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073 オベントウ大作戦 その3
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厨房に入ると腕を組んだダンさんが立っていた。つるりとしている頭には黒いバンダナを巻いていて、黒のタンクトップといつも着ているモスグリーンのエプロン姿だった。
そして、厨房の真ん中にある作業台には、白いお皿が二つ用意されている。それぞれのお皿に、薄焼き卵を巻いたおにぎりが一つずつのっていた。
「昨日私が作ったものと同じ大きさですね。私より三角に近い形ですね。流石ダンさん、口頭で説明しただけなのに再現出来るなんて」
私は小さく手を叩いた。私が昨日おにぎりを作った時は、元々大きなハーブ肉団子のまわりにご飯を包んだのでいびつな形になってしまった。
ダンさんは手も大きく器用だからこの程度のおにぎりは簡単なのだろう。
「あれ? このおにぎりは囓ったあとがあるね」
見ると、片方のおにぎりの頂点は囓られていた。
「それは僕が食べたんだけど。ねぇ、ナツミも食べてみてよ。……驚くかもしれない」
ニコが笑いながら困った様な顔をした。そして後半は私の耳元で小さく囁く。
「え? 私が食べても良いんですか?」
ニコの言葉に私は顔を上げてダンさんを見つめるとダンさんが顎をさすりながら頷いた。
「ああ。昨日ナツミが、米をにぎるのを思い出しながらにぎったんだ。もちろんハーブ肉団子が入っている」
「そうなんですね! 私昨日食べられなかったから楽しみだなぁ~」
私は言いながら洗い場で手を洗い、おにぎりの前の椅子に座る。
「中々良い感じだと思うんだが、ニコは食べてから口をきいてくれなくてなぁ」
ダンさんが納得がいかないという様子で首を捻る。
「だって。あんまり……」
ダンさんに対してニコは本当に困った様子で口を尖らし呟いていた。その後に続く感想は、好意的ではない様だ。
「あんまり美味しくなかったって事?」
私は歯切れの悪いニコに尋ねた。
残念だなぁ。おにぎりはとても美味しいのに。
すると、私の台詞に片目を見開きショックを受けたのはダンさんだった。
「そうなのか! いい塩加減で出来たと思ったのだが……」
青い縦筋が見えそうな顔のダンさんだった。組んでいた両手をだらりと下げて自信満々な態度から一転大きな体を丸めていた。
「もう、ナツミ。折角やんわり言おうと思ったのに」
ニコが落ち込むダンさんを見つめながら私に抗議してきた。
「やんわりって。だって、感想はきちんと伝えないと……」
優しさなのかもしれないが時にはあやふやな態度に困ってしまう場合もある。隣で立っているニコを見上げる。
すると、ニコが背中を丸めて口を尖らせて私を流し見る。実に不満そうだ。
「だって、ナツミが作ったおにぎりを食べたのはザックさんとノアさんだけだし。そもそもどんな味だったかは分からないじゃないか。確かに美味しいと言っていたけど大分二人共お腹を空かせていたみたいだし」
人さし指を胸の前でツンツンと合わせブツブツと文句を言う。ダンさんの手前一人で意見出来なかったのか、私の前では負の意見がダダ漏れだ。
「えぇ、酷いなぁ。そんなにおにぎりを否定しなくても」
どうやらニコはおにぎりの存在自体が認められない様だ。
「だって、どう見ても『ひよこ』だし。何だか丸まっているだけで、その内こっちを見てピヨ! って鳴きそうだし」
ニコはやはりチラチラ私を見ながら文句を言う。
「まぁ、確かにそうだが……」
ダンさんまでもが『ひよこ』部分に同調する。
「ひよこに見えるって……何でなの? ファルの町の皆の見方がよく分からないよ……」
相変わらずひよこ論を唱えるので、私は肩を小さく上げて苦笑いをする。とにかく私は目の前のおにぎりの前で手を合わせる。
「とにかく、ダンさんありがとうございます。頂きます!」
落ち込むダンさんの前で小さく頭を下げると私はハーブ肉団子が入っているおにぎりを手に取った。
だがしかし。
私は手にしたおにぎりの重さに驚いた。
「えっ?! 何これ、重い! でも、大きさは私が昨日作ったものとよく似ている……と言うよりも、むしろ綺麗な三角なのに!」
私は薄焼き卵が綺麗に巻かれたおにぎりに驚き、凝視した。
「重いか?」
ダンさんが首を傾げて顎に手を置いた。
「はい、重いです。もっとこう柔らかいはずなんですが、何で? 凄く固いですよね」
「固い……」
何故だ? と、ダンさんが唸っている。
「とにかく、一口食べてみますね」
私は大きな口を開けて、おにぎりの頂点を一口囓る。
あれ? 何だか凄く固い。固いと言うか、もちっとしている様な。味は……そんなに塩味というわけでもなく、無味だ。
しかし……待って。これ、おにぎりだよね。モチではないよね。え? モチって?
私は懸命に口を動かす。しかし何だか口の中でお米の量が増えている様な。
私が無言でおにぎりを握りしめたまま、モグモグ食べ続ける姿を無言でジッと見つめるダンさんとニコがいる。
ダンさんに限ってはまるで蛇を睨むかの様な鋭い視線を私に向けている。
ニコは先ほどダンさんのおにぎりを囓ったからなのか、私に起こっている現象が分かったらしく、口を半分開けて間抜けな顔をする。
ひたすら二人に見つめられ懸命に口を動かす。
余りにも見つめられるので、昔飼っていたハムスターは、こんな気持ちだったのかもとか余計な事を考えてしまう。
更に、酷く口を動かす必要があり疲れて途中で止まってしまう。
どうして? 一口囓っただけなのに。ご飯の量が多いのかな。
うん? 多いって、もしかして!
私は囓ったおにぎりの断面を見てみた。すると、お米の一粒一粒が隣とくっついてかなり潰れているのが見える。それは、ぎっしりといった感じだ。
それを見て私は驚いてしまう。ようやくの事、囓った最初の一口分の咀嚼が終わり飲み込んだ。
「ぷはぁ」
おにぎりを食べての第一声としては人生で初めてかも。その様子に身を乗り出したのはダンさんだった。
「どうだった?! ハーブ肉団子はどうだ? 少し濃いめに味付けを変えたんだが?」
鋭い眼光を保ったまま勢いよく尋ねる。私はその様子に仰け反りながら、おにぎりの囓った断面をダンさんに見せた。ハーブ肉団子に到達出来るはずもない。
「ダンさん、どのぐらいのお米の量でにぎりました?」
「どのぐらいって……俺の手にのる程の量で」
「えぇ!?」
何て事でしょう。それは驚きだ。だって、ダンさんの手は私の二倍ぐらいある。指も太く掌も分厚い。そんな大男の手にのる程の多い量の米でにぎられた、私が作ったものと同じ大きさのおにぎり……
「いやぁ、形を整えるのに時間がかかったぞ。最初はギュッと固めてな。それからこねくり潰す様に」
ダンさんが笑いながらおにぎりの製作工程を話す。大分おにぎりを力一杯固めてくれた様だ。そうなると、私がにぎれる最大の大きさであるおにぎりを昨日作ったのに対して、ダンさんはその二倍の量の米を使い同じ大きさに仕上げると言う。
お米も潰して量も多いので、食べれば食べるほどすりつぶされたお米がぶわぶわと口の中に広がったわけだ。塩の量も少ないから味がないはずだ。
おにぎりはにぎるとは言うもののそんなに固めては美味しくない。結構フワッとしているぐらいが丁度いいと思うのに。
「ダンさん、それでは美味しくないですよ……」
「何だと! 美味しくない、だと?!」
私の言葉にダンさんが再び暗い顔をして俯いてしまった。
それから、ダンさんにこのおにぎりの状況を説明する。
おにぎりは「にぎる」とは言え、いかにふんわりさせる事が大事かを伝える。
「そ、そうなのか。固める事がいいとばかり思っていた。そうか、ふんわりか……」
「そうなんです。にぎり固めない方が美味しいと思います。私はこのハーブ肉団子が元々大きいので、大きめになってしまうので半分ぐらいでやってみますね」
私は再びダンさんとニコの前で実演をする。
ハーブ肉団子を半分に切って掌に広げたお米の中に入れ、軽く丸めてから4回軽くにぎり出来上がった。
「なん……だと!? たったの4回だけなのか。形を整えるのは」
ダンさんが私の作ったおにぎりをジッと見つめながら感心する。
「はい。三回でもいいかもしれませんね。とにかく、ふんわり空気が入っている方が口の中で解けて美味しいです」
「そうか。そうだったのか。空気かっ」
ダンさんがこんな小さな事で感動している。他の料理はとても美味しく作るダンさんがこのリアクションだなんて面白い。
「私も料理はほとんど出来ないですけれども。子どもの頃、泳ぎの練習間にパッと食べたくて、おにぎりはよく作ったんですよね。だからにぎるぐらいはなんとか出来ると言うか」
特段、料理をしていなかったので褒められた話でもないが、ダンさんの驚き顔が見られたので嬉しくなった。
「そうか。にぎりは既に完璧という事か」
ダンさんがキラリと片目を輝かせる。
「いや、そうではないですけど」
何だかおかしな事になってしまいそうなので、私は話を切り上げ掌にのったおにぎりを見つめる。
出来たてなので、まだお米も肉団子もほんのり温かい。ハーブ肉団子のサイズも半分なので、昨日の様に酷くいびつなおにぎりにはならなかった。
「じゃぁ、ニコ。食べてみてよ」
私はニコの目の前にズイッと作りたてのおにぎりを差し出す。
「え? でも、まだ卵を巻いていないから『ひよこ』じゃないけど」
差し出された白いおにぎりに目を白黒させる。
「別に薄焼き卵を巻く必要はないよ。あれは夕方食べるから、表面が乾かない様に巻いただけなんだよ?」
「え?! そうなんだ。じゃぁ、このまま食べてみるね」
ニコはおにぎりが黄色くなくても良い事に驚き、改めておにぎりを受け取って口に運んだ。
そして、一口食べて目を丸めると慌てて咀嚼し飲み込んだ。
「あっ! ほんのり塩味でお米がポロポロと崩れて固くない!」
固くないって、どんな感想だろう。
ニコはパッと笑って二口目を食べ進める。
「あっ、ハーブ肉団子が出て来た! ああ……美味しい……」
ニコが頬を染めて天井を見つめ微笑む。ようやくお昼にありつけたのだもんね。
「なるほど! じゃぁ、早速作ってみるか!」
そう言ってダンさんは再びお米をにぎりはじめた。
最初は、ダンさんが作ったのはビックリするぐらい特大おにぎりになった。
「凄い大きいのに、この柔らかさは絶妙!」
三人で驚いてしまったが流石ダンさん。にぎり方も上手く味は本当に美味しい。そのハーブ肉団子が入った特大おにぎりは、私が一人ペロリと平らげてしまった。
それから、回数を重ねる毎に大きさは小さくなっていき、最後は私の作るおにぎりのサイズより少し大きいぐらいで安定した形を保つ様になっていた。
「最初はどうなると思いましたけれども。おにぎりってこんなに美味しいんですね。ご飯はあんまり食べないから新鮮です。やっぱり、僕は卵を巻かない方がいいなぁ」
三個目のおにぎりを食べてのニコだった。
あんなに感想をしぶっていたのに、美味しさで気が緩んだ今は言いたい放題だ。
「そうか? あれはあれでナツミが言った様に乾燥防止で良いと思うが。巻くんだったら別に他のものでも良いんだよな……何か良い方法はないものか」
唸るダンさんの目の前には色々なものを真ん中に詰めたおにぎりが二十個並んでいた。
「調子にのってちょっと作り過ぎちゃいましたね……」
私は大きさがドンドン小さくなっていくおにぎりを見つめて呟いた。
困ったなぁ。これでは食べきれない。
「中に色んなものを入れたからな。他の奴らに食べてもらって感想を聞こうか。改善する必要がありそうだ」
ダンさんが嬉しそうにおにぎりを見つめる。
改善って……おにぎりに情熱を注ぐ料理人のダンさんだった。
ただ、ニコが良い例で、ダンさんの目の前で、美味しくなかった場合の感想は実に言いにくいのかもしれないいけれども。
「そうですね。折角ですし。美味しかったらメニューに加えるのは良いかもしれませんね。じゃぁ、呼んで来ましょうか?」
「そうだな呼んで来てもらおうか──いや、俺の目の前で感想は言いづらいだろうから」
「え。あはは」
先ほどのニコとのやり取りで何か思うところがあるダンさんの様だ。ニコは苦笑いするしかない。
「ねぇ、今日は例の「くく」とか言うの、はじめるの~って。何してるの?」
そこへ、ミラとマリンとジルさんが厨房へ入ってきた。
どうやら時間通りなら、丁度お昼の食事の後片付けをはじめる時間になっていた様だ。
「何なのこの沢山の数の三角は?」
ミラが首を傾げながら作業台に近づいてきた。
「お米……? お米かしら」
マリンも目をぱちくりしながらおにぎりを見つめる。
「あら、もしかしてダンの新作発表会? あら、でも何か白色で地味ねぇ」
勘違いしたジルさんが興味津々な様子でおにぎりに近づいてきた。
「お前達、丁度いいところに!」
「「「え?」」」
ダンさんがパッと目を見開いて怖そうな顔を嬉しそうに歪めて輝かせる。それを見た美女三人はわけが分からないといった様子で口を半開きにしていた。
「はは。ダンさんを目の前にしてもはっきり意見を言う人達が来た……」
「だね」
ニコの呟きに私は肩を少し上げて笑った。
そして、厨房の真ん中にある作業台には、白いお皿が二つ用意されている。それぞれのお皿に、薄焼き卵を巻いたおにぎりが一つずつのっていた。
「昨日私が作ったものと同じ大きさですね。私より三角に近い形ですね。流石ダンさん、口頭で説明しただけなのに再現出来るなんて」
私は小さく手を叩いた。私が昨日おにぎりを作った時は、元々大きなハーブ肉団子のまわりにご飯を包んだのでいびつな形になってしまった。
ダンさんは手も大きく器用だからこの程度のおにぎりは簡単なのだろう。
「あれ? このおにぎりは囓ったあとがあるね」
見ると、片方のおにぎりの頂点は囓られていた。
「それは僕が食べたんだけど。ねぇ、ナツミも食べてみてよ。……驚くかもしれない」
ニコが笑いながら困った様な顔をした。そして後半は私の耳元で小さく囁く。
「え? 私が食べても良いんですか?」
ニコの言葉に私は顔を上げてダンさんを見つめるとダンさんが顎をさすりながら頷いた。
「ああ。昨日ナツミが、米をにぎるのを思い出しながらにぎったんだ。もちろんハーブ肉団子が入っている」
「そうなんですね! 私昨日食べられなかったから楽しみだなぁ~」
私は言いながら洗い場で手を洗い、おにぎりの前の椅子に座る。
「中々良い感じだと思うんだが、ニコは食べてから口をきいてくれなくてなぁ」
ダンさんが納得がいかないという様子で首を捻る。
「だって。あんまり……」
ダンさんに対してニコは本当に困った様子で口を尖らし呟いていた。その後に続く感想は、好意的ではない様だ。
「あんまり美味しくなかったって事?」
私は歯切れの悪いニコに尋ねた。
残念だなぁ。おにぎりはとても美味しいのに。
すると、私の台詞に片目を見開きショックを受けたのはダンさんだった。
「そうなのか! いい塩加減で出来たと思ったのだが……」
青い縦筋が見えそうな顔のダンさんだった。組んでいた両手をだらりと下げて自信満々な態度から一転大きな体を丸めていた。
「もう、ナツミ。折角やんわり言おうと思ったのに」
ニコが落ち込むダンさんを見つめながら私に抗議してきた。
「やんわりって。だって、感想はきちんと伝えないと……」
優しさなのかもしれないが時にはあやふやな態度に困ってしまう場合もある。隣で立っているニコを見上げる。
すると、ニコが背中を丸めて口を尖らせて私を流し見る。実に不満そうだ。
「だって、ナツミが作ったおにぎりを食べたのはザックさんとノアさんだけだし。そもそもどんな味だったかは分からないじゃないか。確かに美味しいと言っていたけど大分二人共お腹を空かせていたみたいだし」
人さし指を胸の前でツンツンと合わせブツブツと文句を言う。ダンさんの手前一人で意見出来なかったのか、私の前では負の意見がダダ漏れだ。
「えぇ、酷いなぁ。そんなにおにぎりを否定しなくても」
どうやらニコはおにぎりの存在自体が認められない様だ。
「だって、どう見ても『ひよこ』だし。何だか丸まっているだけで、その内こっちを見てピヨ! って鳴きそうだし」
ニコはやはりチラチラ私を見ながら文句を言う。
「まぁ、確かにそうだが……」
ダンさんまでもが『ひよこ』部分に同調する。
「ひよこに見えるって……何でなの? ファルの町の皆の見方がよく分からないよ……」
相変わらずひよこ論を唱えるので、私は肩を小さく上げて苦笑いをする。とにかく私は目の前のおにぎりの前で手を合わせる。
「とにかく、ダンさんありがとうございます。頂きます!」
落ち込むダンさんの前で小さく頭を下げると私はハーブ肉団子が入っているおにぎりを手に取った。
だがしかし。
私は手にしたおにぎりの重さに驚いた。
「えっ?! 何これ、重い! でも、大きさは私が昨日作ったものとよく似ている……と言うよりも、むしろ綺麗な三角なのに!」
私は薄焼き卵が綺麗に巻かれたおにぎりに驚き、凝視した。
「重いか?」
ダンさんが首を傾げて顎に手を置いた。
「はい、重いです。もっとこう柔らかいはずなんですが、何で? 凄く固いですよね」
「固い……」
何故だ? と、ダンさんが唸っている。
「とにかく、一口食べてみますね」
私は大きな口を開けて、おにぎりの頂点を一口囓る。
あれ? 何だか凄く固い。固いと言うか、もちっとしている様な。味は……そんなに塩味というわけでもなく、無味だ。
しかし……待って。これ、おにぎりだよね。モチではないよね。え? モチって?
私は懸命に口を動かす。しかし何だか口の中でお米の量が増えている様な。
私が無言でおにぎりを握りしめたまま、モグモグ食べ続ける姿を無言でジッと見つめるダンさんとニコがいる。
ダンさんに限ってはまるで蛇を睨むかの様な鋭い視線を私に向けている。
ニコは先ほどダンさんのおにぎりを囓ったからなのか、私に起こっている現象が分かったらしく、口を半分開けて間抜けな顔をする。
ひたすら二人に見つめられ懸命に口を動かす。
余りにも見つめられるので、昔飼っていたハムスターは、こんな気持ちだったのかもとか余計な事を考えてしまう。
更に、酷く口を動かす必要があり疲れて途中で止まってしまう。
どうして? 一口囓っただけなのに。ご飯の量が多いのかな。
うん? 多いって、もしかして!
私は囓ったおにぎりの断面を見てみた。すると、お米の一粒一粒が隣とくっついてかなり潰れているのが見える。それは、ぎっしりといった感じだ。
それを見て私は驚いてしまう。ようやくの事、囓った最初の一口分の咀嚼が終わり飲み込んだ。
「ぷはぁ」
おにぎりを食べての第一声としては人生で初めてかも。その様子に身を乗り出したのはダンさんだった。
「どうだった?! ハーブ肉団子はどうだ? 少し濃いめに味付けを変えたんだが?」
鋭い眼光を保ったまま勢いよく尋ねる。私はその様子に仰け反りながら、おにぎりの囓った断面をダンさんに見せた。ハーブ肉団子に到達出来るはずもない。
「ダンさん、どのぐらいのお米の量でにぎりました?」
「どのぐらいって……俺の手にのる程の量で」
「えぇ!?」
何て事でしょう。それは驚きだ。だって、ダンさんの手は私の二倍ぐらいある。指も太く掌も分厚い。そんな大男の手にのる程の多い量の米でにぎられた、私が作ったものと同じ大きさのおにぎり……
「いやぁ、形を整えるのに時間がかかったぞ。最初はギュッと固めてな。それからこねくり潰す様に」
ダンさんが笑いながらおにぎりの製作工程を話す。大分おにぎりを力一杯固めてくれた様だ。そうなると、私がにぎれる最大の大きさであるおにぎりを昨日作ったのに対して、ダンさんはその二倍の量の米を使い同じ大きさに仕上げると言う。
お米も潰して量も多いので、食べれば食べるほどすりつぶされたお米がぶわぶわと口の中に広がったわけだ。塩の量も少ないから味がないはずだ。
おにぎりはにぎるとは言うもののそんなに固めては美味しくない。結構フワッとしているぐらいが丁度いいと思うのに。
「ダンさん、それでは美味しくないですよ……」
「何だと! 美味しくない、だと?!」
私の言葉にダンさんが再び暗い顔をして俯いてしまった。
それから、ダンさんにこのおにぎりの状況を説明する。
おにぎりは「にぎる」とは言え、いかにふんわりさせる事が大事かを伝える。
「そ、そうなのか。固める事がいいとばかり思っていた。そうか、ふんわりか……」
「そうなんです。にぎり固めない方が美味しいと思います。私はこのハーブ肉団子が元々大きいので、大きめになってしまうので半分ぐらいでやってみますね」
私は再びダンさんとニコの前で実演をする。
ハーブ肉団子を半分に切って掌に広げたお米の中に入れ、軽く丸めてから4回軽くにぎり出来上がった。
「なん……だと!? たったの4回だけなのか。形を整えるのは」
ダンさんが私の作ったおにぎりをジッと見つめながら感心する。
「はい。三回でもいいかもしれませんね。とにかく、ふんわり空気が入っている方が口の中で解けて美味しいです」
「そうか。そうだったのか。空気かっ」
ダンさんがこんな小さな事で感動している。他の料理はとても美味しく作るダンさんがこのリアクションだなんて面白い。
「私も料理はほとんど出来ないですけれども。子どもの頃、泳ぎの練習間にパッと食べたくて、おにぎりはよく作ったんですよね。だからにぎるぐらいはなんとか出来ると言うか」
特段、料理をしていなかったので褒められた話でもないが、ダンさんの驚き顔が見られたので嬉しくなった。
「そうか。にぎりは既に完璧という事か」
ダンさんがキラリと片目を輝かせる。
「いや、そうではないですけど」
何だかおかしな事になってしまいそうなので、私は話を切り上げ掌にのったおにぎりを見つめる。
出来たてなので、まだお米も肉団子もほんのり温かい。ハーブ肉団子のサイズも半分なので、昨日の様に酷くいびつなおにぎりにはならなかった。
「じゃぁ、ニコ。食べてみてよ」
私はニコの目の前にズイッと作りたてのおにぎりを差し出す。
「え? でも、まだ卵を巻いていないから『ひよこ』じゃないけど」
差し出された白いおにぎりに目を白黒させる。
「別に薄焼き卵を巻く必要はないよ。あれは夕方食べるから、表面が乾かない様に巻いただけなんだよ?」
「え?! そうなんだ。じゃぁ、このまま食べてみるね」
ニコはおにぎりが黄色くなくても良い事に驚き、改めておにぎりを受け取って口に運んだ。
そして、一口食べて目を丸めると慌てて咀嚼し飲み込んだ。
「あっ! ほんのり塩味でお米がポロポロと崩れて固くない!」
固くないって、どんな感想だろう。
ニコはパッと笑って二口目を食べ進める。
「あっ、ハーブ肉団子が出て来た! ああ……美味しい……」
ニコが頬を染めて天井を見つめ微笑む。ようやくお昼にありつけたのだもんね。
「なるほど! じゃぁ、早速作ってみるか!」
そう言ってダンさんは再びお米をにぎりはじめた。
最初は、ダンさんが作ったのはビックリするぐらい特大おにぎりになった。
「凄い大きいのに、この柔らかさは絶妙!」
三人で驚いてしまったが流石ダンさん。にぎり方も上手く味は本当に美味しい。そのハーブ肉団子が入った特大おにぎりは、私が一人ペロリと平らげてしまった。
それから、回数を重ねる毎に大きさは小さくなっていき、最後は私の作るおにぎりのサイズより少し大きいぐらいで安定した形を保つ様になっていた。
「最初はどうなると思いましたけれども。おにぎりってこんなに美味しいんですね。ご飯はあんまり食べないから新鮮です。やっぱり、僕は卵を巻かない方がいいなぁ」
三個目のおにぎりを食べてのニコだった。
あんなに感想をしぶっていたのに、美味しさで気が緩んだ今は言いたい放題だ。
「そうか? あれはあれでナツミが言った様に乾燥防止で良いと思うが。巻くんだったら別に他のものでも良いんだよな……何か良い方法はないものか」
唸るダンさんの目の前には色々なものを真ん中に詰めたおにぎりが二十個並んでいた。
「調子にのってちょっと作り過ぎちゃいましたね……」
私は大きさがドンドン小さくなっていくおにぎりを見つめて呟いた。
困ったなぁ。これでは食べきれない。
「中に色んなものを入れたからな。他の奴らに食べてもらって感想を聞こうか。改善する必要がありそうだ」
ダンさんが嬉しそうにおにぎりを見つめる。
改善って……おにぎりに情熱を注ぐ料理人のダンさんだった。
ただ、ニコが良い例で、ダンさんの目の前で、美味しくなかった場合の感想は実に言いにくいのかもしれないいけれども。
「そうですね。折角ですし。美味しかったらメニューに加えるのは良いかもしれませんね。じゃぁ、呼んで来ましょうか?」
「そうだな呼んで来てもらおうか──いや、俺の目の前で感想は言いづらいだろうから」
「え。あはは」
先ほどのニコとのやり取りで何か思うところがあるダンさんの様だ。ニコは苦笑いするしかない。
「ねぇ、今日は例の「くく」とか言うの、はじめるの~って。何してるの?」
そこへ、ミラとマリンとジルさんが厨房へ入ってきた。
どうやら時間通りなら、丁度お昼の食事の後片付けをはじめる時間になっていた様だ。
「何なのこの沢山の数の三角は?」
ミラが首を傾げながら作業台に近づいてきた。
「お米……? お米かしら」
マリンも目をぱちくりしながらおにぎりを見つめる。
「あら、もしかしてダンの新作発表会? あら、でも何か白色で地味ねぇ」
勘違いしたジルさんが興味津々な様子でおにぎりに近づいてきた。
「お前達、丁度いいところに!」
「「「え?」」」
ダンさんがパッと目を見開いて怖そうな顔を嬉しそうに歪めて輝かせる。それを見た美女三人はわけが分からないといった様子で口を半開きにしていた。
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「だね」
ニコの呟きに私は肩を少し上げて笑った。
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