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86 金曜日 和馬の誤解と嫉妬
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「と、質問の前に水を飲めよ。脱水症状になったら困る」
和馬はそう言いながら私にペットボトルを渡す。既にキャップを開けてくれていたので、助かった。
「うん、ありが、と」
今は力が入りそうにない。言葉も片言で返事をする。私がごくごくと水を飲み干すと、和馬がホッと溜め息をついた。そんなに気になるならあんなにお風呂場で──しなくてもいいのに。一気にペットボトルの水が半分になった。そのペットボトルを和馬が受け取ると今度は和馬が一気に飲み干した。
(お風呂でイチャイチャするのって結構危険なのね)
危うくのぼせてどうにかなりそうだった。和馬があれこれと私を高みに連れて行くし。私はさっきお風呂場での痴態を思い出して、頬を赤らめる……のではなくがっくりと肩を落とした。
止めてと何度もお願いしたのに。更に帰りにラーメン食べてビールを飲んだからその、あの、トイレに行ってなかったし。
(あれは潮吹きじゃなくて絶対お漏らし……いや、潮吹きでもお漏らしの様なもんだし。とにかくどっちでもいいけど二十歳半ばでまさか愛撫されすぎて漏らしちゃうとかないわよ。恥ずかしくって死ねる!)
そんな姿を見ても和馬は楽しそうに私を追い込んだ。まるで更に私の恥ずかしい顔を見たいと言わんばかりに。
(お漏らししてもそんなの気にならないのかな。『あーあ……漏らしちゃって』とかドン引きしないのが不思議。もしかしてそう言ったプレイもオッケーって事? そういえばちょっとSっ気が強いよね和馬って。どうしよう……これ以上高度なプレイを要求されたら。いや、Sっ気が強いなら嫌そうにしたら余計やられるのかしら)
等と私は悶々と考え和馬を見上げる。和馬は濡れた髪の毛を肩にかけたタオルで拭く。わしゃわしゃと髪の毛が揺れると雫が飛び散り和馬の胸筋を濡らした。前髪が濡れ重力でいつもより長くなり、ダークブラウンの瞳を隠してしまう。日本人にしては彫りが深く、スッとした鼻筋、薄いピンクの唇は恐ろしく色っぽい。
(ホント顔が整っているなぁ。それにしても何なのこの色っぽさは。まずいわこんな素敵な男性にSっ気の強い事言われても断れない……そんな自信しかない)
和馬も自覚しているけど、絶対的に人生を得している。そのチートさは一体何だろうと思う事もあったけど、仕事をしている時はさほど顔に事も気にならなかったのに。
改めて本当に彼氏なのか? と、自分自身未だに信じられない。
ボーッと見惚れている私に、和馬はニヤリと意地悪く笑った。
「何、そんなに見惚れるほど好きなんだ俺の事」
「そ、それは、違──」
思わず違うと返答しそうになってストップしてしまう。
(いや、もう何を言っても駄目よね。私が和馬を好きなのはもう明白な事実なのだから)
「──違う、って事はないわよ。そうよ。す、好きよ? もの凄く」
散々愛撫された余韻も手伝って、私は珍しく正直に答えた。しかも凄くと言葉をつけて。すると、和馬がガチ! っと音を立てて固まった。意地悪く笑った口の端をヒクヒクと痙攣させていた。
「何で変な顔をするのよ……」
私は素っ裸のままベッドの上で座って和馬を見上げる。すると、和馬は慌てて自分の頬を両手で擦ると固まった顔をゴシゴシと擦る。
「そ、そんなに、素直になられると俺が照れるだろ。止めてくれよ。いや、別に言う事は止めなくていいんだけどさ。うん、毎日言ってくれてもいいぐらいだけどさ、不意打ちはちょっと」
よく分からない言い訳をする和馬だった。
あらゆる女性から『好き』なんて言葉を受け取ってきたはずなのに。こんな事は慣れっこのはずなのに。今更照れるなんておかしいんじゃない?
だけどそれは……和馬がそれぐらい私を好きになってくれたのかと思うと、嬉しくて泣きそうになった。
一人照れの極致にいた和馬はようやく自分の調子を取り戻したのか、私の上に再びのしかかりながら質問をしてくる。
「そうだ質問だ。危うく脱線しかけたぜ。那波ってアダルト動画を見てた時、結構エグいラインナップだったよな?」
私をベッドに押し倒しながら後ろから抱きしめる様に和馬自身も横になる。狭いベッドにぎゅうぎゅう詰めになる。
しかし、私は質問の内容に目を丸めてしまう。
「へっ」
「ほら。えーと、何かタイトルもさー無理矢理系みたいなのが多かったよな。数人とやっちゃうやつとか媚薬飲まされてどうとか」
「ハ、ハイ……」
一体何の罰ゲームだ。とびきり格好いい彼氏から、見ていたアダルト動画の内容を分析されるって。私は後ろから肩の辺りに顎を置いた和馬の顔をまともに見る事が出来なかった。
すると和馬は私の返事を聞いて困った様な声を上げる。
「やっぱりさ、ああいうプレイがいいんだよな?」
「え」
私は驚いて首をねじって和馬に振り向いた。すると和馬が眉を垂れて頬を赤らめる。
「ちょっとSっぽく男に責められるのが好きって事だよな? 嫌って言ってるのに強引にやられるとか。人数は……さすがに俺も他の男と那波を共有するのは嫌だからな。それは出来ないけど回数なら何とか」
何だか和馬が違う方向に話を進めるので私は慌てて体を起こした。
「ち、違うから!」
それでは私がドMみたいではないか。
アダルト動画のタイトルや内容を見れば、誤解される様なラインナップだった事は確かだ。でも、そんなポイントで見ていたわけではない。
「えっ、違うのか?!」
今度は和馬が驚いて体を起こす。心外と言わんばかり目を丸めるので私は必死に言い返す。
「あ、当たり前でしょ。さすがにバイブで後ろと前を同時に責められるとか、三点責めでイカされ続けるとか。まさか3Pどころか複数人に犯されるとか。そんなの望んでないわよ違うから!」
さすがに否定はしたもの、言った自分の言葉に恥ずかしくて顔が赤くなる。
(何というジャンルのアダルト動画を見てるの私って)
自己嫌悪でもないけど、恥ずかしさで一杯になる。ストレス発散とは言えどれだけ陰の気をため込んでいたのよ私──と、思ってしまう。
すると突然和馬がギロリと私を睨む。
「……それなら出てくるアダルト動画の男優が好みなのか? つーか好みなんだよな?」
「え? 男優さん?」
言われてもピンと来なくて私は首を傾げる。
意味が分からなかっただけなのだが、和馬は私の首を傾げた態度で勘違いをしてしまった。綺麗に整った眉をつり上げて睨まれる。
「那波の見ていたアダルト動画の男優って、おっさんが多いんだよ。場合によっては腹が出たおっさんとか。俺が高校生ぐらいの時からいる有名な男優ばっかりでさ」
「そ、そうなんだ」
知らなかった──そんなの全く意識した事なかった。和馬の分析に私はしどろもどろになる。
「だから『那波っておっさんが好みなのか』って思っていたけど。だけどそうでもなさそうだし。それでとうとう見つけたんだ。皆出てくる男優は大体バラバラなのに、一人だけよく出てくる男優がいるだろ?」
「え?」
(はて? そんな男優さんがいたかな?)
私は記憶を掘り起こすが全く思い出せない。そんなとぼけた私の態度が気に入らないのか、和馬はイライラしてスマホを取り出し一枚の写真を見せる。
「こいつだよな」
そこには痩せ型で色白の男性がいた。髪は肩下の長めのくせ毛。一つに縛っている黒髪はカールしていて、パッと見た感じ女性っぽい男性だ。名前は思い出せないが、確かにどれかのアダルト動画で見た事がある男性だ。宣材写真らしく、彼にあったナチュラルな雰囲気だった。まさかアダルト動画に出演している専門の俳優さんだとは知らなければ誰も思わないだろう。
「結構有名なアダルト俳優で女性誌とかにも頻繁に出てるよな」
「ああ、そういえば」
そこまで言われてようやく思い出した。すると途端に和馬はそれ見た事かとスマホをベッドサイドのテーブルに置いて私に向かい合う。
「って事はやっぱり好みはこういう男なんだよな? しかも那波は、この男で自分を慰めてたって事だろ」
「えっ! ち、違う!」
(何て事を言い出すの和馬は)
私は驚いて否定をするが和馬は何故か益々ヒートアップしていく。
「どうしてこんなナヨナヨした男が好きなんだよ。細マッチョの俺と逆じゃねーかよ……見るんだったらもっと俺寄りの男優のもを見ろよな! 今後こいつが出ているアダルト動画は禁止だからな」
フン! と素っ裸のママ胡座をかいて両腕を組んだ和馬。
「えぇぇ~」
(これってもしかして……嫉妬?)
アイドルに嫉妬するというのはあるかもしれないが、まさか目の前の秀麗眉目な和馬がアダルト俳優に嫉妬しているとか。信じられなくて、私は思わず吹き出してしまった。
すると和馬は顔を真っ赤にして怒り出す。
「わ、笑うなよ! 俺もこんな事考える自分がいるって、馬鹿じゃねーのって思うけど。那波に会えない時に考え出したら悶々としてしまって」
「だからって話が飛びすぎだよ」
「そう言うけどさ、那波って俺の顔全然褒めないし。顔の良さで惹かれてる風じゃないし。もしかして那波の好みじゃないのかなって」
自分が大人げない事を言っていると自覚しているのだろう。和馬はフンとそっぽを向いたまま呟く。
(恋が人を馬鹿にする──顔だけだと言い続けた和馬は顔には自信があったけどそれ以外をつかれると途端に不安になるのだろう)
私はそんな和馬が年上なのに可愛いと思ってしまった。
「そもそも私はアダルト動画を見る時に男優さんで選んだ事はなないよ」
「ほ、ホントか? ん? じゃぁ何が基準だったんだよ」
好みの男性が違っていた事にホッと胸をなで下ろしながら和馬は更に首を傾げた。
「どれだけ女性が感じているかっていうのがポイントかな。むしろ女優さんを中心に選んでいたかも。よがっているのが見たかった──と、思う。自分だったらなぁ……って、想像をしながら見てたかな」
「! 言われてみれば同系統の女だったなぁ。はぁ~女優かよ。驚かせるなよ。ん? それならやっぱりプレイ寄りって事じゃねーか」
しまった。結論が元に戻ってしまった。そういう事ではないのに。
「違うってば! そりゃぁハードなのを選んでいたのはストレスが大きかったからであって。基本は女性が気持ちよさそうなのがいいなって。気持ちよすぎて凄いって感じの……その、単に羨ましいなって思ってただけ。経験もなかったし。だ、だから、そんなSっぽいのは好きじゃないわよ」
こっぴどく恥ずかしい事を言わされている気がしてきた。私は思わず頬を染めて自分の丸い膝を見つめる。
「じゃぁ、今日の風呂場で漏らしたの那波的にはNGなのか?」
「えっ。まさかわざとしたの」
私はさっきお風呂で行われた愛撫にさっと頬を赤くしてそれから血の気が引いた気がした。私の問いに和馬はうーんと唸っていた。
「いや? わざとってわけじゃないけど。那波がSっぽいのが好みなのかなって思ってノリノリなのかと思ったけど、風呂場では恥ずかしさで泣き出すし。あれ? 違ったかって思って。でも凄ぇ可愛かったけど」
「かっ、可愛いって。だって漏らすんだもん……恥ずかしいでしょ」
それがイキながらなのだから恥ずかしさもマックスだわよ! 私は改めて顔を耳まで赤くした。
顔が上げられず同じ様に正座している和馬の膝小僧を見た。形のよい男性らしい膝を見つめていると視界の上部で何やらピクピクと動いているのが見えた。
和馬の陰茎があっという間に大きくなっていく。何故大きくなるか何て聞かなくても分かる。きっと私のお風呂場での姿を思い出していたのだろう。その縁取る様子を見ながら私はゴクンと唾を飲み込んだ。
(そういえばまだ私の中には入ってないのに)
散々焦らされた上での今休憩中。話が脱線しておかしな事になったけど、和馬はこの後どうするつもりなのか? 私はチラリと和馬を見つめると、和馬が耳まで赤くなった私をじっと見つめている事に気がついた。
視線が合うと和馬は低音を響かせ呟く。
「セックスってさ、好きか嫌いかって言われたら嫌いじゃねーけど。どっちかって言うと、付き合ったらもれなくついてくる行為ぐらいにしか考えてなかったのに」
「あ……」
そっと和馬の手が伸びてきて私の耳に触れる。
「那波がイキながら漏らしたの風呂場で見たら凄ぇ興奮した。俺って結構Sっぽいのかな? それとも那波だからか?」
「も、もう漏らしたのは言わないでっ。秘密にして。確かに和馬はSっぽいと思うよ? 俺様って言うか……あっ」
私が和馬の手に自分の手を添えた瞬間、あっという間にベッドに押さえつけられる。お腹の部分で和馬の太くて熱い陰茎を感じる。
和馬はゆっくりと上半身を倒して唇を私のそれに寄せる。
「那波はこういう俺、あんまり好きじゃない?」
和馬が困った様に尋ねてきた。
こういう事は慣れていて、基本的に何でもこなしてしまう和馬だから自信があるはずなのに。まるで私の事を一つ一つ確認するみたい。
(私だけって思ってもいいのかな)
「痛くしないならいいよ。それに、和馬が好きだから何されても平気……」
そう言ってそっと和馬の頬を撫でると和馬は嬉しそうに笑った。そして再び私とのキスに夢中になっていく。再び私と和馬はお互いを愛撫し始めた。
和馬はそう言いながら私にペットボトルを渡す。既にキャップを開けてくれていたので、助かった。
「うん、ありが、と」
今は力が入りそうにない。言葉も片言で返事をする。私がごくごくと水を飲み干すと、和馬がホッと溜め息をついた。そんなに気になるならあんなにお風呂場で──しなくてもいいのに。一気にペットボトルの水が半分になった。そのペットボトルを和馬が受け取ると今度は和馬が一気に飲み干した。
(お風呂でイチャイチャするのって結構危険なのね)
危うくのぼせてどうにかなりそうだった。和馬があれこれと私を高みに連れて行くし。私はさっきお風呂場での痴態を思い出して、頬を赤らめる……のではなくがっくりと肩を落とした。
止めてと何度もお願いしたのに。更に帰りにラーメン食べてビールを飲んだからその、あの、トイレに行ってなかったし。
(あれは潮吹きじゃなくて絶対お漏らし……いや、潮吹きでもお漏らしの様なもんだし。とにかくどっちでもいいけど二十歳半ばでまさか愛撫されすぎて漏らしちゃうとかないわよ。恥ずかしくって死ねる!)
そんな姿を見ても和馬は楽しそうに私を追い込んだ。まるで更に私の恥ずかしい顔を見たいと言わんばかりに。
(お漏らししてもそんなの気にならないのかな。『あーあ……漏らしちゃって』とかドン引きしないのが不思議。もしかしてそう言ったプレイもオッケーって事? そういえばちょっとSっ気が強いよね和馬って。どうしよう……これ以上高度なプレイを要求されたら。いや、Sっ気が強いなら嫌そうにしたら余計やられるのかしら)
等と私は悶々と考え和馬を見上げる。和馬は濡れた髪の毛を肩にかけたタオルで拭く。わしゃわしゃと髪の毛が揺れると雫が飛び散り和馬の胸筋を濡らした。前髪が濡れ重力でいつもより長くなり、ダークブラウンの瞳を隠してしまう。日本人にしては彫りが深く、スッとした鼻筋、薄いピンクの唇は恐ろしく色っぽい。
(ホント顔が整っているなぁ。それにしても何なのこの色っぽさは。まずいわこんな素敵な男性にSっ気の強い事言われても断れない……そんな自信しかない)
和馬も自覚しているけど、絶対的に人生を得している。そのチートさは一体何だろうと思う事もあったけど、仕事をしている時はさほど顔に事も気にならなかったのに。
改めて本当に彼氏なのか? と、自分自身未だに信じられない。
ボーッと見惚れている私に、和馬はニヤリと意地悪く笑った。
「何、そんなに見惚れるほど好きなんだ俺の事」
「そ、それは、違──」
思わず違うと返答しそうになってストップしてしまう。
(いや、もう何を言っても駄目よね。私が和馬を好きなのはもう明白な事実なのだから)
「──違う、って事はないわよ。そうよ。す、好きよ? もの凄く」
散々愛撫された余韻も手伝って、私は珍しく正直に答えた。しかも凄くと言葉をつけて。すると、和馬がガチ! っと音を立てて固まった。意地悪く笑った口の端をヒクヒクと痙攣させていた。
「何で変な顔をするのよ……」
私は素っ裸のままベッドの上で座って和馬を見上げる。すると、和馬は慌てて自分の頬を両手で擦ると固まった顔をゴシゴシと擦る。
「そ、そんなに、素直になられると俺が照れるだろ。止めてくれよ。いや、別に言う事は止めなくていいんだけどさ。うん、毎日言ってくれてもいいぐらいだけどさ、不意打ちはちょっと」
よく分からない言い訳をする和馬だった。
あらゆる女性から『好き』なんて言葉を受け取ってきたはずなのに。こんな事は慣れっこのはずなのに。今更照れるなんておかしいんじゃない?
だけどそれは……和馬がそれぐらい私を好きになってくれたのかと思うと、嬉しくて泣きそうになった。
一人照れの極致にいた和馬はようやく自分の調子を取り戻したのか、私の上に再びのしかかりながら質問をしてくる。
「そうだ質問だ。危うく脱線しかけたぜ。那波ってアダルト動画を見てた時、結構エグいラインナップだったよな?」
私をベッドに押し倒しながら後ろから抱きしめる様に和馬自身も横になる。狭いベッドにぎゅうぎゅう詰めになる。
しかし、私は質問の内容に目を丸めてしまう。
「へっ」
「ほら。えーと、何かタイトルもさー無理矢理系みたいなのが多かったよな。数人とやっちゃうやつとか媚薬飲まされてどうとか」
「ハ、ハイ……」
一体何の罰ゲームだ。とびきり格好いい彼氏から、見ていたアダルト動画の内容を分析されるって。私は後ろから肩の辺りに顎を置いた和馬の顔をまともに見る事が出来なかった。
すると和馬は私の返事を聞いて困った様な声を上げる。
「やっぱりさ、ああいうプレイがいいんだよな?」
「え」
私は驚いて首をねじって和馬に振り向いた。すると和馬が眉を垂れて頬を赤らめる。
「ちょっとSっぽく男に責められるのが好きって事だよな? 嫌って言ってるのに強引にやられるとか。人数は……さすがに俺も他の男と那波を共有するのは嫌だからな。それは出来ないけど回数なら何とか」
何だか和馬が違う方向に話を進めるので私は慌てて体を起こした。
「ち、違うから!」
それでは私がドMみたいではないか。
アダルト動画のタイトルや内容を見れば、誤解される様なラインナップだった事は確かだ。でも、そんなポイントで見ていたわけではない。
「えっ、違うのか?!」
今度は和馬が驚いて体を起こす。心外と言わんばかり目を丸めるので私は必死に言い返す。
「あ、当たり前でしょ。さすがにバイブで後ろと前を同時に責められるとか、三点責めでイカされ続けるとか。まさか3Pどころか複数人に犯されるとか。そんなの望んでないわよ違うから!」
さすがに否定はしたもの、言った自分の言葉に恥ずかしくて顔が赤くなる。
(何というジャンルのアダルト動画を見てるの私って)
自己嫌悪でもないけど、恥ずかしさで一杯になる。ストレス発散とは言えどれだけ陰の気をため込んでいたのよ私──と、思ってしまう。
すると突然和馬がギロリと私を睨む。
「……それなら出てくるアダルト動画の男優が好みなのか? つーか好みなんだよな?」
「え? 男優さん?」
言われてもピンと来なくて私は首を傾げる。
意味が分からなかっただけなのだが、和馬は私の首を傾げた態度で勘違いをしてしまった。綺麗に整った眉をつり上げて睨まれる。
「那波の見ていたアダルト動画の男優って、おっさんが多いんだよ。場合によっては腹が出たおっさんとか。俺が高校生ぐらいの時からいる有名な男優ばっかりでさ」
「そ、そうなんだ」
知らなかった──そんなの全く意識した事なかった。和馬の分析に私はしどろもどろになる。
「だから『那波っておっさんが好みなのか』って思っていたけど。だけどそうでもなさそうだし。それでとうとう見つけたんだ。皆出てくる男優は大体バラバラなのに、一人だけよく出てくる男優がいるだろ?」
「え?」
(はて? そんな男優さんがいたかな?)
私は記憶を掘り起こすが全く思い出せない。そんなとぼけた私の態度が気に入らないのか、和馬はイライラしてスマホを取り出し一枚の写真を見せる。
「こいつだよな」
そこには痩せ型で色白の男性がいた。髪は肩下の長めのくせ毛。一つに縛っている黒髪はカールしていて、パッと見た感じ女性っぽい男性だ。名前は思い出せないが、確かにどれかのアダルト動画で見た事がある男性だ。宣材写真らしく、彼にあったナチュラルな雰囲気だった。まさかアダルト動画に出演している専門の俳優さんだとは知らなければ誰も思わないだろう。
「結構有名なアダルト俳優で女性誌とかにも頻繁に出てるよな」
「ああ、そういえば」
そこまで言われてようやく思い出した。すると途端に和馬はそれ見た事かとスマホをベッドサイドのテーブルに置いて私に向かい合う。
「って事はやっぱり好みはこういう男なんだよな? しかも那波は、この男で自分を慰めてたって事だろ」
「えっ! ち、違う!」
(何て事を言い出すの和馬は)
私は驚いて否定をするが和馬は何故か益々ヒートアップしていく。
「どうしてこんなナヨナヨした男が好きなんだよ。細マッチョの俺と逆じゃねーかよ……見るんだったらもっと俺寄りの男優のもを見ろよな! 今後こいつが出ているアダルト動画は禁止だからな」
フン! と素っ裸のママ胡座をかいて両腕を組んだ和馬。
「えぇぇ~」
(これってもしかして……嫉妬?)
アイドルに嫉妬するというのはあるかもしれないが、まさか目の前の秀麗眉目な和馬がアダルト俳優に嫉妬しているとか。信じられなくて、私は思わず吹き出してしまった。
すると和馬は顔を真っ赤にして怒り出す。
「わ、笑うなよ! 俺もこんな事考える自分がいるって、馬鹿じゃねーのって思うけど。那波に会えない時に考え出したら悶々としてしまって」
「だからって話が飛びすぎだよ」
「そう言うけどさ、那波って俺の顔全然褒めないし。顔の良さで惹かれてる風じゃないし。もしかして那波の好みじゃないのかなって」
自分が大人げない事を言っていると自覚しているのだろう。和馬はフンとそっぽを向いたまま呟く。
(恋が人を馬鹿にする──顔だけだと言い続けた和馬は顔には自信があったけどそれ以外をつかれると途端に不安になるのだろう)
私はそんな和馬が年上なのに可愛いと思ってしまった。
「そもそも私はアダルト動画を見る時に男優さんで選んだ事はなないよ」
「ほ、ホントか? ん? じゃぁ何が基準だったんだよ」
好みの男性が違っていた事にホッと胸をなで下ろしながら和馬は更に首を傾げた。
「どれだけ女性が感じているかっていうのがポイントかな。むしろ女優さんを中心に選んでいたかも。よがっているのが見たかった──と、思う。自分だったらなぁ……って、想像をしながら見てたかな」
「! 言われてみれば同系統の女だったなぁ。はぁ~女優かよ。驚かせるなよ。ん? それならやっぱりプレイ寄りって事じゃねーか」
しまった。結論が元に戻ってしまった。そういう事ではないのに。
「違うってば! そりゃぁハードなのを選んでいたのはストレスが大きかったからであって。基本は女性が気持ちよさそうなのがいいなって。気持ちよすぎて凄いって感じの……その、単に羨ましいなって思ってただけ。経験もなかったし。だ、だから、そんなSっぽいのは好きじゃないわよ」
こっぴどく恥ずかしい事を言わされている気がしてきた。私は思わず頬を染めて自分の丸い膝を見つめる。
「じゃぁ、今日の風呂場で漏らしたの那波的にはNGなのか?」
「えっ。まさかわざとしたの」
私はさっきお風呂で行われた愛撫にさっと頬を赤くしてそれから血の気が引いた気がした。私の問いに和馬はうーんと唸っていた。
「いや? わざとってわけじゃないけど。那波がSっぽいのが好みなのかなって思ってノリノリなのかと思ったけど、風呂場では恥ずかしさで泣き出すし。あれ? 違ったかって思って。でも凄ぇ可愛かったけど」
「かっ、可愛いって。だって漏らすんだもん……恥ずかしいでしょ」
それがイキながらなのだから恥ずかしさもマックスだわよ! 私は改めて顔を耳まで赤くした。
顔が上げられず同じ様に正座している和馬の膝小僧を見た。形のよい男性らしい膝を見つめていると視界の上部で何やらピクピクと動いているのが見えた。
和馬の陰茎があっという間に大きくなっていく。何故大きくなるか何て聞かなくても分かる。きっと私のお風呂場での姿を思い出していたのだろう。その縁取る様子を見ながら私はゴクンと唾を飲み込んだ。
(そういえばまだ私の中には入ってないのに)
散々焦らされた上での今休憩中。話が脱線しておかしな事になったけど、和馬はこの後どうするつもりなのか? 私はチラリと和馬を見つめると、和馬が耳まで赤くなった私をじっと見つめている事に気がついた。
視線が合うと和馬は低音を響かせ呟く。
「セックスってさ、好きか嫌いかって言われたら嫌いじゃねーけど。どっちかって言うと、付き合ったらもれなくついてくる行為ぐらいにしか考えてなかったのに」
「あ……」
そっと和馬の手が伸びてきて私の耳に触れる。
「那波がイキながら漏らしたの風呂場で見たら凄ぇ興奮した。俺って結構Sっぽいのかな? それとも那波だからか?」
「も、もう漏らしたのは言わないでっ。秘密にして。確かに和馬はSっぽいと思うよ? 俺様って言うか……あっ」
私が和馬の手に自分の手を添えた瞬間、あっという間にベッドに押さえつけられる。お腹の部分で和馬の太くて熱い陰茎を感じる。
和馬はゆっくりと上半身を倒して唇を私のそれに寄せる。
「那波はこういう俺、あんまり好きじゃない?」
和馬が困った様に尋ねてきた。
こういう事は慣れていて、基本的に何でもこなしてしまう和馬だから自信があるはずなのに。まるで私の事を一つ一つ確認するみたい。
(私だけって思ってもいいのかな)
「痛くしないならいいよ。それに、和馬が好きだから何されても平気……」
そう言ってそっと和馬の頬を撫でると和馬は嬉しそうに笑った。そして再び私とのキスに夢中になっていく。再び私と和馬はお互いを愛撫し始めた。
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彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
隣人はクールな同期でした。
氷萌
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