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056 8月7日 萌々香と明日香 3/4
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さすがにフリーマーケットの通りで話し込む訳にはいかず、私達四人は移動する事にした。
広場の端にはキッチンカーカフェが来ていた。側にパラソルを立ててテーブルと椅子を出している。暑いので飲み物を買った。パラソルの下、私達四人は小さな丸いテーブルを囲みそれぞれの飲み物を目の前にしていた。
「明日香はいつから知っていたんだ?」
怜央が観念して向かい側に座る私の顔を真っ直ぐ見た。バス停で言い合った時から私が知っている事は薄々気がついていたのだとか。
(七緖くんの言う通りだね。怜央も気づいていたか)
「四月に入る前、萌々香ちゃんのお店で幼なじみ皆で集まったでしょ。あの時よ。私ね、お皿を洗っている二人の後ろにいたの」
今でも思い出すと腹立たしい。あの会話は一言一句覚えている。私は目の前のアイスコーヒーのストローを持ち上げて氷をかき混ぜた。
「あー。あの時か……」
怜央が自分の頭を片手でぐしゃりとつかんだ。少し伸びた髪の毛を自分で引っ張っていた。やっとどのタイミングで私が二人の関係を知ったのか分かって、怜央は更に溜め息をついた。
「怜央も萌々香ちゃんも私の事を馬鹿にして……最低よ」
私は氷を見つめながら呟いた。すると怜央に近い位置で座っていた萌々香ちゃんが身を乗り出した。
「最低って、聞き捨てならないわね。私は別に明日香ちゃんの事なんて馬鹿にしてないわよ。だって本当の事でしょ? 大体、私が先に怜央くんと良い関係だったのに、邪魔をしたのは割り込んできたのは明日香ちゃんなのよ」
そう言うと萌々香ちゃんは両手をついて手を組むとその上に顎を乗せて微笑む。
「私が邪魔をして割り込んだ?」
私は萌々香ちゃんを見つめて呟いた。
確かに『萌々香から怜央くん取っちゃうんだもーん』と言っていたのは覚えているが、取った訳ではない。
「そうよ。だから私は悪い事はしていないわよ。それにさぁ、怜央くんとは明日香ちゃんと付き合い始めてから別にエッチな事なんてしていないのに。何で明日香ちゃんに責められないといけないの? 浮気したんだったらまだしも、怜央くんだって昔の女の子との関係をぐちゃぐちゃ言われたんじゃさ~たまったもんじゃないわよねぇ?」
そう言って怜央の顔を見つめた萌々香ちゃんだった。怜央はそんな萌々香ちゃんにチラリと視線を向けて睨んでいた。その視線が萌々香ちゃんは意外だったのか口を尖らせて黙り込んでしまった。
私はそんな萌々香ちゃんの前で一つ深呼吸をした。私の近い席には七緖くんが座っていてじっと私を見つめている。視線を感じる。
(七緖くんが側にいるなら大丈夫。言えるよね、私)
私はゆっくりと話し始めた。
「私は萌々香ちゃんから怜央を取った訳じゃないわ。私もずっと怜央の事が好きだったし、萌々香ちゃんの事も仲の良い幼なじみだと思っていたから、付き合う前にそういう関係だった事は教えて欲しかった」
「だからさぁ。そういうのが面倒になると思ったから黙ってあげていたのに」
萌々香ちゃんが私に食ってかかった。
(そうやって萌々香ちゃんは私の為を思ってとか、怜央の為を思ってとか。自分が気遣ってあげたって……言うのよね)
「『黙っていてあげた』なんて、萌々香ちゃんの一方的な思い込みでしょ? 二人で私の事を笑っているのを聞いた時はショックだったよ。あの日は、怜央に私の膝の事を相談しようと思っていたから……」
(そうだ。萌々香ちゃんとの事も、最初から知っていたら同じ様にショックだったかもしれないけれども、受け入れる事も出来たかもしれない)
「はぁ? 膝ってなんの事よ」
萌々香ちゃんは私の膝の怪我について全く知らないので、首を傾げた。
「……あの集まった日に相談してくれようとしていたんだな。明日香は」
怜央が私の名を呼んだ。優しい声でありながらも悔やんでいる様に聞こえた。私は怜央に視線を合わせて瞳を細めた。
「だから、あれから怜央が私に触れる度『何で?』とか『萌々香ちゃんが好きだったのかな?』って考えて、何も言えなくなって……だからあの大雨の日も」
怜央に押し倒されてもう少しで体も結ばれそうだったあの日、勇気を出して尋ねたけど怜央は嘘をついた。
「あれは! あんな時に聞かれたって」
怜央は私を見つめて声を大きくした。
「そうよね。分かってるよ。あの状態じゃ嘘を言うしかないよね。でも……それでも私は本当の事を怜央の口から聞きたかった。凄くショックだったし怜央とはもう無理だと……別れたいと思ったの」
思い出してもまだ胸が痛い。私は悲しく笑う事しか出来なかった。
「……」
怜央は私の様子に口元を押さえて黙り込んだ。
(全部言えた……)
私は今までずっと言えなかった怜央と別れたい理由が言えて、自分の胸の辺りを押さえた。
広場の端にはキッチンカーカフェが来ていた。側にパラソルを立ててテーブルと椅子を出している。暑いので飲み物を買った。パラソルの下、私達四人は小さな丸いテーブルを囲みそれぞれの飲み物を目の前にしていた。
「明日香はいつから知っていたんだ?」
怜央が観念して向かい側に座る私の顔を真っ直ぐ見た。バス停で言い合った時から私が知っている事は薄々気がついていたのだとか。
(七緖くんの言う通りだね。怜央も気づいていたか)
「四月に入る前、萌々香ちゃんのお店で幼なじみ皆で集まったでしょ。あの時よ。私ね、お皿を洗っている二人の後ろにいたの」
今でも思い出すと腹立たしい。あの会話は一言一句覚えている。私は目の前のアイスコーヒーのストローを持ち上げて氷をかき混ぜた。
「あー。あの時か……」
怜央が自分の頭を片手でぐしゃりとつかんだ。少し伸びた髪の毛を自分で引っ張っていた。やっとどのタイミングで私が二人の関係を知ったのか分かって、怜央は更に溜め息をついた。
「怜央も萌々香ちゃんも私の事を馬鹿にして……最低よ」
私は氷を見つめながら呟いた。すると怜央に近い位置で座っていた萌々香ちゃんが身を乗り出した。
「最低って、聞き捨てならないわね。私は別に明日香ちゃんの事なんて馬鹿にしてないわよ。だって本当の事でしょ? 大体、私が先に怜央くんと良い関係だったのに、邪魔をしたのは割り込んできたのは明日香ちゃんなのよ」
そう言うと萌々香ちゃんは両手をついて手を組むとその上に顎を乗せて微笑む。
「私が邪魔をして割り込んだ?」
私は萌々香ちゃんを見つめて呟いた。
確かに『萌々香から怜央くん取っちゃうんだもーん』と言っていたのは覚えているが、取った訳ではない。
「そうよ。だから私は悪い事はしていないわよ。それにさぁ、怜央くんとは明日香ちゃんと付き合い始めてから別にエッチな事なんてしていないのに。何で明日香ちゃんに責められないといけないの? 浮気したんだったらまだしも、怜央くんだって昔の女の子との関係をぐちゃぐちゃ言われたんじゃさ~たまったもんじゃないわよねぇ?」
そう言って怜央の顔を見つめた萌々香ちゃんだった。怜央はそんな萌々香ちゃんにチラリと視線を向けて睨んでいた。その視線が萌々香ちゃんは意外だったのか口を尖らせて黙り込んでしまった。
私はそんな萌々香ちゃんの前で一つ深呼吸をした。私の近い席には七緖くんが座っていてじっと私を見つめている。視線を感じる。
(七緖くんが側にいるなら大丈夫。言えるよね、私)
私はゆっくりと話し始めた。
「私は萌々香ちゃんから怜央を取った訳じゃないわ。私もずっと怜央の事が好きだったし、萌々香ちゃんの事も仲の良い幼なじみだと思っていたから、付き合う前にそういう関係だった事は教えて欲しかった」
「だからさぁ。そういうのが面倒になると思ったから黙ってあげていたのに」
萌々香ちゃんが私に食ってかかった。
(そうやって萌々香ちゃんは私の為を思ってとか、怜央の為を思ってとか。自分が気遣ってあげたって……言うのよね)
「『黙っていてあげた』なんて、萌々香ちゃんの一方的な思い込みでしょ? 二人で私の事を笑っているのを聞いた時はショックだったよ。あの日は、怜央に私の膝の事を相談しようと思っていたから……」
(そうだ。萌々香ちゃんとの事も、最初から知っていたら同じ様にショックだったかもしれないけれども、受け入れる事も出来たかもしれない)
「はぁ? 膝ってなんの事よ」
萌々香ちゃんは私の膝の怪我について全く知らないので、首を傾げた。
「……あの集まった日に相談してくれようとしていたんだな。明日香は」
怜央が私の名を呼んだ。優しい声でありながらも悔やんでいる様に聞こえた。私は怜央に視線を合わせて瞳を細めた。
「だから、あれから怜央が私に触れる度『何で?』とか『萌々香ちゃんが好きだったのかな?』って考えて、何も言えなくなって……だからあの大雨の日も」
怜央に押し倒されてもう少しで体も結ばれそうだったあの日、勇気を出して尋ねたけど怜央は嘘をついた。
「あれは! あんな時に聞かれたって」
怜央は私を見つめて声を大きくした。
「そうよね。分かってるよ。あの状態じゃ嘘を言うしかないよね。でも……それでも私は本当の事を怜央の口から聞きたかった。凄くショックだったし怜央とはもう無理だと……別れたいと思ったの」
思い出してもまだ胸が痛い。私は悲しく笑う事しか出来なかった。
「……」
怜央は私の様子に口元を押さえて黙り込んだ。
(全部言えた……)
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