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第8蝶 ちょうちょの英雄編2

姉妹との約束とお約束

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『は、早くっ! ナゴタのところにっ! て、ナゴタの時もお姫さま抱っこしてなかったぁ!?』

 今度は妹のゴナタを抱いて、姉のナゴタの元に急ぐ。
 とは言っても、全力疾走すると、また鱗粉が剝がれるのでちょっとだけ早足で。


「オイッ! スミカ嬢ォッ――――」
「あ、スミカさんっ!――――」


 その道中に、ルーギルとクレハンが訓練場に出てきて何か叫んでいたけど、今はそれどころではないとガン無視する。だってゴナタが泣き出しそうなんだもん。

 そんなゴナタは一度、私が全力疾走したせいで透明化が剝がれてしまった。
 そして私は今日一番のダメージを受けた。ある意味精神攻撃系の。

 でも今は大丈夫。再度透明にしたから。

 ただ他の人には見えなくても、私には丸見えだったんだけどね……


「お、おまたせ~っ!」
「……………………」

 透明化が解けないように、慎重に運んでようやくナゴタの元に着いた。

「お、お帰りなさい、ス、スミカお姉ちゃんっ!」
「お、お疲れ様です、お、お姉さま」
「スミ姉……………」

 私は若干ぎこちない笑顔を浮かべ、姉のナゴタの前にゴナタを降ろす。
 そんな私に他のシスターズたちは、苦笑いをして出迎える。


「ご、ごめんね? ゴナタの服破けちゃって…… でもわざとじゃないんだよっ! 本当だよ? 元はと言えば、あの壁が急に消えちゃったからだからっ! でもごめんねっ!」

 ゴナタを降ろしてすぐさま頭を下げる。
 手を顔の前で合わせてごめんなさいする。

 なんかナゴタの時もそうだったけど、恥ずかしい思いをさせちゃったから。

 最初の姉のナゴタは「もろパン」
 逆さまになって、きわどい紐パン姿をみんなに晒してしまった。

 妹のゴナタは「もろ一歩手前のお胸」
 服がはじけ飛び、もう少しで先端も含めて全部が見えそうになっていた。


「い、いえ、あれは仕方ないですよ、お姉さまと戦ったのですからっ! むしろ、あれくらいですんで良かったと思いますっ! だからお姉さまは悪くないですっ! そ、それでゴナタはどこにっ?」

「え?」

 あれ?そう言えばナゴタには見えないんだっけ? 透明化解いてないから。
 まあ、気配はあるからナゴタにもわかるはずなんだけど、慌ててて気づかない?


「う、うん、ゴナタならそこで蹲ってるよ?…………」

 なので指を差して、居場所を教えてあげる。


「ゴ、ゴナちゃんっ?」

「うううっ、パンツを見られなかったのは良かったけど、その代わり嫌いな胸見られちゃったよぉ…… 気にしてるのに、うううっ――――」

 そんなゴナタは着替えもせずに、ハラミの横に半裸で体育座りしていた。
 そしてまた「むぎゅ」ってなってて、正直目のやり場に困る。


「ほ、ほらっ、ゴナちゃんっ、もう試合は終わったのだから元気出しなさいっ! そ、それと早く着替えないとねっ、ねっ?」

 何となく見当を付けて、見えないゴナタに声を掛けるナゴタ。

「うううっ、ナゴ姉ちゃんはいいよぉ~~ 大人っぽい下着見られただけでさ。しかも似合ってるし。ワタシなんか見られたくない胸みんなに見られちゃったもん…… もうワタシこの街を歩けないよぉ――――」

「「「……………………」」」

 珍しくゴナタが落ち込んでいる。

 いや、落ち込んだのは何度か見たけど、こんなに凹んでいるのは見たことない。
 姉のナゴタの励ましにも、膝に顔をうずめたままでくぐもった声で答えていた。


「ユ、ユーア、タオル出してもらっていい?」
「はいっ、スミカお姉ちゃんっ!」

 ユーアからタオルを受け取り、ゴナタに掛けて、ついでに透明化を解く。
 するとそこにはタオルを頭から被って、丸くなっているゴナタが現れた。

 誰が見ても、酷く傷心していることぐらいはわかる。
 私だって同じ目に合ったら家から絶対出ないし。


「ゴ、ゴナタっ、ほ、本当にごめんねっ! 何なら一個だけ言う事聞いてあげるよっ! 私にできる範囲だけどね? だからゴナタも元気になってよねっ、ねっ!」

 ゴナタに機嫌を直してもらおうと、前に腰を下ろして必死に謝る。

「よ、良かったねっゴナタさんっ! スミカお姉ちゃん何か言う事聞いてくれるってっ! いいなっ! 羨ましいなっ! ボ、ボクも聞いて欲しいなぁ!」

 下を向き、落ち込むゴナタに見かねて、ユーアも話に加わって来る。

「まあ、それは当然よねっ! スミ姉にあんな酷い事されたんだからっ!」
「ラブナちゃんっ!」

 ただ一人、空気の読めないナゴタたちの弟子がいるけど。
 それを聞いて肩がピクって動いた、被害者の師匠もいたけど。


「そ、それは良かったわねっ! お姉さまに甘えてもいいみたいですよっ! それかどこかに連れてってもらってもいいんじゃないっ!」

 ラブナの前に割って入り、ナゴタが再度慰めにかかる。

 すると――――


「えっ! そ、それじゃお姉ぇと一緒に…… ごにょごにょ――――」

 すぐさま反応を見せたけど、顔をうずめていて良く聞こえない。

「うん? 何ゴナタっ! 何して欲しいのっ?」

 なので頭に耳を近づけて何を言ったか聞いてみる。

「お姉ぇと一緒に、おふ――――」
「はいっ? 良く聞こえないよゴナタ」

 やっぱり聞こえない。
 特に最後の方が聞き取れない。


「何か『おふ』て言ってますよ? スミカお姉ちゃん」
「う、うん。それは何となく聞こえた、けど、おふって何?」

 もしかして『OFF』って事? 
 プライベートをOFFの日みたいに言う事?

 それにしても何で今度は耳まで赤くなってるんだろう?
 さっきタオルで覆った時は、そこまで赤くなかったような気がしたけど。


「ナ、ナゴちゃんっ! 顔を上げてお姉さまにキチンと伝えなさい。そうじゃないとお姉さまもさっきの約束を取り消されてしまいますよ?」

 『OFF』って単語に悩んでいる私を見て、ナゴタが声を掛けくれる。


「と、取り消されるっ!?」

 ガバッと、ナゴタの話を聞いて、勢いよく顔を上げるゴナタ。
 このままだと約束を反故されると思ったんだろう。

 そして衝撃的な一言を、私を見上げて涙目で叫んだ。


「ワタシはお姉ぇと一緒にお風呂に入りたいんだっ! それが願いだぁっ!」

「えっ?」

「きゃっ! 言っちゃったよっ!」

 ガバッ

 いきなり大胆発言をした本人は、短い悲鳴を上げてまた丸くなってしまった。
 私はそんなゴナタを、どこか虚ろな目で眺めていた。


「あ、あああっ! そ、それじゃ私もお姉さまとご一緒したいですっ! わ、私もその権利はありますよねっ? お姉さまっ!」

 ゴナタのお願いを聞いて、自分にも権利があると主張するナゴタ。

「え? えええええ――――っ!!」

 な、なんでっ!
 ゴナタだけならいざ知らず、どうしてそこでナゴタが加わってくるの?
 そもそも権利ってなにさっ! だったら私の権利は?


「うん、その方が良いと思うんだスミカお姉ちゃん」
「スミ姉は、ナゴ師匠にも対価を支払う義務があると思うわよ?」

「へっ? なんでなの? ユーアとラブナ」

 ナゴタの話で悶絶する私を見て、二人がそう訴える。


「はぁっ!? まさか忘れた訳じゃないでしょうねっ! スミ姉はナゴ師匠を辱めたのよっ! 逆さまにして、ナゴ師匠の太ももとお股をみんなに公開したのよっ!」

「うっ」

 まぁ、本当はわかってて聞いたけど、第三者に言われるとかなりキツイ。
 確かにゴナタと同じ目に合ったナゴタにも、その権利がある訳で……

 ただ、あの二人のあれを目の当たりにして、冷静でいられるかどうかは別だ。
 別に何かするつもりはないけど、色々と女性としての尊厳がなくなる気がする。



『だって、Gランクだよっ!? 一体私の何倍なのさっ! ううう――――』

 私は二人のそれを想像して身震いがした。
 その圧倒的な戦力差を覆せる訳が無いと。


「それでいいですよねっ! お姉さまっ!」
「スミカお姉ちゃんっ! 聞いてあげてっ!」
「スミ姉っ!」
『わうっ!』
「お姉ぇっ! お願いだよっ!!」

「ううっ!」

 そんな私の心中を知らない4人と1匹は一斉に頭を下げる。


「わ、わかったよっ! でもその日は私が指定するからねっ! いきなり今夜とか言われても困るからねっ! 色々と準備があるしっ!」

「は、はいっ!もちろん事前にお話しますねっ!」
「うんっ! ナゴ姉と話して決めるよっ!」

 渋々とだけど、何とか顔に出さずにお願いを聞き入れた。


『し、仕方ないっ、こうなったらあれを使うしかないっ!』

 なんて密かにアイテムボックスの中身を確認する私だった。

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