【R18】さよならシルバー

成子

文字の大きさ
25 / 95

<回想> 3月29日 私は二番目

しおりを挟む
 久しぶりに集まった幼なじみと話が弾む。萌々香ちゃんが用意してくれた食事をしながら、だらだらと何時間も話をしたり、テレビゲームをしたり過ごす。そんな中、怜央と私が付き合い始めたという話題では皆が祝福してくれた。貸し切りとなった狭くも心地よい空間で盛り上がる。


 ◇◆◇

 そろそろお開きにしようという事になり、テーブルや食事を片付けていると一番年上の雄介くんが近づいてきた。
「明日香ちょと」
 雄介くんが小さな声で手招きをする。私は雄介くんの側のテーブルに移る。
「雄介くん。あまり今日は話が出来なかったけれど、さっき萌々香ちゃんから就職が決まったって聞いたよ。おめでとう」
 私はのんきに話を始めると、雄介くんは辺りを少しキョロキョロしながら人差し指を立てた。私に黙る様に伝えてきた。
「どうしたの?」
「いいから、片付けるフリをして」
 雄介くんは私の隣で机の上のお皿を片付けながら小さな声で更に話を続ける。

 周りには皆まだだらだらと話をしながら残り物の食事をつついていたりしていた。だから私と雄介くんがこそこそ話をしている事に気がついていたなかった。

「怜央は今いないな?」
「え? うん。さっき一緒にお皿を洗いに行ったよ? 萌々香ちゃんが手伝えって怜央を引っ張っていった」
「萌々香が……そうか」
 すると雄介くんが小さくぼそぼそと低い私にだけ聞こえる声で話し始める。

「いいか? 明日香。怜央と付き合うのは俺もいいと思うけれども、萌々香には気をつけろよ?」
「気をつけるって?」
 一瞬何を言われているのか分からなくて首を傾げた。更に低い声で雄介くんが私の肩をポンと叩いた。
「年上とか幼なじみとそういうの気にしなくて良いのだからな?」
「え?」
 私は何を言っているのか分からなくて首を傾げる。すると雄介くんが優しく笑って私の頭を一つ撫でて他のテーブルの片付けに移動してしまった。

(どういう意味?)

 私は分からなくてテーブルを拭く布巾を取りに厨房の方へ足を向けた。



 奥にある厨房で怜央と萌々香ちゃんがカウンター側に背を向けてお皿を洗っている。

 私はカウンターに近づき、のぞき込む。何やら萌々香ちゃんがやたら怜央に近づいて何か話をしている。
(何を話しているのかな?)
 水道の蛇口をひねっていたので、声が聞こえない。だから私は大きな声で布巾を取ってもらえないかと声をかけようとした。

 その途端怜央が蛇口を止めて、シンクに張った水の中に手を入れてお皿を取り出しスポンジで洗い始めた。

 突然、お皿の音と怜央の声が響く。
「何だよ? 聞こえない」
 怜央が横に並ぶ萌々香ちゃんを見下ろしながら低い声で尋ねた。

 怜央の声に先を越され私は大きく開けた口を慌てて閉じた。二人はカウンターの側にいる私には気づかず会話を続けていた。

「だから、明日香ちゃんにさ、私との事話した?」
 萌々香ちゃんは怜央の顔をのぞき込む様にして身体を寄せた。

(え? 何の事?)
 訳が分からず私は首を傾げカウンター奥からは見えないと思う影に移動した。奥の薄暗い場所にいる怜央と萌々香ちゃんの背中を私はこっそり見つめる。

 それにしても萌々香ちゃん怜央に近い様な気がする。何かその感じが嫌で私は両手で拳を作った。

 萌々香ちゃんにのぞき込まれた怜央の顔は分からないが淡々とした声で答えていた。
「話す訳無いだろ」
「じゃぁさ……やっぱり秘密にしておいた方がいいのよね」
 萌々香ちゃんがお皿をシンクの中に沈めて怜央の肩の辺りまでぐっと顔を近づける。
 怜央は近づけられた顔をよける様に首を反対側に曲げた。
「当たり前だろ。明日香に話すなよ」
 怜央の声と洗ったお皿が重なる音が聞こえる。

(私に話すなって。何を?)
 私の心臓の鼓動が早くなる。ゴクリとつばを飲み込んで身体に力を入れてその場で二人の会話に耳を傾ける。

「そうよね。明日香ちゃんそういうの鈍そうだものね。それに知ったらショックだろうし」
「当たり前だ。萌々香と週に二回はしていた事なんて話せるか」

(えっ?)
 私は怜央の低くて笑う声に思わず自分の手を両手で塞ぐ。体中の血が頭から足に全部流れて立っていられなくなりそうになる。それにお互い呼び捨てで呼び合っていた。それって──

 萌々香ちゃんは肩を揺らして笑い出す。
「ふふふ。凄く残念。怜央と身体の相性良かったから楽しみだったのに」

 カラダノアイショウ

「馬鹿言え。萌々香は他にもいるんだろ。そういう男」
「だって怜央の童貞を捨てるのに付き合ったんだから感慨深いでしょ。それにかれこれ半年ぐらい続いたわよね」

 ドウテイステルノニ

 私は身体がガタガタと震えて動き出す事が出来なかった。

「童貞って……うるせぇよ。最後にやってから半年はしてねぇのに」

 ヤッテカラハントシ

「だって怜央が急に忙しくなるんだもの。バレーボール馬鹿って言うかさ。それに~ひどいわよ」
「バレー馬鹿って何だ。それに何がひどいんだよ」
「萌々香の知らないうちに明日香ちゃんと付き合う事にして。怜央が明日香ちゃんの事好きなのは知っていたけれどもさ」
「何で萌々香に俺が誰と付き合うとか報告がいるんだよ」
「だって明日香ちゃんが彼女じゃさすがにさ。これから私が怜央とエッチ出来ないじゃない」
「もう散々やり尽くしただろ。それに明日香はそういうのじゃないからなやめてくれ」
「ブーブー。萌々香は反対しまーす。鈍くてその手の事に弱い明日香ちゃんは、怜央には似合わないと思いまーす」
「嫌だね。俺は明日香がいいんだ」
「もう~これだからキツネ顔の美人って嫌なのよね。大っ嫌い。怜央みたいな男も虜にするんだから」
「キツネ顔? 明日香がか。ハハ、確かにきつい感じの美人だけれどな。でも可愛いんだぜ」
「ヤダヤダ聞きたくなーい。明日香ちゃんなんて大っ嫌ーい。萌々香から怜央くん取っちゃうんだもーん」
「俺は元々萌々香のものじゃねぇよ」


 もう聞きたくない。


 怜央と萌々香ちゃんはお互い笑いながらお皿洗いを再開した。


 私はゆっくりと壁を伝って少し離れているトイレにようやくたどり着いた。

「おぇっ……うっ」
 必死に声を殺して先ほどまで食べたものを全て吐き出してしまった。

(怜央どうして? 萌々香ちゃんと関係していたのなら、どうして私と付き合おうと思ったの?!)

 心の中で何度も叫びながら私は吐き続ける。そして、食事を運ぶ前言った萌々香ちゃんの言葉を思い出す。

 怜央は、寂しがり屋だとか、怜央を大切にして欲しいとか。

(何が……何が、お姉さんとしてのお願いよ。全部私が怜央を取った腹いせの、マウントなんじゃないの)
 そう思うのに。
 馬鹿にされているのに。
 分かっているのに。

 腹立たしさよりも悲しさが勝って何も考えられない。

 幼なじみなのに──何で? 私は悲し過ぎて、胃液が出るほど吐き続けたのに涙が出てこなかった。

 私は何も知らない馬鹿な子だったのだ。そして──

二番目)
 それとも萌々香ちゃん以外にも怜央には女の子がいたかな?

 結局私は、怜央の一番ではなかったのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...