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074 9月7日 七緖と才川 2/5
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「私は才川くんが好きで……だから、これからもっと才川くんの力になりたいって思って」
もじもじと必死に言葉を並べる安原 緑だ。
顔を真っ赤にしてTシャツの裾を両手で掴んでいた。安原の周りには二人女子がいる。「頑張れ。緑」と応援していた。
才川と同じ部活の男友達二人が、才川の肩をポンと叩く。
「巽さんと別れたのは残念だと思うが。前を向いていこうぜ?」
「そうそう。安原は凄く健気で可愛いから俺はいいと思うぜ」
そんな事を言う二人は、才川がいつもの通り優しく断ると思っているのだろう。
やたら一人が「安原は可愛い」と言う。もしかしたら才川が振った後、安原を慰めて上手くいけば自分が仲良くなろうとしているのかもしれない。
(見え見えなんだよ)
しかし、この日の才川はいつもと違っていた。明日香と別れた事が大きく影響していた。
明日香と別れた原因が自分と萌々香にある事は嫌って言うほど理解しているが。そのせいだろうか。安原と萌々香がオーバーラップするのだ。顔や姿に似ている要素は全くないのに、全てを利用しようとする行動がそう感じてしまうのかもしれない。
目の前にいる安原の姿が、萌々香が取り繕っている様子に似ていると感じる。
(チッ。もう分かったから。俺が大馬鹿なのは分かったっていうのに。イライラする)
安原は才川の力になりたいと訴えるが、半分は嘘だと感じる。
才川の為と言うより、自分の為と置き換えた方がとてもしっくりくる。
そして思わず普段だったら言わないはずの言葉を言ってしまう。
「俺の何処が好きなんだよ」
「え?」
「言ってみろよ。容姿以外で」
冷たく聞く才川の態度と言葉に安原はどもりながらも懸命に答える。
「よ、容姿以外って。もちろん容姿じゃないよ。部活とか勉強を頑張るところとか。そ、それに……巽さんを心配している姿とか」
「ふーん。明日香を心配している姿ね」
(何だよそりゃ。明日香に惹かれている俺が好きだとでも言うのか?)
才川には全く安原の言葉が響いてこなかった。
容姿じゃないと言いながらその後並べられた内容のありきたりさに溜め息をついた。更に、明日香の事をちらつかせて来るので益々イライラしてくる。
「お、おい怜央?」
いつもと違う才川の雰囲気に、両側にいた男子二人が慌て出す。
「そんな風に人を好きになる才川くんは素敵だし。そのぐらい好かれている巽さんが羨ましいと思ってた。だけど……巽さんはどうも違う男性と一緒にいた様子だし。だから私──」
安原が最初はおどおどしながら才川をチラリと見つめる。無言で聞いていた怜央の態度に安原は安心して一気に話し始めた。
安原は最後に「才川くんが好きなの」と、言う言葉で締めくくろうとして才川を見上げる。しかし、才川はひどく無表情だった。安原はその顔に怖くなって半歩足を引いた。その動きを見た才川がようやく言葉を発した。
「悪いな。俺は安原が思っている様な男じゃねぇし。付き合えない」
いつもなら「ありがとう。嬉しいよ。だけどごめんな」と優しく言えるのに。
「あ……」
安原は大きな瞳から光をなくす。周りの二人の女子も息を飲んだ。安原はそれでも勇気を出し一歩踏み出す。震える声で訴える。
「でも、私は諦めきれない。才川くんが大好きだから! これからも好きでいるから」
と、大きな瞳から涙をこぼした。
(確かに魅力的で可愛い顔をしているよな。でもそういう顔は好みでもないし)
全体的に緩くてぽってりした印象の顔。目が大きくて──明日香とは真逆だった。
両隣にいた男子が才川の腕を突いた。
「おい、もっと優しく言えるだろ?」
大抵泣かれない様に上手く切り抜ける才川の術を知っているのに、それをしなかったので慌て出した。
「そうだな。言い方が悪かった」
才川は男友達の言葉に頷いて、我に返り再び口を開いた。いつも以上にイライラしているのは確かだった。
だから、思わず出てきた言葉は──
「付き合う気はねぇけど。ヤるだけならいいぜ。どうせ俺の顔と体がいいんだろ。どうする?」
半分は本音、半分は嘘だった。
驚いた安原は涙を引っ込め、顔を真っ赤にし「ひどい!」と大声を上げた。そして、その場にいた女友達二人を引き連れて帰って行った。
◇◆◇
という最低な対応になってしまったのだ。
一緒にいた男友達も驚いて、この出来事はバレーボール部の仲間内では箝口令が敷かれたのだ。
男友達は用意しすぎて悪かったと怜央に謝ってきた。明日香と別れた直後なので、いいんじゃないかと思った様だ。
「そうだよな経験済みでも巽さんが好きだったのは確かだもんな。別れた直後に悪かった。でもさ、才川の本音がチラリと聞けて何か清々しかったぜ。変に優しく断るよりそっちの方がいいんじゃね?」
と、褒められているのかけなされているのか分からない事を言われる羽目になった。
才川は思う。あれが、自分の最低な本音だろう、と。
◇◆◇
何故、その事を七緖が知っているのだろうと、才川は七緖を見つめた。すると、七緖が苦笑いをしながら片手を上げた。
「安原さんが、新学期早々僕んとこに告げ口しにきてん」
「安原が何の為に?」
どうして当の本人がわざわざ七緖に告げ口をする必要があるのだろう。才川は全く理解出来ず首を傾げる。
「どうやら男友達の一人に巽さんと別れた本当の理由を聞いたみたいやったで。才川くんに原因があると思うてなかったみたいや。びっくりしたやろなぁ才川くんの正体が分かって。ほんで巽さんに飛び火させたろうと思うたんとちゃう? ちょっとした腹いせや」
「それの何処が腹いせなんだ」
そう才川が尋ねると、七緖が緩くジェスチャーを交えて話し始める。
「僕に言うやん。ほいで巽さんに伝わるやん。巽さんが目をキラキラさせて『怜央がそんな乱暴な言い草なんて。きっと私が振ったからかも。心配~』ってなるやん。ほしたら僕が嫉妬して巽さんとの仲が悪うなるかもやん」
七緖の長い前髪が揺れる。そしてイラつくが明日香の真似をして話す。だが腹が立つほど全く似ていない。
「はぁ? 何だよそりゃ。ありえねぇ……」
才川は馬鹿馬鹿しくて更に脱力した。
「って事を考えとるかは分からんけど。僕に言うてくるんは、何か僕が動くかもって期待するからやないかな」
「はーっ。女ってどうしてそんなに面倒くせぇの?」
才川が呟いた言葉が空しく夏の空に消える。風が吹いて才川と七緖の前髪を揺らしていく。
「巽さんは安原さんの事は問題ないって言っとったし。大丈夫と思うよ」
「ああそうだな」
七緖も才川も、明日香から話を聞いている。
休み明け明日香に対してクラスメイトの安原は態度がよそよそしくなっていたそうだ。安原の友達も同じ様な態度になっていたそうだ。特に攻撃的になる事はない様なので良しとするが、才川を諦めきれない気持ちが強いといつ態度が変わるかは分からない。
もじもじと必死に言葉を並べる安原 緑だ。
顔を真っ赤にしてTシャツの裾を両手で掴んでいた。安原の周りには二人女子がいる。「頑張れ。緑」と応援していた。
才川と同じ部活の男友達二人が、才川の肩をポンと叩く。
「巽さんと別れたのは残念だと思うが。前を向いていこうぜ?」
「そうそう。安原は凄く健気で可愛いから俺はいいと思うぜ」
そんな事を言う二人は、才川がいつもの通り優しく断ると思っているのだろう。
やたら一人が「安原は可愛い」と言う。もしかしたら才川が振った後、安原を慰めて上手くいけば自分が仲良くなろうとしているのかもしれない。
(見え見えなんだよ)
しかし、この日の才川はいつもと違っていた。明日香と別れた事が大きく影響していた。
明日香と別れた原因が自分と萌々香にある事は嫌って言うほど理解しているが。そのせいだろうか。安原と萌々香がオーバーラップするのだ。顔や姿に似ている要素は全くないのに、全てを利用しようとする行動がそう感じてしまうのかもしれない。
目の前にいる安原の姿が、萌々香が取り繕っている様子に似ていると感じる。
(チッ。もう分かったから。俺が大馬鹿なのは分かったっていうのに。イライラする)
安原は才川の力になりたいと訴えるが、半分は嘘だと感じる。
才川の為と言うより、自分の為と置き換えた方がとてもしっくりくる。
そして思わず普段だったら言わないはずの言葉を言ってしまう。
「俺の何処が好きなんだよ」
「え?」
「言ってみろよ。容姿以外で」
冷たく聞く才川の態度と言葉に安原はどもりながらも懸命に答える。
「よ、容姿以外って。もちろん容姿じゃないよ。部活とか勉強を頑張るところとか。そ、それに……巽さんを心配している姿とか」
「ふーん。明日香を心配している姿ね」
(何だよそりゃ。明日香に惹かれている俺が好きだとでも言うのか?)
才川には全く安原の言葉が響いてこなかった。
容姿じゃないと言いながらその後並べられた内容のありきたりさに溜め息をついた。更に、明日香の事をちらつかせて来るので益々イライラしてくる。
「お、おい怜央?」
いつもと違う才川の雰囲気に、両側にいた男子二人が慌て出す。
「そんな風に人を好きになる才川くんは素敵だし。そのぐらい好かれている巽さんが羨ましいと思ってた。だけど……巽さんはどうも違う男性と一緒にいた様子だし。だから私──」
安原が最初はおどおどしながら才川をチラリと見つめる。無言で聞いていた怜央の態度に安原は安心して一気に話し始めた。
安原は最後に「才川くんが好きなの」と、言う言葉で締めくくろうとして才川を見上げる。しかし、才川はひどく無表情だった。安原はその顔に怖くなって半歩足を引いた。その動きを見た才川がようやく言葉を発した。
「悪いな。俺は安原が思っている様な男じゃねぇし。付き合えない」
いつもなら「ありがとう。嬉しいよ。だけどごめんな」と優しく言えるのに。
「あ……」
安原は大きな瞳から光をなくす。周りの二人の女子も息を飲んだ。安原はそれでも勇気を出し一歩踏み出す。震える声で訴える。
「でも、私は諦めきれない。才川くんが大好きだから! これからも好きでいるから」
と、大きな瞳から涙をこぼした。
(確かに魅力的で可愛い顔をしているよな。でもそういう顔は好みでもないし)
全体的に緩くてぽってりした印象の顔。目が大きくて──明日香とは真逆だった。
両隣にいた男子が才川の腕を突いた。
「おい、もっと優しく言えるだろ?」
大抵泣かれない様に上手く切り抜ける才川の術を知っているのに、それをしなかったので慌て出した。
「そうだな。言い方が悪かった」
才川は男友達の言葉に頷いて、我に返り再び口を開いた。いつも以上にイライラしているのは確かだった。
だから、思わず出てきた言葉は──
「付き合う気はねぇけど。ヤるだけならいいぜ。どうせ俺の顔と体がいいんだろ。どうする?」
半分は本音、半分は嘘だった。
驚いた安原は涙を引っ込め、顔を真っ赤にし「ひどい!」と大声を上げた。そして、その場にいた女友達二人を引き連れて帰って行った。
◇◆◇
という最低な対応になってしまったのだ。
一緒にいた男友達も驚いて、この出来事はバレーボール部の仲間内では箝口令が敷かれたのだ。
男友達は用意しすぎて悪かったと怜央に謝ってきた。明日香と別れた直後なので、いいんじゃないかと思った様だ。
「そうだよな経験済みでも巽さんが好きだったのは確かだもんな。別れた直後に悪かった。でもさ、才川の本音がチラリと聞けて何か清々しかったぜ。変に優しく断るよりそっちの方がいいんじゃね?」
と、褒められているのかけなされているのか分からない事を言われる羽目になった。
才川は思う。あれが、自分の最低な本音だろう、と。
◇◆◇
何故、その事を七緖が知っているのだろうと、才川は七緖を見つめた。すると、七緖が苦笑いをしながら片手を上げた。
「安原さんが、新学期早々僕んとこに告げ口しにきてん」
「安原が何の為に?」
どうして当の本人がわざわざ七緖に告げ口をする必要があるのだろう。才川は全く理解出来ず首を傾げる。
「どうやら男友達の一人に巽さんと別れた本当の理由を聞いたみたいやったで。才川くんに原因があると思うてなかったみたいや。びっくりしたやろなぁ才川くんの正体が分かって。ほんで巽さんに飛び火させたろうと思うたんとちゃう? ちょっとした腹いせや」
「それの何処が腹いせなんだ」
そう才川が尋ねると、七緖が緩くジェスチャーを交えて話し始める。
「僕に言うやん。ほいで巽さんに伝わるやん。巽さんが目をキラキラさせて『怜央がそんな乱暴な言い草なんて。きっと私が振ったからかも。心配~』ってなるやん。ほしたら僕が嫉妬して巽さんとの仲が悪うなるかもやん」
七緖の長い前髪が揺れる。そしてイラつくが明日香の真似をして話す。だが腹が立つほど全く似ていない。
「はぁ? 何だよそりゃ。ありえねぇ……」
才川は馬鹿馬鹿しくて更に脱力した。
「って事を考えとるかは分からんけど。僕に言うてくるんは、何か僕が動くかもって期待するからやないかな」
「はーっ。女ってどうしてそんなに面倒くせぇの?」
才川が呟いた言葉が空しく夏の空に消える。風が吹いて才川と七緖の前髪を揺らしていく。
「巽さんは安原さんの事は問題ないって言っとったし。大丈夫と思うよ」
「ああそうだな」
七緖も才川も、明日香から話を聞いている。
休み明け明日香に対してクラスメイトの安原は態度がよそよそしくなっていたそうだ。安原の友達も同じ様な態度になっていたそうだ。特に攻撃的になる事はない様なので良しとするが、才川を諦めきれない気持ちが強いといつ態度が変わるかは分からない。
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