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旅の終点 Ⅱ
しおりを挟む「……もう一つだけ、君に言っていなかったことがある」
リリアを抱きしめながら、クロルが言います。
「僕……この街で降りようと思っているんだ。リリアは僕を認めてくれたけれど、他の街で生きていくのは、やっぱり怖い。今の僕が羽を隠さずに生きられる場所はここしかないって、ずっと思っていた。この街は、僕の目的地であり、旅の終着駅なんだ」
「……そう、だったんだ」
「でも……正直、それも怖い。だって、今日一日この街を見てみたけれど、やっぱり黒い羽の人はいなかった。もしかすると……ここでも受け入れてもらえないかもしれない」
「そんなことないよ!」
クロルの弱気な言葉を、リリアはすぐに否定します。
「クロルは困っているキリクを助けてくれた! どれだけ勇敢で優しいか、ジーナ先生やみんなもわかっているよ! 大丈夫。絶対に受け入れてもらえる。私が保証する!」
「リリア……」
「それに、イサカさんが言ってたの。他人は自分を映す鏡。だから、わかり合いたいのなら、まずは自分が心を開くことだ、って!」
クロルは、驚いたようにリリアを見つめ返します。
そして、イサカさんの笑顔を思い出しながら、小さく笑って、
「……わかった。明日、街のみんなに話すよ。この街に住みたいって気持ちを、ちゃんと、まっすぐに」
そう言って、頷きました。
それから、少し緊張した面持ちで、リリアに尋ねます。
「リリアは、どうする? この街で、一緒に降りる? それとも……他の街へ行く?」
リリアは戸惑います。
この街でクロルと暮らせたら、どんなに幸せでしょう。
平凡で普通の生活。
他との違いに悩むことのない日々。
この街にいれば、それが手に入ることはわかっていました。
だけど……本当にそれでいいのかと、迷う自分もいました。
口を閉ざすリリアに、クロルは微笑んで言います。
「ごめんね。急な話ばかりで、気持ちの整理がつかないよね。出発まで、まだ一日ある。よく考えて、リリアの答えを見つけて」
そうしてリリアを離すと、クロルは近くで見守ってくれていたポックルの方を見ます。
「ポックルも、ごめんね。僕の羽のこと、リリアに言わないでいてくれてありがとう。こんな僕を嫌わずに、そばにいてくれて……ありがとう」
ポックルはそっぽを向きながら、ツンと答えます。
「ニンゲン同士の馴れ合いに興味がニャいだけだ。それに……お前が作るメシからは、優しい味がした。お前のニオイからは、寂しさと孤独が感じられた。ニンゲンと違って、猫はそういうのに敏感だからニャ。お前がどんニャ人間ニャのかは、初めからよくわかっていた」
「そっか……さすが猫だね」
「ふっ、当たり前だニャ」
「君に相応しい街まで送り届けるって約束したのに、それも嘘になっちゃったね……本当にごめん」
「何を言っている。自分の縄張りも定まっていニャいやつに心配されるほど、おれはヤワじゃニャい。他人の幸せにしたいニャら、まずは自分が幸せにニャってからだろ」
「君のそういうところ、本当に大好きだよ。……ありがとう、ポックル」
そう言ってクロルが抱き上げるので、ポックルはくすぐったそうに身を捩りました。
――それから、二人と一匹は列車の外に出て、ホームの縁に座りながらいろいろな話をしました。
この世界のこと。
様々な街のこと。
今まで出会った人々のこと。
空に輝く月と星々が、目の前に広がる湖に映り、キラキラと揺れています。
「僕、本当は……ここへ来るまでに、住みたいと思える街がいくつかあったんだ。この間の"ゲームの街"もそうだった」
「やっぱり! ゲームをしているクロル、すっごく楽しそうだったもん」
「あはは、ばれてたか。けど、どうせ受け入れられないだろうって、諦めてしまった。本当の自分を見せる勇気も、拒絶に耐えられる強さも、僕にはまだないから」
「ふん。『受け入れられたい』っていう姿勢がそもそも間違ってるニャ。住みたいと思う場所ニャら、まるごと自分の縄張りにする! それくらいの強い気持ちでいかニャいとだめだぞ?」
「まるごと縄張りにする、か……たしかにそうだね」
「クロル?! 乱暴な考え方はダメだよ?!」
「ふふ、もちろん冗談だよ。僕はポックルみたいにワイルドな生き方はできそうにないけれど……どこに住むにしても、まずは僕自身が"本当の自分"を受け入れなきゃ、他の人にも受け入れてもらえないよね」
「その通り。誰かに愛されたいニャら、まずは自分で自分を愛すること。そして、万人から好かれようと思わニャいこと。どんニャにモテるオス猫だって、すべてのメスから好かれるわけじゃニャい。自分を理解してくれるヤツだけ大切にできれば、それでいいニャ」
「おお、さすがポックル。なんだか大人だね」
「ふふん。まぁニャ」
「私とポックルはクロルが大好きだし、本当のクロルのことをちゃんとわかっているよ。この先、なにがあっても……それだけは忘れないでね」
「うん、絶対に忘れない。僕も、リリアとポックルのことが大好きだよ。ふたりの幸せを何よりも願っている……出会ってくれて、本当にありがとう」
二人と一匹は、寄り添いながら夜空を見上げます。
そうして、最後の夜は、静かに過ぎて行きました。
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