私が何の気なしに言った一言が発端だった。
「白いご飯は塩味だけのおにぎりにしてもらったら、私は夕食代わりに食べますよ。ご飯大好きだし」
「は?」
 おにぎり──が伝わらなかったのかダンさんが首を傾げてしまった。
「ああ、おにぎりっていうのは──」
 そこから話が坂道を転げ落ちる(それこそ)おにぎりの様に進んだ。
 そこで私は実践の為、残った白いご飯にこれまた残り物のハーブで味付けした肉団子を真ん中に入れて角の丸い三角にしてみた。
 その工程を無言で見つめていたダンさんが最後に呟いた。
「何だそりゃぁ。丸めただけじゃないか。しかも、微妙に三角だが、丸くしたかったのか?」
 うっ。調子に乗って大きくしすぎた。おにぎりの三角のフォルムが保てていない。ハーブ肉団子が大きかったからかな。
「でもしっかり味付けしたハーブ肉団子が入っているし、ご飯も一緒に食べられるし一石二鳥ですよ?」
「ううーん。まぁそうだが。米を手掴みで丸めはじめた時はこっちの目が丸くなったぞ。まぁ、手も綺麗に洗っているし問題ないだろうが、夕方には冷えてしまうだろ。表面だってパサパサするだろうし。それでは、美味くなくなるだろ。ん? 結構柔らかくて形も崩れやすそうだな」
「うーん、冷えるのは多分問題ないと思うんですけれども。乾燥するし崩れやすいかぁ。固く握ると美味しくないし、海苔はないし。あっ、そうだ何かで巻けば大丈夫かな」
「のり? 巻くってこれを巻くのか?」
「そうだ。卵焼きで巻けばいいかな」
「卵を焼くって、焼いて包むってどうやって」 
 どうも目玉焼きを想像している様だ。それは巻けないですよね。
 私はダンさんに薄焼き卵を作ってもらい卵でひとまず巻いてみた。
「これで大丈夫です。乾燥も防ぐ事が出来ます」
 私はダンさんの鼻先に薄焼き卵で巻いたおにぎりを差し出した。
 ダンさんは分かった分かったと子どもをあやす様に私の肩を二回叩いた。
「何だか『ひよこ』が丸くなっているみたいだね」
 ずっと無言で見つめていたニコが、薄焼き卵を焼いたおにぎりを見つめて呟いていた。
「違うよ。もう、とにかく私が後で食べますから」
 そう言ってダンさんにおむすびを托すと、私とニコは厨房を後にした。



 旅人が泊まった部屋の掃除は数部屋あったので全てが終わったら夕方になっていた。

 お腹も空いて夜の仕事前におにぎりを食べようと喜々として厨房に訪れた。
 だって、ニコが掃除の最中ずっとおにぎりについて聞いてくるから、輪をかけてお腹が空いてしまった。
 そしてお腹がペコペコの私が厨房に入ると──
「な、何事?」
 ダンさんをはじめ夜の営業の準備をしていた他の料理人が「待っていたぞ」と言い、作業台に置いたお皿に載ったおにぎりの前に私が座る為の椅子を用意していた。

 私がこの奇妙な食べ物であるおにぎりを食べる姿を見る為にわざわざ時間を空けて待っていたそうだ。



 で、今に至るのだが。
「皆大げさだよ……まぁ、私としては、どれでも美味しそうですけれども。では! いただきます」
 私は皆が見つめる中、両手を合わせる。そして一つおにぎりを選び右手で掴むと一口食べた。

 私が口を開けた瞬間、見つめているダンさんと料理人の二人、そしてニコも口を開け私と同じタイミングで口を閉じていた。
 エアおにぎり。何なのだ皆一体……
「モグモグ。うん! 美味しいです。でも、残念ながら具に到達していない。という事は塩むすびなので、ハーブの肉団子が入っているおにぎりですね」
 他の二種類はご飯が赤かったり、黄色かったりするのだがこれは唯一白いお米だった。卵とご飯が美味しい。
「具に到達って。ああ真ん中に具が入っているのか。へぇー。何だそうなっているのか。白い飯に塩を混ぜたのか。なるほど」
 覗き込んだ料理人の一人が私が囓った部分をマジマジ見つめていた。まだ肉団子の姿は見えていない。
 一体どうなっていると思ったのか。まぁ、握る行程を見ていないから黄色くて丸い物体だと思っていたのだろう。
「ナツミ本当に美味しいのかい? 意地張って美味しくないのに美味しいとか言っていたりしない? だってそれは冷えているんでしょ」
 ニコが眉を下げて首を傾げた。
「もう皆酷い言い様……」
 これで実は海苔って言う黒い物で包むって言ったら皆もっと嫌がるのだろうな……
 私はもう一口囓ろうと大きな口を開けた時だった。

「お疲れー! 皆揃って何してんだ?」
「ニコもナツミもいるじゃないか」
 無事に仕事を終えたザックとノアが服を着替え、モスグリーンのエプロンを着けて厨房にやってきた。軍人から切りかえて『ジルの店』を手伝う姿となっている。
「二人共お疲れ。きちんと手は洗ったんだろうな?」
 料理人の一人がザックとノアの肩に軽くパンチを入れて厨房の中に迎え入れた。
「当たり前だろ、洗ったよ。なぁ、今日は手伝う前に何か喰わしてくれねぇ? 昼喰い損ねて腹が減って。お、ナツミ何喰ってんだ? 黄色い……何だそれは」
 ザックが座る私の真後ろに立ち上から覗き込む。厨房のランプの光が遮られ暗くなる。
「まさか……『ひよこ』を喰っているのか? お前は何でも喰うんだな」
 ザックの隣から感嘆の声を上げ覗き込むのはノアだった。更に影が濃くなる。
「だから『ひよこ』じゃないし……モグ」
 私はいい加減、嫌気がさし否定の言葉を口にするのも面倒臭くなった。話すのを拒む様に一口おにぎりを口にする。ご飯を頬張ると美味しさで幸せになる。

 美味しい~塩むすびってシンプルでいいなぁ。塩加減がちょうどいい。

 私の無言の笑顔を、皆がずっと見続けている。
 
 ああ、早くハーブの肉団子が出てこないかなぁ。

 そう思って無言で食べ進める。三口目を頬張ろうとした時だった。
 突然ザックが私のおにぎりを持っていた右手ごと大きな手で握りしめる。そして、グイッと上に引っ張って自分の口元に持っていくと、大きく口を開けおにぎりを囓った。
「ああー!」
 私は思わず声を上げてしまう。ザックの一口は大きくておにぎりが半分消えた。

「モグモグ……ゴックン。何だこれ! 美味いなぁ。えっ? しかも中から肉団子が出て来たぞ!」
 私の右手とおにぎりを握ったまま、ザックは囓った断面を皆に見せる。
「おぉ~」
 皆が断面に登場したハーブ肉団子を見て拍手をした。
「もう。囓った断面を見せたりしないでよ。それより、私のおにぎりを──」
 返して、と言おうとしたら、相当お腹が減っているのかザックがパク、パクッとおにぎりを二口で食べてしまった。
「ああー!」
 ザックはモグモグ口を忙しなく動かしてあっという間に飲み込んでしまう。私は叫んで呆然とする。
 ザックそれは早すぎるよ。もっと噛んで食べてっ! ではなくて。
「私のおにぎりがっ──」
 消えた、ザックの口の中に。
 そして憎らしい事にザックはとびきりの笑顔で太陽の様に笑う。
「何だよこれ、凄く美味かった。腹が減ってたから助かった!」
「え? う、うん」
 白い歯を見せて笑って私の肩をポンポンと叩いた。余りの少年の様な笑い方に私は見とれてしまい、文句を言うのを忘れてしまう。
 お昼を食べ損ねたと言っていたので相当お腹が減っていたのだろう。大きなおにぎりが三口でザックの中に消えてしまった。
「ザック、それは冷めていたし、ハーブ肉団子のまわりはただの白い飯に塩を振っただけだぞ。本当に美味かったか?」
 ダンさんが首を傾げて残ったおにぎり二つを指差す。
「え? そうなのか。確かに突然肉が出て来て驚いたけど。美味かったぜ~。俺はもう少し大きくても喰えるけど、このぐらいの大きさで、二個ぐらいの方がちょうどいいかな」
 と言って、ザックは二つ目のおにぎりを手に取り、パクッと囓ってしまった。
「ああっ!」
 私は小声を上げて両手で口を押さえ、ザックが囓ったおにぎりを見つめる。途端にザックは目を見開き、慌てて咀嚼して飲み込んだ。
「おお。今度は赤いのが出て来た。って、これトマトで炊いたやつか!」
「え? どれどれ。あ、本当だ。これも米か。鶏肉が入っている。美味そうだな」
 と言って隣のノアはザックが囓ったおにぎりの断面を覗いていた。
「これも美味いなぁ。少し味が薄い様な気がするけれど──冷えてても喰えるぞ」
 ザックはどんどんおにぎりを食べ進めてしまう。

 あっ。私の──

「へぇ。じゃぁ、こっちは何だ?」
 突然ノアの手が伸びてきて最後の一つ、魚介類が入ったパエリアおにぎりが連れ去られてしまう。
「あっ!」
 慌てて制しようと思ったのにあっさりノアに最後の一つのおにぎりを囓られてしまう。
 ノアも囓った途端、王子様の様に美しい顔をパッと輝かせて口をモグモグ動かし慌てて飲み込む。
「これは……パエリアが出て来た!」
「おお~」
 三種類のおにぎりの中身が皆に披露され響めきが起こる。特に中の具を知らなかった料理人二人は拍手をしていた。

 だからね、拍手ではなくてね。私の──

「ああ、美味いなぁ。冷えても喰えるもんだな。腹が空いていたから助かった」
 ノアまでもがモグモグとおにぎりを食べ進め、三種類のおにぎりはザックのノアのお腹に入ってなくなっていた。
「黄色いから『ひよこ』かと思ったけど。もしかして、ダンの新作試食会だったのか? ナツミ、悪かったなぁ。ダン、凄く美味かったぞ。これは何だったんだ?」
 ザックまでもが『ひよこ』だと思っていたみたいだ。私の肩を再びポンポンと叩くが私は力が抜けてしまう。

 私の──

「結構いいなぁ。サンドみたいに片手で直ぐに食べられるし。中身が分からなくて驚いたけど」
 ノアまでもが感想をダンさんに伝えていた。
「い、いや。これは俺の試食会ではなくてだな。まぁ、中身は元々俺の料理なんだが」
「ナツミのおにぎりっていう食べ物の見学だったと言うか」
 事情を知っているダンさんとニコが私の後ろに控えているノアとザックを苦笑いで説明をしてくれた。
「「え? 見学?」」
 何の事だか分からず首を傾げたノアとザックが私を覗き込んだ。

「もう酷いよ、二人共。確かにお昼ご飯を食べられなかったのは可哀相だけど。今度は私の夕ご飯がなくなったよっ!」
 しかも、皆に『ひよこ』と馬鹿にされても楽しみにしていたおにぎりがなくなったっ!

 私は何故か悔しくなり立ちあがってザックとノアの胸板をポカポカ叩いた。
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