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スライム討伐編

透明幼女と後悔する楓奈

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 カチャ カチャ

「………………」

 不思議な光景だ。

 カチャ カチャ

 目の前には次から次へと湯気の立つ料理が運ばれる。

「………………」

 ただそれだけでは、全然不思議でも珍しくもない。
 至って普通の光景だろう。

 ただし、その運ばれる食事が、


 『宙を浮いてくる』のだとしたら?


 それはもう普通とは呼べない。

 きっと超常現象や超能力なんて、非科学的なものを信じてしまう。
 それか自分の精神が異常をきたし、それが見せた幻惑だとも。

 そんな現象が、今、目の前で起きている。

 私はこれをどう受け取ればいいのだろう?

 たった今、目の前で起きている、この怪奇現象を……


「ん、シーラ。ありがと」
「シーラ、ありがとなっ! がうっ!」
「シーラ、ご苦労さま」

「って、普通にお礼言うのか~~~~いっ!!」

 何事もなく食事に手を付けようとした3人に、両手を挙げて突っ込む。


「ん、またうるさいフーナさま。食事は静かに」

 するとすかさず、メドから注意される。

「いや、いや、メドはここのお屋敷の元主だからいいけど、なんでアドとエンドは驚かないのっ!? 見えない何者かが料理を運んでいるんだよっ! 変だと思わないのっ!」

「がう? モシャモシャ」
「は?」

 キョトンとした顔で、意外そうに私を見る2人。
 ってか、アドはもう食べ始まってるし。いただきますしてないのに。


「はぁ、フーナにはわからないの? もしかして」

 エンドがやれやれと言った様子で聞き返す。

「え? その言い方って事はエンドには見えるの?」

「俺もわかるぞっ! ムシャムシャ」
「こら、アド。まだ挨拶していない メッ!」

「はぁ? アドにも見えるって事は…………」

 見えないのは私だけ? なんで?
 さっきは可愛いお尻が見えたのに?


「ん、フーナさま」
「な、なに? メド」
「シーラは姿を隠してる」
「う、うん、それはわかるんだけど、なんで?」
「恥ずかしがり屋。あと、臆病、もの凄く」
 
 首を傾げる私にメドがそう教えてくれる。

「じゃ、じゃあさ、なんでメド以外にも見えるの?」

 メドは元々見えてるみたいだった。
 けど、後から来たアドとエンドが見えるのはなんで?

「ん、それは同じドラゴンとしての波長が合うから」
「え? そうなのっ!?」

 そ、それじゃ私は、私だけはあの艶めかしいエプロン姿が見れないって事?
 ドラゴンでもないから?

『く~~っ!』

 だったら、死ぬ直前のお願いに、

 なんで「ドラゴンになりたい」って願わなかったんだろう。
 そう願っていたら、女神のメルウちゃんが叶えてくれた筈なのに……

『ぐうっ! 悔しいっ!』

 そうしていたら、今頃私は――――


「がう、俺は匂いでわかるぞ」
「我は気配でわかるわ」

「え?」

 見えない私に見かねて、アドとエンドが教えてくれる。

 ん、だけど、

 それ波長とかドラゴンとかも、全然関係ないじゃんっ! 
 メドのさっきの説明は何だったの?

 ま、まぁ、確かに二人は「わかる」って言ってただけで、
 「見える」とは言ってないけど。


『う~~っ!』
 でも微妙に納得できないっ!

 見えなくたって二人には、あの幼女の存在がわかるって事だよね?
 あの可愛いお尻の持ち主の、裸エプロン幼女を感じられるって事だよね?

「ん、フーナさま。集中して」
「え?」
「フーナさまなら見える。強い想いがあるなら」
「は、はぁ……」

 グッと拳を握り力説するメド。

『ん~~』
 なんだかどんどんオカルトな話になってきたなぁ。
 もう匂いも気配も関係ないじゃん。

 でもメドが私を信じてそう言ってくれたのは伝わった。
 ジト目がちょっと開いたもん。

 なら、私はその期待に応えるだけだ。

「うん、わかったメドっ! わたし頑張ってみるよっ!」
「ん」

 カチャ カチャ

 ちょうど、私とメドの間に、湯気の立つ料理が運ばれてきた。

「よ、よしっ!」

 ここだっ!

 カッ!

 人差し指と親指を使って、目一杯に両目を見開く。

「んん~~っ!」

 今まさに、裸エプロン幼女が目の前にいる事を信じて。
 手の届く範囲に、あのプリ尻がある事を切望して。

「むむ~~~~ ………… あっ!」

 み、見えたっ! 本当に見えたっ!
 私にも裸エプロン幼女がっ!

 これが想いなのか、願望なのか、欲望なのかはわからない。
 でもメドの言う通り、想いの強さで見えた事は確かだ。

『グヘヘヘヘヘ――――』

 私はその姿を凝視する。

 ちょうど横向きで料理をテーブルに置くところだ。

 まさか私から視姦されてるとは思ってもいないのだろう。
 安心したようにテキパキとテーブルに並べていく。

 容姿は、深緑色のきれいなボブヘアーで、大きく潤んだ瞳と小さな口が特徴的。
 身長は私と同じくらいで、体型はちょっと瘦せ型。

 それと、

『ぐふふふふふ――――』

 白のフリフリのエプロンに、頭にはドレスヘッド。
 そしてそのエプロンの下は素っ裸。

 横から見るその景色は、絶景を通り越して絶叫しそうだ。

 華奢な色白な細い足から上を辿ると、あのプリッとした可愛いお尻。
 隙間から見える白いお腹に、細い腰つき。

 更に昇ると、そこには遠慮がちに主張する、ほのかな膨らみが――――

『ジュルッ! むふふふふふ………… あっ!』

「じ~~~~~」

 い、いま目が合った?
 
 料理を置いて体を引く時に、こっちを見てた?

「わきゃっ!?」

 そんなシーラは短い悲鳴を上げて涙目になり、その姿がゆっくりと消えていく。

「え?」

 シュタタタタ――――
 ガチャン

 そして扉を閉めた音と共にいなくなってしまった。
 もうどんなに目を凝らしても見えない。


「ちょ、ちょっとなんでぇ~っ!」
 
 あの可愛いお尻を追うように、手を伸ばしたまま固まる私。
 プランプランと寂しげに袖が揺れていた。


「ん、フーナさま。もしかしてずっと見てた?」

 手を伸ばしたままの私を見ているメド。

「え? み、見ちゃダメだったのっ!?」
「ん、それはダメ」
「で、でもさっきは一瞬だけ見えたんだよっ!? なんで消えたのっ!」

 そう、さっきは見えたのだ。
 あの裸エプロン幼女の、ロリエロっぽい半裸が。

「ん、恥ずかしがり屋って説明した。だからフーナさまに見られたのに気付いて、本気で姿を消した。ああなるとワタシでももう見えない」

 フルフルと諦めたように首を振るメド。

「それって、どういう事? なんで消えるの、あの子はっ!」
「消えるのは魔法。それに本気出すと、更に存在が希薄になる。そんな特技」
「き、消える魔法と……」

 特技? なの、それって?

 だって、曲りなりにもドラゴンだよね?
 この世界でも頂点に立つ種族の一つだよね?

 なのに恥ずかしいからって、存在が薄くなるって、一体、――――
 もしかして、恥ずかしいから穴に入りたい、みたいな感じ?

 まぁ、どっちにしても威厳も何もあった物ではない。

 
「あ」

 て、言う事は、今日はもう見れない可能性が?
 半裸の幼女がそこにいても、何もできないんだ……

「うはぁぁ~」

 ガクッ

 私はテーブルに力なく突っ伏す。

『ううう、ひっくっ 最初から知ってれば、凝視しなかったのに…… 気付かれないように、チラ見で我慢したのに…… なんで、私欲張っちゃったんだろう、ううう~』

 そして己の迂闊な行動を後悔して、すすり泣く。

 ポンッ ポンッ

「え? メド?」

 肩を優しく叩き、顔を上げた私を見つめるメド。

「あ」

 も、もしかして、傷心の私の事を慰めてくれるの?

 それかシーラの代わりに裸エプロンに――――

 なんて、ちょっとだけ期待しちゃう。
 何だかんだで、私はメドのご主人さまなわけだし。


「ん、フーナさま、行儀悪い。アドの教育に悪い」
「え?」
「そうよ、フーナ。アドが真似するでしょう? まだ食事中よ」
「は?」
「そうだぞ、フーナ姉ちゃん。俺は真似しないけど、行儀悪いぞっ! がう」
「はぁっ!?」

 慰められると思ったら、3幼女にそれぞれお叱りを受けた。
 しかもアドにまで怒られるなんて。

『う、う、――――』

 プルプル

「「「???」」」

「う、うわあああ~~~~んっ! みんなのバカっ! メドのおたんこなすっ! アドのアホっ! エンドの唐変木っ! わ~~~~っ!」  

 そんなみんなの塩対応に我慢できず、食事も途中で脱兎のごとく走って逃げた。

 ギュムッ

「あっ!」

 コテン

 その際に、長すぎる裾を踏んで、いつものように盛大にコケる。

 スク

「………………」

 それでも何でもないように立ち上がり、トコトコと慎重に部屋を出ていく。
 そして2階の寝室のベッドに飛び込む。


「ううう、みんなが冷たすぎるよぉ~、わたし、メドのご主人さまだよね? アドとも仲良くなってきたよね? エンドだって変なのから解放してあげたよね? なのに、なんでみんな―――― スヤスヤ ――――」

 一人、枕に突っ伏して愚痴るけど、今日は色々あり過ぎてそのまま寝ちゃった。

 明日はシーラちゃんと会えますように。
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