41 / 95
031 7月31日 博さんの爆弾
しおりを挟む
私と七緖くんはお互い横に並んだままソファに座り、目の前に置かれたチョコレートケーキと湯気を立てているコーヒーを見つめていた。
隣の七緖くんは上半身はTシャツのままだが下半身はパンツもズボンも穿いている。もちろん私もスカートをきちんと下ろしてパンツは見えない。当たり前だけど。
「「……」」
さっきからどう切り出して良いのか分からず私は途方に暮れる。
(気まずい。どうしよう。何だか隣にいるのに凄く避けられている雰囲気。あんなにさっきまでは仲良く話せていたのに)
頼みの綱の博さんはと言うと、私達にちょっとしたお説教と結構な爆弾を落として休憩室代わりにしている二階から去ってしまった。
◇◆◇
顔を真っ赤にした私とパンツとズボンを穿いた七緖くんは絨毯の上で正座をした。両腕を組んで仁王立ちする博さんの前で小さくなる。まるでいたずらをした子供が叱られる様だった。
「うん。誤解って事は分かったよ。でも二人共年頃なんだから気をつけるんだよ?」
優しく論する博さんに、間髪入れずに七緖くんが口を尖らせた。
「気いつけぇ言われても。博が考えている様な事は何もないんに」
私が座る反対側に顔を逸らせる七緖くん。
視線だけずらして見つめるが、あんなに二人でいる時は髪の毛を上に上げてくれる様になっていたのに、輪ゴムで縛っていた髪の毛を元の様に垂らしてしまった。あの綺麗な琥珀色の瞳は見えないし、どんな表情をしているのか分からない。
その七緖くんの態度が気に入らなかったのか博さんが両手を腰に当てて大きな声で怒鳴った。
「勃起していたお前が一番気をつけろって事だよ! 下半身だけ脱いでいるってどういうトラップだよ」
「勃起とか大声で言わんでも! 上着も脱ごう思うたけどほの前に力尽きたんや」
(ひ~勃起とか言わないでよ)
その状態に手を触れた自分が言うのも何だけど。そういう事に全く免疫のない私は顔を赤くして俯いてしまう。正座した自分の膝を握りしめるも手も心なしか赤く見える。
「脱ぐなよなぁ! いいか俺は言うぞ駿。お前さ、巽さんの前だとずいぶんと気を許しているみたいだから釘を刺しておくけれども」
発せられた博さんの言葉に私は思わず肩を上げて反応する。
(私の前だと気を許している? それって凄く親しくしてくれているって事だろうか)
その言葉に動揺したのは私だけではなかった。七緖くんも何か言いかけたけれども口を開いたまま何も告げる事が出来なくなった。
「いいか? 男と女なんてちょっとした出来事で思わずって事はあるんだ。これはお互いに同意していなくてもだ。何が言いたいか分かるよな?」
ゆっくりと静かに博さんは言葉を続ける。
「特に男なんて何が引き金になるか分かったもんじゃない。だから今日の事は事故だと思うけれども、お互いが普段から注意しないといけないんだ」
博さんの言葉に私は怜央に押し倒された停電の夜を思い出した。
(あの時、私はショートパンツで。しかも怜央の部屋なのに前屈とかして足を広げていた。ずいぶんとガードもない格好に雰囲気だった)
私は思わず下唇を噛んだ。
(怜央に迫られる様な状況で拒否したけれども、あのまま怜央が突き進んでいたらどうなっていただろう。私にも隙があった。それに今回だって……)
自分のぼんやりした行動にも問題があった事を今更理解した。
「……分かった。博の言う通りや」
七緖くんが小さく溜め息をつきうなだれた。
「はい」
私も七緖くんに続いて返事をすると、博さんが頭の上で頷いたのが聞こえた。
それから博さんはパンと手を叩いて「よし」と声を上げた。
「分かってくれたなら良いよ。二人を預かる大人の身としてはね言っておかないと……と、思って。あっ! でも駿と巽さん二人がちゃーんとお互いの事を想い合って愛し合うならさ、避妊をしてくれれば俺は良いかなって思うけど」
そう博さんが言ったので私と七緖くんは驚いて全速力で顔を上げた。
同じ動きをしたので思わず二人視線を合わせる。七緖くんの瞳は前髪に隠れてしまって見えない。だけれど七緖くんの耳はびっくりするほど真っ赤に染まっていた。もちろん私もだ。
「何を言い出すん。そんなん──」
七緖くんは低い声で博さんに反論した。しかし、間髪入れずに博さんに否定された。
「ありえないなんて、ないと思うぜ。俺は」
「──」
そう言われて七緖くんは絶句してしまう。そして何も言えなくなり口を真一文字に閉じた。
「じゃぁ巽さんがお土産にくれたチョコレートケーキとコーヒー置いておくから仲良く食べろよ? 俺は一階にいるからさ。あ、それから巽さん」
急に博さんに名を呼ばれ、私は驚き返事をする。
「は、はい」
博さんはドアを開けて振り向きウインクを一つした。
「男の朝の勃起ってさ勢いよく乗るとねポッキリ折れちゃう事あるから。子供がお父さんの上に飛び乗ったら朝立ちで悶絶とかさ。だからあまり上に勢いよく乗っからないでね。アッハッハー」
「──」
今度は私が絶句する番だった。
◇◆◇
私と七緖くんはとりあえずソファに二人並んで座った。
唯一七緖くんが、博さんが去った後ぽつりと呟いていた。
「ほんまに。博は余計な事言いよってからに」
苛立ちが混じった低い声で呟いていた。
隣の七緖くんは上半身はTシャツのままだが下半身はパンツもズボンも穿いている。もちろん私もスカートをきちんと下ろしてパンツは見えない。当たり前だけど。
「「……」」
さっきからどう切り出して良いのか分からず私は途方に暮れる。
(気まずい。どうしよう。何だか隣にいるのに凄く避けられている雰囲気。あんなにさっきまでは仲良く話せていたのに)
頼みの綱の博さんはと言うと、私達にちょっとしたお説教と結構な爆弾を落として休憩室代わりにしている二階から去ってしまった。
◇◆◇
顔を真っ赤にした私とパンツとズボンを穿いた七緖くんは絨毯の上で正座をした。両腕を組んで仁王立ちする博さんの前で小さくなる。まるでいたずらをした子供が叱られる様だった。
「うん。誤解って事は分かったよ。でも二人共年頃なんだから気をつけるんだよ?」
優しく論する博さんに、間髪入れずに七緖くんが口を尖らせた。
「気いつけぇ言われても。博が考えている様な事は何もないんに」
私が座る反対側に顔を逸らせる七緖くん。
視線だけずらして見つめるが、あんなに二人でいる時は髪の毛を上に上げてくれる様になっていたのに、輪ゴムで縛っていた髪の毛を元の様に垂らしてしまった。あの綺麗な琥珀色の瞳は見えないし、どんな表情をしているのか分からない。
その七緖くんの態度が気に入らなかったのか博さんが両手を腰に当てて大きな声で怒鳴った。
「勃起していたお前が一番気をつけろって事だよ! 下半身だけ脱いでいるってどういうトラップだよ」
「勃起とか大声で言わんでも! 上着も脱ごう思うたけどほの前に力尽きたんや」
(ひ~勃起とか言わないでよ)
その状態に手を触れた自分が言うのも何だけど。そういう事に全く免疫のない私は顔を赤くして俯いてしまう。正座した自分の膝を握りしめるも手も心なしか赤く見える。
「脱ぐなよなぁ! いいか俺は言うぞ駿。お前さ、巽さんの前だとずいぶんと気を許しているみたいだから釘を刺しておくけれども」
発せられた博さんの言葉に私は思わず肩を上げて反応する。
(私の前だと気を許している? それって凄く親しくしてくれているって事だろうか)
その言葉に動揺したのは私だけではなかった。七緖くんも何か言いかけたけれども口を開いたまま何も告げる事が出来なくなった。
「いいか? 男と女なんてちょっとした出来事で思わずって事はあるんだ。これはお互いに同意していなくてもだ。何が言いたいか分かるよな?」
ゆっくりと静かに博さんは言葉を続ける。
「特に男なんて何が引き金になるか分かったもんじゃない。だから今日の事は事故だと思うけれども、お互いが普段から注意しないといけないんだ」
博さんの言葉に私は怜央に押し倒された停電の夜を思い出した。
(あの時、私はショートパンツで。しかも怜央の部屋なのに前屈とかして足を広げていた。ずいぶんとガードもない格好に雰囲気だった)
私は思わず下唇を噛んだ。
(怜央に迫られる様な状況で拒否したけれども、あのまま怜央が突き進んでいたらどうなっていただろう。私にも隙があった。それに今回だって……)
自分のぼんやりした行動にも問題があった事を今更理解した。
「……分かった。博の言う通りや」
七緖くんが小さく溜め息をつきうなだれた。
「はい」
私も七緖くんに続いて返事をすると、博さんが頭の上で頷いたのが聞こえた。
それから博さんはパンと手を叩いて「よし」と声を上げた。
「分かってくれたなら良いよ。二人を預かる大人の身としてはね言っておかないと……と、思って。あっ! でも駿と巽さん二人がちゃーんとお互いの事を想い合って愛し合うならさ、避妊をしてくれれば俺は良いかなって思うけど」
そう博さんが言ったので私と七緖くんは驚いて全速力で顔を上げた。
同じ動きをしたので思わず二人視線を合わせる。七緖くんの瞳は前髪に隠れてしまって見えない。だけれど七緖くんの耳はびっくりするほど真っ赤に染まっていた。もちろん私もだ。
「何を言い出すん。そんなん──」
七緖くんは低い声で博さんに反論した。しかし、間髪入れずに博さんに否定された。
「ありえないなんて、ないと思うぜ。俺は」
「──」
そう言われて七緖くんは絶句してしまう。そして何も言えなくなり口を真一文字に閉じた。
「じゃぁ巽さんがお土産にくれたチョコレートケーキとコーヒー置いておくから仲良く食べろよ? 俺は一階にいるからさ。あ、それから巽さん」
急に博さんに名を呼ばれ、私は驚き返事をする。
「は、はい」
博さんはドアを開けて振り向きウインクを一つした。
「男の朝の勃起ってさ勢いよく乗るとねポッキリ折れちゃう事あるから。子供がお父さんの上に飛び乗ったら朝立ちで悶絶とかさ。だからあまり上に勢いよく乗っからないでね。アッハッハー」
「──」
今度は私が絶句する番だった。
◇◆◇
私と七緖くんはとりあえずソファに二人並んで座った。
唯一七緖くんが、博さんが去った後ぽつりと呟いていた。
「ほんまに。博は余計な事言いよってからに」
苛立ちが混じった低い声で呟いていた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる