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057 8月7日 萌々香と明日香 4/4
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私と怜央の話が終わり静まりかえった時、萌々香ちゃんがアイスミルクティーを飲み干してストローから口を離す。
「でもさーそれって全部明日香ちゃんが一人悩んで怒っていただけでしょ? 私も怜央くんもちょっと言い方はきつかったかもしれないけれど何か問題ある?」
萌々香ちゃんが私に体を向けて耳の横の髪の毛を指でくるくる回しながら尋ねてきた。
「え?」
私が顔を上げ萌々香ちゃんを見つめる。萌々香ちゃんは片肘をつけて私を下から睨みつける。
「さっきから明日香ちゃんはショックだとか悲しかったとか言ってさ、最後は怜央くんと別れたいとか言うけど。そんなの私からしたら、明日香ちゃんの勝手でしょ。一方的に怜央くんや私を、自分が思っていた『理想の幼なじみ』からかけ離れているから幻滅しただけでしょ?」
確かに萌々香ちゃんの言う事も一理ある。
「そうだね。幻想を抱いていたのは私かもね」
私は萌々香ちゃんの瞳を見ながら答える。
そうだ、もう私の知ってる幼なじみの二人は何処にもいない。きっとあの日集まった雄介くんも、集まらなかった舞ちゃんも絵美ちゃんも皆、それぞれの道を歩んで変わっていく。変わらなかったのは私だけ。そういう事なのだろう。
すると萌々香ちゃんはにやりと笑って足を組み直した。綺麗に手入れされたすらりとした足を見つめる。萌々香ちゃんはクスクス笑いながら話を続ける。
「そういうのが明日香ちゃんの駄目なところじゃないの? そんな風に夢見る感じだからなかなか怜央くんだって手が出せなかったんじゃない。だから怜央くんは私と先にそういう関係になったのよ。そんなのだから明日香ちゃんはいつも二番目になるのよ」
まるで私が問題あったからだと言わんばかりの言い草に私は眉を寄せて嫌な顔になる。
(何を言っているの萌々香ちゃんは)
そう思った時、怜央が萌々香ちゃんの肩をつかんで止めようとした。怜央の低い声が響いた。
「萌々香それは違う」
しかし萌々香ちゃんは怜央の手を振り払って私の方に再び向き直る。
「違わないわよ。明日香ちゃんがもたもたしているからこんな事を言われるのよ? こっちこそ悪者扱いで迷惑よ。そもそも怜央くんだって寂しがり屋だから大切にしてって言ったのにさ。そんな事も無視してさ。あ、そういえば陸上も駄目だったみたいじゃない」
私はピクリと肩を動かした。
あの電話の事を言っているのだと直感した。私は泣き言はあまり口にした事がないからきっと萌々香ちゃんも珍しいと思ったのだろう。
それから萌々香ちゃんはあの時の電話の、切る直前と同じ口調で笑いながら話した。
「大体、二番ばっかりっていうのはさ、やっぱり明日香ちゃんが原因なんじゃないの? 私達周りのせいにしないでよね」
萌々香ちゃんの言葉は凶器になった。
私の一番触れられたくない場所に踏み込んで来る。わざとなのだろう。そういえば傷つくと分かっていて触れていくる。私は一瞬にして、自分の顔から表情がなくなったのが分かった。
(陸上でも二番ばかり。そうよそんなの萌々香ちゃんに言われなくても分かってる)
努力したって二番ばかりだ。でもその陸上はもう今はない。膝を壊して諦めた。だから残ったのは怜央との関係だけなのに。それすらも萌々香ちゃんは変わらないと私を責めるだけで。
「萌々香!」
怜央の声が響いてもう一度萌々香ちゃんの肩をつかんだ。さすがに言い過ぎだと怜央は思った様だ。
「なっ、何よ。私は怜央くんの事を思って言ったのに」
怜央の剣幕にさすがに萌々香ちゃんが驚いて目を丸めていた。
その時七緖くんの低い声がぽつりと聞こえた。
「ほれはちゃうやろ? お姉さんが勝手に巽さんが二番目やって、決めつけとるだけや」
滑舌が良くはっきり聞こえる声。ゆっくりと関西弁風のイントネーションで話すととても迫力があった。
七緖くんはくるくるとストローを回して、アイスコーヒーの氷を溶かしてる。
「は?」
怜央に怒鳴られて目を丸めたままの萌々香ちゃんが、声を上げた七緖くんに視線を移す。萌々香ちゃんに振り払われた手で拳を作った怜央も同じ様に七緖くんを見つめた。
「七緖」
「君らの関係の中で巽さんを二番にしとんは、いや。二番にしたいんはお姉さんだけや。ほれに幻想を抱いているのはお姉さんも才川くんも同じや。巽さんやって、君らの思う幼なじみのまま、止まっとるんとちゃうよ?」
琥珀色の瞳が真っ直ぐに萌々香ちゃんを捕らえる。いつもは優しい温かい視線なのに。今は違った。突き刺す視線に萌々香ちゃんが動けなくなっていた。
「!」
七緖くんの言葉が私の心を溶かしていく。私は不覚にも涙が出そうになって口を震わせてしまった。
(そう私も変わったの。怜央達が思っている様な何も言えず傷つくだけで、ショックを受けるだけじゃなくなったの)
私はぐっとこらえて息を一つ大きくついた。あと少しだ。涙はまだ流さない。
「萌々香ちゃん。私はあの日、電話で怜央に泣きつきたかったの」
「え?」
「あの電話をかけた大会で私は膝を完全に故障、怪我をしたの。翌日手術して今やっとリハビリが一段落したところ」
「えっ? 手術って」
萌々香ちゃんはサッと顔色を変えた。そして自分の口元を片手で押さえ、大きな目を更に大きく見開いていた。事の重大さが少し理解出来たのだろうか。
(そういえば萌々香ちゃんにも伝えていなかったね。膝に爆弾を抱えていて故障した事を。まぁ萌々香ちゃんには言うつもりもなかったけれど)
「私は膝の怪我でね、陸上を辞めたのよ。二番しか取れなかった陸上をね」
私が強くはっきりとそう言うと、萌々香ちゃんはガタンと椅子を倒して立ち上がった。
そして目をつり上げて私を見下ろした。怒っているのかと思ったが違っていた。明らかに動揺している萌々香ちゃんだった。
「や、辞めたって。そんな。わっ、私はそんな膝の事も怪我の事も知らなかったから仕方ないでしょ!」
私にそう言い放つと、萌々香ちゃんはくるりと背を向けて広場の入り口に向かって一人早歩きで去っていった。
「そりゃぁ言ってなかったし、言おうと思ったら萌々香ちゃんが邪魔したんでしょ……」
私は萌々香ちゃんの背中を見つめながら呟いた。
萌々香ちゃんの背中が段々小さくなっていく。でも、追いかけてこれ以上話をする気にもなれなかった。
私と萌々香ちゃんとの考え方は何処までいっても平行線で、決して交わる事はなかった。
(それでも冷静に喧嘩……出来たよね?)
勝ちも負けも何もない。
ただ私と萌々香ちゃん、そして怜央との関係はこれで全部壊れたのだと私は思った。
「でもさーそれって全部明日香ちゃんが一人悩んで怒っていただけでしょ? 私も怜央くんもちょっと言い方はきつかったかもしれないけれど何か問題ある?」
萌々香ちゃんが私に体を向けて耳の横の髪の毛を指でくるくる回しながら尋ねてきた。
「え?」
私が顔を上げ萌々香ちゃんを見つめる。萌々香ちゃんは片肘をつけて私を下から睨みつける。
「さっきから明日香ちゃんはショックだとか悲しかったとか言ってさ、最後は怜央くんと別れたいとか言うけど。そんなの私からしたら、明日香ちゃんの勝手でしょ。一方的に怜央くんや私を、自分が思っていた『理想の幼なじみ』からかけ離れているから幻滅しただけでしょ?」
確かに萌々香ちゃんの言う事も一理ある。
「そうだね。幻想を抱いていたのは私かもね」
私は萌々香ちゃんの瞳を見ながら答える。
そうだ、もう私の知ってる幼なじみの二人は何処にもいない。きっとあの日集まった雄介くんも、集まらなかった舞ちゃんも絵美ちゃんも皆、それぞれの道を歩んで変わっていく。変わらなかったのは私だけ。そういう事なのだろう。
すると萌々香ちゃんはにやりと笑って足を組み直した。綺麗に手入れされたすらりとした足を見つめる。萌々香ちゃんはクスクス笑いながら話を続ける。
「そういうのが明日香ちゃんの駄目なところじゃないの? そんな風に夢見る感じだからなかなか怜央くんだって手が出せなかったんじゃない。だから怜央くんは私と先にそういう関係になったのよ。そんなのだから明日香ちゃんはいつも二番目になるのよ」
まるで私が問題あったからだと言わんばかりの言い草に私は眉を寄せて嫌な顔になる。
(何を言っているの萌々香ちゃんは)
そう思った時、怜央が萌々香ちゃんの肩をつかんで止めようとした。怜央の低い声が響いた。
「萌々香それは違う」
しかし萌々香ちゃんは怜央の手を振り払って私の方に再び向き直る。
「違わないわよ。明日香ちゃんがもたもたしているからこんな事を言われるのよ? こっちこそ悪者扱いで迷惑よ。そもそも怜央くんだって寂しがり屋だから大切にしてって言ったのにさ。そんな事も無視してさ。あ、そういえば陸上も駄目だったみたいじゃない」
私はピクリと肩を動かした。
あの電話の事を言っているのだと直感した。私は泣き言はあまり口にした事がないからきっと萌々香ちゃんも珍しいと思ったのだろう。
それから萌々香ちゃんはあの時の電話の、切る直前と同じ口調で笑いながら話した。
「大体、二番ばっかりっていうのはさ、やっぱり明日香ちゃんが原因なんじゃないの? 私達周りのせいにしないでよね」
萌々香ちゃんの言葉は凶器になった。
私の一番触れられたくない場所に踏み込んで来る。わざとなのだろう。そういえば傷つくと分かっていて触れていくる。私は一瞬にして、自分の顔から表情がなくなったのが分かった。
(陸上でも二番ばかり。そうよそんなの萌々香ちゃんに言われなくても分かってる)
努力したって二番ばかりだ。でもその陸上はもう今はない。膝を壊して諦めた。だから残ったのは怜央との関係だけなのに。それすらも萌々香ちゃんは変わらないと私を責めるだけで。
「萌々香!」
怜央の声が響いてもう一度萌々香ちゃんの肩をつかんだ。さすがに言い過ぎだと怜央は思った様だ。
「なっ、何よ。私は怜央くんの事を思って言ったのに」
怜央の剣幕にさすがに萌々香ちゃんが驚いて目を丸めていた。
その時七緖くんの低い声がぽつりと聞こえた。
「ほれはちゃうやろ? お姉さんが勝手に巽さんが二番目やって、決めつけとるだけや」
滑舌が良くはっきり聞こえる声。ゆっくりと関西弁風のイントネーションで話すととても迫力があった。
七緖くんはくるくるとストローを回して、アイスコーヒーの氷を溶かしてる。
「は?」
怜央に怒鳴られて目を丸めたままの萌々香ちゃんが、声を上げた七緖くんに視線を移す。萌々香ちゃんに振り払われた手で拳を作った怜央も同じ様に七緖くんを見つめた。
「七緖」
「君らの関係の中で巽さんを二番にしとんは、いや。二番にしたいんはお姉さんだけや。ほれに幻想を抱いているのはお姉さんも才川くんも同じや。巽さんやって、君らの思う幼なじみのまま、止まっとるんとちゃうよ?」
琥珀色の瞳が真っ直ぐに萌々香ちゃんを捕らえる。いつもは優しい温かい視線なのに。今は違った。突き刺す視線に萌々香ちゃんが動けなくなっていた。
「!」
七緖くんの言葉が私の心を溶かしていく。私は不覚にも涙が出そうになって口を震わせてしまった。
(そう私も変わったの。怜央達が思っている様な何も言えず傷つくだけで、ショックを受けるだけじゃなくなったの)
私はぐっとこらえて息を一つ大きくついた。あと少しだ。涙はまだ流さない。
「萌々香ちゃん。私はあの日、電話で怜央に泣きつきたかったの」
「え?」
「あの電話をかけた大会で私は膝を完全に故障、怪我をしたの。翌日手術して今やっとリハビリが一段落したところ」
「えっ? 手術って」
萌々香ちゃんはサッと顔色を変えた。そして自分の口元を片手で押さえ、大きな目を更に大きく見開いていた。事の重大さが少し理解出来たのだろうか。
(そういえば萌々香ちゃんにも伝えていなかったね。膝に爆弾を抱えていて故障した事を。まぁ萌々香ちゃんには言うつもりもなかったけれど)
「私は膝の怪我でね、陸上を辞めたのよ。二番しか取れなかった陸上をね」
私が強くはっきりとそう言うと、萌々香ちゃんはガタンと椅子を倒して立ち上がった。
そして目をつり上げて私を見下ろした。怒っているのかと思ったが違っていた。明らかに動揺している萌々香ちゃんだった。
「や、辞めたって。そんな。わっ、私はそんな膝の事も怪我の事も知らなかったから仕方ないでしょ!」
私にそう言い放つと、萌々香ちゃんはくるりと背を向けて広場の入り口に向かって一人早歩きで去っていった。
「そりゃぁ言ってなかったし、言おうと思ったら萌々香ちゃんが邪魔したんでしょ……」
私は萌々香ちゃんの背中を見つめながら呟いた。
萌々香ちゃんの背中が段々小さくなっていく。でも、追いかけてこれ以上話をする気にもなれなかった。
私と萌々香ちゃんとの考え方は何処までいっても平行線で、決して交わる事はなかった。
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勝ちも負けも何もない。
ただ私と萌々香ちゃん、そして怜央との関係はこれで全部壊れたのだと私は思った。
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