91 / 95
080 9月12日 七緖くんの部屋にて 3/3
しおりを挟む
「ど、どういう事?」
私の問いかけに七緖くんはバンスクリップで留めた髪の毛をぐちゃぐちゃに両手でかき混ぜ天を仰いだ。
「手を繋ぐやんか。ほうしたら次はキスをしたなるやろ?」
「えっ何でキス?」
手を繋いだら繋いで満足する──のではないのだろうか。
何故すぐキスがしたくなるの?
私はわけが分からず七緖くんに聞き返す。七緖くんは私の「何故」という問いかけに益々イライラして弾ける様に続けた。
「僕はその先まで想像してしまうんや。手を繋いだら唇が触れあうだけのキス。次は濃厚なキス。キスしながら抱きしめる。抱きしめたら次は巽さんに触りたい。服の上やのうてもちろん素肌に。ほれから擦りつけて、中に入りたいんや!」
「な、中って……え?」
(それってその、エッチって事よね?)
私は七緖くんの想像の凄さに驚いてしまう。
「ほやのに巽さんはそんな先までは考えてへんやろー!」
「う、ん……」
「手を繋いだら満足やろうし。キスはチュって唇が合わさったらええやろし。でも、僕は、僕は……」
そこまで溜めに溜めた七緖くんは私の肩をぎゅっと掴んで叫んだ。
「全部先まで想像してまうんやから。アカンやろ!」
七緖くんの琥珀色の瞳がギラギラと光っていた。
「……」
七緖くんの正直な言葉を聞いて私は呆然としてしまった。
そして七緖くんは全てを吐き出す様に言い切った後──開いた口を閉じてゴクンと唾を飲み込んだ。
それから数秒間固まり、だらだらと冷や汗を流しながら私の顔を困った様に見つめた。
「……と、いう事を考えとるから、僕は」
「うん。分かった」
「わ、分かってくれたらええよ。ほやから、その……二人きりはちょっと、いやかなり危ないから今も」
視線を彷徨わせて私の肩から手を離す。
私は二の句が継げずにポカンと七緖くんを見つめるしかなかった。
七緖くんはそんな私の顔を見て、自分の顔を両手で覆う。それからくぐもった声で呟いた。
「ああ~僕の阿呆……何でこんな事を言うてしもうたんやろ。しかも泣かせてまで……ほれやのに、ちょっと嬉しいとか思うてるのもアカンし! もう、もう、もう~」
最後はずっと「モウモウ」を連呼して、牛みたいになっていた。
とにかく困り果てたという様な声を上げていた。
(七緖くんも悩んでいた。それは『嫌い』とかそういう単純な事じゃなくて。好きだからこそ悩んでくれた。そういえば男の子って二回目以降そればっかりってなるからヤダって友達も言っていたっけ)
そうならない様に七緖くんがストッパーをかけていたのかと思うと、七緖くんの気持ちが嬉しくて、自分の悩んでいた事がちっぽけに思えて恥ずかしくなった。
「……ごめんね。七緖くん。そんな事言わせて」
私は正座をしたまま小さくお辞儀をして謝った。
「いや、これは僕の本心やからそんなんは気にせんでええよ。ほれより幻滅したやろ? エッチな事ばかり考える僕で。あははは~」
七緖くんは引きつりながら乾いた笑いを上げる。
「何で?」
「え?」
(幻滅なんてそんなのない。それよりとても嬉しい)
「だって私も一緒だもん」
「一緒って言われても」
「私だって七緖くんと二回目がしたいし」
そう言って七緖くんを見つめる。だけど七緖くんは再びあたふたし始める。
「この状況で巽さんはほんな事言う?! 今説明したばっかりやのに。僕は何処でも想像するんやで?」
七緖くんは私の言葉に再び混乱し始めていた。
「私だって同じだよ?」
「同じやない! そのうち青姦とか言い出したらどないするつもり?」
まさかの言葉が飛び出てきて私は驚く。
(でも……七緖くんも同じだ)
「外はちょっと困るけど」
「ちょっとって……外でもオッケーみたいな言い方したら僕は誤解するよ? もっと困ってくれな僕が困るやん!」
混乱している七緖くんの台詞に吹き出しそうになる。
「今はお家の中だよ? 私も手を繋ぎたい」
私は七緖くんの前で両手を出す。
正座して向かい合った七緖くんはその手を見てゴクンと唾を飲み込んだ。
七緖くんは繋いだその次を──想像しているに違いない。
(今の私も七緖くんと同じだ。先を想像して、期待をしてしまう)
七緖くんはテーブルに置いてあるアイスコーヒーを手にすると一気に飲み干し口を手の甲で拭った。それから私をじっと見つめて低い声で呟いた。
「止められんよ?」
「うん。良いよ? 私は大丈夫」
「もーホンマに……僕の葛藤も知らんと。この子は」
そう言って七緖くんは私の手をぎゅっと握りしめた。
私の問いかけに七緖くんはバンスクリップで留めた髪の毛をぐちゃぐちゃに両手でかき混ぜ天を仰いだ。
「手を繋ぐやんか。ほうしたら次はキスをしたなるやろ?」
「えっ何でキス?」
手を繋いだら繋いで満足する──のではないのだろうか。
何故すぐキスがしたくなるの?
私はわけが分からず七緖くんに聞き返す。七緖くんは私の「何故」という問いかけに益々イライラして弾ける様に続けた。
「僕はその先まで想像してしまうんや。手を繋いだら唇が触れあうだけのキス。次は濃厚なキス。キスしながら抱きしめる。抱きしめたら次は巽さんに触りたい。服の上やのうてもちろん素肌に。ほれから擦りつけて、中に入りたいんや!」
「な、中って……え?」
(それってその、エッチって事よね?)
私は七緖くんの想像の凄さに驚いてしまう。
「ほやのに巽さんはそんな先までは考えてへんやろー!」
「う、ん……」
「手を繋いだら満足やろうし。キスはチュって唇が合わさったらええやろし。でも、僕は、僕は……」
そこまで溜めに溜めた七緖くんは私の肩をぎゅっと掴んで叫んだ。
「全部先まで想像してまうんやから。アカンやろ!」
七緖くんの琥珀色の瞳がギラギラと光っていた。
「……」
七緖くんの正直な言葉を聞いて私は呆然としてしまった。
そして七緖くんは全てを吐き出す様に言い切った後──開いた口を閉じてゴクンと唾を飲み込んだ。
それから数秒間固まり、だらだらと冷や汗を流しながら私の顔を困った様に見つめた。
「……と、いう事を考えとるから、僕は」
「うん。分かった」
「わ、分かってくれたらええよ。ほやから、その……二人きりはちょっと、いやかなり危ないから今も」
視線を彷徨わせて私の肩から手を離す。
私は二の句が継げずにポカンと七緖くんを見つめるしかなかった。
七緖くんはそんな私の顔を見て、自分の顔を両手で覆う。それからくぐもった声で呟いた。
「ああ~僕の阿呆……何でこんな事を言うてしもうたんやろ。しかも泣かせてまで……ほれやのに、ちょっと嬉しいとか思うてるのもアカンし! もう、もう、もう~」
最後はずっと「モウモウ」を連呼して、牛みたいになっていた。
とにかく困り果てたという様な声を上げていた。
(七緖くんも悩んでいた。それは『嫌い』とかそういう単純な事じゃなくて。好きだからこそ悩んでくれた。そういえば男の子って二回目以降そればっかりってなるからヤダって友達も言っていたっけ)
そうならない様に七緖くんがストッパーをかけていたのかと思うと、七緖くんの気持ちが嬉しくて、自分の悩んでいた事がちっぽけに思えて恥ずかしくなった。
「……ごめんね。七緖くん。そんな事言わせて」
私は正座をしたまま小さくお辞儀をして謝った。
「いや、これは僕の本心やからそんなんは気にせんでええよ。ほれより幻滅したやろ? エッチな事ばかり考える僕で。あははは~」
七緖くんは引きつりながら乾いた笑いを上げる。
「何で?」
「え?」
(幻滅なんてそんなのない。それよりとても嬉しい)
「だって私も一緒だもん」
「一緒って言われても」
「私だって七緖くんと二回目がしたいし」
そう言って七緖くんを見つめる。だけど七緖くんは再びあたふたし始める。
「この状況で巽さんはほんな事言う?! 今説明したばっかりやのに。僕は何処でも想像するんやで?」
七緖くんは私の言葉に再び混乱し始めていた。
「私だって同じだよ?」
「同じやない! そのうち青姦とか言い出したらどないするつもり?」
まさかの言葉が飛び出てきて私は驚く。
(でも……七緖くんも同じだ)
「外はちょっと困るけど」
「ちょっとって……外でもオッケーみたいな言い方したら僕は誤解するよ? もっと困ってくれな僕が困るやん!」
混乱している七緖くんの台詞に吹き出しそうになる。
「今はお家の中だよ? 私も手を繋ぎたい」
私は七緖くんの前で両手を出す。
正座して向かい合った七緖くんはその手を見てゴクンと唾を飲み込んだ。
七緖くんは繋いだその次を──想像しているに違いない。
(今の私も七緖くんと同じだ。先を想像して、期待をしてしまう)
七緖くんはテーブルに置いてあるアイスコーヒーを手にすると一気に飲み干し口を手の甲で拭った。それから私をじっと見つめて低い声で呟いた。
「止められんよ?」
「うん。良いよ? 私は大丈夫」
「もーホンマに……僕の葛藤も知らんと。この子は」
そう言って七緖くんは私の手をぎゅっと握りしめた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる