【R18】さよならシルバー

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021 7月25日 七緖くんの考察

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「お疲れさん。遅いけれどもお昼ご飯だよ」
 博さんがカウンター席に座る私と七緖くんにお店で出しているカレーを出してくれた。

 十四時までの営業で一度喫茶店を閉める。夜は十七時から二十一時までの営業だ。
 その間一度お店を閉める。私と七緖くんは遅めの食事を取る。

「まさかと思うけど、まかないは毎回カレーかいな」
 七緖くんがスプーンを持ったままぽつりと呟く。

「だって俺の店カレーしかないから。もちろん働いているのだから味を知ってもらわないとな」
 そう言ってアイスコーヒーもつけてくれた。

 お店は平日の静かさとは反対で、盛況だった。ひっきりなしにお客さんが入っては出て、入っては出てを繰りかえしていた。小さなお店なのとカレーとコーヒーというメニューから食事をしたらすぐに帰る人が多かった。皆必ずカレーとコーヒーを頼んで(その二つしかメニューにないから)帰って行く。年齢は二十歳過ぎから初老の方まで幅広いが概ね男性ばかりだ。中には働いている女性らしき姿も多い。

「俺は夜の分の仕込みも終わったし、少し休ませてもらうよ。あ、二人はちゃんと朝の勉強の時に伝えた事を勉強するんだよ。夜の開店前一時間でもう一度勉強するからね」
 博さんはそう言うと銀のスクエア型眼鏡を外して目をこすりながら二階の自室に去って行った。

「立ちっぱなしっていうのも疲れるね」
 私は足を背の高いスツールに座り足をぶらぶらとさせてみる。それを見た七緖くんが首を傾げた。そして今日は前髪が全部上に上がっているから視線を真っ直ぐに私を見つめてきた。

「右膝大丈夫なん?」
 私の故障した足を気遣ってくれる。琥珀色の瞳が心配そうに揺れている。

「うん。今日は念のためサポーターもしているし、大丈夫。動いた方がいいってお医者さんも言っていたし。心配してくれてありがとう」
 私は隣に座る七緖くんに笑いかけてスプーンを持った。

「さて、頂きます」
 味が分かるかな。少し不安だけれど私は目の前のさらりとした液体のカレーをスプーンに掬おうとした。
 しかし、突然七緖くんに遮られる。

「アカン! 激熱やからこのカレー」
「えっそうなの?」
 七緖くんはうんうんと二度頷いて私の手からスプーンを取り上げる。
「ほんま。嘘と違うよ。ちょっと冷めるまで待った方がええ。僕は昨日すでに経験して舌やけどしたし」
「そ、そうなんだ」
 一昨日の手伝いの後もカレーを食べたのか。じゃぁきっと今後もずっとまかないはカレーだなぁ。私は苦笑いをした。



 喫茶店の入り口に置いてある時計の針がカチカチと音を立てている。有線は切っているから店内は静かだ。
 カレーの香りと静かな空間。七緖くんと二人きりだけれど居心地が良い。

(カレーの香りって何かリラックス効果とかあるのかな。スパイスだし)

 隣で七緒くんが両手で頬杖をついて目の前のカレーをじっと見つめていたが、突然ゆっくりと話し出す。

「昨日のな。才川くんの話、なんやけど」
「うん」
 突然ぽつりと切り出されたけれども、私は特に驚きもせず七緖くんの言葉を待った。

「才川くんからしたらな。巽さんの事を、やけど」
「うん」
「裏切ったとか、さげすんだとか、ほう言うの感じてないと思うんよね。まぁ、知らんけど」
「知らんけどってどういう意味? 知らないのに何故そう思うの?」
 知らないなら何故答えてくれるのだろう。

 私は思わず七緖くんに身体ごと振り向く。しかしスツールに座った七緖くんの足に阻止されて、私の膝がぶつかった。
 私はぶつかったまま身を乗り出すと、七緖くんは肩をすぼめた。
「足刺さったやん……「知らんけど」っていうのは。えーとこの場合「僕の意見だけど」って言う意味やけど」
 私の足に視線を落として文句を言う。

(知らんけどって、そういう意味なのか)

「裏切っても蔑んでもなくても、怜央はひどくない? 私と付き合っていたんだよ? 一応……知らんけど」
 今もその付き合うのは棚上げになっている様なものだが。怜央の行動や仕打ちは、男性の七緖くんから見ても、ひどいと思わないのだろうか。

「無理して関西弁真似んでええし。ほな言うけど、才川くん別に浮気とかじゃ、ないやん?」
「う、浮気?」
「才川くんは巽さんと付き合っている時に、その萌々香ちゃんとか言う人とがっつりエッチをしている訳ちゃうんよな?」
「た、多分」
 確かに関係はしていたけれども、あの萌々香ちゃんの店での会話は終わった事として話していた。
 七緖くんはカレーをじっと見つめながら更に続ける。

「その萌々香ちゃんとか言う人はどうか分からんけど、少なくとも才川くんは萌々香ちゃんという人と関係を終わらせてから巽さんと付き合う事にしたんやろ? ほう考えたら、巽さんの事を想っている思うよ」
「じゃぁどうして……萌々香ちゃんとエッチする必要があるの。それを隠す必要があるの?」
 私も七緖くんと同じ様に目の前のカレーに視線を落として湯気が小さくなって行くのを見つめる。
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