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第9蝶 妹の想いと幼女の願い2

変態には【変態】

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「ちょ、なんでか力が入りずらいんだけどっ!?」
「クンカクンカ」

 マスメアに羽交い絞めされながら、無理やりに部屋に向かい引きずられる私。
 引き剥がそうと力は入るのだが、なぜか効果が薄い。
 それを見て、他の職員たちは見てみぬふりするように視線を逸らす。

 恐らく、日常茶飯事的に見ている光景なんだろう。


「うふふ、無駄ですよ。力だけではどうにもなりません」
「う、くぅっ!」

 片手でドアを開けて、中に連れ込まれる。
 その部屋では、なぜかナジメがソファーで寝ていた。

『ナ、ナジメが……、まさかあれから?』

 まるで事後でもあるかのように………
 
 そこはさながらアリ地獄か蜘蛛の巣の様に見えた。昆虫だけに。


『く、このままだとナジメみたいに、私もあっちの世界に……』


 横たわるナジメを見ながら恐怖する。
 これから行われるであろう、マスメアの行為に。


『ぐぅ、仲悪くても結局兄妹そろって変態じゃないっ! あっちもこっちも変態ばっかりっ! ……ん? 待てよ? 『変態』?』


 未だにクンカクンカしている変態を見て思い出す。
 新しい能力に『通過』と『変態』が追加されて試していないことに。


 追加能力:【変態】変態できる。最小1/5。最大5倍。


『く、だったら変態には【変態】だっ! 一か八か試してやるっ!』

 マスメアの拘束から抜け出せない。
 ならこのピンチには『変態:最小1/5』を使う時だと。

 私の予想では、恐らく1/5の大きさに……

『よし、1/5で【変態】実行っ!』


「はい、それでは冗談はこれで終わりです。人目に付くところでは話しづらいお話だと思って、怪しまれないように連れてきました。ここでなら大丈夫ですよ。スミカさん」

「あ、怪しまれないって、やっぱりあの行動が通常なのっ!? っえ?」

 パッと腕を離し、私を開放する。

「あれ?」

 もしかしなくても、さっきのはモードに入ってなくて演技?
 確かに今のマスメアの目は普通だ。ハートになってない。


「な、なんだ、なら耳元でそう言ってよねっ! 私もナジメみたく合意もなしに………… って、あれ? なんでそんな目になってるの?」

 解放された私は、マスメアの様子が変わったことに気付く。

「な、なに?」

 熱に浮かされたように頬を染め、手をワキワキさせている。
 そして背筋に嫌なものを感じる。

 真摯な瞳から一転、突如瞳がハートになったからだ。
 

「まさかスミカちゃんの方から、素肌を晒して大胆にアプローチをしてくるなんて、ちょっと驚きましたっ! そしていただきますっ!」

「ちょっと、何言ってっ!?」

 ガバッ!

 と勢いよく、私のほぼ露出している胸元に頬ずりしてくる。

「はぁっ! 一体何がどうなってっ! 素肌って? あああっ!?」

 そこで自分の姿の異変に驚く。

「な、な、な、――――」

 私の服装が、胸をギリギリ覆う布と、パンツだけになってる事に。
 
 まるでさらしの様に胸に巻いてあるのは黒い布切れ。
 ところどころにアクセントの様に白地も混ざっている。

 そして今日は赤だったはずのパンツが、同じく黒色に。
 上と同じように白いアクセントが見える。

 恐らく、その姿を見てマスメアは変態モードに突入したんだろう。

『そ、それよりも、なんでっ!』

 なんでいきなり下着姿に?
 しかも上半身は何もつけてなかったはず…… 今日はたまたま。

 なのに、しかも白と黒のものなんて――――


「あっ! も、もしかしてっ!?」

 それは新しい能力【変態】を使った影響だと気付く。
 装備の布面積が、本来の「1/5」になってしまったのは。

 きっと【変態】は装備の形を変えられるのだろう。
 夏服や冬服みたいに、それと下着や水着みたいに。

 
「はぁはぁ、クンカクンカっ! はぁはぁ、じゅる」
「はっ!」

 マスメアの荒い息遣いと、怪しげな音で我に返る。
 そんなマスメアは、私の富士山の谷間に顔を埋めて鼻息荒くしている。

「くっ!」

 『へ、【変態】今度は5倍でっ!』

 マスメアの顔を引き剥がしながら追加能力を使う。

 するとスカートも袖も、引き摺る程に長くなる。
 ただし、襟元が伸びて胸元全開にはならなかった。
 そうなったら、装備の意味もなくなるところだった。

 ただ袖はめちゃくちゃ長い、萌え袖になってるけど……


『ふぅ、本当は部分で調節出来る能力なんだろうね、ミニスカにしたり、長くしたり。もしかしたらフードも出来るかもね。この面白い装備だったら』

 脅威がなくなったとばかりに、心の中で小さく息を吐く。
 これで露出部分が減ったので一安心だろうと。


「ふぅ、―――― って、まだいんのっ!?」
「ふん、ふんっ」

 諦めたと思ったマスメアが、まだ抱きついていた。
 相も変わらず、深すぎる谷間で鼻息を鳴らしていた。

 どうやらマスメアには、衣装の有る無しは関係なかったみたいだ。


「って、本当にいい加減にっ! ――――」

「ん? なんじゃ、ねぇねはまたここに戻って来たのかのぅ?」

 目をこすりながらナジメがむくりと体を起こす。
 今の騒ぎで目が覚めてしまったみたいだ。


「おわっ!? ね、ねぇねっ! その格好は一体どうしたのじゃっ!」
「そ、それはいいからマスメア何とかならないっ!」 

 ダブダブな姿と、それに埋もれているマスメアを見て驚くナジメ。
 そんな叫びを他所に、起きた幼女に助けを求める。


「マ、マスメアよ、わしが後で相手するから、ねぇねから離れてくれんか?」

 見かねたナジメがマスメアに声を掛ける。

「は、はい、わかりました。ナジメちゃん」

 それを聞いて、渋々と言った様子で私から離れるマスメア。
 ただしよく見ると、その口元は緩んでいた。


「ふぅ、今度こそ落ち着いたよ。ありがとうナジメ」

 自分を犠牲にしてまで、助けてくれたナジメにお礼を言う。


「い、いや、わしは付き合いが長いから気にしなくてもいいのじゃが。それよりもその格好と、どうして戻ってきたのじゃ? もしかしてわしのお迎えかの?」

「ううん、そうじゃなくて、用事が出来たから戻ってきたんだ。私も商業ギルドに登録したいのと、スラムの土地を購入しようと思って」

 装備を通常サイズに戻しながら答える。

「へ? 土地じゃと? スラムに?」
「うふふ」

 それを聞いて、キョトンとするナジメ。
 そんなナジメとは対照的に、マスメアは笑みを浮かべていた。
 二度も私が来た事に、何かを感じていたのだろう。


「それじゃ、掻い摘んでだけど、ここを出た時から話すね」

 私はナジメの隣に座りながら口を開いた。

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