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049 8月7日 午後 変化
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金曜日。週末がやって来た。私と七緖くんが通っていた補習授業は、最後にテスト行われる事になった。そして、このテストで合格点をクリアした生徒はお盆明けの補習授業が免除になる。
私は、七緖くんと博さんの勉強指導の結果、合格となった。もちろん七緖くんは当然合格だ。私達二人はお盆明けの補習授業は免除となった。
「巽よく頑張ったな。俺は一時どうなる事かと思ったよ」
補習を担当した先生は私の散々だった成績を知っている為に、テストに合格するとは思っていなかった様だ。だからやたら褒めちぎってくれた。
「あはは……ありがとうございます」
(それは私も同感だけどさ。そんなに褒めちぎられると何だか複雑な気分)
「部活も辞めてしまって落ち込んでいると思っていたんだが、これだけ頑張る事が出来て偉いぞ。一つは七緖のおかげかもしれないな。これからも七緖を頼りにしながら、頑張っていけよ」
もちろん分からないところはいつでも質問に来いよ。と、先生はつけ加えてくれた。
陸上を失った私を先生なりに心配していたのだろう。
私と七緖くんの勉強会は夏休み期間中も続く事になっているが、一山を越えたのもあり、私からありがとうの意味を込めて、七緖くんにスイーツをごちそうすると伝えた。
私がテストの合格点を取る事が出来たのも、七緖くんと博さんのおかげだから。博さんは別に差し入れをしよう。
七緖くんの好きなチョコレートスイーツが良いだろうと考え、私は早速お店を調べていたのだが──
「ほれは嬉しいなぁ~嬉しいんやけど……うーん、うーん」
七緖くんは腕を組んで考え込んでしまった。その様子に私は悪口の影響が七緖くんに出始めているのかと思い暗くなる。
「私と一緒だと、色々誤解されるよね」
あれだけの悪口だから七緖くんに迷惑がかかってはいけない。やっぱり博さんと同じ様に差し入れに切り替えようとした時、七緖くんがひどく慌てた。
「誤解ってほんな事ないよ!」
「ホントに? 良かったぁ」
迷惑はかかっていない様だ。私がホッとして笑うと、七緖くんが頬を少しだけ染めて頬をポリポリと掻いた。
「微笑むとか反則や……二人っきりやと僕がまたアレになったらちょっとまずいから……才川くんにあそこまで言われたら本気になるやんか」
最初と最後が全く気取れないが、どうも二人になるのはアレになるので何故かまずいらしい。
(アレになるって何だろう?)
「二人だとアレだからまずいの?」
「ちゃうよ……二人になるのは大歓迎なんやけどって、ちゃうちゃう。ほう言う意味ちゃうから」
何故か『ちゃう、ちゃう』と連呼する七緖くんだった。
(ほう言う意味ってどういう意味? まずいのに大歓迎って何故?)
私は訳が分からず首を傾げる。
「どういう意味?」
「凄く僕の込み入った事情があって。んんっ! とにかく人が多いところがええなぁ~出来るだけ。ほんで美味しいヤツで~あっ、あれや!」
と、言う事で──七緖くんがファーストフード店のチョコレートパイが食べたいと言い、学習教室近くのファーストフード店に行く事になった。
「ケーキとかカフェとかでもいいのに……」
私のお財布事情に合わせてくれたのかな? 何だか恥ずかしいと思い俯くと、七緖くんが慌てて私の手を握る。そして手を引きながら歩き出した。
「僕のチョイスにほんなにがっかりせんでええやん? 僕、チョコレートパイ好きやねん。せっかくやから二個食べようかなぁ」
私が俯いたのが自分の提案のせいで落胆したと感じたのか、七緖くんが優しくゆっくりと話してくれた。
(わっ。手! 繋いでる)
七緖くんは無意識だったのだろう。私は七緖くんの突然の行動に驚いて無言になって、握られた手を見つめた。その私の視線を追いかけて七緖くんは目を丸めた。
「わわっ! かんにんな? 何か無意識に繋いでしまって。いやいやいや。無意識って言い方したらあかんよね? ああ……またやってしもうた……」
七緖くんは慌てて手を離してしまった。そして一人慌てて落ち込み自分の顔を片手で覆った。
何だか一人大騒ぎしている七緖くんだ。そして七緖くんは今日も猫のバンスクリップで髪の毛を留めていてくれた。
「……別に良いのに」
ぽつりと呟いた、私の声はジタバタと焦っている七緖くんには届かなかった。
(七緖くん、頭を撫でる行為の方がハードルは高いと思うよ?)
先日の悪口の発端となった七緖くんの行為を思い出し呟いた。安原さんに手を繋いで歩いているのを見られたら次はどんな事を言われるだろう。
(また、悪口を言われても私はいい。それでも、七緖くんの手に触れていたいと思っているよ)
私はそんな風に強く思う様になっていた。
私は、七緖くんと博さんの勉強指導の結果、合格となった。もちろん七緖くんは当然合格だ。私達二人はお盆明けの補習授業は免除となった。
「巽よく頑張ったな。俺は一時どうなる事かと思ったよ」
補習を担当した先生は私の散々だった成績を知っている為に、テストに合格するとは思っていなかった様だ。だからやたら褒めちぎってくれた。
「あはは……ありがとうございます」
(それは私も同感だけどさ。そんなに褒めちぎられると何だか複雑な気分)
「部活も辞めてしまって落ち込んでいると思っていたんだが、これだけ頑張る事が出来て偉いぞ。一つは七緖のおかげかもしれないな。これからも七緖を頼りにしながら、頑張っていけよ」
もちろん分からないところはいつでも質問に来いよ。と、先生はつけ加えてくれた。
陸上を失った私を先生なりに心配していたのだろう。
私と七緖くんの勉強会は夏休み期間中も続く事になっているが、一山を越えたのもあり、私からありがとうの意味を込めて、七緖くんにスイーツをごちそうすると伝えた。
私がテストの合格点を取る事が出来たのも、七緖くんと博さんのおかげだから。博さんは別に差し入れをしよう。
七緖くんの好きなチョコレートスイーツが良いだろうと考え、私は早速お店を調べていたのだが──
「ほれは嬉しいなぁ~嬉しいんやけど……うーん、うーん」
七緖くんは腕を組んで考え込んでしまった。その様子に私は悪口の影響が七緖くんに出始めているのかと思い暗くなる。
「私と一緒だと、色々誤解されるよね」
あれだけの悪口だから七緖くんに迷惑がかかってはいけない。やっぱり博さんと同じ様に差し入れに切り替えようとした時、七緖くんがひどく慌てた。
「誤解ってほんな事ないよ!」
「ホントに? 良かったぁ」
迷惑はかかっていない様だ。私がホッとして笑うと、七緖くんが頬を少しだけ染めて頬をポリポリと掻いた。
「微笑むとか反則や……二人っきりやと僕がまたアレになったらちょっとまずいから……才川くんにあそこまで言われたら本気になるやんか」
最初と最後が全く気取れないが、どうも二人になるのはアレになるので何故かまずいらしい。
(アレになるって何だろう?)
「二人だとアレだからまずいの?」
「ちゃうよ……二人になるのは大歓迎なんやけどって、ちゃうちゃう。ほう言う意味ちゃうから」
何故か『ちゃう、ちゃう』と連呼する七緖くんだった。
(ほう言う意味ってどういう意味? まずいのに大歓迎って何故?)
私は訳が分からず首を傾げる。
「どういう意味?」
「凄く僕の込み入った事情があって。んんっ! とにかく人が多いところがええなぁ~出来るだけ。ほんで美味しいヤツで~あっ、あれや!」
と、言う事で──七緖くんがファーストフード店のチョコレートパイが食べたいと言い、学習教室近くのファーストフード店に行く事になった。
「ケーキとかカフェとかでもいいのに……」
私のお財布事情に合わせてくれたのかな? 何だか恥ずかしいと思い俯くと、七緖くんが慌てて私の手を握る。そして手を引きながら歩き出した。
「僕のチョイスにほんなにがっかりせんでええやん? 僕、チョコレートパイ好きやねん。せっかくやから二個食べようかなぁ」
私が俯いたのが自分の提案のせいで落胆したと感じたのか、七緖くんが優しくゆっくりと話してくれた。
(わっ。手! 繋いでる)
七緖くんは無意識だったのだろう。私は七緖くんの突然の行動に驚いて無言になって、握られた手を見つめた。その私の視線を追いかけて七緖くんは目を丸めた。
「わわっ! かんにんな? 何か無意識に繋いでしまって。いやいやいや。無意識って言い方したらあかんよね? ああ……またやってしもうた……」
七緖くんは慌てて手を離してしまった。そして一人慌てて落ち込み自分の顔を片手で覆った。
何だか一人大騒ぎしている七緖くんだ。そして七緖くんは今日も猫のバンスクリップで髪の毛を留めていてくれた。
「……別に良いのに」
ぽつりと呟いた、私の声はジタバタと焦っている七緖くんには届かなかった。
(七緖くん、頭を撫でる行為の方がハードルは高いと思うよ?)
先日の悪口の発端となった七緖くんの行為を思い出し呟いた。安原さんに手を繋いで歩いているのを見られたら次はどんな事を言われるだろう。
(また、悪口を言われても私はいい。それでも、七緖くんの手に触れていたいと思っているよ)
私はそんな風に強く思う様になっていた。
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