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059 8月7日 夕方 長い一日の終わりと始まり 1/2
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フリーマーケットも終わりを迎えた様でそれぞれの店がお店を閉め始めていた。夕方になり、帰宅する人が増える時間だけど、まだまだ日が沈む様子はない。
私は七緖くんに手を引かれてとぼとぼと歩いていた。
何処を歩いているのか、あまり分かっていなかった。それぐらい放心状態だった。
(心が空っぽって、こういう事を言うのかな)
怜央と恋人という関係が終わった。
そして萌々香ちゃんにも言いたい事を言えた。
関係が壊れちゃったかどうかは分からない。でも後悔はない。これで良かったと思うと同時に、何とも言えない脱力感に襲われていた。
七緖くんは無言でそんな私の手を引いてゆっくりと歩く。
結局──気分転換の公園には行けずじまいで一日が終わろうとしていた。
◇◆◇
怜央と私、そして七緖くんはカフェのパラソルから出て、広場前の入り口へ向かって歩く。
「また改めて萌々香に謝る様に伝えておく。明日香が手術までしていた事を知った今なら、電話を勝手にとった事も反省するだろうし」
怜央が萌々香ちゃんの鞄をくるくると回しながら話す。
「電話の事はね、やり過ぎだったと思うけど。萌々香ちゃんは簡単に謝れないと思うよ? なんせ私が相手だし」
人は簡単には変われない。私や怜央が変われない様に萌々香ちゃんも同じだろう。ずっとマウントをとっていた私に謝るなんてきっとプライドが許さないと思う。
「そうかもしれないけど。良くない事は良くないって言うべきだろ」
「そういうところは怜央も昔のままだね」
私がぽつりと呟く。
何だかんだで幼なじみ、腐れ縁は続いていく。相手の事が好きでも嫌いでも。
「そういうところだけで悪かったなぁ! なぁ明日香。言い訳じゃないけどさ。俺は別に萌々香に特別な感情があったわけじゃないから」
ぽつりと怜央が呟いた。
「それはそれでどうなの」
私は怜央の腕を叩いた。
(それではセフレと言うやつではないのだろうか。あの萌々香ちゃんが好きだったと言われても嫌だし。だって好き合っていたのなら、どっちが別れを切り出したのか気になる。何だか複雑な気分)
怜央は私が叩いたので、顔をしかめながら鞄を回すのを止めた。
「今後、萌々香と付き合いたいと思うとか。これからもそういう関係が復活するとか。そういう事はないって言いたかっただけだ」
「……分かったよ」
「それと」
怜央が足を止めゆっくりと私と向かい合う。
じっと怜央の瞳が私を見つめる。日焼けした頬と鋭い一重。ずっと好きだった怜央がゆっくりと笑った。
「傷つけて本当にごめん。一度明日香と別れるけれど、俺が明日香を好きなのは本当だ。もちろん今も。それは覚えておいて欲しい」
怜央が萌々香ちゃんと関係したのは、感情から来るものではなければ何だったのだろう。性欲から来るものだったのかもしれないけど。本当にそれだけだろうか?
だけど、それを追求したところで、理解したからと言ってどうにもならない。
「うん」
私が頷くと、怜央は優しく微笑んだ。
そして視線を隣の七緖くんに移す。七緖くんをじっと見つめると怜央はそっと瞳を細めた。そして低い声で呟く。
「これで終わりじゃねぇ。勝ったと思うなよ」
怜央がじっと瞬きもせず七緖くんを見つめる。
七緖くんは口を少しだけ開いて考える事数秒。それから口を閉じて、猫背のままひょこひょこ歩き怜央と鼻が擦れ合う程まで近づいた。そして七緖くんは猫背を伸ばして、怜央を見下ろす。
琥珀色の瞳と黒い瞳がぶつかり合う。
「勝ち負け違うやろ」
「これで終わるとは思うな。俺は諦めないからな」
「えぇ~しつこいんは嫌われんで」
「だから一度別れるのさ」
「経験があると余裕やなぁ」
「ホントにお前は嫌みっぽいな。嫌われろよ」
「嫌や。ま、受けて立とうやないの」
お互いポケットに手を突っ込んだままで何やらぼそぼそ呟いている。
喧嘩をする様子ではないが、背の高い二人が何をしているのだろうと私は首を傾げた。声をかけようとしたら七緖くんから怜央が離れた。そして手を振って歩き出した。
「じゃぁな明日香。たまには俺の応援にも来いよ」
「うん。じゃぁね」
私は手を振って小さくなっていく怜央の背中を見送った。
◇◆◇
あれから、私と七緖くんは無言のままだった。
手を引かれて歩くが私がふらふらしているせいで途中人にぶつかる。ぶつかった人が文句を言おうと私に振り向くが、何故か口を閉ざしてすぐに歩き出す。
そんなに文句を言うのもためらわれる程ひどい顔をしているのだろうか。
放心状態の死んだ様な顔なのかな。そんな事を考える。
どのぐらい歩いただろう。突然、七緖くんが足を止めた。ドスンと思わず七緖くんの背中にぶつかってしまう。
「ごめんなさい」
私は掠れた声を上げて七緖くんの背中を見つめる。
気がつくと、喫茶店「銀河」の隣にある家、玄関の前で止まっていた。
(喫茶店の隣って、確か七緖くんのお家だよね)
七緖くんがゆっくり振り向くと、少し目を見開いて優しく微笑んでくれた。その微笑みにホッとするが、少し苦しそうに七緖くんが眉を寄せた。
「どうしたの?」
私が尋ねると、七緖くんが困った顔で笑っていた。
「巽さん、ずっと泣いたままやったんやね」
「え?」
気がつくと、私は頬に涙が伝っていた。
私は七緖くんに手を引かれてとぼとぼと歩いていた。
何処を歩いているのか、あまり分かっていなかった。それぐらい放心状態だった。
(心が空っぽって、こういう事を言うのかな)
怜央と恋人という関係が終わった。
そして萌々香ちゃんにも言いたい事を言えた。
関係が壊れちゃったかどうかは分からない。でも後悔はない。これで良かったと思うと同時に、何とも言えない脱力感に襲われていた。
七緖くんは無言でそんな私の手を引いてゆっくりと歩く。
結局──気分転換の公園には行けずじまいで一日が終わろうとしていた。
◇◆◇
怜央と私、そして七緖くんはカフェのパラソルから出て、広場前の入り口へ向かって歩く。
「また改めて萌々香に謝る様に伝えておく。明日香が手術までしていた事を知った今なら、電話を勝手にとった事も反省するだろうし」
怜央が萌々香ちゃんの鞄をくるくると回しながら話す。
「電話の事はね、やり過ぎだったと思うけど。萌々香ちゃんは簡単に謝れないと思うよ? なんせ私が相手だし」
人は簡単には変われない。私や怜央が変われない様に萌々香ちゃんも同じだろう。ずっとマウントをとっていた私に謝るなんてきっとプライドが許さないと思う。
「そうかもしれないけど。良くない事は良くないって言うべきだろ」
「そういうところは怜央も昔のままだね」
私がぽつりと呟く。
何だかんだで幼なじみ、腐れ縁は続いていく。相手の事が好きでも嫌いでも。
「そういうところだけで悪かったなぁ! なぁ明日香。言い訳じゃないけどさ。俺は別に萌々香に特別な感情があったわけじゃないから」
ぽつりと怜央が呟いた。
「それはそれでどうなの」
私は怜央の腕を叩いた。
(それではセフレと言うやつではないのだろうか。あの萌々香ちゃんが好きだったと言われても嫌だし。だって好き合っていたのなら、どっちが別れを切り出したのか気になる。何だか複雑な気分)
怜央は私が叩いたので、顔をしかめながら鞄を回すのを止めた。
「今後、萌々香と付き合いたいと思うとか。これからもそういう関係が復活するとか。そういう事はないって言いたかっただけだ」
「……分かったよ」
「それと」
怜央が足を止めゆっくりと私と向かい合う。
じっと怜央の瞳が私を見つめる。日焼けした頬と鋭い一重。ずっと好きだった怜央がゆっくりと笑った。
「傷つけて本当にごめん。一度明日香と別れるけれど、俺が明日香を好きなのは本当だ。もちろん今も。それは覚えておいて欲しい」
怜央が萌々香ちゃんと関係したのは、感情から来るものではなければ何だったのだろう。性欲から来るものだったのかもしれないけど。本当にそれだけだろうか?
だけど、それを追求したところで、理解したからと言ってどうにもならない。
「うん」
私が頷くと、怜央は優しく微笑んだ。
そして視線を隣の七緖くんに移す。七緖くんをじっと見つめると怜央はそっと瞳を細めた。そして低い声で呟く。
「これで終わりじゃねぇ。勝ったと思うなよ」
怜央がじっと瞬きもせず七緖くんを見つめる。
七緖くんは口を少しだけ開いて考える事数秒。それから口を閉じて、猫背のままひょこひょこ歩き怜央と鼻が擦れ合う程まで近づいた。そして七緖くんは猫背を伸ばして、怜央を見下ろす。
琥珀色の瞳と黒い瞳がぶつかり合う。
「勝ち負け違うやろ」
「これで終わるとは思うな。俺は諦めないからな」
「えぇ~しつこいんは嫌われんで」
「だから一度別れるのさ」
「経験があると余裕やなぁ」
「ホントにお前は嫌みっぽいな。嫌われろよ」
「嫌や。ま、受けて立とうやないの」
お互いポケットに手を突っ込んだままで何やらぼそぼそ呟いている。
喧嘩をする様子ではないが、背の高い二人が何をしているのだろうと私は首を傾げた。声をかけようとしたら七緖くんから怜央が離れた。そして手を振って歩き出した。
「じゃぁな明日香。たまには俺の応援にも来いよ」
「うん。じゃぁね」
私は手を振って小さくなっていく怜央の背中を見送った。
◇◆◇
あれから、私と七緖くんは無言のままだった。
手を引かれて歩くが私がふらふらしているせいで途中人にぶつかる。ぶつかった人が文句を言おうと私に振り向くが、何故か口を閉ざしてすぐに歩き出す。
そんなに文句を言うのもためらわれる程ひどい顔をしているのだろうか。
放心状態の死んだ様な顔なのかな。そんな事を考える。
どのぐらい歩いただろう。突然、七緖くんが足を止めた。ドスンと思わず七緖くんの背中にぶつかってしまう。
「ごめんなさい」
私は掠れた声を上げて七緖くんの背中を見つめる。
気がつくと、喫茶店「銀河」の隣にある家、玄関の前で止まっていた。
(喫茶店の隣って、確か七緖くんのお家だよね)
七緖くんがゆっくり振り向くと、少し目を見開いて優しく微笑んでくれた。その微笑みにホッとするが、少し苦しそうに七緖くんが眉を寄せた。
「どうしたの?」
私が尋ねると、七緖くんが困った顔で笑っていた。
「巽さん、ずっと泣いたままやったんやね」
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気がつくと、私は頬に涙が伝っていた。
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