【R18】普通じゃないぜ!

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87 金曜日 溺れる

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 痛くしないならいい──と、私は覚悟をした。

 思い出すのは先週、和馬の実家でのエッチ。激しくてわけが分からなくなって最後止めて欲しいと何度も懇願した。だけど、和馬は止まる事なく動き続け私はくたくたになってしまった。

以上が来たらどうしよう)
 今度は痛い事が快感になったりしたら私は、本当に和馬に堕ちるしかない。そうしたらどんな事になるのだろう。想像すると怖くなった。

 しかし、別に和馬は乱暴な事はして来なかった。むしろ真逆だった。しかし真逆だから、堕ちない──いという事ではなかった。



 ◇◆◇

「ふっ、う、はっ」
 和馬は私の背中に舌を這わせながら、時々軽くキスをする。小さく音を立ててチクリと痛みを感じる。赤い跡がついているだろうけど今日はそれでもかまわない。後ろから抱きかかえる和馬の手は、私の両腕や太ももをゆっくりと行ったり来たりしている。大きな手、繊細な指が私の皮膚の上をゆっくりと触れ移動する。

 触れられる度にくすぐったいと思っていた。だからなぞられると鳥肌が立った。何度か繰り返されていくと、触れられた部分が徐々に熱を帯びていく。

(熱い。和馬の掌と指が熱いのかな。違うわね。熱いのは私の体?)
 もしかして疲れて熱が出たのか? と思ったけど違うみたい。もどかしくもっと強く触れて欲しいと思う。それなのに離れて触れてを繰り返され、私の肌が何かを求めて毛穴が開き汗が滲んでくる。

「熱いな凄く。最初は冷たくなっていたのにさ」
 和馬が背中から戻り私の耳元で囁く。和馬の吐息だって熱を帯びている。背中に触れる和馬の体は私より熱いと思う。
 
 最初は単純に向き合ってキスを繰り返すだけだった。啄むだけのキスから深いキス。時折唇が離れたら少しだけ会話をしていた。

「キスした時さ、那波が追いかけてくるのいいな」
「追いかける?」
「ん。舌がこう……さ」
「んっ。それは、あっ。私から絡めようとしてるのにっ、んっ」
「いいな。俺の事好きって言ってる気がする」
 経験値の差かそれとも舌の長さの問題なのか、私が仕掛けても和馬にうっとりさせられてしまう始末。

 寂しさと嫉妬を覚えて不安定になるけど、途中で和馬の漏れる吐息や溜め息に混じった声が聞こえ、和馬も陶酔しているのが分かると気持ちも満たされる。

 短い会話が終わると再びキス。唇が腫れるんじゃないかと思うけど和馬は角度を変え強さを変え繋がってくる。キスされる度に何かが変わるわけではないけど、心が深く満たされる。

(ああ、生きてたらいい事ってあるんだね……)

 大げさって言われるかもしれない。私には何もないと落ち込んでいたのが二週間前で。今はこんなに満たされているのは奇跡だと思う。和馬といるだけで切なく胸の奥が甘く締め付けられる。そう思うともっともっと和馬に触れていたくなる。

 和馬が私の体に触れる様に、私も真似して和馬の体に触れる。腕、背中、腰、そして顔。至る所を同じ様になぞって触れると、和馬の体は熱くなるばかりだ。和馬は汗ばんで困った様な顔をする。整えられた眉が垂れて、目が細められダークブラウンの瞳で私を見つめる。

「俺、那波とキスするの好きみたいだ。那波のうっとりする顔とかさ。凄く好きって思う……っ……ふ、普段は般若のくせに」
「……般若は余計だってば」
 雰囲気ぶち壊しだし──言葉だけならそう思うけど、どもりながら般若の言葉を追加した和馬の顔を見たら分かる。頬が少し赤い。盛大に照れているのだ。和馬なりに気持ちを伝えたいけど、何故か時々意地悪になる。だから今のところこれが精一杯なのだろう。

(散々キスしておいて何を言っているんだか。ああ、でも私とするのが「好き」っていう部分が特別って感じるから、突き刺さってくる)

 私は散々ひねくれて怒り倒した今週だから、今ぐらい素直に和馬に伝えたい。

「和馬」
「んー?」
 和馬は私の目尻に唇を寄せ唇で触れる。

(美人でもないし、魅力的な体つきでもないし、性格もとびきりいいってわけじゃない。そんな普通の私だけど、好きになってくれて嬉しい。そして私も……和馬が好きになって嬉しいよ)

「私、和馬が好きよ」
 和馬の後ろから抱きしめる手の甲を引き寄せ、自分からキスをする。

 和馬の手の甲は思ったより固くて、皮膚に張りがあった。和馬は目尻に寄せた唇を閉じて息を止めた。それから肺の中の空気を全て吐き出す様に溜め息をつき、私の肩口におでこをつけてぐりぐりと擦りつける。

(やだ。それ。くすぐったい)
 私は必死に体をよじって逃げるけど、きつく抱きしめられて出来なかった。和馬はフーッと小さく息を吐いてから、声を震わせ呟いた。

「おっ、お、俺も。す、好き」
 何とも情けない小さな声。せめて顔を見て言って欲しい。だけど、私はそんな小さな声の告白も自然と唇が弧を描くぐらい嬉しかった。

(慣れてないのよねきっと……「好き」って言葉にする事自体)
 この二週間、和馬と関係を深く持ってから聞いてきた昔話の数々。自分の容姿がとびきりよくそれがどれだけ武器になるかという自覚。言い寄る女性が多かった事から、家に上げるのが少し怖いと思っていた事。

 和馬はたくさんの女性と付き合って別れてを繰り返してきたけど、いつも好意を持たれる側で自分から気持ちを表現した事はそんなになかったのだろう。最初から私に好意を寄せていた割には『好き』とストレートに表現された事はあまりなかった。だから、私も決定的な言葉がないから和馬の気まぐれなのだと誤解をしていた。

「うん。好き」
 私も小さく答えて後ろの和馬に振り向いて抱きしめた。

(これから沢山伝えていくよ)
 心の中で呟くと、私は和馬の頬にキスをした。熱く熱を持った頬は柔らかかった。そのキスで和馬は体の力をゆっくりと抜いた。

 それから私の耳元に唇を当てて
「……なぁ、俺さ」
「うん」
「那波ん中に入りたい」
「うん」
「いい?」
「いいよ」
 子供みたいな尋ね方。嫌だって拒否したって駄目なくせに。私は小さく笑った。和馬は照れながらいそいそと私を仰向けにし、足を胸の辺りまで折り曲げる。

 和馬からは秘所が丸見えだけど私は足を折り曲げられているから、秘所を広げている気持ちにはならない。和馬は避妊具をつけた陰茎をしっとりと濡れた襞に当てる。ゆっくりと前後に腰を揺らして、蜜を自分のものに絡めていく。油断すると潜り込んでしまいそうになるから、注意しながら腰を前後に揺らす。花芯に和馬自身が擦れて気持ちがいい。

「あっ……」
 私の赤く膨れた敏感な部分を重点的に擦る。小さい子供が嫌々をする様に首を左右に振って快感に耐える。和馬も鈴口に当たるのが気持ちがいいのかスッと目を細めた。
「んっんんっ……」
 私が少し呻くと和馬が「はぁ」と溜め息をついて動きを更に遅くする。焦らされていると言うより、二人一緒に達してしまわない様に必死に我慢をしていた。

 早く来て欲しい。でも待って欲しい。

 そんな気持ちが行ったり来たりする中、和馬と私は息を荒くしてお互いを見つめる。

 この先にはもっと突き抜ける快感が待っている。だけど、もったいない。そんな思いの繰り返しだったが、とうとう和馬が首を激しく振って掠れた声を上げた。

「我慢の限界っ」
 汗で濡れた前髪の向こうで瞳が切なそうに揺れた瞬間、グッと体重をかけて私の中に潜り込んできた。

「……!!」
 私は喉を反らせて和馬自身を受け止める。最大限に大きくなった陰茎は熱くて大きいのに私は簡単に飲み込んでしまう。たっぷりと濡れたおかげで和馬を難なく受け入れた。それでも大きい杭で、私はゾワゾワとしてしまう。内壁が薄いゴム一枚を隔てて熱を感じ、内側から撫で上げられてお腹の奥がぎゅっと収縮するのが分かった。

「狭。奥、当たる」
 和馬が単語を並べて状況を訴えてくる。歯を食いしばり解き放つのを精一杯我慢しているのが伝わってくる。

(奥に当たったら駄目──!! あっ)

 私はぎゅっと和馬の背中を抱きしめて、腰を震わせる。今までにない快感がお腹から体全身に広がる。曲げている足の先が痙攣したみたいにビクビクと動く。目の前で火花が散って、音が聞こえなくなる。私の耳に聞こえるのは自分の心臓の音と、血液が流れる音だ。

 涙で霞む視界で和馬が更に歯を食いしばった。
「ぐっ。ばっ、馬鹿」
 私はこの時声が聞こえないのだけど、口の動きで言葉が何となく想像出来た。

 和馬が焦っているのは、一緒に達してしまいそうだったからだろう。直前で和馬が堪えて私をぎゅっと抱きしめる。

(入れられるだけでイッちゃうとか)
 挿入までのやりとりでたっぷりと愛されたせいかもしれない。私の体は和馬を受け入れただけなのに歓喜する。十分にリラックスして、体の中から余分な力が抜けているところへの快楽の波は──更に私を溺れさせていく。

「気持ちいい、よ……」
 そうぽつりと呟く。和馬は自分自身の快楽の波をなんとかやり過ごしたのか苦笑いで私のおでこの髪をかき上げる。
「分かってるよ……中が動いて俺もヤバい」
 途切れ途切れの和馬の声が優しくて色っぽくて……それだけで私は再び気持ちよくなっていく。

 和馬も流されてしまえばいいと思う。きっと今までにない程強い快感で驚くはずだ。

 私が小さく頷いて和馬の腰をそっと撫でると、和馬は観念した様に上半身を起こした。
「悪いな。多分凄く、早い、から」
 掠れた声で答えると、和馬はゆっくりと腰を前後に動かす。激しいと思ったらそんな事はなかった。ゆっくりゆっくりと腰を引くけど、引き抜くという程ではなかった。私の奥から少しだけ離れて、腰を左右に動かす。わずかな振動がとても気持ちがよくて和馬に合わせてゆるゆると腰を揺らす。
「ん、ふっ……そ、こ……」
 奥が一番気持ちいいけど、その少し手前を和馬の広がった傘の部分で擦られるのも気持ちがいい。

「あっ、イッ」

 イッちゃう──と口にしようとしたらもう達していた。目尻に堪った涙が零れた。和馬が私の乳首を指で擦ったせいだ。

(駄目ーっ! 無理だからっ!)

 体の奥をつつかれるとあっという間に体が痺れて再び達してしまった。いとも簡単に連続してイッちゃうなんてどうなっているのだろう。

 息が上手に出来なくて私はもがく。気持ちいい脳と体。息が出来ない感覚に酔いしれて和馬に溺れてしまう。

 三度目の波がやって来た時、ゆっくりと動いてた和馬が私の奥に自分を押しつける。私の顔の横についてた手で力一杯シーツを握りしめた。和馬の顔から大量の汗がボタボタと私に振ってくる。
 和馬は耐えられないと言わんばかりに目を強く閉じて、眉の根元に皺を寄せる。
「……うっ!!!」
 息を詰めて腰をガクガクと前後に小さく揺らすと、目一杯私の中で大きくなり、弾けた──その間和馬はずっと体を硬直させて瞳を閉じていた。

 恐らく和馬も私と同じぐらい今までにない強い快感に溺れているはず。二人一緒に、耐えて流されて受け入れて──私も和馬の震える体を抱きしめて同じ様に溺れ続けた。



 ◇◆◇

「凄かった。何だあれ」
 和馬がコンドームを処理して、ベッドに仰向けになる。精も根も尽き果てる──といった様子で、のろのろと動きながら私を抱きしめる。

「うん……気持ちよすぎて溶けたと思った」
 脳の中からいけない成分が出て、体の内部が溶けたのかと思った。そのぐらい快感が強くて四肢に力が入らない。

「そうそう。溶けたって感じ……いや、ヤベぇな色々と。あれだ。脳からドバドバ何か出てるよな俺達。だけど、出すの早いだろ俺。しかもびっくりするほど濃いのが出たぞ」
「濃いのが出たって……」
 最後の言葉は品がないよ和馬。

 それって玄関口でもそうだったよね? と思わず言ってしまいそうになる私も私だけど。それも和馬らしいけどね。そんな事を思ってしまう。

(確かに和馬が言う通り挿入してからの時間は、先週末と比べると早かったけどさ。それよりもまだ体が漂っているみたい……)

 先週末みたいに、私の体液で布団が大惨事になる事はなかった。それでも強い快感はまだ体のあらゆるところに残っていて、また触れられると直ぐに反応してしまいそうだ。感情が高ぶっていたから余計なのかもしれない。

「もっと、やりたいのに……でも、眠たい……」
 和馬が欠伸をし船を漕ぎはじめた。臀部に眠さからなのか和馬の熱を感じるけど、私も力尽きてしまう直前だった。

「うん。眠いから、また後で……これからも、一緒だよね?」
 私は欲張りに呟いて、ゆっくりと瞼が下がる。意識が遠くなる中で、和馬の囁きを聞いた。
「……そうだな。少し寝るか。多分一生一緒だからさ……焦る事ねぇよ」

 一生一緒って──結構凄い言葉ではないかしら? そんな事を回らない頭で考える。

 一生和馬が側にいてくれる人生なんてどれだけの女性達を敵に回せばいいのよ。好きって事も嬉しいけど、普通の私を見ていてくれた事が一番嬉しかった。

 何も持たない普通の私。こんな私に誰も振り向かないと思っていたのに。

(嬉しいよ)

 私は人生で一番幸せな夜を、和馬に抱きしめられて眠りについた。
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