【R18】さよならシルバー

成子

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022 7月25日 知らんけど

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(そうなると私は過去の事まで言う女って事? 何それ私。めんどくさいって思われるよね。けれども納得がいかない。納得って言うか、そのとにかく何で萌々香ちゃんが先なの。萌々香ちゃんとエッチした事をなかった事にするの。私が好きなら、最初から私で良いじゃない……)

 ふと本音がポロリと心の中で漏れる。

 そこで私はどうしても萌々香ちゃんと関係していたっていうのが気になるという事に気がついた。

「うーん、それは才川くんにしか分からんけど」
 七緖くんが唸る。

 そりゃそうだ怜央の事は怜央にしか分からない。でもその辺りが知りたいのに。それによって馬鹿にしたり蔑んだりしたって分かるんじゃないのかな。

「私がキツネ顔だからかな?」
「キツネって何?」
「ほら。たぬき顔とキツネ顔ってあるでしょ」
「たぬき? キツネ? カップ麺みたいやな」
「違うのカップ麺じゃないの。とにかく、怜央にとって私ってあまり魅力的じゃなかったのかなって。だから先にその萌々香ちゃんと……」
 もごもごと言いづらそうに呟くと七緖くんがアイスコーヒーを一口飲んだ。

「魅力あるんちゃう? だって魅力がなかったら、才川くんが巽さんを押し倒したの変やん。巽さんに欲情したから押し倒したんと違うの?」
「えっ、そ、それはそうだけれど」

 何この会話。

 七緖くんと話していると何だか変な会話になっていく。

 しかし私は、怜央を擁護する様な七緖くんの言い方に納得がいかなくて、色々な疑問を次々とぶつけて行く。

「七緖くんは誰かとそういう事したことあるから怜央の事を悪く言わないの?」
「そういう事って?」
「だからこう「欲情して押し倒す」とかって」
「ナイナイ。押し倒す相手もおらんのに」
「え」
「セックスとか、した事ないよ」
 具体的な単語が発せられて私はドキリとする。

「そ、そうなんだ」
「ほなって相手がおらんのに。キスした事もないから僕。そう考えたら巽さんの方が経験豊富やん」
「私のは偶然だからっ経験豊富じゃないのっ」
「逆ギレやん。何でキレられるの、僕?」
「だって。じゃぁどうして怜央が私に欲情したって思うの?」
「え~ほらぁ僕も男やし気持ちは分かるよ? ムラムラはするし」
「ムラムラ」
 そこまで話して何だか凄い事を二人で会話している事に気がついた。

(あれ? 私自分の経験も話ツルリと話してしまったけれども、七緖くんも結構自分の事を話したよね。七緖くん経験ないって言ったけれども)

「ムラムラすると、どうしてもやりたいって言うか。穴があったら入れたいって言うか。そういう気分になる事はあるなぁ」
 いつもは見えていない七緖くんの顔が全て見える。少し困った様な瞳が前を向いて答えづらそうに話す。

「あ、あああ、穴って」
 少し表現が直接的すぎて私は口ごもる。

「危ないんよなぁ、あれ。ごっつうムラムラするとかそういう気分の時って。穴見るとまずいんよな」
「穴を見るとまずいって?」
 そんなに日常に穴があるだろうか? あまりにも七緖くんが真面目に呟くので私は気が動転しながらも思い返してみる。

(そんなに穴ってないよね?)

「例えばお風呂の栓、抜いた後な。穴あるタイプの浴槽とか? 家古いからそうやねん。どうなるのかな~とか。ちょっと角にあるし、抜けなくなったら笑えんやん? ほやからやらんけど。後トイレットペーパーの芯とか。サイズ的に入らんからやらんけど。後、掃除機とか吸われるってどんなんかなとか。汚いからやらんけど」
 ゆっくりと話しながら七緖くんは横の私に振り向いた。

 そして私の顔を見て口を押さえて斜め上を見た。
「ごめん。少し話しすぎたみたいやね」
「……うん。男の子って大変だね」
 私は恐ろしく顔が赤くなっていた。

 自分から振っておいて何が大変なのだ。私は何でも答えてくれる七緖くんにごめんと小さく謝った。

「んん! と、にかくや。きっと才川くんがそういう気分の時に萌々香ちゃんとか言う人が目の前を横切ったので、その思わず穴って思って」
「入れてみたって事?」
「うん」

 私と七緖くんは真っ直ぐ見つめ合う。

(それはそれで。穴って)

「怜央、最低……」
 私が低い声で呟くと七緖くんががっくりと頭を垂れた。

「うん……何かごめんよ。才川くん」
「何で怜央に謝るのよ」
「え~だって才川くんの事、勝手に想像しておとしいれたみたいやんか? だからごめんって謝っただけやのに」
 私はポカポカと隣の七緖くんを叩いたが、その後二人で顔を見合わせて笑った。



 ◇◆◇

「あーあ。何か阿呆な事言い合った様な気がする。それに何か僕、恥ずかしい事言った様な」
「うん。七緖くんの事が分かって嬉しかったよ」
「何で話してしもうたんやろ僕。経験ないとか、穴があったら入れたいとか」

(それはきっと七緖くんが優しいから。私の垂れ流す悩みもちゃんと答えてくれようとしたからだよね)
 私は嬉しくて微笑んだ。

「私も経験ないし一緒だよね。黙ってる、誰にも言わない。大丈夫」
「えぇ~巽さんチューはしとるやん? 押し倒されるところまで行っといて何を言っとんの。僕はした事ないのに。ほれに、松本さんとかに言いそうやん」
「紗理奈に? 言わないよ。私と七緖くんの秘密……知らんけど」
「何その使い方、上手くなるの? その使い方止めてぇ」

(そうだ。これは秘密だ。でも七緖くんの意見少し面白いかも)

 怜央の視点から考えた事がなかった。言われてみれば怜央から見たら怜央は別に悪い事をしたと思っていないのかも。だから私が一人別れたいとかすねていると感じて「却下」だって言ったのかな。

(私も怜央に何も言わなかったものね。でもっていうのが正解かも)

 私はそこでひとまず考える事を止める。

 一度に考えるのは止めよう。夏休み中に答えを出すにしても慌てても仕方ない。

 私は七緖くんを見上げる。
「ごめんね叩いて」
「ほんまよ~骨折したら困るやん」
「骨折するほど叩いていないし……知らんけど」
「知らんけど、は今後使用禁止や。とりあえず食べよっか。冷めたんちゃう?」
「うん」
 そう言って私と七緖くんは笑い合って冷めてほどよくなった温度のカレーを口にした。

「毎回出前とか手伝うの面倒いし、まかないがカレーばかりで腹立つけど。博のカレー、美味いわ」
 もぐもぐと七緖くんがカレーを頬張りながら呟いた。

「! うんホントに」
 確かに美味しいかも。

 私は軽食を食べた時よりも、味が分かる様になってきて嬉しくて微笑んだ。
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